2017年新春のごあいさつ

あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

前回の投稿を見ると、2015年11月。実に1年2か月ぶりの更新となりました。
今年こそは、週1回程度の更新は続けたい(あくまで希望)。

2016年もまた企業不祥事には事欠かない1年でありました。
2017年も企業不祥事は相次ぐことが予想されます。ますます企業危機管理の必要性は高まっても下がることはないでしょう。

少しでもお役に立てるように、2017年もアンテナは敏感に建てていきます。
重ねますが、本年もよろしくお願いいたします。

なお、今さらですが、2016年に何があったのかを大きく振り返ります(要は、こんな仕事してますよ、という近況報告と宣伝です)

2016年

雑誌「広告会議」連載

事務所のブログを1年2か月放置していました。
ただ、ここ1年以上に亘って、雑誌「広告会議」にて「リスク広報最前線」というテーマで、危機管理広報についての連載記事を続けています。

2016年に取上げたテーマは、

  • 2月号;横浜マンション杭打ち問題での親会社の広報と責任
  • 3月号;セーラー万年筆社長解任劇と広報
  • 4月号;軽井沢バス転落事故後の運行会社の記者会見
  • 5月号;イソジン訴訟合戦の広報比較
  • 6月号;読売巨人軍野球賭博問題
  • 7月号;滋賀県議会議員、高校球児に「1回戦負けしろ」発言騒動
  • 8月号;舛添要一前都知事の広報対応
  • 9月号;株主を味方につける広報・・・2016年株主総会(タカタ、大戸屋)
  • 10月号;伊藤忠商事、グラウカス社レポート対応広報
  • 11月号;PCデポ高額解約料問題
  • 12月号;鹿児島県志布志市「うなぎ少女」動画炎上

でした(1月号は「危機管理広報マニュアル」です)。

どれもブログでも取上げるに値するテーマだったように思います。

連載は、主に危機管理広報の観点から解説しましたので、興味を持たれた方は大きな書店にあるバックナンバーなどでご覧いただければうれしいです。

(株)イー・コミュニケーションズ「月刊コンプラ放送局」

(株)イー・コミュニケーションズのサービスの一部で、「これって大丈夫?月刊コンプラ放送局」という動画を流しています。

毎月1か月分の企業不祥事から2例か3例を取上げて、法律上の問題点とコンプライアンスの観点からの問題点の両方を5分前後で解説しています。
プリンシプル・コンサルティング・グループ代表の秋山進氏との対話形式にして、わかりやすく解説しています。
社員教育用の教材としてご利用いただけることを念頭において作成しています。

(株)イー・コミュニケーションズのウェブテスティングサービス「SAKU-SAKU Testing(サクサクテスティング、以下「サクテス」。)」をご契約いただくとご覧いただけます。
こちらも興味があれば、社員教育としてお使いいただければうれしいです。

企業内研修・公開セミナー

2016年、ついに企業内研修と公開セミナーが60回を超えました。
1年間は52週間ですから、毎週1回以上研修・セミナーを行っていた計算になります。

研修・セミナーで取上げた主なテーマは、こちらに実績一覧として掲載しています。

ザッと整理すると、対象者ごとに、次のような内容での研修が多かったように思います。
また、セミナーとともに、社内研修用のテスト教材や配布するパンフレットやガイドラインの作成も行うこともありました。

もし、「うちの会社でもこんなテーマで研修やってくれないか」という御希望がございましたら、まずは遠慮なくご相談してください。

役員・広報部門 「危機管理広報」
役員・一般従業員 「情報管理(企業秘密、個人情報)」

「ハラスメント(セクハラ、パワハラ)」

「公務員との付き合い方や営業活動上の留意点(国家公務員倫理法・倫理規定、独占禁止法)」

営業部門 「特商法・景表法に基づいた営業方法(営業でのNGワード、広告宣伝の注意点)」

「業務委託契約書の注意点」 ※企業内研修の場合には、ひな型をそのまま使った場合に、実際の契約で起きかねないトラブルと回避方法

その他 「コンプライアンス全般(基本的なところから)」

「法律の基礎知識(契約・印鑑などの基本から債権回収の基本まで)」

契約書のひな型は、そのまま使うものではありません

11月下旬になりますが、未だ、東芝会計問題、三井不動産レジデンシャル・旭化成建材データ改ざん問題は、全容が解明されません。
どこまで発展するのか気になるところです。
年内に落ち着いたところで、一度まとめてみようと思います。

さて、今回は、いつもと違って「契約書のひな型」の話をします。

「契約書のひな型」は、そのまま使うものではない

どこの企業、どの取引でも、合意が成立したら「契約書」「合意書」の類を締結します。
定型的な契約内容であれば、「定款」になっていたり、社内に「契約書のひな型」が存在することもあるでしょう。

「契約書のひな型」について、現場で間違えた理解があるようなので、あえて言いたい。
契約書のひな型は、そのまま使うな、と。

先日、ある取引分野に関する契約書に関するセミナーを行いました。
セミナーのテーマは、よくある既存の契約書が抱える問題点やトラブルを引き起こす課題を実例に照らして説明し、そうした問題点やトラブルを回避するためには、契約書をこうやって修正したほうがいい、という提案をするものでした。

