取締役・監査役への研修やっていますか?~コーポレート・ガバナンス報告書の提出期限迫る

「コーポレートガバナンス・コード」と「コーポレート・ガバナンス報告書」の提出期限

東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」が、平成27年6月1日から、すべての上場会社に適用されています。
名古屋証券取引所、福岡証券取引所、札幌証券取引所でも、同じようなコーポレートガバナンス・コードが適用されています。

上場会社は、この「コーポレートガバナンス・コード」に基づいて、「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければならない義務を負っています。

どうでもいいですが、「コーポレートガバナンス・コード」は「コーポレートガバナンス」と中黒なしで、「コーポレート・ガバナンス報告書」は「コーポレート・ガバナンス」と中黒ありと区別しているのは、なんででしょうね?

話が逸れました。
「コーポレート・ガバナンス報告書」は、平成27年6月1日以降に定時株主総会を開催した日から遅くても6か月経過するまでに提出しなければなりません。
3月31日を事業年度末としている上場会社の多くは、6月下旬に定時株主総会を開催したはずです。
となると、そこから6か月が経過する平成27年12月下旬までに「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければなりません。

「コーポレートガバナンス・コード」の特徴

ルールは自分で考えろ

「コーポレートガバナンス・コード」は法律ではありません。
そのため、「コーポレートガバナンス・コード」には、細かいルールは定まっていません。

「コード」、つまり、73個の原則を示し、「あとは自分で考えろ」というスタンスをとっています。
これを「プリンシプル・アプローチ」と言います。

社内でコーポレートガバナンスを徹底するため、わかりやすく言えば、取締役以下の上命下達の仕組み、取締役自身の規律維持、従業員からの報連相の仕組み、会社を支える株主との関係や投資家への情報開示は、自分の会社に合ったものを、自分たちで考えなさい、という大人の対応です。

守らないなら理由を説明せよ

「コーポレートガバナンス・コード」は国が定めたルールではありません。
あくまでも、東京証券取引所という組織が定めた規則に過ぎません。

さはさりながら、上場会社にコーポレートガバナンスを徹底させるための「コード」です。
そこで、「コードに従わないなら、従わない理由を説明せよ」というスタンスをとっています。
これを「コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)」と言います。

「自分たちは、コーポレートガバナンス・コードに従わなくても、コーポレートガバナンスが徹底している」と自負があるなら、説明してごらんなさい、という大人の対応です。

「コーポレートガバナンス・コード」では、取締役・監査役への教育・研修が求められている

「取締役・監査役のトレーニング」

「コーポレートガバナンス・コード」の内容の多くは、改正された会社法と重複しています。
しかし、改正会社法より踏み込んだ箇所も何点かあります。
その1つが「取締役・監査役のトレーニング」です。

「コーポレートガバナンス・コード」は、次のようように定めています。

【原則4-14】

新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担うものとして期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切に取られているか否かを確認すべきである。

注目すべき部分にアンダーラインを引きました。

1つは、取締役・監査役は、役割・責務に係る理解を深める、知識の習得や適切な更新等の研鑽に努める、との努力義務を課している部分です。
要するに、取締役・監査役は、自分の役割や責務を勉強せよ、ということです。
簡単に言えば、取締役・監査役は社内外での勉強会やセミナーに出席して勉強しなさい、ということです。

もう1つは、上場会社に、トレーニングの機会の提供・斡旋・費用支援を行う義務を課している点です。
要するに、上場会社が取締役・監査役が勉強する場を設けるか、費用を出しなさい、ということです。

さらには、取締役会は、取締役・監査役の勉強の状況を確認しなければならない義務を負っている点です。
社内外の勉強会やセミナーに出席したことについて、取締役会が報告を受けるか、取締役会で個々の取締役・監査役に勉強状況を確認しなければならない、ということです。

トレーニングのタイミング

こうした勉強が求められるのは、社内の取締役だけではなく、社外取締役・社外監査役も、です。
また、1回だけ勉強すれば、それで十分というわけではありません。

「コーポレートガバナンス・コード」は、次のように定めています。

【補助原則4-14①】

社外取締役・社外監査役を含む取締役・監査役は、就任の際には、会社の事業・財務・組織等に関する必要な知識を取得し、取締役・監査役に求められる役割と責務(法的責任を含む)を十分に理解する機会を得るべきであり、就任後においても、必要に応じ、これらを継続的に更新する機会を得るべきである。

ここでもアンダーラインを引きました。

勉強しなければならない取締役・監査役は、社外取締役・社外監査役も含まれます。
また、勉強のタイミングは、就任時と就任後と両方が求められています。

改正会社法の子会社・グループ会社の内部統制システムを考慮すると・・

改正会社法によって、内部統制システム(業務適性確保体制)の対象が、自社だけではなく、子会社含めた企業集団にまで拡がりました。
つまり、「コーポレートガバナンス・コード」に、会社法の改正内容を併せて読むと、親会社は、自社の取締役・監査役だけではなく、子会社・グループ会社の取締役・監査役にも、就任時と就任後の両方のタイミングで、勉強させなければならない、ということになります。

トレーニングの方針の開示

また、「コーポレートガバナンス・コード」は、取締役・監査役へのトレーニングの方針を開示することも求めています。

【補助原則4-14②】

上場会社は、取締役・監査役に対するトレーニングの方針について開示を行うべきである。

 

「コーポレート・ガバナンス報告書」には、取締役・監査役への研修を記載しなければならない

取締役・監査役への研修をまだ行っていないなら、急がないと提出期限に間に合わない

12月下旬までに「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければならない。しかし、取締役・監査役に対する研修を行っていない。
取締役・監査役に対する研修を行っていない場合には、「コーポレート・ガバナンス報告書」にて理由を説明しなければなりません。
単に「研修を行わなかった」では足りずに、「理由」の説明が求められているのです。
ここを見落としてはいけません。
「2015年は取締役・監査役に対して研修をしなかったけれど、日頃から取締役・監査役がこれこれこういうことを自主的に行ってコーポレートガバナンス・コードに沿ったコーポレートガバナンスを徹底できている」と説明できる会社は、それでもいいかもしれません。
他方で、「研修をしていない」会社、「研修をしなかったけれど、コーポレートガバナンスを徹底できている」とは説明できない会社は、至急で、取締役・監査役への研修を実施しなければなりません。

取締役・監査役への研修の実態

上場会社の皆さん、「コーポレートガバナンス・コード」に沿って、社外取締役・社外監査役を含む取締役・監査役、子会社・グループ会社の取締役・監査役に対して、組織についての知識習得や、役割や責務を理解するための研修を行っているでしょうか。

実際のところ、私の場合は、2015年に入ってから、グループ企業全体の取締役・監査役、さらには執行役員を含む役員一同に対しての集合研修の依頼を受けることが増えました。
また、研修対象としては、役員のほかに管理職も受講させる会社もあります。

では、具体的に、取締役・監査役に対してどのような研修を行った方がいいでしょうか。以下、テーマと誰がやるかについて補足します。

取締役・監査役への研修内容・テーマ

依頼される内容は、「役員が知っておくべき会社法の基礎知識」「取締役・監査役・執行役員の役割と責任」「ガバナンスに関わる会社法改正」が多い部分です。
「会社法の基礎知識」や「役割と責任」からスタートして、最近の企業に関するトラブルのトレンドに関するものを話すときもあります。
個別のテーマでは、個人情報の漏えいを筆頭とした情報管理、多重代表訴訟(特定責任追及の訴え)など役員が責任を負いやすい場合、取締役の監視監督義務違反が問われた裁判例、ハラスメントが多いです。
多くはありませんが、危機管理広報に注目して役員研修をする会社もあります。

取締役・監査役への研修を顧問弁護士以外の弁護士が行ったほうが適切な理由

顧問弁護士はいるけれど、あえて顧問ではない私に研修を依頼していただく企業が、ほとんどです。
顧問弁護士が研修したのでは、会社寄りになってしまい役員にとって厳しいことを言わない、という実態あるのだと思います。

また「コーポレート・ガバナンス報告書」に「外部からコンプライアンスや企業危機管理に詳しい講師を招いた」と記載しやすいからかもしれません。
その方が、投資家には、身内同士でお茶を濁したのではなく、キチンとした研修を行った、と見せやすいからかもしれません。

日本スチュワードシップ・コードとガバナンスコードって必要なの?

