マンション問題に見る、危機管理の対応窓口は一元化すべき

マンションの基礎工事に虚偽のデータを使用

大型マンションの基礎工事をする際、実際に施工した業者が地盤調査を実施しないまま、虚偽のデータを用いて工事をし、マンションが傾く事態になっていることが問題になっています。

「三井不動産グループ(※三井不動産レジデンシャル)が2006年に販売を始めた横浜市都筑区の大型マンションで、施工会社の三井住友建設側が基礎工事の際に地盤調査を一部で実施せず、虚偽データに基づいて工事をしていたことが13日分かった。複数の杭(くい)が強固な地盤に届いておらず、建物が傾く事態となっている。」
「住民側の指摘を受け、三井不動産レジデンシャルと三井住友建設が調査を開始。傾いたマンションの計52本の杭のうち28本の調査を終えた時点で、6本の杭が地盤の強固な「支持層」に到達しておらず、2本も打ち込まれた長さが不十分であることが判明した。傾きの原因の可能性がある。」(日本経済新聞2015年11月14日付朝刊)

実際に、施工した会社は、三井住友建築から下請した、旭化成の子会社の旭化成建材であると報じられています。

対住民との関係では、販売元が責任を負うべし

住民に対してマンションを販売したのは、三井不動産レジデンシャルです。
そのため、住民に対しての責任は、販売元である三井不動産レジデンシャルが負います。

三井不動産レジデンシャルは販売元にすぎず、施工業者は三井住友建設、実際に施工したのは旭化成建材です。
しかし、住民からすれば、誰が建てたのかは関係ありません。
住民の立場で考えれば、「三井不動産レジデンシャルから買ったマンションに問題があったのだ。マンションの購入代金は三井不動産レジデンシャルに支払った。三井不動産レジデンシャルが責任を取れ。」となるはずです。
そのため、対住民の問題は、三井不動産レジデンシャルが矢面に立つべきです。

焼肉酒家えびす事件

参考になる事件を一つ紹介します。
2011年5月に発生した、焼肉酒家えびすが店舗で提供したユッケを食べたお客さんが食中毒になり、そのうち5人が死亡するという事件です。
最終的に、焼肉酒家えびすは破産しました。

破産に至るまで焼肉酒家えびすがバッシングされた理由は、初めの社長記者会見で、社長が食中毒での死亡者に対してお詫びをしなかったことと、食中毒の原因が肉の卸業者にあると説明したことです。
お客さんの立場で考えれば、「焼肉酒家えびすでユッケを頼んだら食中毒になった。食事の代金は焼肉酒家えびすに支払った。焼肉酒家えびすが責任を取れ。」となるのです。
ところが、焼肉酒家えびすは、そうではなく、卸業者に責任を押し付けようとした。
責任を他社に押し付けたことで、批判が殺到したのです。

「被害者」意識は危機管理を失敗させる

不祥事の相談を受けていると、「うちの会社に責任はない。うちの会社は被害者です。」という意識を持っている企業が少なからずいます。
しかし、危機管理対応として「自分たちが被害者」との意識を持っていると、必ず失敗します。

焼肉酒家えびすの件は、その典型です。
ユッケを提供し、それにお金をもらっているのは、焼肉酒家えびすです。
だとすれば、お客さまへの責任を負うべきは、焼肉酒家えびすです。

今回のマンションの件でも同じです。
マンションを販売し、それにお金をもらっているのは、三井不動産レジデンシャルです。
だとすれば、お客さまへの責任を負うべきは、三井不動産レジデンシャルです。
施工会社が三井住友建設、実際の施工業者が旭化成建材であると説明する中で、「自分たちは被害者です。自分たちには責任がない」という意識や姿勢を見せた段階で、住民からの信頼を失います。

その点で、三井不動産レジデンシャルが、さっそく住民に対して説明を行っているのは評価できるところです。

「三井不動産レジデンシャルは住民への説明会を始めており「あってはならないことで申し訳ない」と陳謝。施工不良は8本という前提で構造計算をし直した結果「緊急を要する危険性はない」と説明している。」(日本経済新聞2015年11月14日付朝刊)

各関係企業の姿勢がバラバラでは住民の不信感を募らせる

先に書いたように、住民への責任は、販売元である三井不動産レジデンシャルが負うべきです。
つまり、責任の負い方は三井不動産レジデンシャルが自ら決すべきです。
責任の内容を決めるのは、三井住友建設でも、旭化成建材でもありません。

もちろん、その後の求償、役割分担のことを考えれば、三井不動産レジデンシャル、三井住友建設、旭化成建材の間で協議することは不可避です。
しかし、その場合でも、実現困難な責任の負い方にならないかどうかを協議すべきであって、責任の押し付け合いになることは避けなければなりません。
また、三井不動産レジデンシャルが責任を負うことを決めれば、三者間の役割分担や費用分担は後から決めたって言い訳です。
極端な話を言えば、三井住友建設や旭化成建材が協力しない、費用負担しないと拒否するのであれば、三井不動産レジデンシャルは他の業者に依頼して建て替えなりを先に行い、後から求償するということがあってもいいのです。

報道内容からすると、一見、三者の対応は同じ方向を向いているように思えます。

「横浜市都筑区の大型マンション基礎工事で虚偽のデータが使われた問題で、販売元の三井不動産レジデンシャルが、傾いた棟の建て替えも視野に検討を始めたことが14日分かった。施工会社の三井住友建設とともに年内に復元工事の方法を決める。この日、両社の幹部がマンションを訪れて改めて住民に謝罪、補償問題に誠実に対応することを約束したという。」(日本経済新聞2015年11月14日付夕刊)