セミナー終了後のアンケートを拝読すると、9割以上の方が参考になった、わかりやすかったと感想を追加してくれていたので、趣旨を理解しくれてよかったと安堵していました。
しかし、1人だけ、「契約書のひな型や大手企業からもらう契約書と違うので参考にならない」という趣旨の感想を書かれた受講者の方がいました。

唖然としました。
過去に何度も同じテーマのセミナーを行ってきて、初めて見る感想だっただけに、なおさら、でした。

どうして、この方はこうした感想を書かれたのだろう?と考えてみました。
私なりに考えた推論は「契約書のひな型や取引先からもらった契約書の文案を修正してはいけないと誤解しているのではないか」「契約書の文言一つ一つについて交渉したことがないのではないだろうか」ということです。

「契約書のひな型」は、あくまでも「ひな型」

契約書のひな型は、毎回1から起案していたのでは時間がかかるから、時間と労力を節約するために作成されたものです。
絶対的なルールではありません。

契約書は、当事者同士が合意した内容や取引条件を紙に記録して証拠化したものです。
あくまでも、当事者が合意することが大前提です。

合意するときに、トラブルを想定する。
その想定されたトラブルを回避できるような取引条件を付ける。
その取引条件を契約書に反映させる。
ひな型がある場合には、ひな型を修正する。
この修正を巡って、当事者同士が侃々諤々やり取りする。

これが契約の醍醐味です。
契約書のひな型に記載されている、取引の数字や納期を調整するのが契約交渉ではありません。

「契約書のひな型」の修正に取引先が上場企業だろうが中小企業だろうが個人事業主だろうが関係ない

上場企業や大手企業が「ひな型」を持っていて、契約の場で「これが取引条件だ、よろしく」と突きつけてくることは、よくあります。
「○○社から、こんな内容の契約書をサインしろと言われてるんですが、なんとかできませんか」と相談にいらっしゃる企業さんは、いつものことです。
むしろ、そういって悩んでいるからこそ、相談にいらっしゃるのです。

相手方が上場企業や大手企業であろうと、呑めない内容には承諾しない。
だからといって、全面的に反発したら、取引自体がなかったことになってしまって、売上がなくなる。
この矛盾を調整するために、契約書のひな型の中で、どこが譲れない部分なのか、どこが譲れる部分なのかを一つ一つバラバラにして考える。
そのうえで、譲れない部分について、相手が修正に応じてくれそうな部分はどこだろうか、どの表現なら修正可能だろうか。
こういう検討作業を行うのです。

反対に、自社が「ひな型」を提示する場合には、相手方に「ひな型」を提示する前に、同じ作業を行うのです。
自社にとって強みを持たせたい条項があるとしたら、「ひな型」を思いっきり自社に有利な内容に変更してみる。
そのうえで、相手と交渉して譲歩するか、そのまま押し通すか考える。
こちらは散々悩んで追加条項が、意外とノーチェックでスルーされて承諾されることさえあります。

「今までどの契約書でも見たことがないけれども、今回の取引のためには、この条件を入れておきたい」
こういう思いがあるときには、それを条項にして、新しく契約書に追加する。
こうしたことを積極的に試みる必要があります。

取引先が上場企業だろうと中小企業だろうと個人事業主だろうと関係ありません。
また、取引内容が、何を対象とする取引だろうと関係ありません。

「契約書のひな型」のひとり歩き

「ひな型」を作った人は、以上のような理解のもとで作っています。
しかし、いつしか、その「ひな型」の背後にあるものが忘れ去られ、「ひな型」が所与のもの、不動のものとして、ひとり歩きしているのが現状です。

一昨年、30年以上前に日本にM&Aに関する契約書の「ひな型」を一番はじめに紹介したという方にお目に掛かったときに、同じことを感想として漏らしていらっしゃいました。
「ひな型を作成したときには、どこの会社にも共通するようにあえて抽象的な内容で書いて、現場で具体的な内容に変更してもらえると思っていた。しかし、その意図を理解してもらえず、抽象的な内容のまま利用され、それが一般的なひな型として浸透してしまって残念だ」という趣旨のことをおっしゃっていました。

「ひな型」は、与えられたものではなく、あくまで時間を節約するためのものだと理解してください。
スーツでいえば、オーダーメイドは時間と費用と労力がかかるので、イージーオーダーとして「ひな型」を作ったにすぎません。
「ひな型」は決して既製服ではありません。
既製服ですら、お直しはできます。

ビジネスの現場で、そのお直しすらしないのですか?ということです。

危機管理広報の成り立ちなど

マンションのくい打ち問題は、まだまだ続きがありそうです。
そのため、くい打ち問題についてのレビュー第2弾は、もう少し経過を見てから書きます。

先日、同業者と飲み会をしていたときに、私の仕事内容が通常イメージする弁護士の業務=訴訟業務と違いすぎるということで、色々と質問されました。
そこで、今回は、「危機管理って何?」「なんで、危機管理広報を、やることになったの?」という、素朴な質問に回答しようと思います。

