マンション問題に見る、危機管理の対応窓口は一元化すべき

マンションの基礎工事に虚偽のデータを使用

大型マンションの基礎工事をする際、実際に施工した業者が地盤調査を実施しないまま、虚偽のデータを用いて工事をし、マンションが傾く事態になっていることが問題になっています。

「三井不動産グループ(※三井不動産レジデンシャル)が2006年に販売を始めた横浜市都筑区の大型マンションで、施工会社の三井住友建設側が基礎工事の際に地盤調査を一部で実施せず、虚偽データに基づいて工事をしていたことが13日分かった。複数の杭(くい)が強固な地盤に届いておらず、建物が傾く事態となっている。」
「住民側の指摘を受け、三井不動産レジデンシャルと三井住友建設が調査を開始。傾いたマンションの計52本の杭のうち28本の調査を終えた時点で、6本の杭が地盤の強固な「支持層」に到達しておらず、2本も打ち込まれた長さが不十分であることが判明した。傾きの原因の可能性がある。」(日本経済新聞2015年11月14日付朝刊)

実際に、施工した会社は、三井住友建築から下請した、旭化成の子会社の旭化成建材であると報じられています。

対住民との関係では、販売元が責任を負うべし

住民に対してマンションを販売したのは、三井不動産レジデンシャルです。
そのため、住民に対しての責任は、販売元である三井不動産レジデンシャルが負います。

三井不動産レジデンシャルは販売元にすぎず、施工業者は三井住友建設、実際に施工したのは旭化成建材です。
しかし、住民からすれば、誰が建てたのかは関係ありません。
住民の立場で考えれば、「三井不動産レジデンシャルから買ったマンションに問題があったのだ。マンションの購入代金は三井不動産レジデンシャルに支払った。三井不動産レジデンシャルが責任を取れ。」となるはずです。
そのため、対住民の問題は、三井不動産レジデンシャルが矢面に立つべきです。

焼肉酒家えびす事件

参考になる事件を一つ紹介します。
2011年5月に発生した、焼肉酒家えびすが店舗で提供したユッケを食べたお客さんが食中毒になり、そのうち5人が死亡するという事件です。
最終的に、焼肉酒家えびすは破産しました。

破産に至るまで焼肉酒家えびすがバッシングされた理由は、初めの社長記者会見で、社長が食中毒での死亡者に対してお詫びをしなかったことと、食中毒の原因が肉の卸業者にあると説明したことです。
お客さんの立場で考えれば、「焼肉酒家えびすでユッケを頼んだら食中毒になった。食事の代金は焼肉酒家えびすに支払った。焼肉酒家えびすが責任を取れ。」となるのです。
ところが、焼肉酒家えびすは、そうではなく、卸業者に責任を押し付けようとした。
責任を他社に押し付けたことで、批判が殺到したのです。

「被害者」意識は危機管理を失敗させる

不祥事の相談を受けていると、「うちの会社に責任はない。うちの会社は被害者です。」という意識を持っている企業が少なからずいます。
しかし、危機管理対応として「自分たちが被害者」との意識を持っていると、必ず失敗します。

焼肉酒家えびすの件は、その典型です。
ユッケを提供し、それにお金をもらっているのは、焼肉酒家えびすです。
だとすれば、お客さまへの責任を負うべきは、焼肉酒家えびすです。

今回のマンションの件でも同じです。
マンションを販売し、それにお金をもらっているのは、三井不動産レジデンシャルです。
だとすれば、お客さまへの責任を負うべきは、三井不動産レジデンシャルです。
施工会社が三井住友建設、実際の施工業者が旭化成建材であると説明する中で、「自分たちは被害者です。自分たちには責任がない」という意識や姿勢を見せた段階で、住民からの信頼を失います。

その点で、三井不動産レジデンシャルが、さっそく住民に対して説明を行っているのは評価できるところです。

「三井不動産レジデンシャルは住民への説明会を始めており「あってはならないことで申し訳ない」と陳謝。施工不良は8本という前提で構造計算をし直した結果「緊急を要する危険性はない」と説明している。」(日本経済新聞2015年11月14日付朝刊)

各関係企業の姿勢がバラバラでは住民の不信感を募らせる

先に書いたように、住民への責任は、販売元である三井不動産レジデンシャルが負うべきです。
つまり、責任の負い方は三井不動産レジデンシャルが自ら決すべきです。
責任の内容を決めるのは、三井住友建設でも、旭化成建材でもありません。

もちろん、その後の求償、役割分担のことを考えれば、三井不動産レジデンシャル、三井住友建設、旭化成建材の間で協議することは不可避です。
しかし、その場合でも、実現困難な責任の負い方にならないかどうかを協議すべきであって、責任の押し付け合いになることは避けなければなりません。
また、三井不動産レジデンシャルが責任を負うことを決めれば、三者間の役割分担や費用分担は後から決めたって言い訳です。
極端な話を言えば、三井住友建設や旭化成建材が協力しない、費用負担しないと拒否するのであれば、三井不動産レジデンシャルは他の業者に依頼して建て替えなりを先に行い、後から求償するということがあってもいいのです。

報道内容からすると、一見、三者の対応は同じ方向を向いているように思えます。

「横浜市都筑区の大型マンション基礎工事で虚偽のデータが使われた問題で、販売元の三井不動産レジデンシャルが、傾いた棟の建て替えも視野に検討を始めたことが14日分かった。施工会社の三井住友建設とともに年内に復元工事の方法を決める。この日、両社の幹部がマンションを訪れて改めて住民に謝罪、補償問題に誠実に対応することを約束したという。」(日本経済新聞2015年11月14日付夕刊)

「旭化成によると、傾いた建物の補強や改修、ほかの棟の調査にかかる費用は旭化成建材が全額を負担する。旭化成は「信頼を損なう結果となったことを深く反省し、心よりおわびする。居住者の安全を最優先に、売り主の三井不動産レジデンシャル、施工会社の三井住友建設と協力して、しかるべき対応をとる」としている。」(日本経済新聞2015年11月15日付朝刊)

「三井不動産レジデンシャルは今月上旬から住民向け説明会を開始。当初、今後の対応は「検討中」などとしていたが、15日には一転、傾いた1棟だけでなく全4棟を建て替える案を住民側に提示した。今回の問題で住民に発生する損害の補償にも対応するとしている。」(日本経済新聞2015年11月20日付朝刊)

その一方で、三者が責任を負うことについて一枚岩ではないかのような報道もされています。

「各社の主張はすれ違いを見せており利害が対立する可能性もある。住民への補償にも影響が出そうだ。
20日の記者会見で旭化成の平居正仁副社長は、データ改ざんの背景にマンションの販売業者や元請けから「工期を守れ」などの圧力があったかについて「当時は少しでも早くという状況はあった」と述べ、プレッシャーの存在を示唆した。
旭化成建材の商品開発部長は、杭(くい)が地中の支持層へ到達したかを担当者が見極める際「(三井住友建設が作製した)設計図を大前提にした」と話した。三井住友建設の設計図に不備があったことが短すぎる杭がいくつか出てきた原因だという考えだ。「非はゼネコンにもある」と漏らす旭化成幹部もいる。
三井不動産レジデンシャルの親会社、三井不動産幹部は「まさか地中奥深くに入っている、杭の打ち込みが不十分だとは思わなかった」と旭化成建材のデータ改ざんにあきれる三井住友建設も「下請けからあがってきた改ざんは見抜けない」という立場だ。」
旭化成の浅野敏雄社長も20日の記者会見で、三井不動産レジデンシャルが示した全4棟を建て替える費用について「売り主、施工会社と誠意を持って協議していきたい」と述べるにとどめ、旭化成側が全額を負担するとの考えは示さなかった。」(日本経済新聞2015年11月21日付朝刊)

