真夏の謝罪会見であったとしても、クールビズ=ノータイは避けたほうが無難

クールビズの浸透

6月、7月と暑さが増しています。
暑さが増すに連れ、街には、クールビズ=ノータイの社会人の姿を目にするようになりました。
8月を目前に控えた今は、8割方、ノータイかつ上着もなしという格好なような気がします。
ちなみに、私の場合、本当はノータイかつ上着なしにしたいのはやまやまですが、セミナーや研修などで人前に出る機会が多いので、ノータイながらも上着を羽織っています。
打合せも何もないときは、たまに、短パン、Tシャツで出勤していますが・・。

謝罪会見の場で、クールビズは許されるのか

これだけクールビズが浸透してくると、現実的に課題になるのが「夏の謝罪会見の場でクールビズの格好が許されるのか?」というものです。
クライシス・コミュニケーションに関するご相談の中でも、よく、この話題になります。

春秋冬、また夏場でも涼しければ、上下スーツにネクタイを締めることに抵抗感はないと思います。
問題は、真夏の暑い日です。

答えを言えば、現状では、夏の謝罪会見ではクールビズは避けた方が無難ということです。

謝罪会見の目的と、日本人の礼節感覚

謝罪会見の究極の目的は、事実を謝罪、説明し、企業が存続して経営を継続することを社会に許容してもらうことにあります。
日本人の礼節に対する感覚では「謝罪して許しを請うなら、きちんとした服装で行え」となるのではないだろうかと思います。

実際問題、謝罪とは関係のないビジネス上の商談においても「クールビズですみません」と一言断る。
「当社はクールビズを採用しております」「上着の着用はお気遣いなく」といった趣旨の言葉が建物内に掲示されている。
こういった光景をよく見かけます。

これらの光景の背景には、日本人の礼節に対する感覚、つまり、きちんとした仕事の場では、きちんとした格好をしろ、という感覚があるからです。
日本のスーツ姿が正しい格好であるかはともかく、少なくとも、きちんとした格好としてみなされています(※スーツのうんちくは「王様の仕立て屋」というマンガが詳しいです)。
織田信長が斎藤道三に聖徳寺で会ったときの服装のエピソードが未だに語り継がれているのは、そうした日本人の感覚だからこそ、かと思われます。

クライシス・コミュニケーションに備えて、役員は、社内にダークスーツとネクタイを用意

こうした日本人の礼節に対する感覚に見れば、謝罪会見をはじめとするクライシス・コミュニケーションの場では「きちんとした服装」、つまり、上下スーツにネクタイという姿にせざるをえないということになりましょう。
特に、企業が起こした不祥事が、人の生命・身体に関わるような場合、財産に関わるような場合には、「葬式」に参列するのと同じような感覚でいなければならない、ということかと思います。
となると、スーツは明るめのスーツ、派手なスーツよりは、無地のダークスーツ、ネクタイも地味目なネクタイを選択するしかありません。

今回のベネッセホールディングスでの個人情報漏えい事件でも、記者会見の場では、クールビズ=ノータイではなく、上下ダークスーツにネクタイをしていました。
ネクタイはちょっと派手な気もしましたが、無地の明るめの紺なので、落ち着いた方なのかもしれません。

つまりは何が言いたいかというと、会社の役員は、いざというクライシス・コミュニケーションが必要になる時に備えて、それらを準備しておかなければならない、ということです。
今でも、急な不幸に備えて、社長以下役員がダークスーツ一式を準備している企業は多いと耳にします。
それを徹底しておいたほうが無難ということです。

ベネッセホールディングス事件に見る個人情報漏えい時の企業のあるべき対応

ベネッセホールディングスでの個人情報漏えい

7月9日、ベネッセホールディングスで、お客様情報約760万件が漏えいし、その数は最大で約2070万件に及ぶ可能性があることが発表されました。

「このたび、ベネッセコーポレーション(以下「弊社」といいます。)のお客様情報約 760 万件が外部に漏えいしたことが確認されましたので、ご報告申し上げます。お客様情報が漏えい
したと思われるデータベースに保管されている情報の件数から推定すると、最大約 2,070 万件のお客様情報が漏えいしている可能性があります。」
(ベネッセホールディングス、2014年7月9日付プレスリリースより)

今回は、この件を通じて、企業が個人情報を漏えいした場合の対応について考えてみます。

個人情報漏えい時の企業内で行うべき対応については、過去に一通り書いたことがありますので、そちらもあわせてご確認ください。

個人情報漏えい時の対応でもっとも重要なことは、お客様の不安感を払拭すること

企業が個人情報を漏えいしたことについて対応する際、念頭に置いておくべきことは、お客様の不安感です。

その企業のお客様の誰でもが、次のような思いを抱きます。
担当者自身が「自分が個人情報を預けた立場」になって考えてみればわかるはずです。

  • 「私の個人情報が漏えいしたのではないか?」
  • 「どんな個人情報が漏えいしたのだろう?」
  • 「漏えいした個人情報は回収できないのか?」
  • 「いったい、これから私の身に何が降りかかるのだろう?」
  • 「会社として責任はどうとるつもりなのか(怒)」

そうだとすれば、企業としては、こうしたお客様の不安感を拭い去るように対応をしていかなければならない、ということになります。

その意味で、ベネッセホールディングスのプレスリリースが冒頭で「お客様をはじめとする皆様に、多大なご心配・ご迷惑をおかけいたしますことを、深くお詫び申し上げます。」と謝罪していることは、事件の本質を理解した謝罪文であると評価できます。

漏えいした個人情報の内容と範囲を特定する

「私の個人情報が漏えいしたのではないか?」「どんな個人情報が漏えいしたのだろう?」という不安を払拭するためには、漏えいした個人情報の内容と範囲を特定する必要があります。