私が危機管理広報をメインにするようにした成り立ちと言い換えることができます。

辞め検(ヤメ検)の「危機管理」とは何が違うのか

最近では、元検察から弁護士に転向した、いわゆる「辞め検(ヤメ検)」の弁護士の方々が「危機管理」を業務内容としてアピールしているのをよく見かけます。
おそらく、元検察という経歴から察するに、「企業不祥事が起きても、いかに刑事事件にならないようにするか」というところに主眼があるのではないかと思います(あくまでイメージです)。

「いかに刑事事件にならないようにするか」は、私が考える「危機管理」ではありません。
それは、私の中では、刑事弁護でしかありません。
より広い意味では、予防法務ではあるかもしれません。

私が考えている「危機管理」は、企業が社会からの信頼を回復する、信用を取り戻すためにはどうしたらいいか、そもそも信頼を失わないようにしないためにはどうしたらいいか、に主眼を置いています。
社長であろうと従業員であろうと誰かが逮捕されるべきケースでは、逮捕され起訴されるべき、と思っています。
むしろ、逮捕、起訴されてでも、企業の中で変えていかなければならない部分は変えていこうと考えながら、アドバイスしています。
その点では、ヤメ検の「危機管理」とは、真逆かもしれません。

民暴の「危機管理」とは何が違うのか

一方で、民事介入暴力を専門にする弁護士の方々も「危機管理」という言葉を用いられます。
私の「危機管理」は、民暴の「危機管理」そのものではありませんが、どちらかというと、こちらに近いです。

民事介入暴力の「危機管理」は、企業が反社会的勢力やクレーマーから不当な要求をされたときに、いかに屈しないか、に主眼を置いています(私も過去に民暴委員会に籍を置いていました)。
これは、私が考えている「危機管理」の中に含まれます。

企業が不祥事を起こした場合に、企業は社会からの信頼を回復する、信用を取り戻す必要がある。
そのためには、株主や機関投資家や消費者や地域の意見を聞かなければならない。
その中で真っ当な意見があれば組み入れるけれども、すべて言うがまま、言いなりになるわけではない。
この言うがまま、言いなりになるわけではないというのは、民暴の「危機管理」と共通しています。

言うがまま、言いなりになるわけではない、というところの延長に、あくまでも会社の意思決定を行うのは、会社の取締役・取締役会である、という発想があります。

どういう成り立ちでの「危機管理」か

私が考えるところの「危機管理」は、社会からの信頼を回復する、信用を取り戻すための手段を講じるべきというところに主眼があります。
このベースになったのは、不当なクレーマーへの対応、土壌汚染をきっかけとした住民説明会、株主総会での取締役の説明義務、IR型の出資者(株主)に説明することに主眼を置いた株主総会への移行、企業の社会的責任が問われるようになった時代背景、個人情報漏えいでの被害者向け説明、マスコミへの取材対応などでの経験です。

弁護士である以上、法律で禁止されていることは企業活動でも禁止される、というところからスタートするのは当たり前です。
しかし、コンプライアンスという言葉が2000年以降に言われるようになった当初は、「法律をまもって、会社が潰れる」とも揶揄されました(今でも言っている人はいます)。
それも、違うだろ、と。

法律は守らなければいけない。でも、法律が定めていない中で企業にはできることがあるだろう。
まして、企業不祥事が起きたときには、会社が信頼を回復する、信用を回復する、ファンを失わない。そのために、できることは、山ほどあるではないか。
企業が不祥事を起こしたときこそ、マーケティングの手法などを積極的に活用すべきではないのか。
松下電器(現パナソニック)の石油ファンヒーターの大規模リコール事件のときに行われていた回収のために、次から次へと出てくる方策を見て、その思いは強くなりました。

ましてや、先に挙げたような経験を通じて、回答として期待しているのは、法律の話ではないことを体感しました。

そこからスタートしたのが、私が考えているところの「危機管理」の具体的な中身です。
一見するとコンサルティングのように誤解されるかもしれません。
しかし、あくまでもベースは、弁護士の立場からの発想です。

ベースは「戦略法務」

むろん、私ひとりで勝手に思い至ったのではなく、私が師事した中島茂弁護士が、日本で一番最初に提唱した「戦略法務」の考え方がベースになっています。
ちなみに、「戦略法務」という言葉は、今では広く使われるようになっています。
しかし、その内容を、企業には戦略目的があり、目的を達成するためには色々な手段があり、その中で法的手段をも使おう、と、広く企業戦略の一つに法務を位置づけているのは、中島茂弁護士だけだと思っています。

「危機管理広報」で考えていること

私が「危機管理」の一つとして行っている「危機管理広報」は、こうした「戦略法務」の考え方をベースにしているものです。

企業が不祥事を起こしたときには、目的は、信頼回復、信用回復、さらには、現在進行形の不祥事の拡大防止や被害の拡大防止などがある。
その目的を達成するためには、いろいろな手段があり、それを考えていこう。
その手段の一つとして用いるべき「広報」が「危機管理広報」である、という考え方です。