このような報道がされてしまうのは、責任の負い方について説明する企業が一元化されていないのも一因です。
関係企業がそれぞれ大きな会社ではありますが、住民への責任の負い方という点では、三井不動産レジデンシャルに一元化して広報対応もすべきです。
対外窓口を一本化することは、企業危機管理の基本です。
仮に複数の企業が関係している場合でも、特定の企業を窓口にすべきです。
そうしないと、情報が錯綜してしまうからです。
上記のような報道がなされてしまうのは、まさに対外窓口が一本化されていないから起きたことです。

報道によると、27日に三井不動産レジデンシャルから責任の負い方が発表されるそうです。
その時点でも、責任の負い方について関係企業が一枚岩になっていないときには、住民からは「責任をなすりつけあっているだけではないか」と批判され、住民からの信頼を失うことは必須だろうと思います。

東洋ゴム工業問題の本質と広報の遅さ

東洋ゴム工業の性能偽装問題、何が問題か

性能偽装問題の概要

東洋ゴム工業が3度目の性能偽装をしていたことが2015年10月14日に明らかになりました。
今回は、2005年以降、子会社である東洋ゴム化工品が製造した鉄道車両や船舶の揺れを緩和するために使用される防振ゴムを、東洋ゴム工業は、材料試験を行わないまま、あるいは強度などの性能について虚偽のデータで出荷していたことというものです。
中には、強度の性能が10%に満たない製品もあったと報道されています。

詳しい経緯は、こちら(pdfファイルです)

3度の性能偽装は、東洋ゴム製品の安全性についての信用を低下させる

これで、2007年に耐震パネル耐火性能偽装問題、3月に大臣認定不適合の免震ゴムを出荷していた問題に続く3度目の性能偽装です。
今回の不正発覚は、以下のとおり3月の免震ゴム問題を受け、国内で緊急品質監査を実施して安全宣言をした直後に発覚したものです。

「3月の免震ゴム問題を受け、東洋ゴムは5~7月に国内外全23拠点で緊急品質監査を実施。8月10日に防振ゴムを含む製品で「正規品が出荷されていることを確認した」と対外的に“安全宣言”をしていた。」(日本経済新聞2015年10月15日付朝刊)

それだけに、3月の免震ゴムをきっかけとして行われた緊急品質監査が十分なものであったのか、そもそも過去の2度の性能偽装を会社として真摯に受けとめていたのか、疑問を抱かずにはいられません。

まして、問題が発生したのは、耐震パネルの耐火性能、免震ゴムの性能、鉄道車両や船舶に使用される防振ゴムの性能です。
いずれの製品にも共通しているのは、エンドユーザーの生命や身体に危害を生じさせる可能性があるということです。

そうなると、「東洋ゴム工業はエンドユーザーの生命・身体の安全を念頭に置いていないのではないか」という素朴な不信感も生まれかねません。
例えば、東洋ゴム工業の製品のうち消費者にとって身近な自動車用タイヤについても「安全性は大丈夫なのか」と信用を失い、商品を購入しなくなる消費者が現われる可能性も否定できません。

謝罪会見は本質に答えていない

今回の事件発覚後、東洋ゴム工業は、法令遵守を担当する常務執行役員と防振ゴム事業を担当する常務執行役員が記者会見を行いました。
ここも本当であれば、免震ゴム問題をきっかけに新体制を担うことになる、社長就任予定の常務執行役員が出席すべきです。
そのうえで、社長就任に向けての覚悟を語るべきでしょう。

また、記者会見で発せられた内容のうち、謝罪に関する言葉については、次のように報じられています。

「皆様に多大な心配と迷惑をかけ、誠に申し訳ありません」
「免震ゴム問題で再発防止を誓う中、許されざる行為であり、会社として重く受け止める」
「技術者の倫理意識が欠如している。再生に向け真剣に考えたい」 (日本経済新聞2015年10月15日付朝刊)

これはこれで、謝罪するために必要な内容を含んでいます。
ただ、今回は3度目の不正、しかも安全宣言直後に性能に関する不正が発覚した、という会見です。
そうだとすれば、「エンドユーザーの生命・身体の安全性を脅かす事態である」という、製品の安全性に向き合う会社の姿勢を認識した言葉が欲しかったところです。

従業員コンプライアンス研修が不正発覚に役だった

ただ、東洋ゴム工業が信用を取り戻すための光明がないわけではありません。
今回の防振ゴムの性能偽装が発覚したきっかけが、従業員に対するコンプライアンス研修の成果と言えるからです。

東洋ゴム工業は3月の免震ゴム問題をきっかけに、8月18日、19日に従業員に対してコンプライアンス研修を行った結果、翌8月20日に従業員から今回の防振ゴムの性能偽装について内部通報があり、不正が発覚したそうです。

研修の翌日に内部通報があるということは、滅多にあるものではありません。
従業員は、内部通報することで自分の身がばれることへの不安、通報によって会社に迷惑がかかるのではないかという不安、通報した結果として不利益に取り扱われるのではないかという不安を抱えているからです。
ところが、今回は、その不安を乗り越えて、翌日に内部通報する従業員が現われた。

会社のことを考え、エンドユーザーの生命や身体の安全を考える従業員がいるという点では、会社が信用を取り戻す可能性は十分にあると思います。

危機管理広報の遅さ

東洋ゴム工業の過去の2度の不正でも、今回の防振ゴムの性能偽装でも指摘されているのが、広報の遅さです。
会社が不祥事を起こした際の危機管理広報のタイミングの鉄則は「できる限り即日」です。

3月の免震ゴム問題は、会社が問題を認識してから3月に公表するまで1年半を要したことが批判の対象とされました。
その後、当時の会長、社長を含む取締役5人全員が責任を取って辞任しました。

今回の防振ゴムの性能偽装については、8月20日に内部通報がありました。
もちろん、内部通報はすべて正しいものではないので、ある程度は、社内調査を行うことは必要です。
それにしても、内部通報があってから公表まで2か月弱を要しています。

また、2015年10月14日に公表したにもかかわらず、東洋ゴム工業のウェブサイトのトップページは、10月16日時点で、3月の免震ゴム問題についての謝罪が掲載されているのみです。

TOYO TIRES企業サイト|東洋ゴム工業株式会社

10月14日に3度目の性能不正について公表したのであれば、ただちに、トップページを防振ゴムの性能偽装に関するものに差し替えるべきです。
こうした事実も、社内で横の連携がとれていないのではないかと、組織体制についての信用性を低下させる要素の一つになってしまいます。

異物混入を公表するかどうかの判断基準

外食産業・食品業界の異物混入事件報道

2015年に入ってから、外食産業・食品業界での異物混入事件が相次いで報道されています。
半年以上前に食品の中に異物が混入していた事実があったことが、今になって報道されているケースもあります。
こうした報道を見ていると、「外食産業・食品会社は異物混入している事故を起こしたときには、全部、公表せよ」的な極端な意見も見られます。

異物混入だからといって、全部を公表する必要はない

でも、「食品に異物が混入している事故が発生したときに、全部の案件を公表しなければならないのか」と質問されたら、私の答えは「全部を公表する必要はありません」です。
その理由を説明しましょう。

現実的な問題として、食品への異物混入は常時発生しています。
昔ながらのラーメンのスープに店主の指が入っていた、レストランで出された料理に髪の毛が入っていた。
これだって、立派な異物混入事件です。

これらの異物混入でも公表するか?と言えば、公表するわけがない、というのが普通の考え方だと思うのです。
「今日、当店ではラーメンのスープに店主の指が入るという事故が起きました」とか、公表して誰のためになるの?という話です。