ベネッセホールディングスのプレスリリースの内容

ベネッセホールディングスのプレスリリースでは、「漏えいしたお客様情報」と題して、次のように、漏えいした個人情報の内容と範囲を特定しています。

<該当するお客様>
現在、漏えいしたと考えられるのは、弊社が提供する通信教育サービス等のお客様に関する情報約 2,070 万件、うち、漏えいが確定している情報は約 760 万件です。該当する情報は別紙に記載するサービスをご利用いただいている(または過去ご利用いただいていた)お客様の情報です。

<漏えいが確認されている情報項目>
漏えいしたことが確認された情報項目は以下の通りです
 郵便番号
 お客様(お子様とその保護者)のお名前(漢字およびフリガナ)
 ご住所
 電話番号(固定電話番号または携帯電話番号)
 お子様の生年月日・性別
クレジットカード番号・有効期限、金融機関の口座情報、成績情報など上記項目以外の漏えいは確認されておりません

また、今般のお客様情報の漏えいは特定のデータベースからのものであり、漏えいしたリストを入手しデータ内容を調査した結果、別紙記載の商品・サービス以外のお客様情報を保管しているデータベースには、異常がないことを確認しております。

漏えいした個人情報の数の最大可能性を最初に摘示したことの重要性

ベネッセホールディングスのプレスリリースは、まず「お客様に関する情報約 2,070 万件、うち、漏えいが確定している情報は約 760 万件」と、最大数と確定数を両方記載しています。
これは、2070万件以上は漏洩していません、ということで、お客様を安心させるために必要な記載です。

もし、この記載がなく「漏えいが確定している情報は約760万件」とだけリリースして、後日になって、「約760万件以上の個人情報が漏えいしていることが発覚しました。実は1000万件でした」「さらに調査したら、約1500万件漏えいしていました」「いや実は・・・」などと訂正を繰り返したら、どうでしょう。
お客様は「もっと漏えい件数が増えるのではないか?」と不安になります。
そうした不安を抱かせないためには、最初から「最大で○○件の可能性」ということを明示していたほうが、事態は早期に収束しやすいのです。

漏えいした個人情報は、どのサービスを利用したお客様なのかを摘示することの重要性

あわせて、ベネッセホールディングスのプレスリリースでは、「該当する情報は別紙に記載するサービスをご利用いただいている(または過去ご利用いただいていた)お客様」「別紙記載の商品・サービス以外のお客様情報を保管しているデータベースには、異常がないことを確認しております」と記載し、どのサービスを利用したお客様の個人情報が漏えいした可能性があるということを明言しています。

これもまた、これ以外のサービスしか利用していないお客様は個人情報が漏えいしていないから安心してください、というメッセージを伝えるものです。

漏えいした個人情報の内容を特定することは、最重要

しかも、ベネッセホールディングスのプレスリリースは「漏えいしたことが確認された情報項目は以下の通りです」「クレジットカード番号・有効期限、金融機関の口座情報、成績情報など上記項目以外の漏えいは確認されておりません」と、漏えいした個人情報の内容を特定しています。

これによって、「もしかしたら、クレジットカードが悪用されるのではないか」「金融機関の口座からお金を抜かれるのではないか」「子どもの成績が表に出てしまうのではないか」などという不安を払拭することができます。

個人情報を漏えいしたということで生じるお客様の不安を一つずつ取り除いていく。
そのためには、こうした個人情報の内容の特定というのは、意味があることです。

ベネッセホールディングスでの個人情報漏えい対応の最大の特徴=Webサイトの最大活用

これまでの個人情報漏えい事件でも、企業のWebサイトに個人情報漏えいについての情報を掲載することは行われていました。
ただ、今回のベネッセホールディングスの場合、過去の個人情報漏えい事件とは比較にならないほど、Webサイトが充実していることも特徴です。
これは、ベネッセホールディングスが B to C を業態とする会社であり、一般消費者に向けての情報発信を怠れば、企業としての信頼を失う可能性が高いということからではないかと推察できます。

企業Webサイトのトップページの頭に、個人情報漏えい事件についての専用ページへのリンクを掲載

ベネッセホールディングスでは、会社の公式サイトのトップに、個人情報漏えい事件についての専用ページへのリンクを掲載しています。

Benesse  ベネッセグループ

赤く囲ったのは私が注釈したものです。
謝罪と専用ページへのリンクがわかりやすく掲載されているのは評価されて良いと思います。

プレスリリースをわかりやすく構成し直し、問い合わせ窓口も掲載

次いで、専用ページを訪問すると、プレスリリースの内容を一般のお客様が読んでもわかりやすくなるように、構成し直されています。
あわせて、問い合わせ窓口が赤囲みで掲載され、その赤囲みの中に、強調したいポイントも列挙されています。
※この赤囲みはベネッセホールディングスがしたものです

お客様に情報を伝えるというWebサイトに掲載することの役割を、よく理解した対応かと思われます。

ベネッセコーポレーションにおける個人情報漏えいに関するお知らせとお詫び(お問い合わせ窓口のご案内)

お客様からのよくある質問と回答のページ

さらに、特筆すべきは、「多く寄せられているご質問とその回答」のページの存在です。

大抵の場合、こうした良くある質問と回答(FAQ)のページが作られても、社内の目線で見た質問と回答だけで埋められていることが多いです。
しかし、ベネッセホールディングスの場合、お客様目線に立った質問と回答が数多く、しかも、日々、最新の質問と回答が追加掲載されています。

発表から日がない中で、ここまで充実させているのもまた評価されるべき点ではないかと思います。

多く寄せられているご質問

ブログ形式での日々の情報更新

そのうえで、「お客様へのご案内」「対策進捗」「プレスリリース」がブログ形式で、投稿されるようになっています。
正直、これらの内容は重複する部分もあるので統合してしまってもいいような気もしますが・・・。
とはいえ、ブログ形式、つまり、最新の情報が常に一番上に来るように情報がアップされているのは、他の企業では見られなかったパターンではないかと思います。

他の企業にとっては、危機管理対応として参考になる

今回のベネッセホールディングスのプレスリリース、Webサイトの作り込み方は、他の企業にとっても、事件・事故対応、危機管理対応として非常に参考になるものです。
役員間、総務・広報の各部署では、他社事例の分析として社内共有しておくべきかと思われます。