単に「訴訟になったときに不利にならないような説明をしよう」「責任を負わないような言葉選びをしよう」とは、発想の原点が違います。

あくまでも、目的達成のために必要なことを世の中や消費者にアピールして伝える、というところから、発想します。
法的責任を免れても、企業がマスコミから叩かれたら意味がない。消費者が離れていったら意味がない。
守るべきものは、社長以下役員の首ではなく、あくまで会社である。
もっと言えば、会社を取り巻く、株主、投資家、消費者、取引先、社会、従業員が守るべき対象である。
この思いに立った上で、今のタイミングで全部情報を隠さずに開示すべき、次の発表はこのタイミングで行うべき、発表を行う前にこの取引先などには事前に根回ししておくべき、軽々しい言葉選びをすると法的責任を認めて争う余地がなくなるので、同じ内容を言うにしても違う説明の仕方ができるのではないか、社内でもこういう言葉で説明すれば役員の理解が得られるのではないか、などのアドバイスをしています。

「監査役」と「監査等委員である取締役」に求められる資質・能力の違い

監査等委員会設置会社への移行

改正会社法によって「監査等委員会設置会社」という機関設計が認められました。
平成26年6月の定時株主総会を機に、従来の監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行した会社がいくつも現われました。
その後も、監査等委員会設置会社に移行する会社が現われています。

監査役会設置会社の何が問題か

従来多くの会社、特に上場企業が利用していたのは「監査役会設置会社」です。
これは、株主総会が取締役と監査役を選び、取締役が取締役会のメンバーとなって、取締役をお互いに監視監督しあう。
監査役会は3人以上の監査役と2名以上の社外監査役をメンバーとして、監査役一人ひとりが取締役を監査する。
それによって、取締役相互の監視監督と監査役からの監査という二重のチェックで、取締役による不正を正そうとすることを目的としていました。

しかし、監査役会設置会社での粉飾決算の発生や、取締役相互の監視監督・監査役からの監査が十分に果たされていないという声も上がりました。
「仲間内だから牽制が働くわけがない。」「取締役・監査役内にも上下関係があるから監督は期待できない。」と。

こうした声を受けて「社外取締役」を期待する声が挙がるようになりました。
「取締役会での意思決定に「社外取締役」という外部の存在を入れて、チェックをしてもらおう」と。
改正会社法でも、社外取締役を選任しないのであれば、「選任することが相当でない理由」を説明する義務づけています。
しかし、「選任することが相当でない理由」を、毎事業年度、しかも具体的に説明することは相当困難です。
そのため、改正会社法は、社外取締役を事実上の義務づけています。

また、東京証券取引所は、平成26年2月10日から上場規程を見直し、独立取締役を1名以上確保することを要求しています。
さらに、東京証券取引所は、「コーポレートガバナンス・コード」の中で、独立社外取締役を2名以上選任することを義務づけています。

ところが、監査役会設置会社にしてみれば、社外監査役を2名以上選んでいるのに、さらに社外から独立社外取締役を入れるのは負担です。
社外の者を役員に4名も選ばなければならなくなってしまいます。
従業員が少ない会社であれば、役員ばかりが人数が増えるというバランスを欠く事態にもなりかねません。

そこで、社外取締役を導入するにせよ、渋々導入している様子も伺えました。
(※東証一部上場企業では、88%にあたる1655社で独立社外取締役が選任されています(日本取締役協会調べ))

監査等委員会設置会社への移行が増えた理由

こうした監査役会設置会社にとっての負担を回避しつつ、取締役による不正を正そうという目的にも応えるために、新しく創設されたのが「監査等委員会設置会社」です。

監査等委員会設置会社も、監査役会設置会社と同じように、株主総会が取締役を選び、取締役が取締役会のメンバーとなって、取締役をお互いに監視監督しあいます。
しかし、監査等委員会設置会社には、監査役がいません。もちろん、監査役会もありません。
監査役の代わりに、3名以上の「監査等委員である取締役」を選びます。

「監査等委員である取締役」は「取締役」です。
したがって、取締役会での議決権があり、意思決定・経営判断に参加して一票を投じます。

監査役会設置会社の取締役は、一人ひとりが取締役会でのメンバーであると同時に、業務執行取締役であることがほとんどでした。
しかし、「監査等委員である取締役」は業務執行には携わってはいけません。
もっぱら、意思決定・経営判断にのみ参加します。

また、「監査等委員である取締役」の過半数は社外取締役でなければなりません。
社外取締役が最低でも2人以上、取締役会での意思決定・経営判断に参加します。

これまでの監査役会設置会社は、取締役会での意思決定・経営判断を外部から監査役が監査するという仕組みでした。
これを、業務に携わっていない「監査等委員である取締役」、しかも、そのうち最低2人以上は社外取締役が、取締役会での意思決定・経営判断に議決権を持った形で参加する。
そうした方法で、取締役会での意思決定・経営判断の不正を直接止めることができる、というメリットがあります。

また、監査等委員会設置会社に移行することによって、社外監査役2名のほかに、独立社外取締役を2人以上選ぶという負担をも回避できます。

これらのメリットがあることから、「監査等委員会設置会社」に移行する会社が多くありました。

「監査役」に求められる資質と「監査等委員である取締役」に求められる資質に違いがある

監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行は、実質は、従来の監査役会設置会社の監査役が、監査等委員である取締役への横滑りです。
それによって、改正会社法、東証の上場規程、コーポレートガバナンス・コードなどの要請に応えることもできます。