実は、この「公表して誰のためになるの?」というのが、異物混入事件の公表・非公表を判断するにあたっての元になる考え方なのです。

食品の安全性・安心の確保に繋がるかどうか

外食産業・食品業界が調理して提供する食品は、消費者である人の口に入るものです。
食品を口にした消費者が、身体の安全を害する、極端な話では生命を落とす、後遺症が残る、また食に対して安心できない。
そんな事態を引き起こすような外食産業・食品会社であれば、会社としての存在価値がありません。

異物が混入しているというのは、身体の安全は害さないかもしれないけれど、食に対する消費者の不安感を招き、消費者が安心して口にできないという事態を招きかねません。
会社としての存在価値が疑問視される一要素です。

とはいえ、異物がたまたま1つの食品に入っていたという場合は、その食品を手に取った消費者、口にしてしまった消費者一人を相手にお詫び以上の対応をすれば済む話しです。

他方で、異物が1つの食品だけではなく、他の食品にも入っている可能性がある場合には、異物を発見した消費者、異物を口にしてしまった消費者以外にも、同じような問題が生じる可能性があります。
その場合には、会社は、消費者一人ではなく、食品を手にする可能性がある購買予定者=世の中全体に、「異物が混入していた。他にも混入している可能性がある」と知らしめる必要があります。
その場合であっても、公表せずに黙っている会社は、存在価値がないに等しい。

実は、この説明の中に、公表するか公表しないかを判断する基準がすべて含まれています。

拡大可能性があるか

1つめの基準は「拡大可能性」です。
異物が混入している食品が1つに限られず、他にもあるか否か、ということです。

たとえば、食品工場の製造ラインで、ラインに従事する社員が農薬が希釈して混入していた。
これは、そのラインで製造された食品すべてに関わる可能性があります。
その食品は、広い販路をたどって消費者の口に届く可能性があります。

食品会社としては、不特定多数の消費者の口に届く可能性がある商品に農薬が入っていることがわかれば、不特定多数の消費者=世の中に対して、「この製造ラインで作られた食品には農薬が入っている可能性があって危険なので口にしないで下さい」とアナウンスして知らしめる必要があります。

言われて見れば「当たり前」と思われるかもしれませんが、この「当たり前」の判断基準を持っていない会社が多いのが事実です。

異物混入でも、たとえば、ケーキに青カビが入っているというケースの場合には、同じ店舗・工場で、同じ時期に製造された他のケーキにも青カビが入っている可能性があるわけなので、公表する必要は出てきます。
虫が入っているというケースの場合には、同じラインで製造された他の食品に、虫の身体(物体)が入っていることはないけれど、虫のエキスが混入している可能性があるわけなので、公表する必要はありえます。
もちろん、虫が入っていれば全部公表ということではなく、どんな食品に、どんな形で虫が混入していたかという細かな事情を判断して、公表・非公表を判断する必要があります。

安全・安心に与える影響が重大か

もう1つの基準は「安全・安心に与える影響が重大か」です。
異物が混入している食品が1つであっても、それによって生命を落とす、身体に障害が残る、食中毒を起こす。
食品会社求められる、安全・安心を守るという基礎的な部分に問題があれば、それは公表する必要が出てきます。

たとえば、製品を口にした消費者が食中毒になった。
これは、食品会社が作った食品に安全性がないということです。
食品会社としての存在意義そのものに関わります。
安全ではない食品を提供するような会社は、食品を作らなくてもいい、むしろ作らないで欲しいからです。

だとすれば、仮に「拡大可能性」がないとしても、「安全・安心に重大な影響を与える」場合には、公表すべきです。

最近の新しい基準=SNS上での盛り上がり

2014年、2015年の異物混入事件を見ていると、報道で大きく取り扱われる以上に、SNSで話題になって、異物混入の事実が情報として拡散しているケースが見られます。
食品会社が「拡大可能性がない」「安全・安心に与える影響が重大ではない」と判断して公表しなかったケースであったとしても、SNSで情報が拡散している状況をそのまま放置しておいては、会社の評判が下がります。レピュテーション・リスクの最たるものです。

中には、事実と間違った情報が拡散してしまう場合もあります。また、意図的なねつ造が情報として拡散してしまう場合もあります。
これは、会社が対応しなければ、レピュテーション・リスクが拡がるだけです。

そこで、SNSで情報が拡散し盛り上がっているようなケースの場合には、会社は情報を公表すべきです。
ただし、会社が情報を公表することでSNSにネタを提供する、炎上のための油を注ぐことになってはいけません。

そのためには、ネットでは同じ土俵に乗らずに公表する方法を考えるべきです。
具体的には、会社のWeb上に、会社が認識している事実、原因や会社の見解を載せるということで、十分だと思います。

忘れてはいけないのは、「安全・安心」へのお詫び

食品の安全・安心を損なうような事態を招いた場合、多くの会社は、お詫びを公表します。
または、記者会見などでお詫びの言葉を述べます。

多くは、「このような事態を招き、申し訳ございません」という文言になっています。
しかし、お詫びをするのは、事態を招いたからではありません。
事態を招き、食の安全・安心を損ねて迷惑をかけた、あるいは不安に陥らせてしまったからお詫びをするのです。

だとすれば、単に「事態を招き、申し訳ございません」ではなく、「食品の安全を損ねご迷惑をおかけし、また当社製品に対する不安を招き、申し訳ございません」と謝罪するのが筋です。

ここができているか否かも、会社が本当に事件の本質を理解して異物混入事件に対応しているかを見定めるポイントです。

企業危機管理の転換期がやってきた?

企業危機管理の転換期が到来しているのではないか?という疑問

昨日の「2015年、新春のごあいさつ」の記事で、企業は、TwitterなどのSNSによって社会・消費者の不安・不満が増幅することを視野に入れて積極的な情報公開をすることが肝要であることについて触れました。
今日は、昨日の記事を書くことになった考え方の根っこの部分について書きます。

それは、昔ながらの危機管理の方法論だけでは通用しない時代になってきたのではないか? ということです。

前々からニュースを見ていて、昔ながらの危機管理の方法としては間違っていないはずなのに、なぜうまくいかないのだろう、と疑問を感じることがありました。
その疑問が、2014年年末に発生したペヤング異物混入事件、2015年に入ってから発生しているマクドナルド異物混入事件、不二家ケーキかび事件を見ていて、ほぼ確信に変わりました。

危機管理の王道的手法だけでは通用しなくなっているケースがある

昔ながらの危機管理の方法といえば、例えば、反社会的勢力や不当なクレーマーからの要求には毅然と対応する、社長を出せと言われても応じてはいけない(担当者が責任者である)などが有名です。
もちろん、これらの方法は、今でも間違っていません。
基本的には、この王道パターンで対応すべき、と考えています。

しかし、今は情報社会です。
「危機管理対応」「クレーマー対応」「反社会的勢力対応」などのマニュアルは、インターネット上で簡単に見つけることができます。
そのため、会社に攻め込む反社会的勢力や不当なクレーマーはもちろんのこと、まっとうなお客さんも、クレームを言う前に、会社がどう回答してくるかを調べ、情報として知っています。
そうなると、会社が昔ながらの危機管理の方法で対応しても、会社にクレームを付ける側は、その一つ先まで考えてクレームを付けてきます。
将棋に例えれば、先の先まで読みながらクレームを付けている、ということです。

