そごう・西武労組がストライキ実施の予告を通知。どこが落とし所なのか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

そごう・西武労組が2023年8月28日、ストライキを8月31日に実施するとの予告を通知しました。

セブン&アイHDがそごう・西武の株式すべてをフォートレス・インベストメント・グループのSPCである杉合同会社に譲渡する契約による売却完了日(効力発生日?)が9月1日に迫っていることを阻止するためと報じられています。

産経新聞の報道によると、

労組の要求は百貨店事業の継続と雇用の維持。主力の西武池袋本店(東京都豊島区)の主要フロアに家電量販店ヨドバシカメラが出店する現行計画では、高級ブランドの撤退を招くなど百貨店の体面を保てず、雇用も守れなくなると主張する。

対するセブン&アイはヨドバシカメラ出店で仕事を失う従業員に対し、そごう・西武での配置転換や、セブン&アイグループ内の企業などで雇用を継続する方針を示す。

労組や地権者、地元自治体は地域の文化拠点でもあった西武池袋本店にヨドバシカメラが出店すること自体に反発する。

とあり、そごう・西武労組とセブン&アイHDが対立していることに加え、地元自治体である豊島区や地元商店街も反対しているようです。

大変ですね・・。

というわけで、今日は法律論というよりは雑感をツラツラと書きます。

そごう・西武労組が求めているもの

こうした株式譲渡が行われた後に、買収先によってリストラなど人員削減が行われることはよく見られる光景です。

そのため、そごう・西武労組がファンドに株式を譲渡した後にも雇用が維持されることを求めて団体交渉を行うことは納得ができます。また、団交が決裂したときにはストライキに発展することはある程度想定できます。

ただ、そごう・西武労組が求めている百貨店事業の継続や百貨店の対面を保てないとの主張は、よく理解ができません。

セブン&アイグループがそごう・西武を傘下に留める必要性

セブン&アイHDが株式を譲渡することにしたのは、百貨店事業が不採算(4期連続最終赤字、有利子負債約3000億円)だったからです。

セブン&アイHDはそもそもがセブンイレブン、イトーヨーカドーなど小売り事業を行う企業グループなので、不採算な百貨店/デパート事業をグループ傘下に留め置くことがグループ全体の企業価値を高めるようにも思えません。

傘下に収めた当初は、小売り事業に加えてデパート事業にも事業を拡大することで企業価値を拡大することを狙っていたのかもしれません。しかし、現時点では、その目的を達することができなかった。

そうだとすると、セブン&アイHDの取締役など経営陣の立場では、グループ全体の企業価値の最大化を維持するために不採算事業であるそごう・西武を手放すことは善管注意義務に沿っていて、むしろ合理的な経営判断のように思います。

百貨店事業にこだわることへの疑問

百貨店/デパートにはハイブランドのショップが出店していることもあり、小売り事業よりは、なんとなくハイブランドで、商品単価が高く、顧客筋が違うイメージがないわけではありません。

しかし、池袋西武がある場所は東京です。

私も西武池袋線沿線出身なので生まれてこの方50年近く利用していますが、池袋西武のブランド価値が高いから池袋西武で買い物しようとの意識はほぼありません。普通にTシャツ短パンで買い物に行くこともあります。

そもそも利用者の多数を占める西武池袋線沿線の住民の多くは庶民でしょう。

ブランド物が欲しければ、銀座や路面店に買いに行く人も多いのではないでしょうか。銀座なら池袋から30分もかかりません。西武池袋線沿線に住んでいても、練馬から相互乗り入れている有楽町線に乗り換えれば池袋を経由せずに銀座まで行くこともできます。

もっといえば、池袋西武の中に入っている店舗の多くは、他の百貨店/デパートにも出店していますし、郊外のモールやアウトレットなどにも出店しています。ネットで購入することもできます。

実績を調べていないのでわかりませんが、わざわざ池袋西武でハイブランド品を買おうと思って出かける人が多数いたなら不採算事業にはなっていないはずです。

地域の商店街への貢献度という点でも、百貨店/デパートだろうが、ヨドバシカメラだろうが人の流れはあまり変わらないでしょう(強いて言えば、百貨店/デパートは食品・菓子などの売り場があることが特異性かもしれません)。

そうなると、あえて池袋で百貨店事業を継続する必要性がどこにあるのかがよくわかりません。

そごう・西武労組が百貨店事業の継続を求めるなら、あえて池袋で百貨店事業を継続する意義や価値をもっとアピールしないと、セブン&アイHDだけではなく、利用する消費者にも理解が得られないのではないでしょうか。

それでも、どうしても池袋西武の百貨店事業の継続が必要だというなら、地元商店街などと一緒にそごう・西武の株式を取得し、赤字でも労組のメンバーが自分たちで百貨店事業を継続していくくらいの覚悟が必要なのではないでしょうか。

セブン&アイHDの対応

これに対し、セブン&アイHDは、そごう・西武での配置転換やセブン&アイグループ内企業での雇用継続案を示しています。これは、雇用維持を求める労組の主張に応えたものです。

ただ、現時点でそごう・西武で配置転換をしても、セブン&アイHDから株式の譲渡が完了した後にファンド側がリストラを実施してしまえば、雇用維持としては意味がありません。

セブン&アイHDとファンドとの株式譲渡契約内に、譲渡完了後も一定期間はリストラなどを行わないとの条項が定められていれば、雇用維持として意味があります。

そう考えると、そごう・西武労組が求める雇用維持の要望に応える回答として意味があるのは、セブン&アイグループ内企業での雇用継続、つまり転籍だけです。

そごう・西武労組は、セブン&アイHDが提案する転籍の提案を受けいれるか否かしか選択肢は残されていない気がします。

どうなるんでしょう?

※2023/08/31追記

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。