コーポレートガバナンスと日本版スチュワードシップ・コード

近時、「ガバナンス」という言葉が当たり前のように使われています。

「コーポレートガバナンス」という言葉を、経営者の責任を問う例がその典型です。
要するに、経営者、つまり取締役・監査役は、社内で不正が起きないような仕組み作りをしているか、不正が起きたときに対処できるな仕組み作りをしているか、ということです。

経営者=取締役・監査役は、株主に株主総会で議決権を行使して選任される立場です。
そこで、株主が、あらかじめ「こんな経営者なら支持する。こんな経営者は支持しない。」という方針を出しておく。
これが「スチュワードシップ・コード」と呼ばれるものです。

日本では、2014年2月に金融庁が機関投資家に向けて「日本版スチュワードシップ・コード」を発表しました。
日本版スチュワードシップ・コード

2014年8月末時点で160の機関投資家が日本版スチュワードシップ・コードの受入を表明したそうです(金融庁HPより)。

これは、結局のところ、経営陣に株主のことを意識しながら経営判断しなさい、ということを促すためのもの、という広い意味では「コーポレートガバナンス」に役立つと言えるでしょう。

日本版スチュワードシップ・コードの必要性への疑問

ただ、正直言って、これって本当に必要なものなのか?というのを素朴に感じます。

株式会社にとって株主はオーナーです。
そのオーナーは1人ではありません。ましてや、機関投資家だけではありません。
機関投資家が大量に株式を保有している大株主の一人であることは否定できません。
しかし、機関投資家以外の個人株主もたくさんいます。

金融庁の「日本版スチュワードシップ・コード」を発表し、機関投資家がそれを受け容れたからといって、経営陣は機関投資家だけを見ていればいいわけではありません。
機関投資家だけを見ていれば、たしかに、自分の取締役・監査役の地位は安泰かもしれません。
しかし、果たして、それで株主全体の利益を考えた経営判断ができるのか、という疑問は尽きません。

経営陣は、誰よりもその会社の業務の内容を知っている人たちです。
時には、自分の地位が危うくなっても機関投資家の意向に背く経営判断をしなければならない場合もあるでしょう。
そうしたときに、「日本版スチュワードシップ・コード」は、むしろ、適正な経営判断をしようとしている経営陣にとって足かせになりはしないかな、と危惧するのです。

たとえば、西武ホールディングスとサーベラスの関係。
報道を見ている分には、経営陣と投資家との判断がぶつかり合って、衝突しあって、それでも少しずつ前進している、というように見えます。
気概のある経営陣だからこそ、衝突する経営判断もできたのかもしれません。
これが日和見の経営陣だったら、いったい、どうなっていたのか。

要するに、日本版スチュワードシップ・コードとか、機関投資家には良いのかもしれませんが、経営陣にとっては余計なお世話ということになるのではないかと思うのです。

企業統治指針(コーポレートガバナンスコード)、ナニソレ?

日本版スチュワードシップ・コードとは別にもう一つ見逃せない動きがあります。
金融庁と東京証券取引所による「企業統治指針(コーポレートガバナンスコード)」の策定に向けた動きです。

「上場企業の経営規律を強化し収益力を向上させるための企業統治(コーポレートガバナンス)指針作りが始まった。金融庁と東京証券取引所が7日、有識者会議の初会合を開いた。論点になりそうなのは社外取締役の人数や企業同士の株式持ち合い抑制策。経済界には慎重な意見が多く、どこまで踏み込めるかがポイントになる。指針を来年6月までにまとめる。」(2014年8月8日、日本経済新聞より)

9月30日には3回目の有識者会議が行われるそうです。

会社法と会社法施行規則で内部統制(業務適正確保体制)について株式会社の動きをがんじがらめにし(財務面の内部統制にはさらに金融商品取引法もある)、さらに、法律でもなんでもないルールとして「企業統治指針(コーポレートガバナンスコード)」を作ってがんじがらめに輪を掛ける。

経営陣にガバナンスをしっかり徹底させて、不正をおこなわせないようにする、という基本的な考えには諸手を挙げて賛成します。

しかし、会社で不正が行われない仕組み作りをする、不正が行われたときの対処づくりを考える。
これは、本来、経営陣に任せて、その会社ごとにオリジナリティのある仕組み作りをさせればいい話です。
行政である金融庁や、上場会社に株式取引の市場を提供している東京証券取引所が考えることではないと思うのです。
率直に言えば、これも余計なお節介であり、会社経営の組織作りにまで行政が口を挟むな、と感じます。

もちろん、自分で考えられない経営陣(や、実際にルール作りをする法務/総務部門)にとっては、参考になると思います。
しかし、本当は、ここを自分の頭で考えてこそ、高い報酬をもらえる経営陣であり、ホワイトカラーで管理部門と呼ばれる人たちのはずです。
それを行政や取引所に任せるなんて・・・(以下、激辛になるので略)。

しばらく動向を見守りたいと思います

イオン監査役アカデミーの設置に見る、子会社管理

会社法改正による、取締役の子会社監督義務の拡大

2014年6月に成立した改正会社法は、取締役・取締役会の業務適正確保体制(いわゆる内部統制システム)の設置義務の範囲を拡大しました。

改正会社法では、自社の業務の適正を確保するための体制を構築するだけではなく、「子会社からなる企業集団」をも対象にして業務の適性を確保するための体制を構築することを取締役会に法的に義務づけたのです。

本来なら、親会社は、子会社にとって株主という存在です。
しかし、ビジネスの現場に即して言えば、「子会社からなる企業集団」の業務を管理監督していることが多いのも事実です。

例えば、

  • 親会社から子会社に役員を派遣して、子会社の業務内容を監督する
  • 子会社での重要な業務については、親会社の取締役会の決裁を得るか、親会社の取締役会に報告する
  • 極端な例では、子会社の実態が親会社の一事業部にすぎない

などがあります。

こうした背景を元に、「親会社は子会社の株主」という形式論に留めず、親会社の取締役・取締役会は子会社からなる企業集団の業務の適正を確保する体制を構築しなければならないことまでを法的に義務づけたのです。

親会社の取締役・取締役会は、子会社の業務が適正に行われているかを監督しなければならないという監督義務の対象が拡大したとも理解することができます。

「イオン監査役アカデミー」の位置づけ

他方で、監査役には、会社法が改正される前から子会社調査権がありました。
子会社に不正・違法行為がないかどうかを、親会社の監査役が調査する権限があるということです。

この改正会社法での取締役・取締役会の子会社に対する監督義務が拡大したことと、従来からの監査役の子会社に対する調査権の両方を踏まえた行動をとる企業も現れてきました。

「イオンは監査役候補者を社内で育成する機関「イオン監査役アカデミー」を設置する。アカデミーを修了した幹部人材を海外を含め260社以上ある子会社の監査役に順次配置する。グループ各社の不祥事や不正会計の芽を摘み、企業統治の強化につなげる。」(2014年9月13日付け、日本経済新聞朝刊より)

報道されている以上のことはわかりません。

ただ、この報道を見る限り、親会社の取締役・取締役会は自らが子会社を監督するだけではなく、自ら子会社を監督できる人材を育成し、そうして育成した監査役候補者を子会社の監査役として選任することによって、自らの子会社監督の補助にする、あるいは子会社の監査役として取締役・取締役会の意を汲んでもらい、目の届きにくいところを取締役・取締役会に変わって十分に監督してもらうといったことを狙っているのではないかと、推測できます。

こうした取り組みを行っている会社は聞いたことがないので、親会社による子会社監督のおもしろい試みとして、今後の動向が気になります。

「社外取締役の人材難・人材不足」は本当か?