「旭化成によると、傾いた建物の補強や改修、ほかの棟の調査にかかる費用は旭化成建材が全額を負担する。旭化成は「信頼を損なう結果となったことを深く反省し、心よりおわびする。居住者の安全を最優先に、売り主の三井不動産レジデンシャル、施工会社の三井住友建設と協力して、しかるべき対応をとる」としている。」(日本経済新聞2015年11月15日付朝刊)

「三井不動産レジデンシャルは今月上旬から住民向け説明会を開始。当初、今後の対応は「検討中」などとしていたが、15日には一転、傾いた1棟だけでなく全4棟を建て替える案を住民側に提示した。今回の問題で住民に発生する損害の補償にも対応するとしている。」(日本経済新聞2015年11月20日付朝刊)

その一方で、三者が責任を負うことについて一枚岩ではないかのような報道もされています。

「各社の主張はすれ違いを見せており利害が対立する可能性もある。住民への補償にも影響が出そうだ。
20日の記者会見で旭化成の平居正仁副社長は、データ改ざんの背景にマンションの販売業者や元請けから「工期を守れ」などの圧力があったかについて「当時は少しでも早くという状況はあった」と述べ、プレッシャーの存在を示唆した。
旭化成建材の商品開発部長は、杭(くい)が地中の支持層へ到達したかを担当者が見極める際「(三井住友建設が作製した)設計図を大前提にした」と話した。三井住友建設の設計図に不備があったことが短すぎる杭がいくつか出てきた原因だという考えだ。「非はゼネコンにもある」と漏らす旭化成幹部もいる。
三井不動産レジデンシャルの親会社、三井不動産幹部は「まさか地中奥深くに入っている、杭の打ち込みが不十分だとは思わなかった」と旭化成建材のデータ改ざんにあきれる三井住友建設も「下請けからあがってきた改ざんは見抜けない」という立場だ。」
旭化成の浅野敏雄社長も20日の記者会見で、三井不動産レジデンシャルが示した全4棟を建て替える費用について「売り主、施工会社と誠意を持って協議していきたい」と述べるにとどめ、旭化成側が全額を負担するとの考えは示さなかった。」(日本経済新聞2015年11月21日付朝刊)

このような報道がされてしまうのは、責任の負い方について説明する企業が一元化されていないのも一因です。
関係企業がそれぞれ大きな会社ではありますが、住民への責任の負い方という点では、三井不動産レジデンシャルに一元化して広報対応もすべきです。
対外窓口を一本化することは、企業危機管理の基本です。
仮に複数の企業が関係している場合でも、特定の企業を窓口にすべきです。
そうしないと、情報が錯綜してしまうからです。
上記のような報道がなされてしまうのは、まさに対外窓口が一本化されていないから起きたことです。

報道によると、27日に三井不動産レジデンシャルから責任の負い方が発表されるそうです。
その時点でも、責任の負い方について関係企業が一枚岩になっていないときには、住民からは「責任をなすりつけあっているだけではないか」と批判され、住民からの信頼を失うことは必須だろうと思います。

公務員との付き合い方~注意すべきは贈収賄だけではない

厚労省での収賄事件

マイナンバー制度の導入に関して、厚労省の室長補佐が収賄の被疑事実で逮捕されました。
報道によると、事件の概要は次のとおりです。

「逮捕容疑は2011年11月、マイナンバー制度導入に絡み、社会保障データをめぐる厚労省の調査研究事業など2件で、情報関連会社が受注できるよう有利な取り計らいをした謝礼と知りながら、同社の当時の社長から現金100万円を受け取った疑い。」
「捜査2課によると、同容疑者は公示前、受注の要件を定めた「仕様書」を作成するにあたり、同社に仕様書の原案を作成させるなどして便宜を図ったとされる。同容疑者は当時、社会保障担当参事官室の室長補佐で仕様書の作成で中心的な役割を担っていたという。」
厚労省によると、情報関連会社は逮捕容疑の2件を含め、08年度から15年度までに同省から7件で計約15億円の事業を受注している。」(日本経済新聞2015年10月14日付朝刊)

この事件では、受注できるように有利な取り計らいをしてもらった謝礼を交付したことで、贈収賄が問題になりました(贈賄側は公訴時効が成立しています)。

この事件が発生した現時点で他の企業が学ぶべきことは「公務員との付き合い方」です。
簡単に言えば、公務員に対する金銭の交付はもちろんのこと、受注に向けた営業活動などはどこまでできるのかという限界を知ることです。

公務員との付き合い方に関する規制その1~贈収賄~

企業と公務員との付き合い方に関する規制として、第一に思い浮かべるのは、贈収賄でしょう。

「職務行為」の範囲

例えば、今回の事件のように、発注者側の中心的な役割を担っていた公務員が、受注の便宜を図るのは、公務員の職務行為の典型です。
こうした公務員の職務行為に関して対価を企業が交付する。あるいは公務員が対価を要求する。
単純贈収賄の典型です。
5年以下の懲役です。

