こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
時事通信社は2025年10月9日、自民党本部で同月7日午後、高市早苗総裁の取材待機中、報道陣の一部が「支持率下げてやる」などと発言した音声が、日本テレビのYoutube動画(その後編集カット済み)に収録されていた件に関して、映像センター写真部所属の男性カメラマンの発言であることを確認し、本人を厳重注意したことを明らかにしました。

電気通信事業者は放送法4条1項2号で「政治的に公平であること」、3号で「報道は事実をまげないですること。」という義務が課されています。
時事通信社は放送法の適用対象外ですが(放送法は電気通信事業者が対象)、とはいえ、メディアという役割において、政治的に公平であることや事実をまげずに報道することが求められている点は、電気通信事業者と変わりありません。
そのため、上記の発言は、放送法4条に照らして問題があるのではないかと批判が集まりました。
時事通信社も「報道の公正性、中立性に疑念を抱かせる結果を招いた」ことをは認めています。
しかし、その結果が、カメラマンに対する「厳重注意」に留まりました。
これもまた処分として甘いのではないかとの批判を招きました。
四国放送では懲戒解雇になった
このような報道の公正性、中立性を疑わせる発言に対して、メディア各社はどの程度の処分が相当なのでしょうか。
他社事例としては、2022年に四国放送の公式SNSアカウントの担当者が懲戒解雇された事例があります。
ラジオ局所属の担当者は2021年12月21日、個人アカウント用の投稿するつもりで誤って公式アカウントに、18歳以下の子どもを持つ家庭に対する10万円給付金の決定について、朝日新聞の記事を引用しながら、「#公明党って要らないよね」などのハッシュタグとともに「後出しジャンケン。膨大な経費を『当たり前』と言った口でよく言うわ。一族郎党ともに地獄へ堕(お)ちろ、カス」(原文ママ)と投稿してしまいました。
担当者はすぐに削除したもののSNSで拡散され炎上したことをきっかけに、四国放送が調査したところ、個人用アカウントで政治的中立性・公平性を著しく欠いた投稿を繰り返すなど、放送局の信用・信頼を毀損しかねない極めて不適切な言動を行っていたことが明らかになりました。
その結果、四国放送は2022年1月4日「電波をあずかる放送局として到底許されるものではなく、不偏不党であるべき放送局の信用を揺るがしかねないもの」として懲戒解雇にしたのです。
なお、代表取締役社長とラジオ局の担当役員は減俸処分、ラジオ局の上司2人と公式ツイッターのアカウントの責任者も減給処分になりました。

四国放送以外に共同通信社の事例も以前に紹介ことがあります。
四国放送の処分との比較で時事通信社はどうあるべきだったか
四国放送は、担当者が「個人用アカウント」というプライベートの領域で政治的中立性・公平性を疑われる投稿を繰り返していたことをも、「電波をあずかる放送局として到底許されるものではなく、不偏不党であるべき放送局の信用を揺るがしかねない」と重く受け止め、担当者を懲戒解雇にしました。
他方、時事通信社のカメラマンの発言は、公式の場での発言ではありませんが、高市総裁の会見を準備するときの発言であり、業務時間内での発言です。
四国放送担当者の「個人用アカウント」での投稿よりも、より業務性の高い発言です。
しかも、「支持率が下がるような写真しか出さねえぞ」との発言は、カメラマンの業務の内容そのものです。
四国放送よりも「政治的中立性・公平性」や時事通信社の報道内容の信用を低下させる度合いは大きいように思います。
動画の中では、他社の記者やカメラマンらしき人とも談笑していたことから、時事通信社1社だけでなく、メディア各局の報道内容の「政治的中立性・公平性」に対する信用性を低下させた(今までも信用性を欠いていましたが、より低下したという意味)と言っても良いでしょう。
その影響力を考えると、「厳重注意」に留めるのは、あまりに軽い印象を受けます。
時事通信社が「政治的中立性・公平性」の要請に反したことや報道内容への信用性を低下させたことの重みを、その程度にしか感じていないということかもしれません。
また、四国放送では、誤投稿した担当者以外に、管理監督責任として、代表取締役社長、担当者が所属していた部署であるラジオ局の担当役員、ラジオ局の上司2人、公式ツイッターのアカウントの責任者も処分を受けています。
時事通信社は、社長室長からのお詫びの言葉はありますが、それに留まり、誰も管理監督責任を問われていません。
四国放送と比べると、あまりにも受け止め方が軽いのではないでしょうか。
一昨年のジャニーズ事務所の問題、去年から今年にかけてのフジテレビの問題など、間違いなく、メディア業界にも、一般の事業会社と同じレベルのコンプライアンスやガバナンスを機能させる波は寄せています。
コンプライアンスやガバナンスの意識をアップデートできないメディアは、ますます信用性が低下すると思います。