危機管理マニュアル(危機管理規程)を作成する際に、もっとも配慮すべきポイントは、「社内の誰でも、マニュアルを読みさえすれば、マニュアルどおりに誤解なく危機管理の手順を遂行できる内容になっている」ことです。

そのような内容にするためには、マニュアル上、5W1Hを明確に定めなければなりません。

いつ(when)、どこで(where)、誰が(who)、誰に(whom)、何を(what)、どうする(how)を、マニュアル上、明確に定めるのです。

たとえば、危機管理委員会に関するマニュアルを作成するのであれば、次のような項目を決めることが考えられます。

1.いつ(when)

危機管理委員会は、どういう状況のときに招集・開催するのか、ということです。

日常的に招集・開催するのか、定期的に招集・開催するのか、緊急時のみに招集・開催するのか、それとも定期的な開催は行ったうえで緊急時にも開催するのか、といったことを定めます。

緊急時に危機管理委員会を招集・開催するとした場合には、「緊急時」とは具体的にどのような時を指すのかといったことまで定める必要があります。

たとえば、企業秘密や個人情報が企業外に漏洩したというケースにおいて、企業秘密や個人情報が1件でも外部に漏洩したらそのたびごとに緊急の危機管理委員会を招集するのか、それとも、企業秘密や個人情報が1件のみならば、その件に関しては現場の部署での処理に任せておいたうえで、定期的に開催される危機管理委員会にその事故情報を報告するにとどめ、緊急の危機管理委員会は企業秘密や個人情報が大量に漏洩した場合にのみ限定して行うのか、といったことを定めます。

2.どこで(where)

危機管理委員会は、どこで開催するのか、ということです。

通常は、取締役会や経営会議などを行っている場所と同じです。

ただし、危機管理委員会は、取締役会や経営会議とは異なり、会社の取締役・経営陣だけが集まるものではなく、法務部・総務部・広報部・営業部・製造開発部など多くの部署の関係者が横断的に集まる必要があります。

そのため、会社が直面した危機(リスク)に応じて、関係者が集散しやすい場所を開催地にすることも検討する必要があります。

3.誰が(who)

危機管理委員会は、誰が招集するのか 、ということです。

形式的には、委員長(通常は代表取締役)が危機管理委員会を招集することが多いと思います。

しかし、ここで問題となるのは、形式上の招集権者が誰であるかというのではなく、実質的に、誰が、「この危機(リスク)の対策には全社的対応をすべきだ。そのために、危機管理委員会の招集が必要だ」と判断するかということです。

あくまでも、危機管理委員会を開催・招集することの実質的判断や最終決定を行うのは代表取締役である社長という会社があるかもしれません。

方や、実務的には、危機管理・コンプライアンス担当の取締役が危機管理委員会を開催・招集することの最終決定をする会社があるかもしれません。

場合によっては、取締役ではなく、現場の法務部長・総務部長などが危機管理委員会の開催・招集を最終決定する会社があるかもしれません。

結論としては、いずれの方法によっても、問題がありません。

会社の規模や経営陣の現場への介入度によって、実務的な最終決定権限が異なるというのはありうることです。

4.誰に(whom)

誰に危機管理委員会として声をかけるのか、ということです。

言い換えれば、誰を危機管理委員会のメンバーにするのか、ということです。

会社法上、「損失の危機管理の体制」を整備することは、取締役・取締役会の義務の内容になっています。

そのため、危機管理委員会のメンバーには、少なくとも取締役の誰かは入っていなければなりません。

しかし、危機管理委員会は取締役会とは違います。

したがって、危機管理委員会は、取締役だけによって構成されるべきものではありません。

会社に発生する危機(リスク)は現場で発生している以上、その危機(リスク)の内容や状況をもっともよく知る現場の責任者が危機管理委員会のメンバーに入っていることが望ましいです。

たとえば、製品事故(リコール・製品回収)という危機(リスク)の場合、危機管理委員会には、代表取締役社長をトップに据えるほか、現場の責任者として、製品事故の第一報を受けた営業部やお客様相談室、製品の設計・製造のことを知る工場長や製造開発部門、製造物責任法(PL法)のことを知る法務部、消費者対応に詳しい総務部、さらにはリコール等の回収を対外的に発表し、メディア対応を行う広報部などがメンバーに加わっていることが要求されます。

そのうえで、危機(リスク)に対する会社の対応が当を得ているのか得ていないのかを客観的に評価できる第三者・専門家、たとえば、外部の弁護士などをメンバーに加えるべきです。

そうすることによって、会社としても、「第三者・専門家の意見を参考にしながら、外部の人も納得できるような形で、これこれという対応をとった」と対外的に説明できるからです。

5.何を(what)

危機管理委員会で何を検討し、何を決定するのか、ということです。

端的に言えば、危機管理委員会では、目の前で発生している危機(リスク)に対する会社の姿勢を決定する、ということです。

たとえば、製品事故(リコール・製品回収)という危機(リスク)であれば、全国規模でリコール・製品回収を行うのか、リコール・製品回収までは行わずに現場での処理に任せるのかといったことを判断します。

6.どうする(how)

危機管理委員会では、どうやって決定を出すのか、その決定をどうやって会社に反映させるのか、ということです。

取締役会の場合は、会社法上、出席している取締役の過半数の賛否で決議します。

しかし、危機管理委員会は取締役会とは異なります。

必ずしも、危機管理委員会のメンバーの多数決で方針を決定する必要はありません。

トップダウンで、トップが「製品回収しろ」と判断したら、その判断に会社が従って行動しなければならない場合もあります。

そこで、どの場合に多数決で方針を決めるのか、どの場合にトップダウンで方針決定をしてよいのかをルール化しておかなければなりません。

また、危機管理委員会での判断には、会社の経営理念や行動指針・行動規範が反映するようにしておくべきです。

たとえば、会社の経営理念や行動指針で「お客様の安全を第一に考える」と定めているにもかかわらず、製品事故の場合に「お客様の安全」よりも「リコールによる会社の経済的ダメージの大きさ」を優先して考えて、「リコールしない」などという判断をすることは、経営理念や行動指針に反するものとして許されません。

このような5W1Hを、危機管理委員会に限らず、会社が日常的に直面する各危機(リスク)について定めておけば、必要十分な危機管理マニュアル(危機管理規程)を作成することができます。