こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
横浜冷凍は2025年5月15日、再発防止策「事業投資に係るプロセスの厳格化」を開示しました。
きっかけになったのは、海外取引先に対する売掛金債権の債権貸倒引当金等の計上した原因の一つに、債権管理等に関する内部統制上の課題が存在したことです。
これは、横浜冷凍が、債権管理に関する内部統制上の課題を開示した際に再発防止策を発表していたことのプラスαとして、「事業投資に係るプロセスの厳格化」を再発防止策として公表したものです。
債権管理に関する内部統制上の課題
横浜冷凍が2025年1月16日に開示した「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備及び内部統制報告書の訂正報告書の提出に関するお知らせ」では、債権管理に関する内部統制上の課題は以下のように説明されています(一部引用)。
当社は、2024 年 9 月期の決算業務の実施過程において、特定の海外取引先(以下、「当該取引先」という。)の財務内容が悪化している可能性を把握し、当該取引先の財務内容及び担保の処分見込額等について詳細調査を実施いたしました。
(中略)
2023 年 9 月時点において、多額の投融資及び保証を行っている当該海外取引先向けの売掛金回収に滞留がみられた際にも、同社の将来計画他を前提に債権区分を設定し、回収可能性の検討を行っておりました。しかし本来、債権回収が滞留した時点で、広範な情報を収集の上、リスク評価をより慎重に実施すべきところ、従来同様の対応(財務諸表、事業計画、返済計画の入手及び分析、それらを踏まえた社内関係事業所との対応協議)を実施するに留まり、多角的且つ深度のある検討ができておらず、その結果として、債権区分が適切でなく、適切な貸倒引当金及び債務保証損失引当金の計上並びに投資有価証券の評価減ができておりませんでした。
また、これら決算に必要な情報を収集し分析を行うための体制という点においても、当社の「決算・月次業務マニュアル」の中の債権等の回収可能性に関する規定が十分詳細なものとはなっておらず、また、当社においてこのような分析や評価を行うための専門知識を有した要員が不足しており、分析を行う体制も十分に整備できておりませんでした。
ポイントは、
- 債権回収が滞留した時点での情報収集、リスク評価の検討不足
- 債権回収に関する社内ルールが不十分、人員不足など体制不備
の2点に整理できます(その他、開示では、実態が金融取引であることに関しても言及されています)。
そうだとすると、再発防止策に最低限必要なのは、債権回収の情報収集、リスク評価・分析に関するプロセス強化と、それに必要な体制の整備(規定・マニュアル類の更新と必要な人材の確保)です。
当初公表された再発防止策
そこで、横浜冷凍は、債権管理に関して以下の再発防止策を開示しました(引用)。
当社における決算・財務報告プロセスの不備(決算に必要な情報の分析及び分析体制)への
対応
当社は、引続き良質な人材の確保や専門知識の拡充を図るとともに、監査法人とのより密なコミュニケーション、必要に応じた専門家の利用、より実務的で網羅ある業務マニュアルの整備を行うことで、適正な内部統制の整備及び運用を図ってまいります。
また、2025 年 1 月より経営目標の実現に与えるリスクを把握・評価し、必要な対応策を実施するため、各事業部門から委員を任命し、特に会計処理に影響を与える情報については、全社各事業部門の事業所間連携関係を構築し、情報と伝達を確実にし、リスク管理体制の再構築とリスク管理体制の強化を図ってまいります。
人材の確保、専門知識の拡充、より実務的な業務マニュアルの整備など、債権管理に関する体制を強化することに重きを置いた再発防止策で、原因とも一致しています。
これだけでは、業務マニュアルどおりに情報を収集、リスク分析できているかを部門内でチェック(モニタリング)する体制が不足しているように思います。
なお、横浜冷凍は、会計処理の検討体制の強化も公表しています。
再発防止策としての「事業投資に係るプロセスの厳格化」
すると、横浜冷凍は2025年5月15日、さらにプラスアルファの再発防止策として、「事業投資に係るプロセスの厳格化」を開示しました。
ポイントは、以下の3つです。
- 事業投資申請時の審査基準の明確化
- 取締役会への情報共有の改善(取締役会に申請事案を提出する前の審査部門での情報収集と分析の強化)
- 事業投資実行後のモニタリング体制の強化
1と2は、そもそも取引を始めるにあたっての内部統制を強化しようとするもの、3は、先に発表された取引を開始してからの内部統制を補強するもの、と理解できます。
3は、開示資料では、
取締役会決議を経て事業投資が実⾏された後、発議した事業部⾨は定期的にその経過報告を審査部⾨へ提出します。審査部⾨は経過報告を受けるだけでなく、報告の精査および分析を⾏い、その上で取締役会へ提出されます。
また、事業投資計画の変更、投資先の信⽤不安リスクの認識その他緊急の事象が発⽣した場合の報告および対応に関する基準を明確化します。
と説明されています。
当初公表された再発防止策では、業務マニュアルどおりに情報を収集、リスク分析できているかを部門内でチェック(モニタリング)する体制が不足していたので、今回公表された再発防止策によりその穴を埋めることができたと言えましょう。
実務的な注意点〜審査部門のメンタルへの配慮
あとは、審査部門がどれだけ厳格に審査できるか、です。
ダブルチェックですから、同僚に対して「情報が足りない」「リスク分析が足りない」などとダメ出しすることが役割ですから、憎まれ役を買って出ることになります。
当然、現場からは「厳しすぎる」などと反発もあるかもしれません。
そうした憎まれ役を担い、同僚の声に抗っていかなければいけないので、メンタルに掛かるストレスも少なくないでしょう。
ストレスに耐えられないとついつい甘くなってしまいがちですが、心を鬼にして役割を果たして欲しいと思います。
と同時に、審査部門の人たちがメンタルヘルスを発症しないようにするためにも、審査部門の人たちのメンタルの状態をきちんと把握することは忘れないようにしたほうがいいと思います。