しかし、内実が、監査役から「監査等委員である取締役」への横滑りで、本当に良いのでしょうか。

監査役は、取締役の意思決定・経営判断、業務執行が違法(不法)かそうでないか、必要な手続や議論を経ていないのではないかなど、法的な観点から、取締役を監視監督していれば十分でした。
そのため、違法(不法)かどうかを見極める能力や資質が要求されました。

他方、「監査等委員である取締役」は、取締役相互の監視監督することに加えて、取締役会での意思決定・経営判断に参加して議決権を行使します。
「監査等委員である取締役」は業務に携わっていないけれども、他の取締役の意思決定・経営判断のほか、業務執行の状況を監視監督します。
しかも、そこで求められる監視監督は、違法(不法)かそうでないか、必要な手続や議論を経ていないのではないかというだけでは足りません。
「監査等委員である取締役」は意思決定・経営判断には参加するので、他の取締役を監視監督する際には、意思決定・経営判断が妥当・適切なのかどうかをも監視監督しなければなりません。

そうなると、「監査等委員である取締役」に求められる能力や資質は、監査役と「監査等委員である取締役」では、自ずと異なってくるはずです。
「監査等委員である取締役」には、違法(不法)かどうかを見極める能力や資質に加えて、会社の意思決定・経営判断をもジャッジできる能力・資質まで求められるのです。

「監査等委員である取締役」を選任する場合には、そういった資質や能力を有しているかを踏まえて候補者を選び、株主に説明できるように備えておくことが不可欠だろうと思います。

近況

前回の投稿から久しぶりの投稿です。
前回の投稿はいつだったかな、と振り返ってみたら、1月末でした。
いつの間にか4か月が経過していたのですね。

近況その1・危機管理に関する本の執筆

近況報告も兼ねまして、この4か月間何をしていたのかと言いますと・・

仕事の傍ら、企業の危機管理に関する本を執筆していました。
3月4月に集中して執筆し、5月に修正し、間もなくゲラになるという流れです。
大きな作業は一段落つきましたが、ここからが加筆もありつつ、もう一踏ん張りです。

近況その2・役員向けレクチャーや企業内研修

また、この4か月間は例年以上に役員会議でのレクチャーや企業内研修なども数多くありました。

企業内研修は、コンプライアンス全体についての漠然とした研修は減り、各企業が抱えている課題に応じた研修が多かったように思います。
6月は株主総会シーズンなので一段落しますが、7月8月は新任役員研修などが目白押しです。

3月までの役員会議でのレクチャーは、主に、会社法改正に伴う監査等委員会設置会社への移行やグループ会社管理についてのポイントを解説するものでした。
これから行う役員研修は、改正会社法が施行されたことで、役員は日頃から何をすればよいか、役員会議のあり方の変化や組織体制の変化に関するものが中心です。
もちろん、改正会社法の施行に併せて、社内規程・社内規則の見直しという仕事もまだまだ続きます。

これから

ブログを更新していなかった4か月間に企業を巡る危機管理や企業法務の話題は事欠かず。
大きく取り扱われたものだけでも、先日の年金個人情報漏えい事件、家電メーカーグループでの不正会計問題、改正会社法施行でのグループ会社管理や監査等委員会設置会社への移行、ドローン問題、免震装置用ゴムの性能偽装問題、私立学校裏金問題、家具販売店での創業家オーナー問題のほか、エアバックリコール問題なども昨年から続いています。また、複数の会社で企業秘密に関わる問題も発生しています。

4か月間に起きた事件を全部取りあげるのは難しいですが、この中から、企業危機管理に関する問題をいくつか取りあげていこうと思います。

企業危機管理の転換期がやってきた?

企業危機管理の転換期が到来しているのではないか?という疑問

昨日の「2015年、新春のごあいさつ」の記事で、企業は、TwitterなどのSNSによって社会・消費者の不安・不満が増幅することを視野に入れて積極的な情報公開をすることが肝要であることについて触れました。
今日は、昨日の記事を書くことになった考え方の根っこの部分について書きます。

それは、昔ながらの危機管理の方法論だけでは通用しない時代になってきたのではないか? ということです。

前々からニュースを見ていて、昔ながらの危機管理の方法としては間違っていないはずなのに、なぜうまくいかないのだろう、と疑問を感じることがありました。
その疑問が、2014年年末に発生したペヤング異物混入事件、2015年に入ってから発生しているマクドナルド異物混入事件、不二家ケーキかび事件を見ていて、ほぼ確信に変わりました。

危機管理の王道的手法だけでは通用しなくなっているケースがある

昔ながらの危機管理の方法といえば、例えば、反社会的勢力や不当なクレーマーからの要求には毅然と対応する、社長を出せと言われても応じてはいけない(担当者が責任者である)などが有名です。
もちろん、これらの方法は、今でも間違っていません。
基本的には、この王道パターンで対応すべき、と考えています。