私が企業不祥事広報のセミナーなどでお話ししている内容がほとんどすべて網羅されている、という点でも、私の目から見たら十分な対応をしているなと感じます。
私に仕事振ってくれれば、もっと良かったのですが・・・。私の日常的な仕事は、こういう対応策の提案・助言ですので・・・。

記者会見での号泣はアリか、ナシか

記者会見で号泣する県議会議員

先日、兵庫県の県議会議員が記者会見を行い、その場で号泣していたことが話題になりました。

記者会見が行われた理由は・・

  • 兵庫県議会は政策立案の調査研究や資料購入などの「政務活動費」として、議員報酬とは別に月50万円を上限に交付している。
  • 原則として領収書がなければ返却を求められる。
  • しかし、当該県議会議員が2013年度に申告した総額は、平均を上回る計564万円。
  • 内訳は、交通費を含む「要請陳情等活動費」が約301万6千円。
  • タクシー運賃を除くすべての交通費を、自己申告による「支払証明書」で領収書に替えていた。

要するに、記者会見の目的は、当該県議会議員が県議会から交付された「政務活動費」を正当な方法で使用していたかどうかを釈明することにありました。その記者会見の席で号泣したのです。

企業の謝罪会見、釈明会見で、社長が泣くことは許されるのか?

さて、この事象を、企業の不祥事での謝罪会見、あるいは疑惑についての釈明会見の場面に置き換えて考えてみてください。

企業で不祥事が発生した、あるいは違法性・妥当性が疑われる報道がされた。そのため、企業が謝罪会見や報道について説明する釈明の会見を行わなければならなくなった。会見を行うのは、社長である。このような場面を想定してみましょう。

この場面で、社長が号泣することが許されるでしょうか。もっと言えば、号泣することで社会に受け容れてもらえるでしょうか。

結論は、否です。

信頼回復を目的とした記者会見で、社長が泣くことは目的に反する

では、理由はなんでしょう。

記者会見、釈明会見を行う目的は、事実関係を明らかにして、その内容が消費者や社会に伝えられ、企業が消費者や社会からの信頼を取り戻すことです。

この目的から考えると、社長は信頼に値するという外面を保っていなければなりません。
「この社長に任せておけば大丈夫だ。きっと二度と不祥事を行わない会社にしてくれるだろう。きっと包み隠さず、不正を明らかにしてくれるだろう」
このように、消費者や社会から思ってもらわなければならないのです。

そうであるにもかかわらず号泣してしまえば、「この社長で大丈夫か? 自社で起きた不祥事なり疑惑なりを解明するどころか、陣頭指揮も執れないのではないか」と、消費者や社会から不安に思われてしまうだけです。

過去の号泣記者会見

過去にも、記者会見で社長が号泣したケースがあります。

一つは、2011年に発生した、焼肉屋で生ユッケを食べたお客さんが食中毒になり、5人が死亡してしまった事件。
もう一つは、1997年に自主廃業した証券会社の記者会見。

1997年・証券会社社長の号泣記者会見

証券会社のケースは、社長が号泣しても許されるケースです。
会社が自主廃業することを社長が号泣ながらに報告し、「社員は悪くありませんから」と会見しました。

この場合、会社は自主廃業するわけですから、極論を言えば、社長が号泣して社会から不安に思われてもいいのです。
むしろ、自主廃業することで仕事を失う従業員のことを考えれば、社長が泣きながら「社員は悪くない」と宣言するほうが、従業員の再就職に支障が生じない、つまり、従業員を守ることができます。
その意味では、社長が号泣したことが、むしろ良かったとも言えるのです。

2011年・焼肉屋社長の号泣記者会見

他方で、焼肉屋のケースは、今回の県議会議員のケースと同じで、会見の時点では引き続き営業していく可能性もあったわけです(最終的には2011年7月に廃業しました)。
となると、消費者からの信頼を取り戻すために、号泣してはいけなかったのです。

たしかに、5人の方が亡くなり、その他にも食中毒で重傷になったお客様もいらっしゃいました。
しかし、そうした方へのお詫びと号泣は、故人とその家族、当人の前でなすべきです。
記者会見の場で号泣し、また土下座する必要性はゼロであったのです。

つまり何が言いたいかと言いますと、「記者会見では泣くな。泣くなら目的を考えろ」ということです。

都議会議員の謝罪会見から見る、不祥事広報のあり方

謝罪会見と不祥事広報(クライシス・コミュニケーション)

都議会での女性議員の質問中に「早く結婚しろ」などのヤジを発したことを認めた男性議員が、昨日、女性議員に直接謝罪し、あわせて謝罪会見を行いました。

ヤジの中身や今回の事件について、どうこう評価するつもりはありません。
ここでは、あくまでも、謝罪会見の内容について、企業の不祥事広報(クライシス・コミュニケーション)という観点から気になった点を取りあげます。

冒頭の謝罪発言こそが、事件の本質を理解しているかを明らかにする

男性議員は、謝罪会見の冒頭で、次のように謝罪の言葉を発しました。

この度は、私の「早く結婚した方がいいのではないか」という不適切な発言で、塩村議員および 東京都議会、そして都民の皆さまに多大なるご心痛、そしてご迷惑をおかけいたしましたことに、本当に心からお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。

女性議員の名前を挙げて謝罪することは、理解できます。
しかし、理解できないのは「都民の皆さま」に対するお詫びと、「多大なるご心痛」「ご迷惑」とのお詫びです。
この発言を見る限り、男性議員は、今回のヤジがこれほど大きな騒ぎになったことの本質がどこにあるのかを理解しきれていないのではないか、と感じます。

どういうことかといいますと・・

今回のヤジが大きな騒ぎになったことの本質は、ヤジの内容が、女性の人格を否定するような発言であったこと、です。
そうだとすれば、謝罪すべきは「女性の人格を否定する趣旨の発言をしてしまったこと」「そうした趣旨の発言を、都民から選ばれた議員の立場では発すべきではなかった」ことです。

