トヨタモビリティ東京がアルファードなどの販売に併せて、不当にクレジット契約を締結させていたことなどが「抱き合わせ販売」として警告。トヨタ自動車と自販連にも周知の要請したことは、「取引先によるガバナンス」を期待したと理解できる。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

公正取引委員会は2025年4月10日、トヨタモビリティ東京に対して独禁法違反(抱き合わせ販売)のおそれを理由とした警告を発し、トヨタ自動車と一般社団法人日本自動車販売協会連合会(自販連)に本件の概要と抱き合わせ販売等を含む独禁法の遵守を周知するよう要請しました。

抱き合わせ販売のおそれがある行為をしたトヨタモビリティ東京だけではなく、メーカーであるトヨタ自動車と自動車販売業者の業界団体である自販連にも周知するように要請したことが珍しいケースです。

トヨタモビリティ東京が行った「抱き合わせ販売」

本件の概要は、公正取引委員会の資料がわかりやすいです。

トヨタモビリティ東京が2023年6月頃から2024年11月頃まで、アルファード、ベルファイア、ランドクルーザー(3種類あわせて「特定トヨタ車」)の販売に併せて、不当に、トヨタモビリティ東京が指定するトヨタファイナンス株式会社とのクレジット契約を締結させていたなどの疑いがあり、これが独禁法の「抱き合わせ販売」に該当するおそれがあるとして、公正取引委員会は2025年4月10日、警告を発しました。

例えば、アルファードを現金一括で購入する希望者がいる場合に、

  • 現金一括の場合にはボディコーティングかメンテナンスパックをオプションとして追加しなければ販売しない
  • トヨタモビリティ東京が「残価設定型プラン」でなければ販売しない
  • トヨタ車との下取りでなければ販売しない

などとするケースが想定できます。

SNSでも、現金で購入したいのに残価設定型プランでないと売らないと言われたなどの声が散見されていました。

トヨタモビリティ東京は2024年11月頃には、販売業務に従事する従業員に上記の行為をしないように指示していたとのことです。

今回、公正取引委員会が警告に留めたのは、こうした指示を行っているので自浄努力で改善される可能性があると判断したから、と推察できます。

トヨタ自動車と自販連に対する要請と「取引先によるガバナンス」

周知要請の内容

公正取引委員会は、本件と同様の行為が行われることを未然に防止する観点から、本件の概要及び抱き合わせ販売等の禁止を含む独占禁止法の遵守について、

  • トヨタ自動車が特定トヨタ車を販売する全国の販売店に
  • 自販連が、会員である全国の自動車販売業者等(販売店)に

周知することを要請しました。

抱き合わせ販売のおそれをしたトヨタモビリティ東京だけでなく、メーカーであるトヨタ自動車と業界団体である自販連にも周知要請をしたのは、業界の特殊性と販売店に対する両組織の影響力を考慮すると同時に外部(取引先)からのガバナンスに期待したものだと考えられます。

業界の特殊性と影響力

例えば、食品だったら、一つの小売店(スーパーマーケットやコンビニエンスストア)が複数のメーカーの食品を店頭に並べています。

それだけ一つの小売店に対する一つのメーカーの影響力は希薄化します。

しかし、自動車の場合、一つの販売店では、一つのメーカーの自動車だけが販売されています。

トヨタ車の場合、メーカーであるトヨタ自動車が「独禁法違反の販売方法をしている販売店にはアルファードなどの特定トヨタ車を提供しない」とすれば、販売店は売り物がなくなってしまいます。

自ずと販売店に対するメーカーの影響力が高くなります。

公正取引委員会がメーカーであるトヨタ自動車に周知を要請した背景は、こうした影響力を考慮したのだと思います。

自販連が各販売店をどの程度拘束できる存在なのかはわかりませんが、影響力が相当程度高いことは想像できます。

取引先によるガバナンス

トヨタ自動車とトヨタの販売店とは別法人ですし、直販店を除けばグループ会社でもありません。

そうすると、公取委の要請は、取引先であるトヨタ自動車からトヨタの販売店に対してコンプライアンスの遵守の呼び掛けを求めるものであり、「取引先によるガバナンス」に期待したと理解できます。

最近で言えば、フジテレビでの性加害問題への対応を踏まえたスポンサー企業のCM見直しも、「取引先によるガバナンス」として理解できます。

スポンサー企業の立場では「ビジネスと人権」の観点から、取引先であるフジテレビでの人権侵害を助長・促進しないことを求める、すなわち「取引先に対するガバナンス」との理解になります。

他方、フジテレビの立場では、取引先であるスポンサー企業から人権侵害を行う企業文化・組織の体質を改善することを求められている、すなわち「取引先からガバナンスされている」と理解できます。

スポンサー企業とフジメディアとでは、意味合いが若干異なる、ということです。

最近、「ガバナンス」の意味は4種類(5種類)の意味で使い分けられている印象を受けていますが、この話はまた別の機会に(来週の講演会用のネタなので、終わったらまとめて出します)。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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