転職者を通じて競合他社の顧客リストを不正取得等したとして、不正取得を指示した法人の引越手配代行業者ビズリンクの代表取締役ら4人が逮捕。転職者を面接・採用する時の留意点。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

法人の引越手配代行業者のビズリンクの代表取締役ら4人が2025年11月12日、不正競争防止法違反(営業秘密の不正取得・持ち出し)で逮捕されました。ビズリンクも書類送検されています。

顧客リストの不正取得・持ち出し

朝日新聞、事実通信などの報道や被害者であるリベロが公表したリリースなどを総合すると、事案の概要は以下のとおりです。

  • ビズリンクの代表取締役がリベロの社員に「顧客データを入手してこい」などと指示(2025.11.12東日本放送Webニュース)
  • 2024年11月、リベロの社員(当時)が、人がいない時間を狙って、PCに表示された顧客リストをスマートフォンで撮影
  • 撮影後、ビズリンクの社員に写真データを送信
  • ビズリンクは写真を印刷し、社内で共有
  • 2024年12月、撮影した社員はリベロを退職
  • 2025年1月、撮影した社員はビズリンクに転職
  • 2025年1月、リベロの社内調査で元社員による不正取得・持ち出しが発覚し、警察に相談

特長は、ビズリンクの代表取締役がリベロの社員に「顧客データを入手してこい」などと営業秘密の不正取得・持ち出しを指示したことです。

代表者自らが営業秘密の不正取得・持ち出しを指示している時点で、コンプライアンスも何もあったものではありません。

転職者に対する指示

採用の条件に営業秘密の不正取得・持ち出しを促すパターン

ビズリンクの代表者からの指示があった時点で、リベロの社員が転職活動中だったのか、あるいは既にその時点では転職が決まっていたのかはわかりません。

よくあるのは、転職者を採用する企業が、同業他社在職中の社員が転職のための面接等に来たときに、「うちの会社に有益な情報を持ってきてくれたら採用する」などと顧客データや研究データなどの不正取得・持ち出しを促し、それが成功することを条件に転職採用を決める、というパターンです。

2023年には、人材派遣会社の従業員が転職活動中に、同業他社に名刺管理データベースへのログインID・パスワードを教えた後、同業他社に転職し、個人情報データベース提供罪で有罪判決を受けたケースが起きています。

このケースでは、転職先からの指示があったのか、転職者が自分からすすんでログインID・パスワードを教えたのかは明らかではありません。

ただ、このケースからは、転職活動中の者のメンタリティとして、転職を成功させたいと思ったら、営業秘密や個人情報、技術情報を持ち出すことは厭わなくなってしまうということを学ぶことができます。

今働いている会社への忠誠心がなくなったから転職するので、自分の転職を成功させたいという欲が勝ち、たとえ犯罪行為だとしても見つからないだろうという甘い見込みが大きくなってしまう、とも理解できます。

転職のための面接・採用時の注意点

代表者による指示は滅多にあるものではありませんが、転職活動中の者に対して、一次面接などを行う現場の責任者が「うちのために、何か持ってきてよ」や「情報や技術に期待している」などと甘い誘い文句を言うケースは少なくありません。

もちろん、ここまで直接的な表現をせずとも、「今まで培った知識や経験を、転職したら、うちの会社のために活用してほしい。期待している」くらい言っていることは少なくないと思います。

言っている側は、営業秘密の不正取得・持ち出しの指示にならないように注意して、あいまいな表現に留めていても、言われた側は、転職を成功させたいと思って、「個人情報や技術データを持ってこいということか」と不正の指示だと受け取ってしまう

特に、転職を絶対に成功させたいと必死であればあるほど、不正の指示だと受け取ってしまう。

これは、転職活動をしている人の心理です。

なので、転職希望者を面接する企業側は、きちんと、「営業秘密の不正取得・持ち出しを指示しているのではないから、誤解しないでほしい。仮に不正取得・持ち出しがあったら採用は取消しです。」と注意することも忘れないようにすることが必要です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

error: 右クリックは利用できません