これらの点が言及されていない冒頭の発言は、男性議員が事件の本質を理解していない、ということに繋がっていきます。

謝罪発言の中に、事件の本質が含まれているかどうかが、謝罪会見の成否を決する

「事件を起こして申し訳ありません」は、最低の謝罪発言

実は、記者会見の冒頭での謝罪発言が本質からズレている、あるいは本質に一切言及していないというのは、この件に限りません。

よくある企業不祥事の記者会見の席で「このたびは・・・という事件を起こし、申し訳ございません」「このたびは、・・・・という事件を起こし、お騒がせして申し訳ございません」との謝罪の言葉を耳にします。

一見すると、あるいは何気なく耳にしただけでは、問題があるように思えないかもしれません。
しかし、この謝罪の言葉では、何を謝っているのか、なぜ謝っているのかを会社が理解していないと評価してもいいかもしれません。

特に「・・・という事件を起こし、申し訳ございません」は、完全に形だけの謝罪と言ってもいいすぎではないかもしれません。
まだ、「お騒がせして」との言葉が入っている方がマシです。
しかし、それでも、十分とはいえません。

なぜか?

それは、企業が不祥事を起こして謝罪の会見をするのは、事件を起こしたからでも、「お騒がせ」したからでもないからです。

謝罪発言で言及すべき本質とは、何か?

たとえば、工場爆発事故、鉄道脱線事故、食品の産地偽装などといった事件の記者会見で謝罪すべきことは、何でしょう?

工場爆発事故であれば、爆発したことによって、周辺住民の皆さまの生活の平穏を害したこと、不安に陥らせてしまったこと。これが謝罪すべきことです。

鉄道脱線事故であれば、脱線したことで、乗客の生命・身体の安全を脅かしたこと、鉄道の運行に影響を与えたこと。これらが謝罪すべきことです。

食品の産地偽装であれば、提供される食事に対する信頼への裏切り、食の安全・安心を損ねたこと。これらが謝罪すべきことです。

これらが、謝罪すべき内容の本質なのです。
事件の本質について言及しない謝罪発言は、謝罪という名には値しません

謝罪発言は、企業の社会的責任とリンクしている

実は、謝罪発言で言及すべき本質は「企業の社会的責任(CSR)」とリンクしています。

企業の社会的責任とは、その企業が、なぜこの世の中、この社会に存在することが許されるのか、存在することによって社会にどんな意味があるのか、という話です。

周辺住民の生活の平穏を害するような工場なら存在しなくていい。
乗客の生命・身体の安全を脅かすような鉄道なら存在しなくていい。
食事に対する信頼を裏切るような食堂なら存在しなくていい。

こういうことです。

これは、突き詰めて考えていけば、多くの企業では、会社の企業理念に遡っていきます。
自分たちの会社は、なんのために設立され、なんのために企業活動を営んでいるのだろうか、ということを、集約したのが企業理念のはずだからです。

もし、今後、企業不祥事が起こり、謝罪会見が行われることになった場合、「冒頭の謝罪発言に事件の本質についての言葉が含まれているかどうか」をチェックするだけでも、その企業が事の本質を理解しているのかどうかが見えてきますので、参考にしてみて下さい。

 

Jリーグ八百長警報の発表に見る、危機管理広報のタイミング

Jリーグ 八百長警報の発表

企業で不祥事が発生した場合、今でこそ、積極的に公表する企業は増えてきました。
そうはいっても、まだまだ「公表することは控えたい」との本音を抱いている企業も多い印象を受けます。

企業の判断がまだまだ分かれる中、不祥事が現実に発生したわけではないのに、不正の疑いがあるとの警告を受けとったというだけの段階で、その事実を公表した組織があります。
サッカーのJリーグです。

「Jリーグは18日、世界各地のインターネットで行われているサッカー賭博に絡み、J1の試合で異常とみられる賭け方が発見されたとして八百長を監視するシステムから初めて警告を受け、調査したと発表した。不正の疑いもあるとして選手ら関係者約50人を聞き取り調査した結果、八百長はなかったと結論づけた。」(2014年3月18日共同通信より)

警告を受けただけで組織内の調査を行ない、八百長という不正がなかったのに発表したのです。
不正がなかったのに公表するというのは異例です。

なぜ、ここまでの異例の公表をしたのか、また公表ができたのか。
その背景を考えながら、企業の理想的な不正な事実の公表の時期について考えてみます。

不正を早期に公表することは企業の存在意義に関わる

Jリーグが早期公表の理由(推測)

Jリーグが異例の公表をした背景として推測できる理由の一つは、万が一、八百長が事実として存在すればサッカーの人気は凋落してしまう、ということだと思われます。

Jリーグはプロスポーツです。プロスポーツは人気があってナンボの世界です。誰も見に来ないならプロスポーツとは言えません。
日本代表が盛り上がっている、日本人選手が活躍して盛り上がっているのに、もし国内で八百長が発覚したとすれば、もし八百長の事実を隠していたとすれば、その盛り上がりは消えてなくなるかもしれません。
こうした背景が、警告段階という早期での公表をした理由であり、また早期に公表できた理由ではないかとも考えられます。

企業が不正を早期公表しなかったとしたら・・

さて、これを普通の企業に置き換えてみましょう。

企業はプロ営利集団です。プロ営利集団は売上を上げられてナンボの世界です。誰も商品を購入しないなら、誰もサービスを利用しないなら、プロ営利集団とは言えません。
企業の知名度が上がってきている、企業の好感度が上がってきている、商品・サービスの人気が高まっているのに、もし社内で不正が発生し、もし不正があった事実を早期に公表しなかったとしたら、どうなるでしょう?