また、昨日書いたように、TwitterなどのSNSが利用しやすくなったので、会社にクレームを付けるのと同時並行して、写真をTwitterやInstagramにアップして、インターネットを通じて世の中に情報を知らしめて戦うという人たちも増えています。
そのため、会社は、クレームを付けてきた相手=1個人だけを相手に危機管理の方法をして、クレームを言い出した人を納得させること、あるいは不当な要求を黙らせることに成功しても、インターネットを通じて情報を知って騒いでいる社会・消費者の声を抑えることができなければ危機管理の手法としては片手落ちということになっています。

ブログや2ちゃんねるなどの掲示板全盛期の頃と、SNS全盛期の今では、企業にとってのリスクは桁違い

SNSが登場する以前のブログや2ちゃんねるなどの掲示板が全盛の2000年代は、クレームを付けてきた相手が「ネットに書くぞ」と言っていても、企業側は「書いて欲しくはありませんが、止めることはできないので、書かれても仕方がありません」で対応することでも十分な対応でした。
これは、例え、ブログや2ちゃんねるに不平・不満を書かれても、2ちゃんねるやブログの場合には自分から情報を見に行こうとしなければ、投稿された内容を目にすることはありませんでした。
よほど盛り上がらない限り、投稿された内容が多くの人の目に触れることはなかったからです。
わかりやすく言えば、企業にとってはリスクがそれほど大きくなかったからです。

しかし、スマートフォンの普及率が高く、Twitter、Instagram、FacebookなどのSNSにが全盛期を迎えている2010年代の今は、クレームを言っている個人が簡単にスマートフォンで写真を撮り、それをSNSにアップし、かつ、SNSを通じてリツイートやシェアといった形で情報が拡散することが容易になりました。

情報の拡散が容易ということはどういうことかというと・・・・

SNSの利用者は、自らが積極的に情報をとりに行こうとせず、情報を受け身で待っているだけでも、自分が利用しているSNSのタイムライン、フィードに情報が流れてくる。
さらに、情報を流す人は一人とは限らない。
自分がTwitterでフォローしている人の中の複数、Facebookの友達になっている人の中の複数が情報を流すかもしれない。
SNS利用者は、受け身でも、企業の不祥事情報、例えば、食品の異物混入の情報を見逃すことなく、受けとることができる。
しかも、その受けとった情報を、リツイートやシェアの形で、バケツリレーの如く、自分のフォロワーに容易に知らせることができる。

こうした手順で情報がどんどん拡散していくのです。
この結果、不安や不満を持つ社会・消費者が声を出すようになるので、企業はそこにも対応しなければならない。
つまり、SNSの存在が、企業が危機管理対応をしていく中で、リスクの要素として大きなものになっているのです。

危機管理の王道的手法に、プラスアルファが必要になっている

企業は、今までの王道的な危機管理の方法論をリニューアルしていく必要があります。

「王道的な危機管理の対応だと、次は相手はこう出てくる。これにはどう対応したらいいか」
「クレームを付けてきた相手に対応するだけではなく、社会・消費者の声を抑えるためにはどうしたらいいか」

ここまで念頭に置く必要において対処しなければならないのです。

前者は、シミュレーションをどれだけできるか、ということでもあります。
従来のマニュアルをベースに、もう一歩先、二歩先まで考える。
頭を使えばできるはずです。

後者は、危機管理広報の体制を整え、何を広報していくかを考える、ということです。

詳細は、また別の機会に説明したいと思います。

ベネッセホールディングス事件に見る個人情報漏えい時の企業のあるべき対応

ベネッセホールディングスでの個人情報漏えい

7月9日、ベネッセホールディングスで、お客様情報約760万件が漏えいし、その数は最大で約2070万件に及ぶ可能性があることが発表されました。

「このたび、ベネッセコーポレーション(以下「弊社」といいます。)のお客様情報約 760 万件が外部に漏えいしたことが確認されましたので、ご報告申し上げます。お客様情報が漏えい
したと思われるデータベースに保管されている情報の件数から推定すると、最大約 2,070 万件のお客様情報が漏えいしている可能性があります。」
(ベネッセホールディングス、2014年7月9日付プレスリリースより)

今回は、この件を通じて、企業が個人情報を漏えいした場合の対応について考えてみます。

個人情報漏えい時の企業内で行うべき対応については、過去に一通り書いたことがありますので、そちらもあわせてご確認ください。

個人情報漏えい時の対応でもっとも重要なことは、お客様の不安感を払拭すること

企業が個人情報を漏えいしたことについて対応する際、念頭に置いておくべきことは、お客様の不安感です。

その企業のお客様の誰でもが、次のような思いを抱きます。
担当者自身が「自分が個人情報を預けた立場」になって考えてみればわかるはずです。

  • 「私の個人情報が漏えいしたのではないか?」
  • 「どんな個人情報が漏えいしたのだろう?」
  • 「漏えいした個人情報は回収できないのか?」
  • 「いったい、これから私の身に何が降りかかるのだろう?」
  • 「会社として責任はどうとるつもりなのか(怒)」

そうだとすれば、企業としては、こうしたお客様の不安感を拭い去るように対応をしていかなければならない、ということになります。

その意味で、ベネッセホールディングスのプレスリリースが冒頭で「お客様をはじめとする皆様に、多大なご心配・ご迷惑をおかけいたしますことを、深くお詫び申し上げます。」と謝罪していることは、事件の本質を理解した謝罪文であると評価できます。

漏えいした個人情報の内容と範囲を特定する

「私の個人情報が漏えいしたのではないか?」「どんな個人情報が漏えいしたのだろう?」という不安を払拭するためには、漏えいした個人情報の内容と範囲を特定する必要があります。

ベネッセホールディングスのプレスリリースの内容

ベネッセホールディングスのプレスリリースでは、「漏えいしたお客様情報」と題して、次のように、漏えいした個人情報の内容と範囲を特定しています。

<該当するお客様>
現在、漏えいしたと考えられるのは、弊社が提供する通信教育サービス等のお客様に関する情報約 2,070 万件、うち、漏えいが確定している情報は約 760 万件です。該当する情報は別紙に記載するサービスをご利用いただいている(または過去ご利用いただいていた)お客様の情報です。

<漏えいが確認されている情報項目>
漏えいしたことが確認された情報項目は以下の通りです
 郵便番号
 お客様(お子様とその保護者)のお名前(漢字およびフリガナ)
 ご住所
 電話番号(固定電話番号または携帯電話番号)
 お子様の生年月日・性別
クレジットカード番号・有効期限、金融機関の口座情報、成績情報など上記項目以外の漏えいは確認されておりません

また、今般のお客様情報の漏えいは特定のデータベースからのものであり、漏えいしたリストを入手しデータ内容を調査した結果、別紙記載の商品・サービス以外のお客様情報を保管しているデータベースには、異常がないことを確認しております。

漏えいした個人情報の数の最大可能性を最初に摘示したことの重要性

ベネッセホールディングスのプレスリリースは、まず「お客様に関する情報約 2,070 万件、うち、漏えいが確定している情報は約 760 万件」と、最大数と確定数を両方記載しています。
これは、2070万件以上は漏洩していません、ということで、お客様を安心させるために必要な記載です。

もし、この記載がなく「漏えいが確定している情報は約760万件」とだけリリースして、後日になって、「約760万件以上の個人情報が漏えいしていることが発覚しました。実は1000万件でした」「さらに調査したら、約1500万件漏えいしていました」「いや実は・・・」などと訂正を繰り返したら、どうでしょう。
お客様は「もっと漏えい件数が増えるのではないか?」と不安になります。
そうした不安を抱かせないためには、最初から「最大で○○件の可能性」ということを明示していたほうが、事態は早期に収束しやすいのです。