それ以外にも、「職務に密接に関連する行為」に対して、企業が対価を交付することや公務員が対価を要求することも単純贈収賄になります。

公務員が職務に基づいて事実上影響力を持っている場合が「職務に密接に関連する行為」です。
例えば、公務員が他の公務員に働きかける行為が、ここに含まれます。

企業からすれば、従前から取引を通じて付き合いのある公務員に依頼して、別の取引を担当する公務員を紹介してもらいたい、取引の受注に向けて口利きをしてもらいたい、と思うこともあるでしょう。
このような他の公務員を紹介してもらったり、口利きをしてもらうことも、「職務に密接に関連する行為」に含まれます。
そのために、紹介や口利きしてもらったことに対して、謝礼の意味などで「対価」を交付すると、贈賄罪になってしまうので、注意しなければなりません。

「対価」の例

「対価」は、金銭に限られません。
物品の贈与、接待、一席設ける、異性間の情交なども「対価」です。

ただし、過去の裁判例では、お中元やお歳暮の類は、社交儀礼の範囲内であれば、「対価」ではない、と判断されています。
そうはいっても、お中元やお歳暮なら必ず許されるわけではなく、あくまでも、社交儀礼の範囲内、という縛りがあります。
お中元やお歳暮で贈る物が高価な物であったり、何度も繰り返しお中元やお歳暮を贈っている場合には、職務行為の「対価」と判断されてしまいます。

企業からすれば、お世話になった公務員やこれから付き合いが始まるであろう公務員にお中元やお歳暮を贈ってお近づきになりたい、と思うこともあるでしょう。
しかし、その場合も、社交儀礼の範囲内か、要は、取引もない間柄のときでも、そういった物を贈るだろうか、ということを配慮しなければなりません。

公務員との付き合い方に関する規制その2~国家公務員倫理規程~

贈収賄以外に見落としてはならない規制があります。
それは、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程です。

これらは「国家公務員はこういうことをしてはいけない」と、あくまでも国家公務員を律する規制です。
違反して処罰されるのは、国家公務員だけです。
しかし、国家公務員に接する企業側が、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程を守らなければ、その企業は国家公務員の側からすれば迷惑きわまりない存在です。
国家公務員に「この企業のせいで処罰されることになった」「あの企業と接すると、まずいことに巻き込まれる」と受け取られたら、その企業は二度と国と取引することはできなくなるでしょう。
そのため、企業は、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程についても熟知しておかなければなりません。

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程のYoutube解説

企業が国家公務員倫理規程の内容を勉強する教材としては、Youtubeの存在があります。
国家公務員倫理審査会が、Youtubeに「事例で学ぶ倫理法・倫理規程」という動画をアップして、細かく解説しています。
https://www.youtube.com/user/koumuinrinri

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程の概要

国家公務員倫理規程は、大きく分けると3つの方法で、企業と国家公務員との付き合い方を規制しています。

1つめは、絶対に禁止される行為です。
2つめは、利害関係があるときに禁止される行為です。
3つめは、2つめの例外で、利害関係があっても許される行為です。

絶対に禁止される行為

絶対に禁止される行為の典型は、社会通念上相当と認められる程度を超えた接待や財産上の利益の供与です。
金額面でも、回数でも、「(営業活動として)やり過ぎでしょ」という場合には、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程違反とされます。
この場合には、贈収賄の場合と異なり、職務行為との対価性は要求されません。

企業側は営業活動ということで、高級な料亭で接待に行く、接待を頻繁に繰り返すなどすると、贈収賄には問われなくとも、営業の相手が国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程違反で処罰されてしまうことを理解しておくべきです。
そうしないと、過度の接待をしたということで、担当となる公務員が処分されいなくなり、結局、過去の営業活動が無意味になってしまうからです。

また、「つけ回し」も絶対に禁止されます。
「つけ回し」とはストーカーの意味ではありません。
「うちの会社のつけで飲んで良いですよ」などと、企業側の担当者が不在でも公務員が企業の費用負担で飲食することを認めることです。
これも、企業から公務員に金銭を交付しているのと同じことになるので、許されないのです。

利害関係があるときに禁止される行為

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程の中心となっているのが、この「利害関係があるときに禁止される行為」です。

例えば、企業が入札しようとしている取引がある、企業が許認可をもらおうとしている状況にある。
このような場合が、「利害関係」があるときの典型です。

このような「利害関係」があるときには、次の9個の行為を禁じられてます。

  1. 公務員への金銭、物品、不動産の贈与
  2. 金銭の貸付け
  3. 企業側の負担での、無償での物品・不動産の貸付け
  4. 企業側の負担での、無償でのサービス提供
  5. 未公開株式の提供
  6. 接待
  7. 遊技・ゴルフ
  8. 一緒に旅行
  9. 企業が第三者に、1~8の行為をさせること

この中で、よく質問を受けるものを説明します。

1の金銭、物品の贈与の典型は、香典や供花です。
例えば、取引担当者の親族がなくなったので、香典を出す、花を供えることは禁止されています。

3と4の企業側負担での無償の物品の貸付け、サービス提供で問題になるのが、企業側が公務員のタクシー代を負担する、公務員のためにハイヤーを用意するケースです。
この場合も、公務員側はタクシー代、ハイヤー代など必要な旅費を支給されるはずなので、企業側は負担できない、用意できないのが原則です。
しかし、例えば、公務員が企業の工場を視察することを予定し、企業側は日頃から工場と駅や空港間に専用バスや専用の社用車を用意しているときには、わざわざ「公務員のために」用意したわけではないので許されると考えられています。
また、例えば、駅から離れた場所にある企業内で公務員と打ち合わせをした後、たまたま企業側で駅や空港に行く者がいたときに企業側がタクシー代を負担するようなときにも、わざわざ「公務員のために」費用を負担したわけではないので許される、と考えられています。