社外取締役の増加傾向

9月2日の日本経済新聞が「社外取締役『複数』が8割」と報じていました。

「上場企業で複数の社外取締役を導入する会社が増えている。主要100社を調べたところ、社外取締役を2人以上置く企業は85社と8割を超え、5年前の57社に比べ1.5倍に増えた。」

「東京証券取引所の1部上場企業の中で、社外取締役を2人以上置く企業は全体の34%だったが、主要100社に限れば8割超が複数の社外取締役を置いていることがわかった。取締役全体の半分以上を社外で占める企業も12社あった。」(2014年9月2日付け日本経済新聞朝刊)

社外取締役が増えて、社外の声を取り入れる、経営に客観性を取り入れるということは、非常に意味があると思います。
この点については、別のエントリー(社外取締役の存在・役割は会社の業績にとって意味があるのか)で書いたことがあります。

社外取締役の人材不足は本当か?

「適正な人材が少ない」との声

その一方で、「社外取締役の人材不足」ということも報じられていました。

「社外取締役の導入が広がることで、1人が複数企業の社外取締役を兼務するケースも増えている。主要100社の社外取締役300人のうち、37人が2社以上を兼務し、5年前の18人から倍増した。」

「中央省庁の官僚出身者が社外取締役になるケースも増えている。主要100社のうち、事務次官経験者らが48人と5年前の3倍近くになった。財務省と経済産業省、外務省が多数を占める。

背景にあるのは人材不足だ。大手金融機関幹部は「適性な人材が少ない」と訴える。経団連幹部も「地方に本社を置く企業は1人でも人選に苦労している」と話す。このため社外取締役として実績がある学識経験者や官僚出身者に依頼が集中しているようだ。」(2014年9月2日付け日本経済新聞朝刊)

「適正な人材が少ない」「人選に苦労」そうした背景を理由に、「学識経験者や官僚出身者に依頼が集中」とのことだそうです。

本当に人材不足なの?

ただ、本当に人材不足なの?という疑問は感じます。
さすがに、主要100社のうち、37人が2社以上の社外取締役を兼務し、また、事務次官経験者が48人もいるというのは、異常事態ではないかと思うのです。

あくまで仮説・推測ですが、こうした状況になっている理由は、大きく分けて2つあるのではないでしょうか。

「顧問」「相談役」の代わりとしての社外取締役

1つは、自社の業界に関係する官庁、監督官庁出身者を社外取締役に据えることで、何かあったときに頼りにしたい、という理由。

従来であれば、業界に関係する官庁や監督官庁出身の官僚を顧問とか相談役という立場として採用していたものを「社外取締役」という会社で認められた役職に付けただけというケース。
これは、社外取締役の本来の機能=社外の声を会社経営に取り入れて業績向上に繋げるという機能とは真逆と評していいパターンです。

業界に関係する官庁や監督官庁出身の官僚であれば、頭の中には業界知識が溜まっています。
となれば、そうした官僚出身者から得られる叡智は、業界知識に基づくものになるはずです。
つまり、社外の声を聞いたとしても、結局目新しい発想や気づきはない可能性が高くなる。
結局、得られるものは、社外の声ではなく、現在の経営陣にとって耳障りがいい声。
社外取締役としての機能は果たさない、ということになってしまいます。

寄らば大樹

もう一つは、社外取締役候補者を自社で独自に選ぶだけの判断材料がないから、他の会社が採用した人を選んでおけば無難だろうという理由。

まったくもって保守的な姿勢での社外取締役の選任です。
「あの会社が社外取締役に採用しているから、この人なら無難=株主から異議も出ないだろう」
「有名人だから取締役の誰もが知っていて、社外取締役の候補者とすることについて経営陣から文句は出ないし、候補者を選んだ社内の部署としても責任を取らなくて済むだろう」
「まったく無名の人材を社外取締役に選任すると、社内決裁を経る段階で手間取る、株主総会で決議を得るのが難しい、大株主やメインバンクに理解を得るのが煩雑。だったら、無難な人を選んでおいた方が良いのではないか」

推測ではありますが、こうした企業は多いのではないでしょうか。
こうした企業に対する評価は、「所詮、そのレベル(本気で社外の声を取り入れようとは思っていない。そのために必死に人材を探すことまではしない。責任逃れしたい意向の方が強い。)の会社だよね」ということです。

社外取締役はまず選任して、必要な助言を得たら、どんどん交代させればいい

新しい人材を取り入れて、1年ないし2年の任期をまっとうさせてみる。

その結果、会社にとって利益がない社外取締役だった=目新しい指摘もなければ専門的な知見からの意見もなかった、というのであれば、任期満了とともに、また別の社外取締役に変える。
社外取締役だから重任しないことについて、しがらみもない。
だから、容易に変えやすい。

もしくは、任期中の経営課題とされていた部分に必要な助言をもらうことができたから、任期満了とともにお役御免し、また別の社外取締役に変える。
会社経営の「ゴルゴ13」的役割として、社外取締役を選任する。

そうすれば、社外取締役の人材も流動化するし、社外取締役側も緊張感を持つし、経験も積める。
社外取締役って、そういう扱いでいいのではないかと思うのですが、私の理解は間違っているのでしょうか。

コンプライアンス違反の通報・公益通報があった場合、会社はまずは受け容れて事実確認せよ

コンプライアンス通報窓口、公益通報者保護法の目的

2000年以降、「コンプライアンス」という用語が浸透し始め、多くの会社では、コンプライアンス通報窓口が設けられるようになりました。
2004年には公益通報者保護法が成立し、2006年4月1日から施行されています。

こうした背景には、社内の不正を告発した社員が会社によって冷遇される事例が相次いだことがあります。
冷遇というのは、告発したら配置転換され他に誰もいない地下室で勤務させられた、告発したら取引先からの契約を解約されたり取引先以外の同業他社も取引してくれなくなった、告発したら異動させられた、告発したら社長、上司や同僚から「どうして告発したのか」「裏切り者」などと詰め寄られたなど、いろんなケースがありました。

これでは、会社の中から不正をなくすことはできません。
まして、従業員が不正を発見したとしても、それを告発する余地がありません。
そこで、公益通報者保護法が成立したのです。

実例

今日、各紙で、エステサロンで労働基準監督署に深刻した従業員に対して社長による公益通報者保護法違反行為があった、労働組合に対する社長の圧力(不当労働行為)があったなどと録音された音声とともに報道されています
(日経は公益通報者保護法違反という観点から、朝日は不当労働行為という観点からの報道です。下線部ご参照)。

たかの友梨ビューティクリニック」を経営する「不二ビューティ」(東京)の従業員が加入するブラック企業対策ユニオンは28日、同社の高野友梨社長(66)から、組合活動をしていることを理由にパワーハラスメントを受けたとして、宮城県労働委員会不当労働行為の救済を申し立てた。」

「同ユニオンや弁護士によると、ユニオン側は今月22日、同社の仙台店に対し、仙台労働基準監督署が残業代の減額などの是正勧告をしたことについて会見する予定だった。そのことを知った高野社長は21日に仙台市を訪れ、仙台店の従業員15人や店長らを飲食店に集め、約2時間半にわたり持論を展開したという。

 同ユニオンが公開した当日の高野社長の言葉を録音したデータによると、高野社長は席上、組合に入っている女性を名指しして、「間違っているとはいわないけれども、この業界の実態をわかったときに、どうなんだろうか」と組合活動を非難した。さらに「労働基準法にぴったりそろったら、(会社は)絶対成り立たない」「つぶれるよ、うち。それで困らない?」などと問いただした。

 ほかの従業員にも「組合に入られた? 正直に言って」と組合員であるかどうかを確かめようとした。

 また、高野社長の名前で全国の店舗に対しファクスした文書を、店長に読み上げさせた。「社員数名が『ユニオン』という団体に加入し、『正義』という名を借りて、会社に待遇改善の団交を要求」「会社を誹謗(ひぼう)することは、自分のこれまで頑張ってきた道を汚すことだと私は思います」といった内容だった。」

(2014/08/29付朝日新聞Webサイトより)

 

「エステティックサロン「たかの友梨ビューティクリニック」の仙台店(仙台市)の女性従業員が28日、残業代を減額されたなどの問題を労働基準監督署に申告した行為を会社側が非難したのは公益通報者保護法などに違反するとして、厚生労働省に申し立てをした。