後に、不正の存在が公になったときに、企業が不正を認識した時点で公表しなかったのは、なぜか?隠していたのか?と、社会から疑われます。
隠していたと疑われれば、企業の知名度、好感度、人気は一気に地に落ちます。
究極的には、損失拡大、売上低下、事業縮小、会社の清算に発展するかもしれません。

たとえば、食品メーカーで食品に異物が混入している事実が存在するのに、それを早期に公表しなかったとしたら・・。
自動車メーカーがブレーキに異常が発生している事実が存在するのに、それを早期に公表しなかったとしたら・・。

要は、早期に公表しないことは、組織や企業の存在意義を失わせることがある、ということです。

不正の公表と、企業の社会的責任(CSR)

企業の社会的責任と不正の公表

企業が不正を認識したときに早期に公表しないことが、存在意義に関わるということは、企業の社会的責任(CSR)であるとも言えます。

食品メーカーの例で言えば、食品を口にする消費者の安心や安全に対する社会的責任を負います。
自動車メーカーの例で言えば、自動車を運転するドライバーや乗車する人、さらに自動車の周辺にいる人たちの安全に対する社会的責任を負います。

そうした社会的責任を果たすためには、事実を認識した段階で早期に公表しなければならないということはわかるはずです。
公表が遅れて、誰かの安心、安全が損なわれてからでは社会的責任を果たさなかったことになってしまうからです。

Jリーグの例でいえば、プロスポーツ=選手たちが頑張っているから応援するというサポーターたちの信頼に対する社会的責任を追っている、と考えることができます。
人気があるかどうかが大事なプロスポーツの場合には、疑いすらも存在しないとサポーターに信じてもらわなければなりません。
それが、警告段階での異例の公表に繋がったのではないかと思います。

クライシス・コミュニケーションの観点から、ダスキン事件大阪高裁判決を読む

ダスキン事件と取締役の善管注意義務違反

会社に不正が発生した場合、その事実を公表することは、取締役の善管注意義務でもあります。

この点に関する重要な裁判例として、ダスキン事件の大阪高裁平成18年6月9日判決が存在します。

ダスキン事件というのは・・
ダスキン(ミスタードーナツ)が販売していた肉まんに、国内で認可されていない添加物が使用されていた。取引先業者からその事実を指摘されたものの、公表することなく、担当取締役が取引先業者に金銭を支払い事実を公表せず販売を継続。その2年後、行政の立入り検査を受けて公表した。結果、加盟店への営業補償、信頼回復のためのキャンペーン費用など約105億円の損害が発生。この損害について、株主が取締役を相手に代表訴訟を提起した・・という事件です。

大阪高裁判決は、公表の是非について、次のように判断しました
(ちょっと長めに引用します)。

これの混入が判明した時点で,ダスキンは直ちにその販売を中止し在庫を廃棄すると共に,その事実を消費者に公表するなどして販売済みの商品の回収に努めるべき社会的な責任があった」

一審被告Y2が本件混入や本件販売継続の事実を知りながら,事実関係をさらに確認すると共に,これを直ちに社長である一審被告Y1に報告し,事実調査の上で販売中止等の措置や消費者に公表するなどして回収の手だてを尽くすことの要否などを検討しなかったことについて,取締役としての善管注意義務の懈怠があった」

一審被告Y1は食品販売事業をその事業の一環とするダスキン代表取締役社長である。前年末に本件混入や,混入を知りながらあえてその販売を継続するという食品販売事業者としては極めて重大な法令違反行為が行われていた事実が判明した以上は,その実態と全貌を調査して原因を究明し再発防止のために必要な措置を講ずることはもとより,直ちに,担当者によって取られた対応策の内容を再点検して,食品衛生法違反の重大な違法行為により食品販売事業者が受けるおそれのある致命的な信用失墜と損失を回避するための措置を講じなければならない。その中で,マスコミ等への公表や,監督官庁への事後的な届出の要否等も当然検討されるべきである。」

現に行われてしまった重大な違法行為によってダスキンが受ける企業としての信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討することこそが,このとき経営者に求められていたことは明らかである。ところが,前記のように,一審被告らはそのための方策を取締役会で明示的に議論することもなく,「自ら積極的には公表しない」などというあいまいで,成り行き任せの方針を,手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは,到底,「経営判断」というに値しないものというしかない。」

ダスキン事件が言及した、公表時期、公表原則論

注目すべきは、公表は「社会的な責任」と明言している点です。
法的責任に留まらず、不正の公表は社会的責任と言及しているのです。
この点は、あまり指摘されてこなかった部分かもしれません。

大阪高裁は、それに加えて、取締役は、公表の必要性を検討することは「当然」とまで言い切り、さらに、「積極的に公表しない」という方針を決するには取締役会での議論を経た経営判断をしなければならない、とまで述べているのです。

これは、どういうことかというと、不正があれば公表を検討するのは当然であり、公表しないなら取締役会で経営判断と呼ぶに値する議論を経てからでなければならない(議論を経なければ公表しなければならない)、ということです。
もはや、企業は「公表したくない」という考え方は通用しない(そのような選択肢はない)と思った方がいいでしょう。

ダスキン事件判決まで見ていくと、Jリーグが八百長の警告を受けた時点で、その事実を公表することは社会的責任に沿ったものであり、公表したことはダスキン事件判決どおりの対応だったと理解することができます。
企業は、クライシス・コミュニケーションとして、この公表の姿勢やタイミングを学んでいく必要がありそうです。

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)は社長の責任

謝罪・記者会見は社長じゃないとダメなのか?

昨日、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)方法論序説として、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)には戦略目的を具体的に設定することが大事であるということを書きました。↓
危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)方法論序説

今日は、不祥事を起こした会社からご相談を受ける場合に、多い相談の一つ、「記者会見は社長がやらないとダメですか。」「謝罪の手紙は社長の文責じゃないとダメですか」「広報部や総務部の担当役員ではダメですか。」にお答えしたいと思います。

社長は謝罪・記者会見をするからこそ「代表」取締役

答えを先に言うと「記者会見も謝罪の手紙も代表取締役である社長の仕事」であり、謝罪をしなければならなくなった経緯、記者会見をしなければならなくなった経緯、不祥事の内容や程度によっては「社長ではなくても構わない」というのが結論です。

それは、なぜか?