6の遊技はソフトボールやテニス、ボウリングは含まれないと考えられています。なぜなのかはわかりません。

利害関係があっても許される行為

2の例外が、利害関係があっても許される行為です。
例えば、元々、大学時代から付き合いがある友人が、国家公務員になり、自社が取引しようとする部門の担当になった。
この場合に、友だちづきあいは一切禁止されるのか、というと、そういうわけではありません。

利害関係があっても許される行為とされているのは、典型的には、次の8つです。

  1. 宣伝用・記念品などのノベルティを配布
  2. 20人以上が出席する立食パーティでの記念品の贈呈
  3. 公務員が企業を訪問したときに、文房具や電話、ヘルメットを貸す
  4. 公務員が企業を訪問したときに、企業側が用意した自動車を利用
  5. 会議での茶菓子の提供
  6. 20人以上が出席する立食パーティでの飲食物の提供
  7. 会議での簡素な飲食物の提供
  8. 私的な関係でのつき合い

この中でよく質問があるのが、2と6です。
立食パーティは許されるとして、椅子に座ったらどうなるか、ということです。

立食パーティが許されるのは、みんなの見ている前では不正なことは行われないだろう、という理由からです。
そこで、椅子に座っていた場合でも50人以上なら許される、と考えられています。

また、5と7の茶菓子や簡素な飲食物の提供も、接待にならない程度であれば、利害関係があるときに許される、と考えられています。
接待にならない程度というのは、国家公務員側は1万円を超える場合には届け出なければならないとされているので、1万円が一つの目安です。
あえて「簡素」ということを考慮すると、昼食の弁当や茶菓子が3000円を超えている場合も、簡素とは言いがたいとは思います。

8の私的な関係も、大学時代に同級生だった、しかし、大学卒業後付き合いはなく、取引しようと思ったら同級生であることがわかったという場合には、「私的な関係」よりも「利害関係」が上回るので許されないと考えられています。また、近所づきあいという点でも、日頃はつき合いがなかったのに、取引しようとしてから急に近所づきあいをしだしたという場合には、「私的な関係」よりも「利害関係」が上回るので許されないと考えられています。

4の企業側が用意した自動車の利用は、利害関係があるときに禁止される行為で説明したとおり、企業側が「わざわざ負担した」場合は許されません。

地方公務員、準公務員も同じ

以上は国家公務員に対する企業の接し方を中心に説明しました。
これは、企業が接する相手が地方公務員である場合や準公務員の場合でも同じです。

地方公務員の場合には各地方公共団体が独自に規程を定めているので、どこまでが許され、どこからが許されないかは、都度確認する必要があります。

また、独立行政法人、例えば昔の国立大学なども、同じような規程を定めていますので、都度確認する必要があります。

要注意!法律や規程を守っていれば、何をしても許されるわけではない

以上のように、企業と公務員との接し方には、法律や規程といったルールが存在します。
しかし、これらのルールを守っていれば、それで許されるわけではありません。
社会の目を意識しなければなりません。

世の中から「あの企業は公務員と癒着している」「公務員とズブズブの関係だ」と批判されてしまえば、その後、国や地方公共団体との取引をやりにくくなります。
また、何も違法性がなくても「倫理上問題ではないか」との批判を招けば、企業の見られ方が変わってしまいます。
企業としては、あらぬ誤解を受けないように、公務員との接し方には慎重になる必要があります。

新日鐵住金名古屋製鉄所の爆発事故に見る、地域社会との共存

工場事故と地域住民

工場では事故は不可避です。
爆発事故、土壌汚染、騒音問題などが頻発します。

こうした事故が発生したときに、企業は危機管理として事故対応を行います。
その時に忘れてはならない存在が「地域住民」です。

企業の工場がその場所で操業することが許されるのは、地域住民に受け容れられているからです。
その地域住民の平穏な生活や生命・身体に不安を生じさせる事故を発生させた場合には、地域住民に迷惑を掛けた、不安を与えたということを肝に銘じて、地域住民に理解を求める行動を取らなければなりません。

これは「企業の社会的責任」と言えます。

新日鐵住金名古屋製鉄所での爆発事故と、地域住民への配慮

9月3日に新日鐵住金名古屋製鉄所で爆発事故が発生しました。
報道によると、2014年で5回目の事故だそうです。

「3日午後0時45分ごろ、愛知県東海市東海町5の新日鉄住金名古屋製鉄所から「コークス炉付近で爆発があった」と119番通報があった。愛知県警東海署や同製鉄所によると、15人がけがをして病院に搬送され、うち5人が気道熱傷などで重傷という。」

「名古屋製鉄所では今年1月以降、黒煙が発生する事故が計4回発生。新日鉄住金は8月、原因究明や改善策の検討のため、社内に事故対策委員会などを設けたばかりだった。」(2014年9月4日、日本経済新聞朝刊より)

新日鐵住金は事故対策委員会を設けて原因究明や改善策を検討しようとしていたところなので、内部的には十分な対策を行っていたと言えます。

しかし、その一方で、これまでの4度の事故での地域住民への配慮が不十分だったのではないかとも思えます。
住民からの不満の声が出ているからです。

「新日鉄住金名古屋製鉄所(愛知県東海市)で3日発生し、15人が負傷した爆発事故は、同製鉄所で今年5回目の黒煙発生だ。「またか」「いいかげんにしてほしい」。住民らは不安や不満を募らせた。」(2014年9月4日、日本経済新聞朝刊より)