 女性が所属する労働組合が東京都内で記者会見して明らかにした。

 申立書や会見によると、経営する不二ビューティ(東京)の高野友梨社長が8月、仙台店の従業員を集め、女性が労基署に申告したことなどを非難。高野氏はその際「暴き出したりなんかして会社をつぶしてもいいの」と述べたという。」

(2014/08/29付け日本経済新聞朝刊より)

この報道の内容が事実かどうかは、私にはわかりません。
しかし、ここで報道されるような社長(会社)から告発者への対応がなされないようにするために、公益通報者保護法が定められました。
もし、これが事実なら、公益通報者保護法が定められた社会的背景を社長が理解していない、ということになります。

公益通報者保護法と現実の通報とのズレ

公益通報者保護法は、通報した者を保護するために定められた法律です。
しかし、公益通報者保護法も万全ではありません。

公益通報者保護法は「公益通報」をしたことによって不利益を課されない、と定めているものの、「公益通報」の範囲が狭すぎるのです。
平たく言えば、社内で、明確に法律違反ではないかもしれないけれど、「これってどうなの?」と何かしらの疑義があるにすぎない場合や、企業の社会的責任の観点からここは改善したほうがいいのではないか、として声をあげることは、「公益通報」に含まれないのです。

つまり、公益通報者保護法によって保護されない、ということになってしまいます。

しかし、現実に、通報窓口の仕事などを行うと、従業員の方からの通報の内容は、明確な法律違反を発見したという内容よりも、むしろ、法律違反かどうかは微妙(よくわからない)だけれども、企業理念や企業の社会的責任の観点からどうなの?という内容が圧倒的に多いのです。

もっといえば、明確に法律違反とわかっている通報よりも、こうした類の通報のほうが事実関係を調査してみたら、会社として大きな問題だった、通報された内容はその氷山の一角を従業員を見つけたケースだったということも多いのです。

そのため、従業員がこうした通報が積極的に、また身分を安心して通報できるようにするために、まずは、公益通報者保護法が改正されるべきです。

現実的には、まず社内ルールを見直し、コンプライアンス通報窓口には法律違反以外の通報も受け付けると門戸を広くしたうえで、こうした通報をした者に対しても会社は不利益を課してはならない、と定めておくべきです。

会社は通報を受けたら、まず事実確認・調査せよ

仮に従業員から通報があった場合に、上記で報道されたような形で社長が従業員や労働組合に圧力を掛けるのは最悪の対応です。
先に述べたように、通報内容が明確に法律違反ではない場合であったとしても、実は大きな不正の氷山の一角であったというケースも多々あります。
そのため、会社は、頭から通報を否定するのではなく、まずは、事実確認・調査を行うべきなのです。

そのうえで、事実が確認できないなら、通報者と連絡を取り合い、追加の情報を提供してもらい、事実確認を再度行う。
あるいは、事実無根であったなら、意図的に事実無根な通報をしたのか、それとも誤解に基づく通報だったのかを見極める。もし、意図的に事実無根な通報をしたというこであれば、そのときに、業務妨害という観点から通報者を処罰するかどうかを判断すればよいのです。

社外取締役の存在・役割は会社の業績にとって意味があるのか

昨日、「『完全』社外取締役」について一本書きました。
今日も引き続き、社外取締役の役割について書きます。

社外取締役の役割・存在意義についての疑問

社外取締役に関して、常について回る議論が

  • 「社外取締役に効果ってあるのか?」
  • 「社外取締役で会社の売上が上がるのか?」
  • 「社外取締役でガバナンスに効果は出るのか?」

というものです。

社外取締役の効果についての分析結果

今日の日経新聞に、この部分について、おもしろい記事が載っていたので紹介します。

社外取締役の存在・役割は業務改善に影響があるのか?

まず、1つめは、社外取締役が業務改善に影響しているか、という疑問への研究結果です。

「代表的なものの一つが、早稲田大学の宮島英昭教授が12年に発表した論文だ。
宮島教授は社外取締役のいる企業といない企業との間で、業績改善にどのような違いがあるかを測定した。
得られた結論は
(1)社外取締役が業績改善に結びつきやすい企業と、そうでない企業がある
(2)製品の独自性が低く、複雑な事業を持たない企業ほど、社外取締役の選任で業績が改善しやすい
(3)逆に、人材やノウハウといった無形資産を競争力の源泉とする企業は社外取締役の有効性に乏しい――など。」
(2014年6月29日日本経済新聞朝刊より)

この研究結果の中で、注目すべきは、(2)と(3)でしょう。

「製品の独自性が低く、複雑な事業を持たない企業」と「人材やノウハウといった無形資産を競争力の源泉とする企業」とを区別して、前者では社外取締役の存在・役割は業務改善に効果がある、後者では社外取締役の存在・役割は業務改善に効果はない、と結論づけています。

「製品の独自性が低く、複雑な事業を持たない企業」と「人材やノウハウといった無形資産を競争力の源泉とする企業」の区別は、この記事からはわかりません。

強いて考えるなら、前者は、事業内容がマニュアル的な企業=社長が「右向け右」と指示したら、あるいは指示しなくても、上意下達で、事業が進んでいく企業かもしれません。
企業ではなく事業単位で言えば、組み立て工場のラインや経理処理など一定的な処理が行われる事業が、ここに該当するかもしれません。

後者は、社長が方向性だけ示したら、個々の事業については従業員の裁量に委ねられている企業かもしれません。
これも事業単位で言えば、システムエンジニアのようにプログラミングをする事業や広報事業が、ここに該当するかもしれません。

従業員による横領の問題などが発生しやすい営業は、両者の側面を含んでいる事業かもしれません。

要するにここで申し上げたいのは、企業として業務改善を目的として社外取締役を選任する場合には、改善したい事業分野がどこなのか、その社外取締役を選任することが、その事業分野の改善に効果的なのか、候補者をピックアップする時に社外取締役に期待する目的・役割と期待する効果・機能を明確にしておかなければ社外取締役を選任する意味はない、ということです。

社外取締役の存在・役割はROE・配当性向の改善に効果があるか?

もう一つは、社外取締役を選任することで、投資家・株主が納得するような株式への影響が生じるか、という疑問への研究成果です。

「外国人投資家の関心の高まりに対応し、UBS証券の大川智宏ストラテジストは、自己資本利益率(ROE)や配当性向と社外取締役の関係を分析している。
それによると、社外取締役がいない企業といる企業とでは、ROEの改善度合いや配当性向の高さで、明確な違いが認められた。しかし、大企業に限れば社外取締役比率でROE改善率や配当性向に大差はなかった。」(2014年6月29日日本経済新聞朝刊より)

この分析結果では、「大企業に限れば・・大差はなかった」とあります。
ここでも、大企業がどれくらいの規模を想定しているのかは明らかではありません。

ただ、ここで重要なのは、「明確な違いが認められた」という部分ではないかと思います。

ROEは、(1株あたりの利益)÷(1株あたりの株主資本)、で算出します。
1株あたりの利益は、(当期純利益)÷(発行済み株式数)、で算出します
1株あたりの株主資本は、(株主資本)÷(発行済み株式数)、で算出します。
要するに、(当期純利益)÷(株主資本)、がROEということです。

何を申し上げたいかというと、増資でもしない限り「株主資本」が増えることはないわけです。
ROEを改善させるために増資をすることは、そうそうないはずです。
ということは、ROEが改善したということは、当期純利益が改善した=向上したということです。
簡単に言えば、売上が上がった、あるいは/かつ、当期経常損失が減少した、ということです。

純利益が上がらなければ、配当に回す剰余金は増えないのですから、配当性向が向上したというのも、背景は同じです。

それでは、社外取締役を選任したことで、売上がアップした、and/or経常損失が減少した理由は、何なのか?
社外取締役がいるかどうかによって、消費者や顧客が、消費活動を変える、取引条件や態様を変えるとは想像できません。
となると、会社の売上アップ、経常損失の減少は、社外取締役が社内に影響を与える役割・機能を果たしたからだと考えることができます。

たとえば、社外取締役が入ったことで取締役会で経営上効果的なアドバイスを得ることができたのではないか。
それとも、社外取締役が入ったことで経費管理に厳しい目が及ぶようになり、経費節減に厳しいメスが入ったのではないか。
このような社外取締役の役割・機能が、売上アップ、経常損失が減少した理由として考えられます。