しかし、今は情報社会です。
「危機管理対応」「クレーマー対応」「反社会的勢力対応」などのマニュアルは、インターネット上で簡単に見つけることができます。
そのため、会社に攻め込む反社会的勢力や不当なクレーマーはもちろんのこと、まっとうなお客さんも、クレームを言う前に、会社がどう回答してくるかを調べ、情報として知っています。
そうなると、会社が昔ながらの危機管理の方法で対応しても、会社にクレームを付ける側は、その一つ先まで考えてクレームを付けてきます。
将棋に例えれば、先の先まで読みながらクレームを付けている、ということです。

また、昨日書いたように、TwitterなどのSNSが利用しやすくなったので、会社にクレームを付けるのと同時並行して、写真をTwitterやInstagramにアップして、インターネットを通じて世の中に情報を知らしめて戦うという人たちも増えています。
そのため、会社は、クレームを付けてきた相手=1個人だけを相手に危機管理の方法をして、クレームを言い出した人を納得させること、あるいは不当な要求を黙らせることに成功しても、インターネットを通じて情報を知って騒いでいる社会・消費者の声を抑えることができなければ危機管理の手法としては片手落ちということになっています。

ブログや2ちゃんねるなどの掲示板全盛期の頃と、SNS全盛期の今では、企業にとってのリスクは桁違い

SNSが登場する以前のブログや2ちゃんねるなどの掲示板が全盛の2000年代は、クレームを付けてきた相手が「ネットに書くぞ」と言っていても、企業側は「書いて欲しくはありませんが、止めることはできないので、書かれても仕方がありません」で対応することでも十分な対応でした。
これは、例え、ブログや2ちゃんねるに不平・不満を書かれても、2ちゃんねるやブログの場合には自分から情報を見に行こうとしなければ、投稿された内容を目にすることはありませんでした。
よほど盛り上がらない限り、投稿された内容が多くの人の目に触れることはなかったからです。
わかりやすく言えば、企業にとってはリスクがそれほど大きくなかったからです。

しかし、スマートフォンの普及率が高く、Twitter、Instagram、FacebookなどのSNSにが全盛期を迎えている2010年代の今は、クレームを言っている個人が簡単にスマートフォンで写真を撮り、それをSNSにアップし、かつ、SNSを通じてリツイートやシェアといった形で情報が拡散することが容易になりました。

情報の拡散が容易ということはどういうことかというと・・・・

SNSの利用者は、自らが積極的に情報をとりに行こうとせず、情報を受け身で待っているだけでも、自分が利用しているSNSのタイムライン、フィードに情報が流れてくる。
さらに、情報を流す人は一人とは限らない。
自分がTwitterでフォローしている人の中の複数、Facebookの友達になっている人の中の複数が情報を流すかもしれない。
SNS利用者は、受け身でも、企業の不祥事情報、例えば、食品の異物混入の情報を見逃すことなく、受けとることができる。
しかも、その受けとった情報を、リツイートやシェアの形で、バケツリレーの如く、自分のフォロワーに容易に知らせることができる。

こうした手順で情報がどんどん拡散していくのです。
この結果、不安や不満を持つ社会・消費者が声を出すようになるので、企業はそこにも対応しなければならない。
つまり、SNSの存在が、企業が危機管理対応をしていく中で、リスクの要素として大きなものになっているのです。

危機管理の王道的手法に、プラスアルファが必要になっている

企業は、今までの王道的な危機管理の方法論をリニューアルしていく必要があります。

「王道的な危機管理の対応だと、次は相手はこう出てくる。これにはどう対応したらいいか」
「クレームを付けてきた相手に対応するだけではなく、社会・消費者の声を抑えるためにはどうしたらいいか」

ここまで念頭に置く必要において対処しなければならないのです。

前者は、シミュレーションをどれだけできるか、ということでもあります。
従来のマニュアルをベースに、もう一歩先、二歩先まで考える。
頭を使えばできるはずです。

後者は、危機管理広報の体制を整え、何を広報していくかを考える、ということです。

詳細は、また別の機会に説明したいと思います。

2015年、新春のごあいさつ

ごあいさつ

あけましておめでとうございます。
既に2015年の業務も開始し、早4日目を迎えようとしています。
4日間だけでも、訴状、準備書面、内容証明の起案のほか、個別の法律相談などが相次いで、自分の意思にかかわらず、正月ぼけから抜け出さざるを得ない状況です。
ありがたいことです。

2014年は「戒告」処分からのリカバリーに努めた1年

昨年=2014年の自分の業務内容を振り返りますと、2013年に弁護士会から「戒告」処分を受けたこともあり、そこからのリカバリーに必至に取り組んだ1年であったように思います。

戒告の内容を知らない方のためにポイントだけを大雑把に簡略化してご説明しますと、次のような内容です。
訴訟の相手方の戸籍を取得したところ、そこまでする必要性があったか否かが問題となりました。
私は必要と考え、弁護士会は不要と考え、弁護士会と意見が相容れなかったことからの「戒告」というものでした。

さりとて、いかなる理由があれども「戒告」というレッテルがついてしまったことは事実です。
企業に対してコンプライアンスや危機管理について助言をする私の立場からすれば、業務に支障が生じたことは容易に想定できました。
私が好きな言葉である「疾風勁草」の場面でもありました。