漏えいした個人情報は、どのサービスを利用したお客様なのかを摘示することの重要性

あわせて、ベネッセホールディングスのプレスリリースでは、「該当する情報は別紙に記載するサービスをご利用いただいている(または過去ご利用いただいていた)お客様」「別紙記載の商品・サービス以外のお客様情報を保管しているデータベースには、異常がないことを確認しております」と記載し、どのサービスを利用したお客様の個人情報が漏えいした可能性があるということを明言しています。

これもまた、これ以外のサービスしか利用していないお客様は個人情報が漏えいしていないから安心してください、というメッセージを伝えるものです。

漏えいした個人情報の内容を特定することは、最重要

しかも、ベネッセホールディングスのプレスリリースは「漏えいしたことが確認された情報項目は以下の通りです」「クレジットカード番号・有効期限、金融機関の口座情報、成績情報など上記項目以外の漏えいは確認されておりません」と、漏えいした個人情報の内容を特定しています。

これによって、「もしかしたら、クレジットカードが悪用されるのではないか」「金融機関の口座からお金を抜かれるのではないか」「子どもの成績が表に出てしまうのではないか」などという不安を払拭することができます。

個人情報を漏えいしたということで生じるお客様の不安を一つずつ取り除いていく。
そのためには、こうした個人情報の内容の特定というのは、意味があることです。

ベネッセホールディングスでの個人情報漏えい対応の最大の特徴=Webサイトの最大活用

これまでの個人情報漏えい事件でも、企業のWebサイトに個人情報漏えいについての情報を掲載することは行われていました。
ただ、今回のベネッセホールディングスの場合、過去の個人情報漏えい事件とは比較にならないほど、Webサイトが充実していることも特徴です。
これは、ベネッセホールディングスが B to C を業態とする会社であり、一般消費者に向けての情報発信を怠れば、企業としての信頼を失う可能性が高いということからではないかと推察できます。

企業Webサイトのトップページの頭に、個人情報漏えい事件についての専用ページへのリンクを掲載

ベネッセホールディングスでは、会社の公式サイトのトップに、個人情報漏えい事件についての専用ページへのリンクを掲載しています。

Benesse  ベネッセグループ

赤く囲ったのは私が注釈したものです。
謝罪と専用ページへのリンクがわかりやすく掲載されているのは評価されて良いと思います。

プレスリリースをわかりやすく構成し直し、問い合わせ窓口も掲載

次いで、専用ページを訪問すると、プレスリリースの内容を一般のお客様が読んでもわかりやすくなるように、構成し直されています。
あわせて、問い合わせ窓口が赤囲みで掲載され、その赤囲みの中に、強調したいポイントも列挙されています。
※この赤囲みはベネッセホールディングスがしたものです

お客様に情報を伝えるというWebサイトに掲載することの役割を、よく理解した対応かと思われます。

ベネッセコーポレーションにおける個人情報漏えいに関するお知らせとお詫び(お問い合わせ窓口のご案内)

お客様からのよくある質問と回答のページ

さらに、特筆すべきは、「多く寄せられているご質問とその回答」のページの存在です。

大抵の場合、こうした良くある質問と回答(FAQ)のページが作られても、社内の目線で見た質問と回答だけで埋められていることが多いです。
しかし、ベネッセホールディングスの場合、お客様目線に立った質問と回答が数多く、しかも、日々、最新の質問と回答が追加掲載されています。

発表から日がない中で、ここまで充実させているのもまた評価されるべき点ではないかと思います。

多く寄せられているご質問

ブログ形式での日々の情報更新

そのうえで、「お客様へのご案内」「対策進捗」「プレスリリース」がブログ形式で、投稿されるようになっています。
正直、これらの内容は重複する部分もあるので統合してしまってもいいような気もしますが・・・。
とはいえ、ブログ形式、つまり、最新の情報が常に一番上に来るように情報がアップされているのは、他の企業では見られなかったパターンではないかと思います。

他の企業にとっては、危機管理対応として参考になる

今回のベネッセホールディングスのプレスリリース、Webサイトの作り込み方は、他の企業にとっても、事件・事故対応、危機管理対応として非常に参考になるものです。
役員間、総務・広報の各部署では、他社事例の分析として社内共有しておくべきかと思われます。

私が企業不祥事広報のセミナーなどでお話ししている内容がほとんどすべて網羅されている、という点でも、私の目から見たら十分な対応をしているなと感じます。
私に仕事振ってくれれば、もっと良かったのですが・・・。私の日常的な仕事は、こういう対応策の提案・助言ですので・・・。

二重価格表示のルール。許される二重価格表示、許されない二重価格表示。

二重価格表示の目的は、お得感を出すため

小売店に限らず、商売をするにあたって、商品やサービスの価格表示は不可欠です(今、このサイトはリニューアル途中で相談料を表示してません。「時価」というわけではありません。お問い合わせ下さい)。
消費者からしてみれば、商品やサービスを購入するに当たって、気になるのは価格です。
売り手からしてみたら、真逆で考えることになります。
「この価格で、この商品やサービスが手に入るならお得でしょ。じゃあ、いつ買うの? 今でしょ(古っ)」と持っていきたい。
「なるべくお得に見せたい」という意思が、もっともわかりやすく現れるのが「価格」の表示方法です。

元々1000円のものを「1000円」と価格表示する。
あるいは、「2000円」のものを「50%引き」と並記して「1000円」と価格表示する。
これに問題がないことは、誰にでもわかります。

ただ、本来なら1000円のものを「1000円」と価格表示してしまったら、消費者にお得感を与えることはできません。
その一方で、本来なら1200円のものを「1200円」と表示したうえで取り消し線を引き「1200円 → 1000円」と価格表示する場合には、消費者には「200円安くなったのか」とお得感を与えられます。
こうした表記を「二重価格表示」といいます。

不当な二重価格表示

この二重価格表示に関して、昨年から、いくつか報道がなされています。

「楽天は傘下の楽天イーグルスが日本シリーズを制したことを受け、星野仙一監督の背番号にちなんだ77%引きなどの特別セールを実施していた。ただ一部店舗が楽天社内の審査を経ずに優勝セールと銘打って、元の価格をつり上げて77%引きしたようにみせかけていたことが判明。」(日本経済新聞2013年11月12日朝刊より)

社員18人がインターネット通販「楽天市場」の出店者である28事業者に通常価格を引き上げ、割り引きしているような不当な価格表示を提案していた」(日本経済新聞平成26年4月26日(土)朝刊より)

要するに、本来なら1000円のものを、たとえば「1500円」と引き上げて表示したうえで、「○%引き」として「1500円 → 1000円」と価格表示していたことが、不当な二重価格表示であると問題になっています。
消費者にとって、本当はお得ではないのに、お得であるように感じさせるために、価格表示に細工をした。
極端に言えば、消費者を騙したのと同じということで、不当とされているのです。

「価格表示ガイドライン」が二重価格表示のルール

許される二重価格表示、許されない二重価格表示を二分するルールとなっているのが、公正取引委員会が公表している「価格表示ガイドライン」です。
教科書的な話しをすると、二重価格表示は、大きく分けると、5つのルールで規制されています。

同一性のある商品と比較しなければならない

最近は、アウトレットモールがあちこちにできています。
アウトレットモールで売っている商品は、傷もの、汚れ物、型落ち品です。
最近は、アウトレット用商品というものも製造、販売されているようです。
この場合に、アウトレットモールで取り扱っている傷もの、汚れ物、型落ち品がお得であるかのように見せるために、デパートや路面店で販売している新品の販売価格と比較して二重価格表示をすることは、許されるでしょうか。

アウトレットモールのように、傷もの、汚れ物、型落ち品であることが消費者に明らかになっていれば、新品の販売価格と比較して価格表示をしても、許される二重価格表示と言えましょう。
この場合には、消費者もあらかじめ傷ものなどであるから安いのだと理解しているからです。