新日鐵住金が地域住民を全く配慮していなかったのか?と言うと、そういうわけではないようです。
少なくとも、記者会見での謝罪コメントを見る限り、地域住民には配慮しています。

「新日鉄住金名古屋製鉄所(愛知県東海市)の爆発で15人が負傷した事故で、新日鉄住金の酒本義嗣・名古屋製鉄所長らが3日午後、記者会見を開き、「地域、社会のみなさまに大変なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と陳謝した。」(2014年9月3日、日本経済新聞電子版より)

そうであるにもかかわらず、地域住民から不安や不満が出るのはなぜか?ということです。

もちろん、1年で5回目の事故が原因であることも否定できません。

ただ、それ以上に、これまでの4回の事故で地域住民の方の不安や不満を十分に吸い上げられていなかったのかもしれないなとも思えます。

たとえば、住民説明会を行っていなかった、住民説明会を行ったけれど地域住民の方たちが理解できるほど噛み砕いていなかった(説明の内容が難しかった)、住民説明会への参加率が低かったので参加していない住民も多くいたなどが考えられます。

住民説明会を行う際で、もっとも大事なポイント

そこで、ここでは、もし企業が工場での爆発事故などを起こしてしまったときに、企業は住民説明会を行うべきか、住民説明会を行うときに、どういった点に配慮をすべきかについて解説したいと思います。

住民説明会を行わなければ、地域住民への配慮を欠く

仮に住民説明会を行わないのであれば、その姿勢そのものが、地域住民への配慮が欠けていたという評価になりましょう。
事故を発生させ、地域住民の方に迷惑を掛けた、不安・不満を抱かせたという意識があれば、地域住民の方に説明するのは筋だからです。
法的責任云々ではありません。
企業に地域社会と共存する意思があるかどうかという問題です。

実際に、ある会社では、住民説明会を行うだけでなく、地域住民のお宅に1軒1軒訪問し説明に上がったこともあります。そこまで行うのかどうか。
新日鐵住金の場合、報道からは明らかではないので、過去4回の事故のときにどのような行動をとったのかは気になります。

住民説明会の目的と、地域住民への謝罪

だからといって、住民説明会を行えばそれで足りる、というわけではありません。
形だけの住民説明会を行っても意味はありません。

住民説明会の目的は、企業と地域住民との共存のために、地域住民の不安、不満を解消することです。
そうだとすれば、住民説明会では、地域住民が事故で抱いた不安や不満に正面から答える必要があります。

例えば、事故によって消防車などが出動し、地域住民の平穏な生活を破ってしまった。
まず、そこに謝罪が必要です。

住民説明会では、わかりやすさを第一に

また、爆発事故となれば、原発の事故の例を見るまでもなく、地域住民は工場で何を扱っていたのか、それによって地域住民の生命、身体に影響があるような物質などが浮遊しないか、もっとわかりやすく言えば、爆発事故によって身体に害は生じないか、今までどおりの普通の生活をそのまま送っていて大丈夫なのか、を心配します。

そうした地域住民の立場に立って、企業は爆発事故の内容を説明していかなければなりません。

地域住民の立場に立つということは、わかりやすさ、ということに繋がります。

  • 専門用語を使用しない
  • 図などを使って目で見てわかるようにする
  • これから、どのような害が可能性があるか

などを、噛み砕いて説明する必要があるのです。

レベルは、小学6年生くらいが理解できる程度です。
小学6年生をレベルに設定するのは、そのレベルまで落とし込めば、住民説明会に出席している人がほぼ等しく十分な理解ができるからです。

今回の新日鐵住金の例でいえば、「黒煙があがった」ということです。
そうであれば、工場で扱っていたのは何か、黒煙に含まれている物質は何か、その物質や煙を吸い込んで身体に害はないか、どれくらいを体内に取り込むと健康被害が生じるかなどを説明する必要があります。

どれくらいというのも専門単位で説明するのではなく、成人の大人が1日2時間黒煙の中で煙りを吸い続けたら、何日間で何人に1人の割合で呼吸困難になる可能性が出てくるとか、何日間で肺がんになる可能性がどの程度増加するなどという具体的な説明です。

会社の立場で考えて住民説明会を行おうとすると、どうしても地域住民のフラストレーションをぬぐいきれないままになってしまう可能性があります。
説明内容を少し工夫するだけで、同じ住民説会を行うにしても地域住民の納得度合いが変わってくるので、ぜひ、わかりやすさに挑戦して欲しいと思います。

命に関わる副作用は法律に義務がなくても消費者に公表すべし

ノベルティスファーマ社の副作用報告漏れ事案

ノバルティスファーマ社は7月に白血病治療薬の副作用を厚労省に報告していなかったことで厚労省から改善命令を受けました。
この改善命令に関連して、副作用の未報告事例がそれ以外にもあったことが新たに明らかになりました。

「(ノベルティスファーマ社)は白血病治療薬による重い副作用を16症例21件把握しながら国に報告しなかったなどとして、7月に厚労省から改善命令を受けた。この際、販売するすべての薬で同様の報告漏れがなかったかどうか報告するよう指示され、約1万例を調査していた。