もしこれらが理由だとすれば、社外取締役候補者を選任する場合に、取締役会で経営上効果的なアドバイスをしてくれる人なのか、あるいは経費管理に厳しい目を光らす人なのか。
こうした役割・機能を考えなければ、社外取締役を選任する意味がない
と言えます。

社外取締役=有名人ではダメ

ここまで見てきたとおり、社外取締役を選任する場合には、社外取締役の選任によって業務改善、あるいは、ROE・配当性向向上の何を期待するのか、その目的意識・役割を明確にしなければならないこと、また、その期待に応じた人選をしなければ、目的意識・役割と結果に齟齬が生じてしまうこと、を結論として出すことができます。

単に、元官僚とか、元裁判官、元検察庁、有名な経営者、取引先の経営者、社長と懇意にしている経営者や専門家であるとか、そういった外面だけで社外取締役を選んでも、その企業は社外取締役選任の効果は得られないということです。
「何かあったときに顔が利くだろう」という考えで社外取締役を選任しているのであれば、本末転倒ということです。
その考えで社外取締役を選任するのであれば、せいぜい、相談役か顧問に留めておくほうが無難ということです。

もしかしたら、社外取締役を選任しても「大企業では・・・大差はなかった」というのは、ここが要因になっているのかもしれません。

「『完全』社外取締役」を機能させるためのポイント〜2014年会社法改正

2014年6月株主総会での社外取締役の導入

2014年6月の株主総会が一通り終了しました。
今年の株主総会で争点の一つとなったのが、「社外」取締役の導入です。

今年の株主総会の結果、1部上場企業のうち、1人以上の社外取締役が導入された企業は74%に達したそうです。

「東京証券取引所によれば今年の株主総会で、1人以上の社外取締役を抱える企業は1部上場の74%まで高まった。社内の利害を超え、外部の視点で経営を判断する社外取締役の存在が、日本企業でも「標準」になってきた。これを最も求めているのが海外の投資家だ。」(2014年6月28日付日本経済新聞朝刊)

あれ、私のところには全然話が来てない・・・まだまだ私の不勉強故・・・もっと実績を重ねるしかないのであります。
見てろよ・・・。メラメラ。

私自身、過去に何社か社外取締役・社外理事に就任したことはあります。
たいていが社内で不祥事が起きた、社内で業務改革をしなければならない、そのために、社外の意見を聞こうという目的で私に声がかかったケースです。

私の性格から、初めのうちは静かにして状況や人間関係や性格を見定めますが、そのような目的で声を掛けていただいた以上、誰にも遠慮なく発言します(もちろん、発言の仕方や言葉選びには慎重にします)。
その結果、従来の雰囲気に馴染んだ役員や理事の方々とたいてい考え方が衝突します。
一部には理解を示してくれる役員、理事の方々もいらっしゃいますが、思いのほか、抵抗勢力は多い。

「ここまでやらなかったら、世の中の目は許してくれない」
「ここまで叩かれていることの本質は、ここにある。ここを解消しない限り、先には進めない」
「問題を起こした役員・理事の方々と一緒に働いていたから同情心があるのは仕方がない。しかし、ここは同情優先で動いてはいけない場面です」

これで衝突して1年経っても役員陣の考え方が変わらなければ、私から見限り辞任します。サヨナラ。サヨナラ。サヨナラ。
中には、理解を示してくれて、社外取締役ではなく顧問弁護士へ、というケースもあります。
また、不祥事改革、業務改革が終了して社外取締役の必要性がなくなったので、顧問弁護士の地位へ移行、というケースもあります。

ちょっと話がズレました。

何の話をしようとしたかったかというと、2014年6月に成立した改正会社法によって導入された「社外取締役」について、です。
「社外取締役」自体は、これまでの会社法にも存在しました。しかし、改正会社法によって導入されたのは、「社外」性の要件を高めた、いわば「『完全』社外取締役」と言って良いものかと思います(「完全社外取締役」という言い方はまだ一般化していません。あくまでここでの造語です)。

完全社外取締役に期待されていること

完全社外取締役に期待されていること

社外取締役に期待されていることは、取締役会での経営判断に社外の目を入れて、経営を厳しい目でチェックすること、でした。
しかし、実際には、監査役からの横滑り、ープ会社から横滑り、親族を導入した形だけの「社外」ということが多く、当初期待されていたような効果を残すことができなかった。
そこで、2014年改正会社法では、社外取締役の要件を厳しくしたのです。

完全社外取締役の要件

改正会社法のいう「社外」性の要件は、次の5つです。

  1. その会社・子会社の業務執行取締役等(業務執行取締役、執行役、支配人、使用人の総称です)ではなく、その就任前10年間、その会社・子会社の業務執行取締役等であったことがないこと
  2. 就任前10年間に一度でも、その会社・子会社の取締役、会計参与、監査役経験がある者(業務執行取締役等になったことがある者は除く)は、それらに就任する前10年間、その会社・子会社の業務執行取締役等であったことがないこと
  3. その会社の経営を支配する者、親会社の取締役、執行役、支配人、使用人ではないこと
  4. その会社の別の子会社の業務執行取締役等ではないこと
  5. その会社の取締役、執行役、支配人、重要な使用人、会社経営を支配する者の二親等以内の親族ではないこと

ちょっとややこしいですが、実務的に影響が多いのは、2と4ではないか、と思います。
2は、たとえば、10年以上前に従業員から監査役に就任(昇進? 法的には従業員退職+監査役選任なので昇進ではありませんが、社会的には昇進という意識が高いと思いますので、あえて昇進と書きます)した者は、横滑りで取締役になっても、社外取締役とはいえない、ということです。
4はグループ会社内で、別のグループ会社の役員が社外取締役にはなれない、ということです。
グループ会社内で役員をたすき掛けして相互に就任させたり、親会社から子会社に出向・転籍していた役員が、別の子会社の役員になっても、社外取締役とはいえない、ということです。

完全社外取締役であることが重要なのではなく、完全社外取締役として機能することが重要

社外取締役に期待されていることは、社外の目で経営判断を厳しくチェックするということです。
完全社外取締役に就任したのに、多忙を理由に取締役会に出席していないのは論外です。
実際にも、取締役会への出席率が低い社外取締役については、重任(再度の就任)への賛成比率が下がっているとの報道もあります。

「単に社外というだけでなく、その質に視線は向かい始めている。トヨタ自動車の場合、取締役会の出席率が7割弱にとどまる社外取締役への支持は8割を切った。」(2014年6月28日日本経済新聞朝刊より)

この現象を突き詰めていくと、今後、社外取締役を選任するときに、既に他の会社の社外取締役に就任している有名人、何社も社外取締役に就任している有名人は、候補者から外していくという方向で考えなければなりません。
社外取締役の重要な兼職情報は事業報告に記載することになっていますので(会社法施行規則124条2号)、兼職が多い社外取締役は、本当に機能しているのかどうかを確認される可能性はあります。

さらに言えば、社外取締役として出席しただけで何の発言もしない社外取締役は「経営判断を厳しくチェックする」という機能を果たしていないということで、支持率=重任への賛成比率が下がっていく可能性もありえます。
現時点でも、社外取締役の意見によって会社の事業方針や事業にかかる決定が変更されたときには、その内容を事業報告に記載することが求められています(会社法施行規則124条4号ハ)。
そのため、今後の株主総会では、株主から「社外取締役が発言したことで、経営判断に影響とまではいえなくても、議論が活発になったものがあるか」程度の質問が出て、完全社外取締役が機能しているかどうかを訊かれる可能性はあります。
それを想定したQAは準備しておいたほうがよろしいのではないでしょうか。

完全社外取締役を機能させるための工夫

完全社外取締役の機能を発揮してもらうためには、取締役会に出席するようになっただけでは不十分であり、取締役会で十分な発言をしてもらうことが重要です。完全社外取締役はお飾りではありません。

そのためには、完全社外取締役にも、取締役会前に十分な情報を提供しておくことが必要不可欠です。
完全社外取締役に会社の業務内容や人事情報(単に役職というのではなく人間関係や性格まで)を十分に知ってもらう必要はあるうえ、取締役会で議論しようとしている議題の内容についても、完全社外取締役に理解してもらうことが必要です。