しかし、これが、あたかも新品であるかのように販売している量販店で、実は取り扱っている物が傷もの、汚れ物、型落ち品である場合は、新品の販売価格と比較して価格表示をすることは、許されない二重価格表示ということになりやすいです。
消費者が傷もの、汚れ物、型落ち品と認識していないので、量販店のほうが安くてお得だと誤解しています。この場合には、消費者を騙していることになります。なので、許されない、ということです。

要するに、違う商品と比較して二重価格表示をする場合ことは許されない、というルールです。
これが、第1のルールです。

「当店通常価格」「セール前価格」の表示には8週間ルールがある

4月、5月は「新入生・新社会人応援セール」などが行われます。これからの時期は「クールビズ応援セール」「サマーセール」なども行われます。
そうしたセールでは「当店通常価格より○%引き」「セール前価格10000円 → セール 8000円」などと表示することがあります。
この場合、「当店通常価格」「セール前価格」とは、どの価格のことを指すと思いますか。
たとえば、セール期間の2週間前だけの平均価格でいいのか、それとも1週間その価格で売った実績があればいいのか、という問題です。

ここについて、価格表示ガイドラインでは、セール開始時から遡って8週間以上前から販売されていた商品については、

  1. 直近8週間の過半を占め、
  2. 通算して2週間以上その価格が表示されていて、かつ
  3. その価格で販売されていた最終日から2週間が経過していない場合は、その価格を比較の対象にして二重価格表示できる、としています。

8週間以内にしか販売していない商品については、

  1. 販売期間中の過半を占め、
  2. 通算して2週間以上その価格が表示されていて、かつ
  3. その価格で販売されていた最終日から2週間が経過していない場合を、その価格を比較の対象にして二重価格表示できる、としています。

ちょっと、いや、かなり、わかりにくいですね・・。
いくつかパターンを例示して、もう少し噛み砕きます。

  • 8週間以上前から1200円で売り続けていて価格に変化がなかった場合は、セール時に1000円で価格表示をして、1200円に比べて200円安いと表示しても問題はないことはわかると思います。
  • 8週間以上前から1200円で売られていた。セール開始時から8週間遡ったうち3週目までは1200円で売っていた。しかし、その後の5週間は1100円で売っていた。
    この場合、セール時に1200円と比較することはできません(1200円で2週間売った実績はあります。しかし、1200円の値付けが8週間の過半を占めていない。最後に1200円で売ってから2週間以上経過している。)。しかし、1100円と比較することはできます。
  • 8週間以上前から1200円で売られていた。セール開示時から8週間遡った5週目までは1200円で売っていた。しかし、その後の3週間は1100円で売っていた。
    この場合、セール時に1200円と比較することはできません(1200円の値付けが8週間の過半を占め、2週間以上売っていた実績はあります。しかし、最後に1200円で売ってから2週間以上が経過している。)。また、1100円と比較することもできません(2週間以上売り、直近2週間売っていた実績はありますが、8週間の過半を占めていない。)。
  • 8週間以上前から1200円で売られていた。セール開始時から8週間遡ったうち、途中で3週経ったところで2週間品切れを起こした。しかし、品切れ前後の6週間(各3週間)は1200円で売っていた。
    この場合、セール時に1200円と比較することはできます(1200円の値付けが8週間の過半を占め、通算で2週間以上売っていた実績があり、最後に1200円で売ってから2週間は経過していない)。
  • 8週間以上前から1200円で売られていた。セール開始時から8週間遡ったうち、最初の2週間は1200円で売っていた。その後の5週間は1150円で売っていた。最後の1週間は1100円で売っていた。
    この場合、セール時に1200円、1100円と比較することはできません。しかし、1150円と比較することはできます(1150円の値付けが8週間の過半を占め、2週間以上売っていた実績があり、最後に1150円で売ってから2週間は経過していない)。

これが第2のルールです。

将来の価格との比較、公になっていない価格との比較

第3と第4のルールはわかりすいです。

第3のルールは、「将来、○○円にする予定。今なら、○○円なのでお得」と、根拠のない将来価格と比較して二重価格表示することは許されません。
消費税が5%から8%にアップするというような、将来価格が確実に上がる根拠がある場合には許されます。

第4のルールは、公になっていないメーカー希望小売価格との比較は許されません。
たとえば、商品のカタログやパンフレットにメーカー希望小売価格が掲載されている場合には、そのメーカー希望小売価格との比較をして二重価格表示することは許されます。

同業他社との販売価格を比較した二重価格表示

第5のルールは、同業他社の販売価格との比較という、よくあるケースです。

「地域最安値!他店平均○○円のところ、当店では○円」という表示をよく見かけます。
たとえば、「他店○○円」が実際よりも高く価格表示することは許されません。

また、商圏が異なる店舗との価格の比較も許されません。
最近のネット通販の場合には、商圏というと、楽天市場内の他店舗、Yahoo!ショッピング内の他店舗、Amazon内の他店舗との比較になるかもしれません。
ネットのショッピングモールの場合には、価格の比較も簡単にできてしまうので、「楽天内最安値」とか「楽天内割引率最大」などと表示を煽っても、あまり意味はないかもしれませんが・・。

詳細は、ここに書いた事例を参考にしながら、ぜひ、価格表示ガイドラインで、一度確認してください(ガイドラインは、ここまで噛み砕いていません)。

小売店、ネット通販で不当な価格表示と言われないための対策

さて、楽天の話しに戻します。
楽天のケースでは、楽天市場に出店している店舗にアドバイスをする立場にある社員が、通常価格を引き上げて表示するように提案していたということが、不当な二重価格表示に至った根本の原因です。提案を受け容れた出店店舗側にも問題はありますが、主たる要因は、提案した楽天側になるように思えます。

このケースを見て、他の小売店、ネット通販の企業は、何をすればいいのか。
そもそもの話しをしてしまえば、そこまでしてお得感を出さないと買ってもらえないような商品やサービスなら取扱いを止めたらどうか、と思います。
ただ、それを言ってしまうと身も蓋もないので・・。

現実的には、まず、価格表示を含め、宣伝文句などの表示についてのルールを今一度おさらいしておくべきです。
ネット上でショッピングモールを開いている企業は、出店する店舗にルールの存在を知らせ、内容を理解させることまで必要だと思います。

表示についてのルールは景品表示法という法律と、公正取引委員会・消費者庁が所管するガイドラインに細かく決められています。
このルールをルールのまま伝えても効果はありません。条文だけ読んでも法律の意味がわからないのと同じです。
こういう表示をすることは許されない、こういう表示をすることは許される・・・と、具体的な事例をベースに説明していくしかありません。

社内で難しければ、社外に依頼するのも手です。
私自身、そういうガイドブックや社内研修やってますので、ぜひ、どうぞ(宣伝)。

日本でクラスアクション(消費者集団訴訟)は起きるのか?企業の対策は?

