サントリーHD会長が辞任。購入したサプリメントの違法性が確定していない中であっても「資質」を理由に辞任を求めた会社の危機管理・ガバナンスの適切さ。オリンパスCEOの辞任、ENEOS HD 再発防止策との共通点は。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

サントリーHDの新浪代表取締役会長が2025年9月1日、辞任しました。

同社のリリースや報道によると、適法だと思って海外からCBDのサプリメントを購入したところ、門司税関によって大麻由来の違法な成分THCが検出され、税関から通報を受けた福岡県警が8月22日に会長の自宅を捜索したことがきっかけです。

サントリーHDの危機管理・ガバナンスの機能と企業価値

「資質」というキーワード

サントリーHDのリリースでは、辞任に至った経緯を以下のように説明しています。

当社は、8月22日、当社代表取締役会長新浪氏から、警察による捜査が行われたとの報告を受けました。当社は、ガバナンス上極めて深刻な事案であるという認識を有し、直ちに同氏に対して外部弁護士によるヒアリングを実施しました。

(中略)

サントリーグループのトップマネジメントとして、法令に抵触しないことは当然であり、サプリメントの購入に当たっては、しかるべき注意を払うことが不可欠の資質と考えます。したがって、捜査の結果を待つまでもなく、サプリメントに関する認識を欠いた新浪氏の行為は当社代表取締役会長という要職に堪えないと判断し、同氏と協議したところ、一身上の理由により役職を辞任したいとの申し出があり、9月1日付で受理したものです。

新浪会長からの報告を受けて、直ちに外部弁護士によるヒアリングを実施したことは危機管理の意識が秀逸だった現れです。

それだけでなく、「法令に抵触しないことは当然」としたうえで、「サントリーグループのトップマネジメントとして・・・しかるべき注意を払うことが不可欠の資質」と言及しています。

意訳すると、

  • 法令を守るのはサントリーのトップとして当たり前で、法律を守ったとか守らないとかそんな低レベルの話しはしていない
  • サントリーのトップとして「不可欠な資質」は「しかるべき注意を払うこと」である
  • 「サプリメントに関する認識を欠いた行為」は「不可欠な資質」を欠いている
  • だから、「代表取締役会長という要職に堪えない」と判断した

ということです。

「堪えない」という漢字が意味するもの

「要職に堪えない」は、音感だけで理解すると、「要職に持ちこたえられない」という意味にも受け取れます。

しかし、リリースでは、あえて「堪えない」という漢字を使っています。

広辞苑によると、この「堪えない」には「許されない」「価値がない」という意味が含まれます。

なので、サントリーHDは「不可欠な資質がない者は、代表取締役会長という要職として許されない/価値がない」というかなり怒って、新浪氏に辞任を求めた、と解釈することができるのです。

法令違反が無くとも、役員としての資質がないという理由で辞任を求めたのは、サントリーHDの他の取締役らによるガバナンスが効いていることを示しています。

また、サントリーHDが、資質が無い者をトップに残すことは企業価値が低下するとの認識を持っていたのであろうとも推察できます。

オリンパスのCEO辞任との共通点

適法かどうかが確定していない中でトップの辞任を求めたケースとしては、2024年10月にオリンパスのカウフマンCEOが辞任した例があります。

オリンパスのカウフマンCEO(当時)が違法薬物を購入していたとの通報があったことをきっかけに社内調査した結果、「当社の行動規範、コアバリューそして企業文化とは相容れない行為をしていた可能性が高いと全会一致で判断」して辞任を求めたケースです。

違法薬物を購入していたことまでは確定していないものの、「行動規範」「コアバリュー」「企業文化」と「相容れない」として、オリンパスの役員には相応しくないことを理由に辞任を求めたのです。

今回、サントリーHDが新浪氏に辞任を求めた理由と類似しています。

なお、カウフマン氏は2024年12月に麻薬特例法違反で有罪判決を受けています。

法令遵守とは別の役員としての資質

役員の適格に、法令遵守とは別に「資質」を求める例のしては、ENEOS HD の再発防止策があります。

2022年、2023年と2年連続でENEOS HD のトップが飲酒の上のハラスメントによって退任(辞任、解任)するなどのケースが発生しました。

これを受けて、ENEOS HD は2024年2月、取締役選任プロセスの見直しを含む再発防止策を定め、その中で、「取締役という役割を担うにあたっての適切な振る舞いができる人材か否か」を評価する過程を定め、その要素に、「規範逸脱リスク」「ハラスメントリスク」「アルコールリスク」を追加しました。

「規範逸脱リスク」との要素は、「規範を逸脱しているか」ではなく、その「リスク」があるか、別の言い方をすれば、「危なっかしいか」「不注意でやってしまわないか」という意味と受け取れます。

サントリーHDが、法令を守るのは当たり前で、「しかるべき注意を払う」ことを「不可欠な資質」とした点は、ENEOS HD の「規範逸脱リスク」と同じように理解することができます。

今後の上場企業のあるべきガバナンス

サントリーHDとオリンパスの対応、ENEOS HD の再発防止策を見て、他の上場企業はもちろん、上場企業に匹敵する企業では、役員相互のガバナンスを機能させる水準を、役員が法令遵守しているかどうかを基準にするのでなく、「わが社の役員として相応しいかどうか」を基準に高めていくことが必要であると認識をアップデートしていく必要があります。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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