そのためには、社内に完全社外取締役から取締役会の前後に質問を受けたり、完全社外取締役からの命を受けて動ける担当者を設けておくことは必須だろうと思います。
実際には、取締役会以外にも完全社外取締役と社長などが意見交換できる機会を設けたりすることも必須でしょう。

インデックス事件から有価証券報告書虚偽記載での取締役の責任を考える

インデックス、有価証券報告書虚偽記載(粉飾決算)の疑い

2014年5月28日、上場企業インデックス社の社長、会長が有価証券報告書虚偽記載の被疑事実で逮捕されました。

「両容疑者の逮捕容疑は、2012年8月期決算で、実際には最終損益が約6億円の赤字で約4億円の債務超過状態だったのに、約2億円の黒字で約3億9千万円の資産超過状態と虚偽の記載をした有価証券報告書を提出した疑い。関係者によると、同社は実際は取引をしていないのに、帳簿上商品の売買があったように見せかける循環取引の手法で、IT(情報技術)システムなどを取引先と仮装売買し、利益などをかさ上げしていたという。」
(2014年5月28日、日本経済新聞夕刊より)

虚偽記載をしたことについて、会長自らがメールで指示をしていたと、積極的な関与が報道されています。

関係者によると、落合容疑者は決算期末に業績が振るわないと、総務部の担当者に「数字が目標に足りないので対応するように」などとする内容のメールを送っていた。メールは複数回にわたり送信されたという。」
(2014年5月29日、日本経済新聞朝刊より)

会長が積極的に関与していたことが事実だと確定したわけではありませんが、もし事実だとすれば、会長は刑事責任(金融商品取引法違反)だけではなく、株主に対して損害賠償責任を負うことになることは必至です。

取締役が関与した場合の損害賠償責任の有無、額については、ライブドア訴訟(東京地裁平成20年6月13日、東京高裁平成21年12月16日、最高裁平成24年3月13日)、西武鉄道訴訟(東京地裁平成20年4月24日、東京高裁平成21年2月26日、最高裁平成23年9月13日、差戻し後の東京高裁平成26年1月30日)が参考になります。

では、取締役主導ではなく、部下が勝手に操作なり細工をして有価証券報告書の虚偽記載に至った場合、取締役の民事上の責任はどうなるでしょうか。
過去の裁判例から振り返ってみます。

取締役主導ではなく従業員が有価証券報告書虚偽記載をした場合にも取締役は責任を負うのか

従業員が架空の売上げを計上したことで、結果的に有価証券報告書の虚偽記載になってしまった場合でも、取締役は株主や会社に対して損害賠償責任を負わなければならない場合があります。

それは、従業員が架空売上の計上をすることができないように、取締役がリスク管理体制を整備していなかった場合です。

最高裁平成21年7月9日

この問題に関して、次のようなケースが存在しました。

事業部長が取引先からの注文書を偽造して、自社の財務部に、架空の売上を報告した。
しかも、監査法人と財務部が取引先に売掛金の残高確認書を送ったときに、営業マンが取引先を訪問し、取引先に残高確認書を開封させずに回収し、営業マン自らが残高確認書に虚偽の金額を記入して、取引先の印鑑も偽造して、監査法人と財務部に返信していた。
その結果、監査法人も財務部も架空の売上の存在を気がつくことができなかった。
・・というものです。

このケースについて、最高裁平成21年7月9日は、次のように判断しました。

本件不正行為当時,上告人は,①職務分掌規定等を定めて事業部門と財務部門を分離し,②C事業部について,営業部とは別に注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM課及びソフトの稼働確認を担当するCR部を設置し,それらのチェックを経て財務部に売上報告がされる体制を整え,③監査法人との間で監査契約を締結し,当該監査法人及び上告人の財務部が,それぞれ定期的に,販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し,その返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとしていたというのであるから,上告人は,通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていたものということができる。
そして,本件不正行為は,C事業部の部長がその部下である営業担当者数名と共謀して,販売会社の偽造印を用いて注文書等を偽造し,BM課の担当者を欺いて財務部に架空の売上報告をさせたというもので,営業社員らが言葉巧みに販売会社の担当者を欺いて,監査法人及び財務部が販売会社あてに郵送した売掛金残高確認書の用紙を未開封のまま回収し,金額を記入して偽造印を押捺した同用紙を監査法人又は財務部に送付し,見掛け上は上告人の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという,通常容易に想定し難い方法によるものであったということができる。
 
 また,本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど,上告人の代表取締役であるAにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない。 
 さらに,前記事実関係によれば,売掛金債権の回収遅延につきBらが挙げていた理由は合理的なもので,販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく,監査法人も上告人の財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから,財務部が,Bらによる巧妙な偽装工作の結果,販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し,直接販売会社に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても,財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない。 
 以上によれば,上告人の代表取締役であるAに,Bらによる本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない。 」

この裁判例のポイントは、「リスク管理体制が整備されていたか」という点と、その「リスク管理体制が機能していたか」という点を分けて、取締役のリスク管理体制構築義務違反の有無を判断していることです。

要は、

①リスク管理体制が整備されていなければ当然責任を負うし、
②仮にリスク管理体制が整備されていたとしても、その体制が機能していなければ、その場合にも取締役は責任を負う

ということです。

リスク管理体制を「機能させる」ための、取締役の責任

会社のお金の流れに不正が生じないように、リスク管理体制、平たく言えば、チェックできる体制を整えておくこと。
これは、今さら言うまでもなく、既に整備している会社が多いと思います。
特に、上場企業であれば、金融商品取引法で整備することが法的にも義務づけられているので、整備されているはずです。

そうだとすると、取締役の地位にある者にとって現実に重要なのは、リスク管理体制を「機能」させるためには、あるいは、何か問題が起きた場合であっても、リスク管理体制が「機能している(していた)」と第三者から評価されるようにするためには、日頃から何をしておけばいいのか(何をしておかなければならないのか)、ということです。

裁判例が指摘した3つのチェックポイント

上の裁判例を見ると、リスク管理体制が「機能」していたと評価されるためのポイントとして、次の3つを挙げることができます。

  1. 売掛金債権の回収遅延について従業員らが挙げていた理由は合理的なものといえるかどうか。
  2. 販売会社との間で過去に紛争が生じたことがないかどうか。
  3. 監査法人が財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたどうか。

もちろん、「機能」していたというためには、この3つだけをチェックしておけばよいというわけではないと思います。
上の裁判例では、この3つのポイントがあったというだけであって、取締役として、他にできることがあれば、やっておかなければならないことは当然です。
あくまでも、この3つのポイントは、取締役が行うべき最低限のポイントとして位置づけておくべきでしょう。

従業員の説明や報告が「合理的」であるかどうか敏感になる

1つめのポイントから言えるのは、取締役は、従業員からの説明や報告を聞いて「合理的である」「合理的ではない」と疑問を抱けるように自分自身の勘を磨いておく、「合理的ではない」と気がついたら、その時点で取締役が自ら従業員の説明や報告内容の真偽を確認しなければならない、ということです。

取締役自身だけではなく、財務部門など担当部署が「合理的ではない」と気づくように勘を磨かせる、財務部門が「合理的ではない」と感づいたら自主的に説明や報告の内容の真偽を確認するように鍛えておく(教育、研鑽させる)ことも、取締役の責任といえます。

取引先とのトラブルの有無、要因、経緯を確認する

2つめのポイントから言えるのは、取締役は、取引先との間でトラブルが生じていないかどうか、トラブルが生じていたとしたら、その要因は何かを確認・究明する、トラブルが収束していたとしたら、どのような経緯だったのかを確認する、ということです。

この前提として、取引先との間でトラブルが発生したときには、取締役の耳に入るように、報告体制を仕組み作りしておくことも必要です。

監査法人の適正意見に耳を傾ける

3つめのポイントから言えるのは、取締役は、財務諸表の内容について監査法人・公認会計士・税理士などの社外の会計のプロが疑問を抱いていないか、真偽について疑義を唱えたときに、その部分と理由について監査法人等から詳細を説明してもらうと同時に、社内で、その実態を独自調査する、あるいは担当部署に確認して報告を受けるようにする、ということです。