その結果、同社が販売する薬との因果関係が否定できない重い副作用症例は少なくとも2579例あった。白血病治療薬など抗がん剤が多く、患者の副作用は腎障害などで、死亡した事例もあったという。これとは別に自社薬との因果関係を調査中の副作用症例は6118例あるといい、薬事法違反の未報告事案はさらに増える可能性がある。厚労省は9月末までに全ての調査結果を報告するよう指示した。」(日本経済新聞2014年8月30日朝刊より)

死亡事例があったのに未公表は企業の社会的責任を果たしていない

この事例で見過ごせないのが、死亡した患者がいたにもかかわらず、報告していない事案があったという点です。

ノベルティスファーマ社が取り扱っていたのは、薬です。
薬は、患者の体内に取り込む性質のものです(外用薬は別として)。
体内に取り込む性質の薬を使用して、副作用が生じ、中には死亡した事例があった。
ところが、それを報告していなかった。

見方を変えれば、薬を使用して死亡する患者が他に発生する可能性があるかもしれないのに、それを黙っていた、と理解することもできます。

こうした事態は、ノベルティスファーマ社が「薬を通じて患者の生命を預かっている」という自社の社会的責任を軽視していたと評することができます。

本来であれば、薬の副作用であるとの因果関係が否定できない死亡事案が発生したのであれば、その時点で、社会や医療機関に向けて、「自社の薬を使用した患者が死亡する事故が生じた、自社の薬の使用を控えるように」との注意喚起をしなければならないはずです。
仮に、そうした注意喚起によって一時的に会社の売上が減ることになったとしても、注意喚起をして新たな死亡者が発生しないように努めることが「患者の生命を預かっている」会社が果たすべき責任だろうと思われます。
この注意喚起は、法律上、厚労省への報告義務があろうがなかろうが、企業の社会的責任という観点から行うべきことです。

公表することの意味

企業の社会的責任は、企業の存在価値のこと

ここで、「企業の社会的責任」の意味内容を掘り下げてみたいと思います。

私は、「企業の社会的責任」というのは、その企業が社会に存在することが許される理由、一言で言えば、企業の存在価値ということだと理解しています。
要するに、その企業が存在することが、なぜ社会に受け容れられているか、なぜ世の中が許容しているか、ということです。

公表の第1の意味=社会に自社の存在価値を問う

ノベルティスファーマ社は「薬で患者の生命を預かっている会社」だからこそ、社会に受け容れられているのです。
副作用による患者の死亡という、その会社の存在意義と矛盾する事案を生じさせてしまったのだとしたら、その時点で、「わが社は、このまま社会に存在していてもいいですか」と世の中に問わなければならない。
そのために「公表」をしなければならないのです。

公表の第2の意味=次なる死亡事故を防ぐ

また、先に書いたように、副作用による患者の死亡事故が発生したのであれば、「薬で患者の生命を預かっている会社」は、次なる死亡者が出ないように注意喚起をしなければなりません。
これが、その会社の使命です。
死亡事案が発生したら、ただちに「公表」しなければ、その使命を果たすことはできません。

公表しない会社は存在価値を問われる

結局、何が言いたいのかというと、死亡事案のような重大事案が生じたのに、「公表」に消極的な会社は、社会から存在価値が問われることもやむを得ない、ということです。

ノベルティスファーマ社に限らず、世間に存在している会社は、死亡事案のような重大事案が発生したときには、躊躇なく「公表」するようになって欲しいのです。

コンプライアンス違反の通報・公益通報があった場合、会社はまずは受け容れて事実確認せよ

コンプライアンス通報窓口、公益通報者保護法の目的

2000年以降、「コンプライアンス」という用語が浸透し始め、多くの会社では、コンプライアンス通報窓口が設けられるようになりました。
2004年には公益通報者保護法が成立し、2006年4月1日から施行されています。

こうした背景には、社内の不正を告発した社員が会社によって冷遇される事例が相次いだことがあります。
冷遇というのは、告発したら配置転換され他に誰もいない地下室で勤務させられた、告発したら取引先からの契約を解約されたり取引先以外の同業他社も取引してくれなくなった、告発したら異動させられた、告発したら社長、上司や同僚から「どうして告発したのか」「裏切り者」などと詰め寄られたなど、いろんなケースがありました。

これでは、会社の中から不正をなくすことはできません。
まして、従業員が不正を発見したとしても、それを告発する余地がありません。
そこで、公益通報者保護法が成立したのです。

実例

今日、各紙で、エステサロンで労働基準監督署に深刻した従業員に対して社長による公益通報者保護法違反行為があった、労働組合に対する社長の圧力(不当労働行為)があったなどと録音された音声とともに報道されています
(日経は公益通報者保護法違反という観点から、朝日は不当労働行為という観点からの報道です。下線部ご参照)。

たかの友梨ビューティクリニック」を経営する「不二ビューティ」(東京)の従業員が加入するブラック企業対策ユニオンは28日、同社の高野友梨社長(66)から、組合活動をしていることを理由にパワーハラスメントを受けたとして、宮城県労働委員会不当労働行為の救済を申し立てた。」

「同ユニオンや弁護士によると、ユニオン側は今月22日、同社の仙台店に対し、仙台労働基準監督署が残業代の減額などの是正勧告をしたことについて会見する予定だった。そのことを知った高野社長は21日に仙台市を訪れ、仙台店の従業員15人や店長らを飲食店に集め、約2時間半にわたり持論を展開したという。