クラスアクション(集団訴訟)が提訴されるきっかけ

お店でデジカメを買ってきて、写真を撮ってみたら黒い点が写っていた。
そんな場合、デジカメを買った人は、カメラメーカーに対して文句・クレームを言う。デジカメの交換や無償修理を要求する。
これは、容易に想像できます。

しかも、デジカメで撮った写真が、一生に一度しかない記念写真、たとえば子供が生まれた、七五三、入学式、卒業式、結婚式といった場面での記念写真だったのに、そこに黒い点が写っていた。
こうなれば、感情的には、単にクレーム、カメラの交換、無償修理で済む話ではありません。
一生の思い出の瞬間が、デジカメのせいでお釈迦にされた訳ですから、その瞬間の思い出を返せ、お金を支払え、ということになるかもしれません。

アメリカでの日本企業へのクラスアクション(集団訴訟)

アメリカの場合、こうした事態が発生すれば、デジカメを購入した人が企業を訴えることができます。
しかも、一人では請求する金額が小さくて、訴訟にかかる費用のほうが企業から支払ってもらえる額より大きいようなときには、一人で訴えるのではなく、デジカメを購入して同じような症状に悩んでいる人たちで集団で訴えることができます。
これが、アメリカの「集団訴訟(クラスアクション)」と呼ばれるものです。

実際にも、今年に入ってから、ニコンやトヨタがアメリカで集団訴訟を提起されたことが報道されています。

米国でニコンのデジタルカメラを購入した消費者がこのほど、製品の欠陥と不当表示を訴え、同社に損害賠償などを求める集団訴訟(クラスアクション)をカリフォルニア州北部地区連邦地裁に提起した。購入者側は同州の消費者救済法や不正競争防止法などに違反していると主張している。」(日本経済新聞平成26年3月10日(月)朝刊より)

米国でトヨタ自動車の車を購入した消費者らがこのほどエンジン関連の欠陥を訴え、同社に損害賠償などを求める集団訴訟(クラスアクション)をカリフォルニア州北部地区連邦地裁に提起した。購入者側は同州の消費者救済法や不正競争防止法などに違反していると主張している。」(日本経済新聞平成26年4月28日(月)朝刊より)

日本版クラスアクションの特徴

では、日本で、アメリカのように消費者たちが集団になって企業に訴訟提起することはあるか?といえば、答えは「ある」です。

ただし、日本の場合、消費者たちが集団になって企業に訴訟を提起しても、裁判所は、消費者一人ひとりについてバラバラに損害賠償請求を認めるかどうかを判断していきます。
そのため、アメリカのような「集団訴訟」というものとは、少し違います。

このように説明すると「日本にもクラスアクションが導入されたと聞いた。アメリカのように集団訴訟が起きるのではないか」と質問される方もいます。

しかし、日本に導入されたクラスアクション、消費者集団訴訟(消費者の財産的被害の集団的回復のための民事手続)は、アメリカの集団訴訟とは異なります。また、従来、日本で行われていた、消費者たちが集団になって訴訟提起して、消費者一人ひとりについてバラバラに判断するという制度とも異なります。

日本版クラスアクション(集団訴訟)を提起できる人は限られている

日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)では、企業を訴えることができるのは、「特定適格消費者団体」という認定された団体に限られます。消費者が自ら企業を訴えることはできないのです。
そのため、入口のところでスクリーニングがかかります。
企業にクレームを持つ消費者たちや、企業からお金を取りたいと考える消費者たちから、やたらめったらと訴訟を提起されるわけではないのです。
ここが、アメリカのクラスアクションとの最大の違いです。

日本版クラスアクション(集団訴訟)は利用場面が限られている

入口(訴えを提起できる人が限定される)が違う延長として、実際の手続も特徴的です。
第1に、日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)は、利用できる場面が限られます。
「企業から物を買う契約をしたけれど、いつまで経っても物を渡してもらえない。物をよこせ」「企業から物を買う契約をしてお金を払ったけれど、正当な理由があって解約した。お金を返せ」「物の欠陥のせいで物が壊れた。物の分の額を損害賠償として支払え」といった種類の訴訟に限定されます。
他方、「精神的に苦痛を受けたので慰謝料を支払え」「物の欠陥のせいで物が壊れるだけではなく、仕事にも影響が出た。仕事ができなくて失った利益を損害賠償として支払え」などの訴訟では利用することができません。

日本版クラスアクション(集団訴訟)の第1ステップは「権利の存否」

第2に、日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)は、消費者が集団になって訴えるわけではなく、特定適格消費者団体が訴えることの結果として、訴訟は、まず、第1に書いたような内容の訴訟で企業に金銭請求権があるかなど、権利の存否がまず争点になります。

日本版クラスアクション(集団訴訟)の第2ステップは「債権届」

第3に、日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)は、権利が存在するとの判断が下ってから、訴訟した特定適格消費者団体は、同じ状況にあった消費者を、一定期間内に募り、債権届けを出してもらいます。インターネットなどを利用して集めます。訴えられた企業側も届け出る消費者を募らなければなりません。
そうして集まった消費者からの債権届けを、裁判所に提出するのです。
その後、企業は、届けられた債権ひとつひとつについて、「認める」「認めない」の判断を下していきます。

これが日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)の大きな特徴です。
アメリカとは、まったく色合いが違うということがわかっていただけるかと思います。

日本版クラスアクション(集団訴訟)に向けた企業の対策

このような状況を前提に企業側の対策を考えるとなると、大前提になるのは、消費者から訴訟されるような契約をしないことです。
ただ、それは、どれだけ注意をしていても不可避です。

企業側が特定適格消費者団体を同業同士で作ってしまい、なれ合いの訴訟をする、という禁じ手もあります。
これは、絶対にやってはダメです。企業がこのようなことをした瞬間に企業が社会的批判にさらされます。

「権利の存否」の争いに全力を注ぐ

実際には、特定適格消費者団体との訴訟で、上記のような事情を理由にした権利が消費者に存在するか否か(権利の存否)を争う部分に全力を注ぐことがすべだと思います。
ここで負けてしまえば、あとは、消費者をいかに集めるかというだけで、企業側の手を離れてしまいます。

 「権利の存否」の争いに必要なのは、契約締結過程等の記録

権利の存否を争う訴訟で企業側が勝つためには、企業と消費者との契約締結に問題はなかった、契約締結後も問題はなかったということを証明していかなければなりません。
そのためには、書面化または電子化されている「記録」「証拠」がすべてです。

契約締結過程で何が起きたのか、どんな勧誘の営業トークをし、どんな資料で説明・情報提供したか、消費者はどの程度理解していたか、理解したということが記録されているか、その後の物のやり取りに問題はなかったか、など、すべてを記録に残すのです。

契約を締結する動機が合理的である必要

「記録」「証拠」が揃っていても、契約の勧誘時から契約の締結、物の購入のプロセスが合理性を欠いていれば、そもそも、消費者の理解が劣っていることにつけこんで強制で買わせたのではないかという疑念が湧いてしまいます。
そのため、契約の勧誘時から契約の締結時だけではなく、消費者側の購入動機などがストーリーとして不自然ではないかまでも、確認しておく必要があります。

日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)に過剰反応をする必要はありませんが、今できることは、記録化・証拠化に加えて、上記として考えたストーリーとしての不自然さがないかといった定例的なチェックです。
たとえば、70代の独身の男性が、半年もしないうちに布団を4枚も5枚も購入することなどは、通常は考えられないです。
そのため、これが自然の取引であったというためには、独身の高齢者が布団をそれほど購入する動機があったかどうかなどを日頃から確認しておくことが必要です。

インターネット取引で「説明義務・情報提供義務」が尽くされたと言えるためには

ネット取引の危険性と特定商取引法というルールの存在

Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングを初めとした、ネット取引は便利です。
家でくつろいでいるとき、通勤・通学の電車に乗っているときなど、ちょっとした空き時間があれば「これ買っておこう」「これ申し込んでおこう」と、インターネットに接続して、物を注文する、チケットの予約をするなど、便利すぎです。
しかも、物によっては通勤する電車の中から注文したものが、お昼休みに職場に届いたりすることさえあります。スピーディに物を届くというのも魅力です。
こうした便利さやスピーディな魅力から、今ではネット取引は当たり前の存在になってきました。私もよく使います。