取締役は会計の専門家ではないですから、会計のプロから指摘された点について、取締役が自ら調査できるとは限りません。
その場合には、取締役が会計のプロに同席を求めながら、担当部署の責任者から報告を受けるということも、取締役が取るべき方法として考えられます。

Jリーグ八百長警報の発表に見る、危機管理広報のタイミング

Jリーグ 八百長警報の発表

企業で不祥事が発生した場合、今でこそ、積極的に公表する企業は増えてきました。
そうはいっても、まだまだ「公表することは控えたい」との本音を抱いている企業も多い印象を受けます。

企業の判断がまだまだ分かれる中、不祥事が現実に発生したわけではないのに、不正の疑いがあるとの警告を受けとったというだけの段階で、その事実を公表した組織があります。
サッカーのJリーグです。

「Jリーグは18日、世界各地のインターネットで行われているサッカー賭博に絡み、J1の試合で異常とみられる賭け方が発見されたとして八百長を監視するシステムから初めて警告を受け、調査したと発表した。不正の疑いもあるとして選手ら関係者約50人を聞き取り調査した結果、八百長はなかったと結論づけた。」(2014年3月18日共同通信より)

警告を受けただけで組織内の調査を行ない、八百長という不正がなかったのに発表したのです。
不正がなかったのに公表するというのは異例です。

なぜ、ここまでの異例の公表をしたのか、また公表ができたのか。
その背景を考えながら、企業の理想的な不正な事実の公表の時期について考えてみます。

不正を早期に公表することは企業の存在意義に関わる

Jリーグが早期公表の理由(推測)

Jリーグが異例の公表をした背景として推測できる理由の一つは、万が一、八百長が事実として存在すればサッカーの人気は凋落してしまう、ということだと思われます。

Jリーグはプロスポーツです。プロスポーツは人気があってナンボの世界です。誰も見に来ないならプロスポーツとは言えません。
日本代表が盛り上がっている、日本人選手が活躍して盛り上がっているのに、もし国内で八百長が発覚したとすれば、もし八百長の事実を隠していたとすれば、その盛り上がりは消えてなくなるかもしれません。
こうした背景が、警告段階という早期での公表をした理由であり、また早期に公表できた理由ではないかとも考えられます。

企業が不正を早期公表しなかったとしたら・・

さて、これを普通の企業に置き換えてみましょう。

企業はプロ営利集団です。プロ営利集団は売上を上げられてナンボの世界です。誰も商品を購入しないなら、誰もサービスを利用しないなら、プロ営利集団とは言えません。
企業の知名度が上がってきている、企業の好感度が上がってきている、商品・サービスの人気が高まっているのに、もし社内で不正が発生し、もし不正があった事実を早期に公表しなかったとしたら、どうなるでしょう?

後に、不正の存在が公になったときに、企業が不正を認識した時点で公表しなかったのは、なぜか?隠していたのか?と、社会から疑われます。
隠していたと疑われれば、企業の知名度、好感度、人気は一気に地に落ちます。
究極的には、損失拡大、売上低下、事業縮小、会社の清算に発展するかもしれません。

たとえば、食品メーカーで食品に異物が混入している事実が存在するのに、それを早期に公表しなかったとしたら・・。
自動車メーカーがブレーキに異常が発生している事実が存在するのに、それを早期に公表しなかったとしたら・・。

要は、早期に公表しないことは、組織や企業の存在意義を失わせることがある、ということです。

不正の公表と、企業の社会的責任(CSR)

企業の社会的責任と不正の公表

企業が不正を認識したときに早期に公表しないことが、存在意義に関わるということは、企業の社会的責任(CSR)であるとも言えます。

食品メーカーの例で言えば、食品を口にする消費者の安心や安全に対する社会的責任を負います。
自動車メーカーの例で言えば、自動車を運転するドライバーや乗車する人、さらに自動車の周辺にいる人たちの安全に対する社会的責任を負います。

そうした社会的責任を果たすためには、事実を認識した段階で早期に公表しなければならないということはわかるはずです。
公表が遅れて、誰かの安心、安全が損なわれてからでは社会的責任を果たさなかったことになってしまうからです。

Jリーグの例でいえば、プロスポーツ=選手たちが頑張っているから応援するというサポーターたちの信頼に対する社会的責任を追っている、と考えることができます。
人気があるかどうかが大事なプロスポーツの場合には、疑いすらも存在しないとサポーターに信じてもらわなければなりません。
それが、警告段階での異例の公表に繋がったのではないかと思います。

クライシス・コミュニケーションの観点から、ダスキン事件大阪高裁判決を読む

ダスキン事件と取締役の善管注意義務違反

会社に不正が発生した場合、その事実を公表することは、取締役の善管注意義務でもあります。

この点に関する重要な裁判例として、ダスキン事件の大阪高裁平成18年6月9日判決が存在します。

ダスキン事件というのは・・
ダスキン(ミスタードーナツ)が販売していた肉まんに、国内で認可されていない添加物が使用されていた。取引先業者からその事実を指摘されたものの、公表することなく、担当取締役が取引先業者に金銭を支払い事実を公表せず販売を継続。その2年後、行政の立入り検査を受けて公表した。結果、加盟店への営業補償、信頼回復のためのキャンペーン費用など約105億円の損害が発生。この損害について、株主が取締役を相手に代表訴訟を提起した・・という事件です。

大阪高裁判決は、公表の是非について、次のように判断しました
(ちょっと長めに引用します)。

これの混入が判明した時点で,ダスキンは直ちにその販売を中止し在庫を廃棄すると共に,その事実を消費者に公表するなどして販売済みの商品の回収に努めるべき社会的な責任があった」

一審被告Y2が本件混入や本件販売継続の事実を知りながら,事実関係をさらに確認すると共に,これを直ちに社長である一審被告Y1に報告し,事実調査の上で販売中止等の措置や消費者に公表するなどして回収の手だてを尽くすことの要否などを検討しなかったことについて,取締役としての善管注意義務の懈怠があった」

一審被告Y1は食品販売事業をその事業の一環とするダスキン代表取締役社長である。前年末に本件混入や,混入を知りながらあえてその販売を継続するという食品販売事業者としては極めて重大な法令違反行為が行われていた事実が判明した以上は,その実態と全貌を調査して原因を究明し再発防止のために必要な措置を講ずることはもとより,直ちに,担当者によって取られた対応策の内容を再点検して,食品衛生法違反の重大な違法行為により食品販売事業者が受けるおそれのある致命的な信用失墜と損失を回避するための措置を講じなければならない。その中で,マスコミ等への公表や,監督官庁への事後的な届出の要否等も当然検討されるべきである。」

現に行われてしまった重大な違法行為によってダスキンが受ける企業としての信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討することこそが,このとき経営者に求められていたことは明らかである。ところが,前記のように,一審被告らはそのための方策を取締役会で明示的に議論することもなく,「自ら積極的には公表しない」などというあいまいで,成り行き任せの方針を,手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは,到底,「経営判断」というに値しないものというしかない。」

ダスキン事件が言及した、公表時期、公表原則論

注目すべきは、公表は「社会的な責任」と明言している点です。
法的責任に留まらず、不正の公表は社会的責任と言及しているのです。
この点は、あまり指摘されてこなかった部分かもしれません。

大阪高裁は、それに加えて、取締役は、公表の必要性を検討することは「当然」とまで言い切り、さらに、「積極的に公表しない」という方針を決するには取締役会での議論を経た経営判断をしなければならない、とまで述べているのです。

これは、どういうことかというと、不正があれば公表を検討するのは当然であり、公表しないなら取締役会で経営判断と呼ぶに値する議論を経てからでなければならない(議論を経なければ公表しなければならない)、ということです。
もはや、企業は「公表したくない」という考え方は通用しない(そのような選択肢はない)と思った方がいいでしょう。

ダスキン事件判決まで見ていくと、Jリーグが八百長の警告を受けた時点で、その事実を公表することは社会的責任に沿ったものであり、公表したことはダスキン事件判決どおりの対応だったと理解することができます。
企業は、クライシス・コミュニケーションとして、この公表の姿勢やタイミングを学んでいく必要がありそうです。