それまでお付き合いのあったお客さまに、すべてを書面で説明し、必要があれば口頭で補足説明したところ、多くのお客さまが「今後もよろしく」「信じているから大丈夫」と支援してくださりました。
おかげで、業務への支障を実感する場面は少なく1年間を乗り切ることができました。新規のお客さまも増えました。
もちろん、潜在顧客の中には新規取引を避けた企業もあることと想定できます。ただ、これは目に見えるものではないので、実際にはどれくらいの支障が生じたかはわかりません。

2015年は地固め・基本見直しの年に。

何とか2014年を乗り切ったこともあり、今年2015年は、再度の地固めの年、基本の見直しの年にしたいと考えています。

2014年末のペヤング異物混入事件、2015年に入ってまだ1週間ですが、マクドナルド社の一連の異物混入事件、新宿のぼったくり居酒屋事件を筆頭に、従来の危機管理対応の方法のままでは、危機管理対応がうまくいかない案件が連続しています。
鍵になっているのは、TwitterをはじめとするSNSの存在です。

2015年は「危機管理広報」の重要性が増す

従来は、企業対一個人の危機管理対応、あるいは企業対マスコミというフィルターを通した社会・消費者の声という危機管理対応を想定した対応策が講じていれば、危機管理対応はうまく行きました。

しかし、ペヤング異物混入事件、マクドナルド社の一連の異物混入事件、新宿ぼったくり居酒屋事件を見ると、SNSにより、社会・消費者の声が増幅しているように感じます。
かつてのように「マスコミで大きく取り扱われないようにするためにはどうしたらいいか」だけを視野に入れて危機管理対応をしても失敗することは必至です。
マスコミが取りあげなくても、SNSの発達により、個人レベルで情報が伝達していくからです。
SNSで情報が伝達し、ネット上に情報があふれれば、結果的に、マスコミがその情報を追いかけてニュースとして取りあげます。

そうなると、企業は、SNSを利用する社会・消費者への情報発信に力を入れていかなければなりません。
要するに、「危機管理広報」が今まで以上に重要であるということです。

積極的に情報発信をして、社会・消費者の不安や不満を払拭する。もっと言えば、安心感を与え、信頼を取り戻す。
そうなれば、SNSを通じて社会・消費者に拡がるのは、不安や不満ではなく、安心感・信頼です。
「開示義務があるから情報を発信する」という消極的な姿勢では、これからは乗り切れません。
企業は、情報発信を危機管理のための当然行うべき方法であると捉えるように、考え方を改める必要があります。

この1年間は、「危機管理広報」としての情報発信の仕方・内容を、今まで以上に分析・勉強していこうと考えています。

月刊広報会議2015年1月号「リスクと広報」は危機管理広報担当者必読です!!

こんにちは。弁護士の浅見です。

10月からReviewの投稿がぱたりと止まってしまいました。
楽しみにしている方からは「次を待ってます」との声もいただいており、お待たせしまして、申し訳ございません。

10月以降も、朝日新聞社長交代、タカタのリコール問題、景品表示法の改正対応、焼きそば回収問題など、投稿したいネタは日々登場しています。
メディアから取材も受けました(中には記事にはならなかったものもありますが)。

しかし、情報を分析しきれていないので、年末年始にまとめてやります。しばし、お待ち下さい。

・・・と言い訳だけしても意味がないので、1冊、雑誌をご紹介します。

それは、月刊広報会議2015年1月号の「リスクと広報」です。

(残念ながら今回は取材を受けませんでした。いつでもお待ちしております。)

2014年に発生した事件事故の記者会見について、わかりやすくまとまっています。

各専門家の立場からコメントがあり、「そういう意見や見方もあるのか」と勉強になります。

ぜひ、読んでみてください。

日本経済新聞朝刊の「リスク~企業の処方箋~」の特集を読んで

今日は、雑感です。

8月30日から9月1日までの3日間、日本経済新聞の朝刊に「リスク~企業の処方箋~」という特集連載記事が掲載されていました。

大手企業が危機管理のために何をしているか。これを、次の3つのテーマで紹介していました。

  • 情報漏えい(8月30日)
  • 失敗から学ぶ(8月31日)=原因を踏まえた危機管理
  • トップによる把握(9月1日)=危機管理体制

率直に言って、非常によい特集でした。

私が常日頃から企業危機管理として、公開セミナーや社内役員研修・従業員研修でお話ししている内容や、事務所ブログに書いていることと、同じことが見事にわかりやすく書かれていました。
しかも、日経の記者らしく、大企業ではどのような取り組みをしているかが具体的に事例が紹介されていました。

ただ、気になるのは、「じゃ、この危機管理に弁護士がどう関わっているか。どう相談すれば良いのか」の視点があまりなかったこと。
たとえば、個人情報漏えいの件では、最後は、保険会社の話に行ってしまいました。
これでは、「個人情報漏えいは、結局、最後は賠償金の話でしょ」になってしまって、漏えい防止に対する問題意識は高まらない。

誰に、どう相談すれば良いのかがわからなければ、企業は関心持っても先に進めない。
ここが、今の企業危機管理の超えられない意識の壁なのかな、と思います。

問題意識がある企業は、誰に相談したらいいかわからない。
迷った末、結局、資格のない「危機管理コンサルタント」のところに相談に行く。
「危機管理コンサルタント」は法律的なことも含めたアドバイスをする。
経営面だけならともかく、「損害賠償になりますよ」「会社法の内部統制が不十分ですよ」といった法律的なアドバイスをしたら、その時点で弁護士法違反(非弁行為)。
しかし、これが堂々と行われている矛盾。

