ドラッグストア「ザグザグ」に公正取引委員会が優越的地位の濫用を理由に警告した事例から学ぶ、取引先に従業員の派遣を要請する法的リスクと、その回避策。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

ドラッグストアを展開する株式会社ザグザグが2026年3月12日、公正取引委員会から優越的地位の濫用を理由に警告を受けました。

小売店が新規開店などする際に、仕入業者などの取引先へ協力を求めることは現場でよくあります。

しかし、一歩間違えると今回のように独占禁止法違反(優越的地位の濫用)になったり、中小受託取引適正化法(取適法)が禁止する不当な経済上の利益の提供要請に抵触してしまう可能性があります。

今回のケースを題材に、現場での注意点を整理します。

ザグザグ  の「優越的地位の濫用」の内容

ザグザグは、遅くとも2024年8月20日から2025年12月23日までの間、自社店舗の新規開店や改装開店の際、商品を納入している業者に対して、商品の陳列作業等を行わせるため従業員を派遣させていました。

その際、派遣に必要な費用を自社で負担していなかっただけでなく、納入業者が納入した商品以外の商品についても陳列作業を行わせていた事実が認められています。

下記の図は、公正取引委員会の公表資料からの引用です。

過去の同種事例

取引先に費用負担なしで従業員を派遣させ、行政措置を受けた事例は少なくありません。

公正取引委員会が今回公表した資料にも、以下の同種事例が紹介されています。

  • 株式会社ダイコク(2023年4月6日公表):事前の合意や費用負担なく、他社商品を含む陳列や返品作業に従業員を派遣させた。確約認定。
  • 株式会社東京インテリア家具(2024年1月25日公表):事前の合意や費用負担なく、他社商品を含む搬入・陳列に従業員を派遣させた。確約認定。
  • 株式会社ダイゼン(2024年12月13日公表):派遣の条件を明確にせず、納入業者に利益がないにもかかわらず従業員を派遣させた。警告。
  • 株式会社ニシムタ(2025年9月5日公表):費用負担なく、他社商品を含む搬入・陳列に従業員を派遣させた。確約認定。
  • 株式会社ロピア(2025年12月25日公表):事前の合意や費用負担なく、他社商品を含む陳列・品出しに従業員を派遣させた。確約認定。
  • 株式会社デリシア(2026年2月26日公表):費用負担なく、新規開店等の際の陳列作業に従業員を派遣させた。警告。
  • 株式会社かましん(2026年3月5日公表):事前の合意や費用負担なく、他社商品を含む陳列に従業員を派遣させた。警告。

なぜ現場で「優越的地位の濫用」が起きてしまうのか

ここから先はザクザクの事案に限らない、一般論としての解説です。

優越的地位の濫用や不当な経済上の利益の提供要請の多くは、担当者の悪意からではなく、以下のような現場特有のメンタリティや慣習から生じがちです。

「協力」という言葉への甘え

現場担当者にとって、開店準備は時間との戦いです。

それゆえに、長年付き合いのある納入業者を「パートナー」と捉えるあまり、「困ったときはお互い様」「協力して当たり前」という甘えが生じがちです。

そこで、取引の相手方として対等であるという認識が薄れ、「商品の陳列を手伝ってくれないか」などとお願いしたり、「協力してくれるよね」と当然のように要請してしまいがちです。

「相手も納得している」という思い込み

納入業者が現場で笑顔で作業していたり、費用の請求をしてこなかったりすると、担当者は「相手も販促のために納得してくれている」と誤解しがちです。

しかし、実際には業者は「今後の取引継続」を優先し、不当な要求を断れない心理状態にあることを忘れてはいけません。

今回のザグザグのケースも、ザグザグに断られたときに、代替の取引先から売上を確保することは困難という状況で、断れない状態にありました。

「自分たちが売ってあげている」という無意識の特権意識

特に地域で高いシェアを持つ小売店の場合、無意識のうちに「商品を置いてあげているのだから、多少の手伝いは当然」という地位の優越性を背景にした「上から目線」の意識が働きがちです。

それゆえに、対等なビジネス感覚を失ってしまい、「協力」の要請というレベルではなく、「協力しなかったら、おたくの商品を置かないから」などとして強引に手伝わせていることも珍しくありません。

「優越的地位の濫用」と「不当な経済上の利益の提供要請」への誤解

「優越的地位の濫用」も「不当な経済上の利益の提供要請」も、小売店の現場などで協力を求められた取引先が、「協力します」とその場で快諾したように見えても、違法であることに違いはありません。

取引先が売上維持のために断ることが困難な立場にある以上 、たとえ現場で「快諾」を得たように見えても、正当な対価を支払うことが必要です。

現場で注意すべきポイント

そうはいっても、現場で取引先に作業協力を依頼することもあるかもしれません。

そこで、現場で取引先に協力を要請する際には、以下のポイントに注意する必要があります。

他社商品の陳列作業を依頼しない

自社商品の陳列は業者にもメリットがありますが、他社商品の陳列は単なる無償の労働力利用です。

「サービスで、これもやって」「ついでだから」などと要請することは避けなければなりません。

相手からの請求がなくても費用を支払う

今回の事案では、請求を行っていない納入業者に対しても派遣費用を支払っていなかった点が「濫用」とされた要素の1つです。

そのためには、取引先から従業員を派遣してもらったときに発生する実費や人件費は、たとえ取引先からの請求がなくとも、自社から主体的に支払う必要があります 。

費用を負担するだけでなく事前に合意する

自社から主体的に支払うとしても、「後で適当に精算すればいい」という進め方は厳禁です。

取引先との間で、あらかじめ派遣条件(作業内容・人数・時間・費用)を明確にし、合意しておくことが必須です。もちろん、書面や電磁的記録として形に残してください。

取引先との良好な関係を維持するためにも、従来感覚の「当たり前」が法的には通用しないことを確認し、現場の人たちにも注意喚起をするなどを徹底してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタル・オンラインに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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