関東大震災から100年。東京電力株主代表訴訟判決から、震災対策に関する取締役の責任を考える。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年9月1日で、関東大震災から100年を迎えました。

関東大震災は1995年の阪神淡路大震災よりも地震の規模は大きく、南関東から東海地域全域に被害が発生しました。

万が一、関東大震災の被災エリアに同じ規模の震災が再発した場合、生活、ビジネスの両面において、阪神淡路大震災や東日本大震災に勝るとも劣らない障害が生じることは間違いありません。

現存する会社は、関東大震災規模の震災が来ることを想定した対策を講じておく必要があります。

東京電力株主代表訴訟判決(一審;東京地判2022年7月13日。控訴審係属中)

震災に関連して取締役の責任が問われたのが、東京電力株主代表訴訟です。

東日本大震災によって東京電力の福島第一原発が津波の被害にあい、全電源喪失により炉心が溶解・損傷し、放射性物質を周辺地域に拡散させる事故が起きたことに関し、10メートルを超える高さの津波を想定した対策を講じていなかった常務取締役らの任務懈怠責任(善管注意義務違反)が問われた訴訟です。

善管注意義務違反の判断の枠組み

裁判例は、常務取締役らの善管注意義務違反を判断するにあたって、

被告らが、いずれも相応の科学的信頼性が認められる長期評価の見解及び明治三陸試計算結果を認識し、又は認識し得たとしても、原子力発電所の安全性や健全性に関する評価及び判断は、その前提とする自然事象に関する評価及び判断も含め、極めて高度の専門的・技術的事項にわたる点が多いから、原子力発電所を設置、運転する会社の取締役としては、会社内外の専門家や専門機関の評価ないし判断が著しく不合理といえるような場合でない限り、これに依拠することができ、また、そうすることが相当というべきであり、逆に、会社内外の専門家や専門機関の評価ないし判断があるにもかかわらず、特段の事情もないのに、これと異なる評価ないし判断を行った場合には、その判断の過程、内容は著しく不合理と評価されることになるものというべき

との基準を示しました。

これは「意思決定(経営判断)の過程及び内容が著しく合理的でない限り善管注意義務には違反しないと」する経営判断の原則(アパマンショップHD事件;最判2010年7月15日)を前提に、極めて高度の専門的・技術的事項にわたる点が多い事項に関して意思決定する過程及び内容が著しく不合理になるか否かを判断する枠組みを示したものです。

取締役が津波対策をしなかった善管注意義務違反

東京電力のケースでは、福島第一原発の津波の予測に関して、文科省や社外の専門家である東電設計による専門的見解がでていました。

しかし、常務取締役が、津波対策に関しては、以下のような判断をして、津波対策を講じませんでした。

  • 〔1〕いずれも相応の科学的信頼性が認められる長期評価の見解及び明治三陸試計算結果について、信頼性及び成熟性が不明であると評価ないし判断した上、
  • 〔2〕長期評価の見解も踏まえた福島県沖日本海溝沿い領域における地震の取扱いについて土木学会・津波評価部会に検討を委託し、その見解が提示されれば、速やかにドライサイトコンセプトに基づく津波対策を実施するとの手順をとる判断をしたが、
  • 〔3〕土木学会・津波評価部会の見解が提示されるまでの間、10m盤に津波による浸水があり得ることを前提として、明治三陸試計算結果と同様の津波により福島第一原発1号機~4号機の全電源が喪失して炉心損傷ないし炉心溶融に至り過酷事故が発生することを防止するための津波対策を速やかに講ずるよう指示等をしておらず(以下「本件不作為」という。)

そこで、裁判所は、上記で示した判断の枠組みに事実を詳細にあてはめて、高さ10メートル超の津波が来ることを想定した対策をしなかった意思決定の過程及び内容が著しく不合理であるとして、善管注意義務違反を認めました。

なお、東京地裁が認めた賠償額は13兆円です。

関東大震災規模の震災対策として取締役は何をすべきか

東京電力株主代表訴訟判決の第一審判決を参考にすれば、会社の取締役は、

  • 専門家である気象庁や消防庁などの専門的見解を前提に、関東大震災規模の震災が再発することを想定し、必要と提案されている震災対策を速やかに講じること
  • 気象庁や消防庁が提案する震災対策と異なる対策を講じるなら、気象庁や消防庁が提案する震災対策が著しく不合理であるであるなど特段の事情があること

が必要です。

気象庁や消防庁が提案する震災対策が著しく不合理であるとする特段の事情など、通常は考えにくいので、一般的には、気象庁や消防庁が提案する震災対策を講じなければならないのです。

仮に震災対策を講じず、被災による建物の崩壊や積み荷が崩れるなどして従業員が死傷した場合には、取締役は安全配慮義務違反や取締役としての善管注意義務違反の責任を負うことになるでしょう。

関東大震災100年を機に、震災対策を今一度確認しておくべきでしょう。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。