社長は「代表」取締役だから、です。

会社が不祥事を起こして、記者会見をしなければならないケース、謝罪の手紙を消費者や顧客に送らなければならないケース、ホームページにリリースを出さなければならないようなケース、これは、どれも不祥事の程度が重大である場合や不祥事によって被害が生じる範囲が拡大するおそれがある場合です。

たとえば、食品メーカーの工場で従業員が毒物を混入させていたというケースが起きたとしましょう。
これは、消費者の生命・身体に影響が及ぶ可能性があるほどの重大な不祥事です。
しかも、食品が出荷され小売店の店頭に並んだ後に発覚したのであれば、食品が多くの地域に配送され、食品を口にする消費者の数が拡大する可能性さえあります。
毒物混入の事例ではありませんが、2000年に発生した雪印集団食中毒事件では、食中毒の被害者数は1万4780人とされています。

食品メーカーは、消費者の口に運ばれる物を作っている会社です。
その会社が消費者の口に毒物を運ぶ事態を招いたとなれば、会社の存在意義に関わります。
「今後も、わが社がこの社会に存在してもいいですか。許してもらえますか」ということを世の中にアピールして、社会や消費者からの信頼を回復するために、記者会見や謝罪の手紙を出すのです。

このようなアピールをしなければならない場面を「代表」取締役以外が行うことは、考えられません。
こういう行動を会社を対外的に「代表」して責任を持ってやれるからこそ、「代表」取締役と名乗っているのです。
もし責任を持ってやれないのであれば「代表」なんて肩書きを付けているのが恥ずかしいくらいです。
表に出るのが嫌なら「代表」から降りてしまえ、「代表」を名乗るのはおこがましい、とさえ思います。言い過ぎかな

食品メーカーの事例で例え話をしましたが、BtoCではない会社であっても同じです。
例えば、研究機関において論文ねつ造か否かが問題になるような事態が生じた場合を想定しましょう。
論文がねつ造されたからとそれによって、消費者や社会に具体的な被害が生じるわけはありません。被害が拡大する可能性はありません。

しかし、研究機関を通じて発表された論文が世界的に注目を浴びるような研究成果を内容としていた。あるいは、研究機関そのものが純然たる民間企業ではなかった(国の資本や補助金をもらっていた、国の監督下にあるなど)。
そういった場合、論文のねつ造が疑われるということは、研究機関の存在意義に関わります。
先の食品メーカーの事例と同じように、研究機関も「今後も、わが研究機関はこの社会に存在してもいいですか。国の資本や補助金という名の税金投入を許してもらえますか。」ということを世の中に問い、信頼を回復するために、記者会見なりを行うのです。
そのため、研究機関のようなBtoCではない組織であっても、「代表」の地位にある者が当初から責任をもって記者会見を行うべきなのです。

記者会見、謝罪をするのは、代表取締役社長に限られるわけではない

業務担当取締役、総務・広報担当取締役、部長が表に出ていい場面

だからといって、会社が不祥事を起こして記者会見をしなければならない場面、謝罪をしなければならない場面すべてに代表取締役が登場しなければならないかというと、そこまで硬直なものではありません。代表取締役でなくて、業務担当取締役や総務・広報担当の取締役や部長が行っても許される場面はあります。

代表取締役が記者会見に間に合わない場合

一つには、緊急時で、代表取締役が記者会見に間に合わない場合です。
実際にあったケースでは、記者会見時に代表取締役社長が海外出張中だったので、副社長、専務取締役が行ったというものがあります。
この場合、副社長、専務取締役が記者会見を行ったのは、あくまでも、代表取締役の代行として、です。そのため、代表取締役社長が出張から戻ってからは、代表取締役社長が記者会見を行いました。

被害の重大性がない、拡大可能性がない(被害者が少数特定できる)場合

もう一つは、記者会見を行うほど事案は重大ではなく、また被害が拡大する可能性はないけれども、あえて記者会見や消費者に対して謝罪文を発信する場合です。
実際にあったケースでは、顧客の氏名、住所、取引履歴などの個人情報が漏えいしたものの、漏えいした個人が特定されている、漏えいした情報件数が少数である、顧客と直接連絡が取れるといった場合です。

この場合、そもそも、顧客が特定されて、直接連絡を取れるわけですから、あえて、記者会見をして、世の中に個人情報が漏えいした事実を公にする必要まではありません。
しかし、個人情報の管理について世の中の目が厳しくなっているという背景や、個人情報の管理を世の中から厳しい目で見られる業種である場合には、あえて記者会見を行うということはあります。
この場合には、本来は記者会見を行う必要まではなかったのに、あえて記者会見をやる、というのですから、そもそも、代表取締役が登場するまでもない、ということです。

また、このような顧客が特定されて、直接連絡を取れるような個人情報漏えいのケースでは、会社から顧客に対して謝罪の手紙を送ることがあります。
この場合も、漏えいした個人情報の内容次第では、個人に生じる被害の程度が小さいともいえます。
そのようなときには、業務担当取締役や総務担当取締役名義で謝罪をすることもありえます。

「記者会見・謝罪は社長じゃなきゃダメですか?」ではなく「この場合には、記者会見や謝罪を社長以外に任せてもいいですか?」という思考経路への転換を

記者会見や謝罪は代表取締役社長が責任をもって行うのが基本ではあるけれども、内容や状況次第では、代表取締役社長以外が行うことでもいいということはわかっていただけたかと思います。

実は、この説明の流れ、つまり、本来は代表取締役社長が行わなければならないのだけれども、内容や状況次第では代表取締役社長以外が行っても「許される」という発想の順序は、絶対に身につけて欲しいことです。

この考えの順序を身につけられれば「記者会見・謝罪は社長が出なければダメですか?」という疑問は出てこなくなります。
代表取締役社長が記者会見・謝罪をするのが当然の前提になるからです。
この考えの順序を身につければ、「(代表取締役社長が記者会見・謝罪をしなければならないことはわかっているけれども)社長以外が記者会見・謝罪をしても許される場面ですか?」「社長以外に任せても構わないですか?」という、代表取締役社長以外が許容される場面かされない場面かを問うような言葉遣いになるはずなのです。