取締役の善管注意義務違反と監督・監視義務違反は「コンプライアンスの不備」で説明してはいけない

石原産業の代表訴訟控訴審の和解と、そのコメントへの違和感

2014年5月20日、石原産業の代表訴訟で和解が成立しました。

石原産業の代表訴訟事件というのは・・・
石原産業は土壌埋め戻し材「フェロシルト」を生産、販売した。「フェロシルト」からは、土壌環境基準値を超える六価クロムが検出された。そのため、産業廃棄物処理法に基づく撤去命令を受け、石原産業は回収を行ない、回収費用等489億円を費やした。この回収費用等について取締役の損害賠償責任を問われた・・という事件です。

新聞では和解について、次のように報じられています。

「元取締役9人がコンプライアンスの不備に遺憾の意を表明し、和解金5千万円余りを会社に支払う。」
(平成26年5月21日付日本経済新聞朝刊より)

「コンプライアンスの不備に遺憾の意を表明」とあるので、この記事を読んだときには、取締役の内部統制システム(業務適正確保体制)の整備義務違反で責任が問われたのかと勘違いしました。しかし、一審判決を見てみると、問われた責任は、整備義務違反ではないようです。むしろ、一審判決を見ると、「コンプライアンスの不備」という言葉を使うことに違和感を覚える内容でした。

それでは、なぜ、コメントと一審判決の内容に食い違いが生じたのか?
その答えの仮説の一つは、取締役が自らの義務の意味を理解しきれていないからではないか、と推察します。

というのも、ここ最近、取締役・執行役員を相手にした研修のご依頼を受け、いろいろな会社に研修に伺うのですが、実は、多くの会社で、それが大企業であっても「善管注意義務、監督・監視義務とは何かがわからない。何をしたらいいのかがわからない」という役員の方からの声を聞くからです。
たしかに、法律を勉強したことがある人にとっては「取締役の善管注意義務、監督・監視義務」は馴染みがあるかもしれません。
しかし、これまで技術畑で仕事をしてきた役員の方々、営業畑で仕事をしてきた役員の方々には、わからないのも無理はありません。

そこで、今回は、取締役の「善管注意義務」とは何か?「監督・監視義務」とは何か?という、取締役の二大義務について説明します。基本編です。

取締役、執行役員と会社との関係

会社とは委任関係=取締役は経営判断のプロ、執行役員は業務執行のプロ

善管注意義務、監督・監視義務の説明に入る前に、取締役、執行役員と会社との関係を、まずおさらいしておきます。

多くの会社の取締役、執行役員の方の意識の中にあるのは「取締役、執行役員は従業員として働いてきた出世の一つ。部長の上(あるいは取締役兼部長、執行役員兼部長)の社内の地位(ポジション)・役職の肩書きである」という誤解です。
取締役、執行役員という地位は、社内の地位・役職ではありません。
取締役は、会社からいったん離れ、会社から経営判断のプロフェッショナルとして、会社の舵取りを任されている外部の人です。
執行役員は、会社からいったん離れ、会社から業務執行のプロフェッショナルとして、会社の運行を任されている外部の人です。

「会社からいったん離れ」というのは、従業員ではない、ということです。
「プロフェッショナルとして」「任されている」というのは、会社との関係は従業員のような労働契約(雇用契約)ではなく、委任契約である、ということです。

従業員ではない委任契約ということで、イメージしやすいのは、プロ野球の監督、コーチです。
任された期間中に結果を出さなければ契約終了=来年以降の契約はない。下手をすると任期中でも問答無用でクビになる。
取締役、執行役員は、プロ野球の監督、コーチと同じ立場ということです。
任期に結果を出さなければ、次の任期に取締役として選任されない。執行役員としての契約が更新されない。
任期中でも悪い結果を出せば、任期中でも解任されることがある。

従業員の場合には、労働契約法という法律でクビ(解雇)には、解雇権濫用法理という高いハードルがあります。
解雇の理由と、解雇が相当という2つの要件を満たさなければなりません。
しかし、取締役、執行役員の場合には、プロフェッショナルなので、解雇権濫用法理では保護されないのです。

中には、従業員兼取締役、雇用契約型執行役員という方もいらっしゃいます。
雇用契約型執行役員の場合は社内の地位・役職であり、解雇権濫用法理で保護されるという認識でも間違いではありません。
しかし、従業員兼取締役の場合は、従業員という社内の地位・役職だけではなく、取締役という経営判断のプロフェッショナルの両方を兼ねているという立場にあります。
これは、従業員として解雇されることはなくても、取締役の地位から解任されることはある、ということです。

取締役、執行役員の善管注意義務

取締役、執行役員はプロフェッショナルとして会社を任されている、という立場にあります。
しかし、任されているといっても、何でも自由に経営判断していい、何でも自由に業務執行していい、というわけではありません。

取締役は、株主総会で株主に選任されて、会社の経営判断を任されています。
そうだとすれば、取締役は、自分を選任してくれた株主を意識しながら、株主の利益のために経営判断しなければならない、ということになります。
株主の利益のためというのは、会社の価値を高めて株価を上げる、会社の売上を上げて株主に配当できるようにする、ということです。
これが「取締役の善管注意義務」です。

「善管注意義務」の「善管」というのは、善良な管理者という意味です。
会社の経営判断を善く任されている者ということです。
その立場から株主の利益に注意をしなければならない、これが「注意義務」の意味です。

執行役員は、取締役で決議されて、会社の業務執行を任されています。
取締役は株主への善管注意義務に基づいて、業務執行に適任者であるとの経営判断で、執行役員を選任しています。
そのため、執行役員は、自分を選任した取締役、ひいては取締役を選任した株主を意識して、株主の利益のために業務執行しなければならない、ということになります。
これが「執行役員の善管注意義務」です。

取締役相互の監督・監視義務

取締役会が設置されている会社では、取締役は自分ひとりで経営判断するわけではありません。
取締役会決議で経営判断します。取締役は取締役会を構成するメンバーの一人である、ということです。

取締役は取締役会を構成するメンバーであるということは、たんにメンバーとして取締役会に参加すればいいというだけではありません。他の取締役が善管注意義務を尽くしているか、それを日頃からチェックしておかなければならないのです。
これは、取締役自身が、他の取締役から日頃からチェックされているということも意味します。
お互いにチェックしあっている、ということです。
これが「取締役相互の監督・監視義務」です。

取締役の善管注意義務違反、監視義務違反を「コンプライアンスの不備」で説明しても問題の本質が見えない

石原産業の代表訴訟第一審判決では、生産販売担当取締役らが土壌環境基準値を超える六価クロムを含有するフェロシルトの開発中止義務、販売中止義務を尽くさなかったことについての善管注意義務、他の取締役らが土壌環境基準値を超える六価クロムの含有についての調査、確認することを指摘すべきとの善管注意義務、監督義務の存否や違反の有無などが問われました。

これは、取締役が本来尽くすべき義務を尽くしたのか否かという問題であって、控訴審の和解の経緯となった「コンプライアンスの不備」とは少し違うのではないかという印象を受けます。

そもそも、取締役が土壌環境基準値を超える六価クロムを含有するフェロシルトを開発、販売しても構わないという意識のもとで活動していたのであれば、「コンプライアンス意識が欠ける」ということで「コンプライアンスの不備」かもしれません。「不備」どころか「欠如」です。

しかし、取締役がお互いに監督しなければならないという認識がなかった、監督した末に相互に指摘しあう認識がなかった、認識があったけれども指摘しなかったというのであれば、「コンプライアンス」の問題ではなく、取締役として自分に任されている役割を果たしていない、つまり、取締役としての適正を欠くということではないでしょうか。
また、日頃から取締役に善管注意義務や監督・監視義務の意味を認識させておかなかった会社の準備不足、研修不足ともいえるかもしれません。

「コンプライアンス」という言葉を使えば何か説明したという風潮がありますが、「コンプライアンス」という言葉を使わずに何が問題だったのかを説明する方が、問題点の本質は見えてくるのではないかと思います。