 同ユニオンが公開した当日の高野社長の言葉を録音したデータによると、高野社長は席上、組合に入っている女性を名指しして、「間違っているとはいわないけれども、この業界の実態をわかったときに、どうなんだろうか」と組合活動を非難した。さらに「労働基準法にぴったりそろったら、(会社は)絶対成り立たない」「つぶれるよ、うち。それで困らない?」などと問いただした。

 ほかの従業員にも「組合に入られた? 正直に言って」と組合員であるかどうかを確かめようとした。

 また、高野社長の名前で全国の店舗に対しファクスした文書を、店長に読み上げさせた。「社員数名が『ユニオン』という団体に加入し、『正義』という名を借りて、会社に待遇改善の団交を要求」「会社を誹謗(ひぼう)することは、自分のこれまで頑張ってきた道を汚すことだと私は思います」といった内容だった。」

(2014/08/29付朝日新聞Webサイトより)

 

「エステティックサロン「たかの友梨ビューティクリニック」の仙台店(仙台市)の女性従業員が28日、残業代を減額されたなどの問題を労働基準監督署に申告した行為を会社側が非難したのは公益通報者保護法などに違反するとして、厚生労働省に申し立てをした。

 女性が所属する労働組合が東京都内で記者会見して明らかにした。

 申立書や会見によると、経営する不二ビューティ(東京)の高野友梨社長が8月、仙台店の従業員を集め、女性が労基署に申告したことなどを非難。高野氏はその際「暴き出したりなんかして会社をつぶしてもいいの」と述べたという。」

(2014/08/29付け日本経済新聞朝刊より)

この報道の内容が事実かどうかは、私にはわかりません。
しかし、ここで報道されるような社長(会社)から告発者への対応がなされないようにするために、公益通報者保護法が定められました。
もし、これが事実なら、公益通報者保護法が定められた社会的背景を社長が理解していない、ということになります。

公益通報者保護法と現実の通報とのズレ

公益通報者保護法は、通報した者を保護するために定められた法律です。
しかし、公益通報者保護法も万全ではありません。

公益通報者保護法は「公益通報」をしたことによって不利益を課されない、と定めているものの、「公益通報」の範囲が狭すぎるのです。
平たく言えば、社内で、明確に法律違反ではないかもしれないけれど、「これってどうなの?」と何かしらの疑義があるにすぎない場合や、企業の社会的責任の観点からここは改善したほうがいいのではないか、として声をあげることは、「公益通報」に含まれないのです。

つまり、公益通報者保護法によって保護されない、ということになってしまいます。

しかし、現実に、通報窓口の仕事などを行うと、従業員の方からの通報の内容は、明確な法律違反を発見したという内容よりも、むしろ、法律違反かどうかは微妙(よくわからない)だけれども、企業理念や企業の社会的責任の観点からどうなの?という内容が圧倒的に多いのです。

もっといえば、明確に法律違反とわかっている通報よりも、こうした類の通報のほうが事実関係を調査してみたら、会社として大きな問題だった、通報された内容はその氷山の一角を従業員を見つけたケースだったということも多いのです。

そのため、従業員がこうした通報が積極的に、また身分を安心して通報できるようにするために、まずは、公益通報者保護法が改正されるべきです。

現実的には、まず社内ルールを見直し、コンプライアンス通報窓口には法律違反以外の通報も受け付けると門戸を広くしたうえで、こうした通報をした者に対しても会社は不利益を課してはならない、と定めておくべきです。

会社は通報を受けたら、まず事実確認・調査せよ

仮に従業員から通報があった場合に、上記で報道されたような形で社長が従業員や労働組合に圧力を掛けるのは最悪の対応です。
先に述べたように、通報内容が明確に法律違反ではない場合であったとしても、実は大きな不正の氷山の一角であったというケースも多々あります。
そのため、会社は、頭から通報を否定するのではなく、まずは、事実確認・調査を行うべきなのです。

そのうえで、事実が確認できないなら、通報者と連絡を取り合い、追加の情報を提供してもらい、事実確認を再度行う。
あるいは、事実無根であったなら、意図的に事実無根な通報をしたのか、それとも誤解に基づく通報だったのかを見極める。もし、意図的に事実無根な通報をしたというこであれば、そのときに、業務妨害という観点から通報者を処罰するかどうかを判断すればよいのです。

パテントトロールに特許権を譲渡することは、なぜダメなのか

パテントトロールに狙われた瞬間

企業がある事業に成功し、大きな利益を得ていると、聞いたことがない名前の会社から1通の内容証明が届く。
内容証明を見ると「あなたの事業は、わが社が保有する特許権を侵害している。ただちに事業を止めるか、損害賠償せよ」と内容が書いてある。
内容証明を受けとった側は、相手の会社がどんな会社なのかをネットで検索してもホームページも何も引っ掛からない。
特許電子図書館などを利用して調べてみると、どうやらたくさんの特許権を保有しているようだ。

これは、実は珍しい光景ではありません。
昔から、特許権だけ取得していて、権利侵害している企業が現われたら金銭を要求することを繰り返す、「特許ゴロ」などと呼ばれる存在はいました。
それが、最近は「パテントトロール(パテント=特許、トロール=漁る人)」と呼ばれるようになっただけです。