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の方法論序説

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)への問題意識

昨日、一昨日と、お客さまとの間で危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)についての意見交換、情報交換する場がありました。

最近の事例といえば理研問題が代表的ですが、「なぜ広報に失敗したのか」「トップはどの段階で会見に臨めば良かったのか」「なんで、こんなに長い間にわたって混乱しているのか」といったことが話題の中心でした。「2002年にベル研究所で起きたシェーンによる論文ねつ造事件とそっくりですね」との話題も出ました。

他方、理研問題とまったく同じ時期に、同じく臨床研究上の不正が問題視されていたノバルティスファーマは、ホールディングスのトップが辞任したのに新聞の社会面で報じられる程度で、理研問題ほど注目を浴びることはありませんでした。

「この両者の差は何だったのか」
この相違の理由を考えながら、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の序論について、改めて考えてみようと思います。

なお、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の入門知識については、↓に、よくある質問をまとめていますので、興味がある方はご覧下さい。
危機管理広報・クライシス・コミュニケーションのよくあるご相談

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)を行う際、戦略目的が固まっているか

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)とは何か

ここ数年、企業内で不祥事が発生した、しかも、それが社会から注目を集めるような不祥事だったというときには、ただちに世の中に説明しなければならない、場合によっては企業の言い分を釈明しなければならないと考えて、記者会見を行う、という姿勢が見られます。

こうした不祥事、危機を受けての記者会見のことを、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)と言います。

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の成否の鍵は「戦略目的」

記者会見を行って、世の中に情報発信すること自体は非常によいことだと思います。
しかし、徹底的に欠けているのは「何のために記者会見を行うのか」という戦略目的の設定です。
戦略目的を固めることなく記者会見を開いても、記者の質問に淡々と答えるだけ、もっといえば、記者から追及・糾弾されて社長以下がタジタジになっている様子がテレビニュースや新聞の写真として報道されるだけということになってしまいます。
記者会見の場に出席している社長以下トップも「何のためにここにいるんだろう。会社の言い分を釈明して事態を収束させたかったのに、それができていない。」と、会見を開いたこと自体に疑問を感じることもあるでしょう。
これでは、あえて、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)を行う意味がありません。

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の成否を決するのは、事前に戦略目的を固めているかどうかに尽きます。

「戦略目的」とは何か

戦略目的とは何か。
わかりやすく言い換えると、危機発生時にあえて記者会見をやる狙いは何か、ということです。
それは、単に「事態を早期に収束させたい」という動機のことではありません。
記者会見を通じて「世の中からの信頼を回復したいので、自社は不正に対して厳しい姿勢で臨むことを示したい」というところまで、具体的に落とし込んでいくことが必要です。
そうすれば、記者会見の場では、終始一貫して、その目的に即した言動を心がければいいわけです。会見以外の場でも、会社としてどのように振る舞い、どのような対応をしたらいいかも、自ずと明らかになっていきます。

文字に起こすと当たり前のように思えますが、実は、これができていないことで記者会見を失敗しているケースは山ほどあります。
「結局、会見で何を言いたかったの?」と思えるケースは、ほぼ、戦略目的が固まっていなかったのだろう、具体的に落とし込めていなかったのだろう、と推測していいでしょう。

ノバルティスファーマと理研の比較

冒頭に挙げたノバルティスファーマの件、理研の件、両者の差はここにあったのではないかと思っています。私が関与したわけではないので、あくまで推測ですが・・。

ノバルティスファーマの事例

ノバルティスファーマの場合は、第一報が報じられた時点から、会社対社員という構図にはせず、社員が不正を行ったことに対して、会社が全容を解明し、会社の信頼を回復しようとしていたことがうかがえます。

「治療薬の効果を調べる大学の臨床研究に社員が身分を隠して関与したとする報告書をまとめていたことが23日、分かった。社員は2001年以降、データ解析などを担当していたという。社員は今月15日付で退職した。同社は22日、「不適切だった」として日本医学会や日本循環器学会などに報告した。同社によると、元社員が参加したのは高血圧症治療薬「ディオバン(一般名バルサルタン)」の臨床研究。」
「元社員は論文に名前を載せる場合は非常勤講師を務めていた「大阪市立大」の肩書を使い、社員であることを隠していた。上司は臨床研究への参加を支援していたほか、元社員の部下が関与したケースもあったという。」(2013年5月23日付日本経済新聞夕刊より)

実際に、上の第一報が報じられた後も、外部有識者会議を開催する、第三者委員会を設置する、スイスから法人トップが来日して記者会見を行い、日本法人と日本のホールディングスのトップが辞任に至るなど、会社として不正に厳しく臨む姿勢が伝わってきます。

理研の事例

これに対して、理研問題の場合は、当初から、会社対研究者という構図になってしまい、社員が不正を行ったことに対して、会社が全容を解明し信頼を回復するというよりは、会社と研究者の言い分のどちらが正しいかというところに注目が集まってしまいました。現状、まだ、この構図が続きそうな気配です。

もし、理研問題の場合も、会社が全容を解明し信頼を回復するという目的がはっきりしていれば、研究員個人による記者会見を行わせてはならず、会社が全部の窓口になっていなければおかしいはずです。
また、不正が明らかになっていない段階であったとしても、不正か否か全容が明らかになった段階でトップ以下の責任をどうするかを明言すると予告する、全容が明らかになった段階で調査報告を会見で行う、その時までは、マスコミが研究者個人にスポットを当てようとしても、理研側の広報が全窓口になるといった対応をすべきだったところです。
もっとも、理研の問題では、事前に理研事態が研究者個人にスポットが当たるような状況を作り出していたので、会社主導で会社が窓口になると広報したとしても、マスコミが研究者個人にスポットを当て続けたという側面も否定できませんが・・。
それでも、会社は「個人の精神面に関わるので」「重要な調査中ですので」などを理由に、個人にスポットが当たることを回避する工夫をしておくべきだっただろう、とは思います。

