SAAFホールディングスにて続く前代表との経営権争いと現経営陣によるガバナンス改革の攻防。現経営陣にはステークホルダーに対する広報の意識が必要ではないか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

コンサルティング事業などを営むSAAFホールディングス(旧ITbookホールディングス)は2026年3月3日、特別調査委員会の設置を発表しました。

同社で現在起きている旧代表である前氏と現経営陣との対立は、企業の自浄作用とガバナンスのあり方を問う注目すべき事例です。

そこで、この事案の現状を整理しながら、現経営陣が今後取り組むべき課題を考えてみたいと思います。

なぜの新旧経営陣は対立しているのか

対立の発端は2025年4月、当時の代表取締役・前氏による「会社財産の私的流用」などの疑いに関する内部告発です。

2025年4月30日付けの開示では、前氏は「経営不振の責任」を理由に退任したとされていましたが、2026年3月3日付けの特別調査委員会設置のお知らせでは、その後の内部調査で、前氏による不正疑惑が浮上したことが指摘されています。

これに対し、前氏は現経営陣を強く批判し、2026年1月には、現取締役7名全員の解任と、自らを含む新取締役の選任を求める臨時株主総会の招集を請求しました。

一方、現経営陣(左奈田直幸社長ら)は、ガバナンスを機能させるために、2025年6月には任意の指名・報酬委員会を設置したほか、今回の外部専門家による特別調査委員会の設置に至りました。

並行して不採算事業の整理などの構造改革を断行し、最高益更新という業績面での成果を出し始めています。

改革の正当性を株主・機関投資家にアピールするために

ステークホルダーへのアピールの必要性

このように、現経営陣は、法的・組織的な対応(守りのガバナンス)については、極めて誠実かつ迅速に実行しています。

しかし、ガバナンスが成功するためには株主や投資家など外部のステークホルダーに評価され、企業価値が向上しなけれ意味がありません。

そこで、外部のステークホルダーに対し、その改革の意義を伝え、新生SAAFの将来性を期待させるアピールを積極的に行っていく必要があります。

これは、SAAFホールディングスに限らず、経営陣を入れ替えてガバナンス改革を行うすべての企業に当てはまります。

投資家からの支持を盤石にするために、今後取り組むべき広報戦略のポイントは以下の3点が考えられます。

事実をストーリー化して語る

適時開示の無機質な書類だけでは、前氏側の感情的な主張に対抗しきれません。

なぜ旧体制を一層してガバナンス改革を行う必要があるのか、それによって組織文化がどう健全化したのか。また、それがどう企業価値の向上に役立つのか。

これらの点について、現経営陣が自らメディアや説明会で改革のストーリーを語る場を増やしたり、IRでの開示とは別にパワーポイントなどのプレゼン資料を用いて伝えていくべきです。

最近では、機関投資家対現経営陣との対立の構造で、こうしたプレゼン合戦が少なくありません。

利益に繋がることを可視化する

ガバナンス改革の成果として、旧経営陣による不正を正したからこそ、適正なコスト管理ができ、最高益につながったという因果関係を強調する必要があります。

株主・機関投資家の最大の関心は、結局のところ、ガバナンス改革が売上・利益にどう繋がり、会社の企業価値を示す株価がどうプラスに作用したのか、です。

今の経営陣だからこそ業績が上がり、株価にも反映しているという認識を株主・投資家に持ってもらうことこそが、旧経営陣による批判を封じ込める最大の武器になります。

積極的な情報公開を駆使する

紛争中はリスク回避で慎重になりがちですが、現経営陣が情報を出さないと、株主・投資家に限らずステークホルダーは不安になります。

法的な制約を守りつつも、開示以外にSNSやオウンドメディアを活用することで、現経営陣による健全な経営環境を見せていく攻めの広報が必要です。

ここは広報担当者の出番でもあるように思います。

経営権の争いをしているときこそ広報が重要

ガバナンスの立て直しは、内部の仕組みを整えるだけでは完結しません。

経営権の対立は結局のところ、株主総会での投票がすべてです。

現経営陣は株主・投資家に向けた選挙活動であると位置づけて、ガバナンス改革の内容、プロセス、成果を戦略的に発信し、市場からの信頼を得る意識を持つことが必要です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタル・オンラインに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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