もしくは、顧問弁護士に相談に行く。
ある弁護士からは「事件になってからいらっしゃい」と言われる。
もしくは「~してはダメ」とばかり、言われる。
結局、会社からしてみれば「何もアドバイスしてくれないなら、コンサルタントのところに行くか」となる。

これでは、企業危機管理は根付かない。
もしくは、一部の問題意識の高い企業だけが、内輪で危機管理ができるようになって終わる。
いつまでも、企業危機管理を取り巻く社会環境は不十分なままで終わる。

もちろん、企業危機管理がわかっている弁護士が少なすぎるのが原因でもあります。
危機管理と弁護士がイコールで繋がってませんもんね。

だから、俺、がんばろっと。

危機管理セミナー、社内研修の講師としての行脚の日々

お盆休みが明けてから、公開セミナーや社内研修の講師としての仕事が続いています。
毎日のように、東へ、西へと移動しています。

満足してもらうセミナー、社内研修のための準備

「せっかく講師として時間とお金を使って受講していただくなら、受講していただいた人に満足してもらいたい」

そのために、徹底した予習をしたうえで望んでいます。
セミナー中に間を取って「あ〜」とか「う〜」とか言うのも嫌いなので(自分が受講していたとき、そういう無駄な間が嫌いだった)、ひたすら話し続けられるように、予習には資料作成の3倍以上の時間を費やしています。

また、セミナー後の「話し方」「内容」などへの受講者アンケートの結果も気にしています。
その結果を見る限り、今のところ、セミナー講師としての仕事を始めてから9割以上の方に満足していただいているようです。ある意味、目的は達しているし、独り善がりにはなっていないようだ、と安堵しています。(評価が低いと、次回セミナー講師として呼ばれることがなくなっちゃいますので・・)

セミナー、研修時のポイント

そこで、今回は趣向を変えて、私がセミナーや研修を行う上で心がけているポイントについてお話ししたいと思います。

私が考えているたった一つのポイントは「具体的な事例を中心に話し、抽象論はなるべく避ける」です。

  • 過去の新聞事例、裁判事例を数多く紹介する。
  • 紹介するだけでなく、事例を詳細に把握することで、どこが問題解決のポイントだったのかを分析する。
  • そのうえで、どのように対処したらよかったかという解決策を提案する。
  • 提案の根拠について、法的な側面からと、危機管理的側面からの両方からアプローチして説明する。

簡単にまとめてしまえば、これがすべてです。

簡単そうに見えるかもしれませんが、案外、これが難しいようです。
私の場合、幸いにも、高校生の頃くらいから、事例を分析して対策を考えるというのが得意だったこともあって、この作業が不得手ではありません。

「高校生のときに、事例分析して対策って何していたの?」と思われるかもしれません。
一番身近なのは、学校のテストです。
校内のテストで楽をしたかったので、教科書を勉強するよりも先に、学校のテストの特徴を掴む。
授業中に先生がこういう風に指摘した場所が出る、必ずこの分野や教科書のこの欄に書かれている場所から出るなど。
こんなことを自然としていて、それが楽しかったのです。

これは過去のエピソードですが、これが、企業危機管理の世界では役に立つのです。

事例分析こそが最高の企業危機管理を導く

たとえば、先月解説したベネッセホールディングスでの個人情報漏えい事件では、漏えいの究極の原因は、なんでしょうか?

表向きは、スマートフォンをパソコンに接続するとセキュリティが破れて、個人情報をスマートフォンにダウンロードできるというシステム上の問題であるかのように報じられています。
もちろん、それも原因であることに間違いはありません。
しかし、それは個人情報を漏えいしよう(持ち出そう)とする者の手段にしかすぎません。

実際には、個人情報を売却したいほど借金でお金に困っている人物に、個人情報をアクセスできる権限をあたえてしまったことが究極の原因なのです。
そもそも、そういう人物にアクセス権限を与えていなければ、個人情報を漏えいしようという動機が芽生えることはなく、あの事件は起きなかったのです。

あの事件をきっかけに、企業危機管理を行い、個人情報を含む情報漏えいを予防しようというのであれば、個人情報など会社の重要な情報にアクセスできる権限を有する者が日頃からお金に困っている風ではないか、そういうグチをこぼしているのを聞いたことがないかなどを気にする。もし、そういう素振りの者がいれば、重要な情報にはアクセスさせる権限を与えない。
これが本当の企業危機管理ということです。
(詳しくは、個人情報漏えい対策は、セキュリティを強化するだけでは三流 のエントリーに)

生の事実は、頭で考える観念的な企業危機管理よりも、よっぽど具体的な対策を考えるヒントを与えてくれます。
事例を紹介したほうが、身近なので、受講者にもわかりやすいという利点もあります。

だからこそ、私は、具体的な事例の紹介や分析を中心にしたセミナーや社内研修を行っています(その代わり、法改正がどーのこーのという、法律論で終始するセミナーは弁護士の割に不得手です)。