パテントトロールの目的

こうした「特許ゴロ」「パテントトロール」の目的は、何か?
答えは「お金」です。

実際に事業をやっている会社が特許権侵害を理由に事業を止めること(差し止め)や損害賠償を請求してきた場合には、「クロスライセンス」によって、金銭を支払うことなく問題を解決することができます。
権利を保有している企業と権利侵害してしまった企業とで、お互いが保有していて利益に繋がる特許をお互いに無償で利用できるよう許諾しあえばいいのです。

しかし、「特許ゴロ」「パテントトロール」の場合には、自分たちは事業をやっていません。
そのため、パテントトロール側は「クロスライセンス」によって、権利侵害している企業から特許権の利用を許諾してもらう必要性がありません。
その代わりに「特許権侵害を理由に差し止めないから、損害賠償を支払って欲しい。さらには、事業を継続したいなら実施料を支払え」という要求をしてくるのです。

日本国内でのパテントトロールと企業の訴訟

実際に、日本国内でも、パテントトロールが著名な企業に金銭を要求するケースが相次いでいます。

トロールとして有名な独IPコムがイー・アクセスを相手取り、携帯電話の輸入・販売差し止めと約3千万円の損害賠償を求めていた訴訟では、東京地裁が1月下旬、IPコムの訴えを退けた。」
ルクセンブルクのトロールが10億円の損害賠償を求めて知財高裁にKDDIを訴えていた案件でも、1月下旬、トロール側が敗訴した。」
(日本経済新聞平成26年2月17日(月)朝刊より)

今のところは、パテントトロール側が負けています。
しかし、いずれも、3000万円の損害賠償請求、10億円の損害賠償請求と、国内企業はパテントトロールから高額な要求をされています。
もし、今後、このようなパテントトロール側からの訴訟で国内企業が不利=特許権侵害が認められ敗訴の色合いが出てくるようになれば、おそらく、判決ではなく和解での決着に至ることになると思われます。
それも、損害賠償プラス一定金額の実施料を支払い続けるという内容での和解になるはずです。

パテントトロール側は、訴訟という手間は経ますが、要は、他から仕入れた特許を保有しているだけで、今後の不労所得を得ることができてしまいます。
企業は、発明の苦労をしていない、特許権をトロール=買い漁っただけのパテントトロールに、せっかくの利益を分配しなければならないことになります。

たしかに、このような状態について、パテントトロール側は頭がいいと見ることができる側面も否定できません。
しかし、特許権をトロールして仕入れて、あとは権利侵害している企業を狙い撃ちして金銭要求するだけの会社というのは、健全とは思えません。やっていることの本質が、反社会的勢力による企業恐喝と似たようなものにしか思えません(権利があるので、恐喝そのものとまでは言いにくいことは確かです)。

大学からパテントトロールへの特許権譲渡の禁止

こうした実態を踏まえてか、大学が保有する特許権の譲渡に関して、今朝の新聞に次のような記事が載っていました。

文科省がこのほど大学向けの目安としてまとめた「知的財産の活用方策」の中で、特許譲渡時の事前調査の必要性を示した。特許を集めて訴訟に持ち込む管理会社は「パテント・トロール(特許の怪物)」と呼ばれる。大学が保有する特許を管理会社に譲渡する際は、国内企業を相手に知財訴訟を起こす管理会社ではないか、確認をする必要があると明記した。」
(日本経済新聞平成26年4月29日(火)朝刊より)

要するに、大学が特許権を取得したら、それを「パテントトロール」のような金銭要求することを目的とした企業には譲渡してはいけない。大学が特許権を「パテントトロール」に譲渡して、「パテントトロール」が金を稼ぐ武器を与えてはいけない。ということです。

大学の社会的責任

では、なぜ、そのような者に譲渡してはいけないのでしょうか。

大学の本来の目的は研究機関です。
研究は私利私欲のためではなく、大学という研究に専念できる環境で、世の中に役に立つ発明をして、それを世に広めていくことが、本来のあるべき姿かと思われます。
そのような存在である大学が、世の中のためになるような者に発明、特許権を譲渡することは問題がないとしても、金銭要求することを目的とする者にそれらを譲渡することは、大学の存在意義に関わると言ってもいいかもしれません。
だからこそ、今回の譲渡先の相手を事前に調査するということが要求されたのだと思います。

企業ならパテントトロールへの特許権譲渡は許されるのか。企業の社会的責任の観点から。

このように考えると、大学ではない企業なら、自社で保有していて、今現在は使用していない「休眠特許」をパテントトロールに譲渡してもいいのか、という問題が出てきます。
少なくとも、パテントトロールに「休眠特許」を譲渡すれば、譲渡対価を企業は取得することができます。
「休眠」のままにしておくよりはマシかもしれません。

しかし、この場合も、冷静に考えれば、おかしい。
パテントトロールを反社会的勢力に似た存在だと理解したとき、企業は「休眠特許」を反社会的勢力に譲渡して金銭を取得することができません。できないというよりは、やってはいけない、と言った方が適切かもしれません。
企業の社会的責任という点から考えると、反社会的勢力に金銭を請求できるネタを提供し、その反社会的勢力が、実際に事業をして利益をあげている企業から金銭だけを取得するというのは、絶対に許されません。
それと同じように、反社会的勢力とは言い切れないけれど、金銭要求を主目的としている反社会的勢力に似た存在であるパテントトロールに特許権というネタを提供することも、企業の社会的責任の観点から許されないことがわかっていただけると思います。

パテントトロールについて書きたいことは他にもありますが、今回は、この辺で。