その一方で、ネット取引は、お店・企業側と消費者・お客様側とが対面することがありません
売る側も買う側もお互いに「どんなお店から買うのかわからない(実店舗の雰囲気を知らない)」「どこの誰に売るのかわからない(住所や名前を知っていても、見たことがない)」という危険性があります。

この危険性の最大の象徴が「詐欺」です。
「買ったのに、物が届かない」「物は届いたけど、ホームページに掲載されていた写真とまったく品質が劣る」「売ったのに、お金が払われない」「物を送ったけど、注文していないと拒絶された」などといったことが日常茶飯事です。
中には、お客様が「注文したのは間違いがない。しかし、物が届くまでの数日間で気が変わったから、やっぱり要らない」などと言い出すケースもあります。

こうした危険性が出現することを予防するために、特定商取引法という法律が定められています。
ネット取引は「通信販売」として、広告の表示方法・内容、誇大広告の禁止、お店側からの営業メールの制限、前払の場合にお店側からお客様側に書面を事前に交付する、申し込み撤回後(クーリングオフ後)の債務不履行の禁止、お客様が知らないうちに有料で注文したことになってしまう方法での取引の禁止などが規制されています。
詳しくは、こちらから。

ネット取引でも企業から消費者に対する説明義務・情報提供義務、消費者からの告知義務は重要

「詐欺」となるパターン以外でも、お客様が注文して物が届いた後になってから「そんな説明はホームページ上のどこにも書かれていなかった」「説明は書いてあるけれど、文章の意味がわかりにくい。それでは説明していないのと一緒だ」「説明は書いてあるけれど、大事なところが抜け落ちていて、そもそも説明されていない」などを理由に、返品を申し出たり、クレームを入れるケースも多々あります。

こうした事態は、なぜ起きてしまうのでしょうか。
対面販売ではないということだけが理由と言えるのでしょうか。

消費者が企業に対して告知義務違反にならない工夫

昨日の新聞、また先日の新聞に、次のような記事が掲載されていました。

(生命保険の申し込みに関して)「さらに10月からは健康状態に不安があり、自分の詳細な健康状態を「告知」する必要がある人でも、スマホを通じた申し込みが可能になった。通勤時や休み時間などにスマホで途中まで申し込み、自宅に帰ってからパソコンで申し込みを再開するような連動サービスも始めた。」
(平成26年4月24日(木)日本経済新聞夕刊より)

生命保険契約を申し込む時には、お客様が自分の健康状態を「告知」する告知義務を負います。
「3か月以内に医師の診察を受けていないか」「5年以内に7日以上の治療を受けていないか」などの質問項目があり、これに対して、申し込む側のお客様が回答する、という手続です。
保険勧誘員が「それくらい、告知しなくていいですよ」などと甘い言葉で誘って、死亡後に生命保険金が支払われなくて、生命保険の受取人である遺族などが訴訟を起こすケースが時々あります。

この記事は、生命保険契約をネット上で申し込むときに、お客様が健康状態の告知義務を負っている場合に、お客様が、スマホで途中まで申し込み、パソコンから申し込みを再開できる仕組みを紹介したものです。

これは、お客様が告知義務違反にならないような企業側の工夫と言えます。
スマホの狭い画面を見て時間に迫られながら申し込むことや、スマホの狭い画面で注意事項を見落としたまま申し込むことをを予防するという、企業側からお客様への配慮と捉えることができます。
その一方で、生命保険会社側が、後になって、お客様の遺族に「告知義務違反になるような勧誘をされた」と言われる口実を防ぐための、企業側の自己防衛策とも理解することができるかもしれません。

いずれにせよ、スマホ、パソコンのいずれの画面でも、お客様が告知義務違反にならないように、告知上の注意点を赤字で書いたり、告知を1画面ずつ行わせるなどの工夫をした方がよいかと思います。
対面ではないということは、企業側は、お客様が過って告知義務違反にならないように、お客様に配慮した万全の対策を講じていたといえる細心の注意を払わなければならないのです。

企業が消費者に対する説明義務・情報提供義務違反にならない工夫

もう一つ、次のような記事も掲載されていました。

国土交通省は24日、不動産の売買や賃貸でネット取引の解禁を検討する有識者会議を開いた。不動産会社に義務付けている取引条件など重要事項の対面説明を、ネット通話で代替できるようにするのが柱だ。」
(平成26年4月25日(金)日本経済新聞朝刊より)

この記事は、企業側がお客様に取引条件など重要事項を、ネット通話を介する方法で対面でしなければならいことを報じています。

ネット取引は対面販売ではなく、スマホやパソコンの画面だけを見て取引できることが最大の特徴です。
そのため、企業側がスマホやパソコンの画面に、取引条件や重要事項を文章で注意書きしても、お客様がそれを読み飛ばしたまま、あるいは誤解したまま「同意する」などのボタンを押すことは頻繁に起こりえます。
たとえ、取引内容が不動産の売買のように高額な取引であったとしても、重要事項や取引条件を読み飛ばす、内容を誤解することは、容易に想定できます。

先ほどの生命保険契約の申し込みでは、「告知」という細心の注意を払わなければならない場面で、画面上の工夫をしたほうがよいということを書きました。
この不動産取引の記事は、さらに一歩進んで、画面上で工夫するだけではなく、取引条件や重要事項は画面上の注意点に留めるのではなく、ネット通話(たとえばSkypeとかfacetimeなどでしょうか)を通じて画面越しに実際に会話をしなければならないことを求めようとするものです。
会話をすれば、読み飛ばすということは絶対に防ぐことができます。
会話をして、情報を提供すれば、お客様が取引条件や重要事項を誤解したままで契約を申し込むことを防ぐことも可能です。
取引条件や重要事項というトラブルの要因になりそうな項目について、取引内容が不動産の売買、賃貸といった高額、継続的な取引である場合には、説明義務や情報提供義務に、慎重さをより求めたものということができます。

説明義務・情報提供義務を尽くしたと言えるための企業の対処・対応

さて、生命保険会社、不動産会社以外の事業を行っている会社は、この記事を読んで、「生保、不動産はネット取引大変だなあ」で済ませてはいけません。
この記事だけを見ても、自社の危機管理・リスクマネジメントに活かすことができるのです。

既にAmazonやYahoo!ショッピングなどにネットショップを開いている会社の場合には「自分たちのホームページに取引条件や重要事項を記載しているけれども、お客様に誤解を与えるような表現になっていないだろうか」「ホームページに取引条件や重要事項を記載しているけれども、お客様が読み飛ばすような程度の目にとまらない書き方や字の大きさ、記載位置になっていないだろうか」「ホームページに取引条件や重要事項を記載しているけれども、お客様に必要な情報をすべて提供していると言えるだろうか」などを考えなければなりません。
難しく言えば、ネットショップ上の表現から、会社としての説明義務を尽くした、お客様は読みとばすわけがない、お客様は誤解するわけがない、と胸を張って言えるかどうかを確認するということです。
そのうえで「問題があるな」と感じたら、ネットショップのホームページ上の表現を改善していく必要があります。
それによって、将来生じるかもしれないお客様との無用なトラブルを回避することができるようになるのです。
具体的には、5W1Hをはっきりした文章を書く。主語述語をはっきりした文章を書く。難しい専門用語や省略語を使わない。といったことが心がけるべき最低限のポイントです。

「面倒くさい」と考えて何もしないか、それとも「後々トラブルに巻き込まれた方が、対応のことを考えたら、もっと面倒くさい」と考えて今のうちに表現を変えるか。
この2つの記事を読んで行動に移せるかどうか、その企業の危機管理・リスクマネジメントの意識の程度が問われているといってもいいかと思います。