今日は、まず、序説ということで、戦略目的を固めるということについてお話ししました。
トップの役割=危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)では社長が記者会見すべきなのか、記者会見すべきとしたら登場するタイミングはいつなのか、については、あらためて投稿したいと思います。

リコールの回収率を上げるためには、社告・公表をわかりやすくする工夫を

リコールを行う場面

物を売るという取引では、物を作った後、あるいは物を売った後に「物を使うと生死の危険が生じる可能性がある」「生命までは奪われなくても重大事故に繋がる可能性がある」「そこまで深刻ではなくても、多数の人に影響が拡散する可能性がある」ということが判明することがあります。
これが可能性に留まらないで、実際に「生命を奪うような事故が発生してしまった」「重大事故に繋がってしまった」「多数の人に影響が生じてしまった」ということもあります。

B to Cの取引や、B to B to Cの取引で、こうした可能性が明らかになった場合、あるいは実際に事故が発生してしまった場合には、B に該当するメーカー、輸入業者、流通業者といった企業(Business)は、消費者(Customer)であるCに向けて、物の危険性を伝えて、物を使わせない、物を回収して修理する、物を回収して別の物と交換するなどの「製品リコール」をしなければなりません。

リコールは、回収率を向上させる工夫が必須

ただし、忘れてはならないのは、「製品リコール」は「やる」こと自体が目的になってはいけないということです。
「製品リコール」の目的は、消費者に対して、「危険である」「使わないで欲しい」「回収させてほしい」「修理させて欲しい」というメッセージを伝えること。そのうえで、実際にメッセージどおりに消費者に行動してもらい回収率を上げること。です。

リコールの情報を消費者に伝えるための手段-「新聞社告」が第1位

そうなると、企業が「製品リコール」を行うにあたっては、どのような方法・手段をとれば、消費者にメッセージを伝えることができるだろうか、ということを第一に考えなければなりません。
特に、物に含まれる危険性が大きければ大きいほど、消費者に迅速にメッセージを伝えられなければなりません。
メッセージを発信する日が1日遅れた、あるいは消費者がメッセージを受けとるのを1日遅れた。それによって事故に直面してしまう、ということも充分ありえます。

では、どのような方法・手段が望ましいでしょうか。

平成24年10月に消費者委員会が調査した結果によると、消費者は、次の方法・手段で「製品リコール」のメッセージを知りたいと認識しているようです。

方法・手段 希望する人の割合(%) ※複数回答
新聞の社告での「回収のお知らせ」 58.5
ラジオ・テレビのコマーシャル 55.1
ラジオ・テレビ・WEBのニュース 50.7
メーカーからの連絡(郵送DM、電話) 45.7
新聞記事 39.6

消費者が新聞を以前よりも読まなくなったとの結果も出ていますが(全国紙を「ほとんど読まない」「全く読まない」人の割合は、平成18年は合計12.8%であったのに対し、平成24年は31.0%)、それでも、消費者の50%以上は、新聞での社告で「製品リコール」の情報を知りたいと思っているようです。
ちなみに、消費生活用製品安全法では、メーカーから行政に報告し、行政が公表するルートが定められていますが、しかし、消費者の83.4%は行政機関が「製品リコール」の情報を発信していることすら知らなかった、という結果もでています。

こうした結果からは、企業が「製品リコール」のメッセージを消費者に迅速かつ確実に伝えたいと思ったら、消費生活用製品安全法で行政に報告するだけでは不十分で、自分たちで新聞に社告を出す、マスコミのニュースに載るようにプレスリリースを出す、マスコミを通じたコマーシャルを提供するなどといった方法を選択しなければならないことがわかります。

リコール社告は、消費者が理解できなければ意味がない

企業は社告などを通じて「製品リコール」のメッセージを消費者に届けるだけでは不十分です。
消費者に社告などを通じて伝えたメッセージに沿った行動を取ってもらわなければ意味がありません。
消費者がメッセージに沿って「危険」だと認識して使うのを止める、「回収」や「修理」に出す(回収率を上げる)ためには、企業が発信するメッセージの内容を消費者が理解してもらう必要があります。
そのためには、第二に、企業は社告などの方法で伝えるメッセージの内容が、わかりやすく伝わるような工夫を考えなければならないのです。

具体的には、文章だけの社告にするではなく、写真や図解を駆使した社告にするのが、その工夫の核です。
たとえば、2014年4月24日、SONYは今年2月に発売したノートパソコンを製品リコールすることを発表しました。その新聞社告やWeb上に、消費者が手元にあるノートパソコンがリコール対象製品かどうか確認するための手順を、写真や図入りで工夫しています。
2014/04/11付Web上の製品リコールの案内(写真入り)
Sony Japan _ パーソナルコンピューターVAIO Fit 11A使用中止のお願いとお詫び
2014/4/24付Web上の製品リコールの案内(写真入り)
Sony Japan _ パーソナルコンピューターVAIO Fit 11A無償修理受付開始のお知らせ

わかりやすい社告を作るために・・・「リコールハンドブック2010」

わかりやすい「製品リコール」の社告を作成して回収率を向上させることは、2004、5年前後から、企業が積極的に取り組むようになっていました。おかげで、徐々に、工夫された、わかりやすい「製品リコール」の数は増えていきました。
その流れを受けて、経産省は、2007年に「リコールハンドブック2007」を発表し、2010年にはその改訂版となる「リコールハンドブック2010」と、その解説書となる「リコールハンドブック2010【手引き】」を発表しました。
2013年には、製品リコールにも、ISO規格ができました(ISO10393)。内容は、経産省のリコールハンドブック2010とほぼ同じです。

この「リコールハンドブック2010」は、法律ではありません。
企業が「製品リコール」をする際に「このハンドブックに従わなければならない」というルールを定めたわけではありません。実際のところ、内容は、定型書式を作成することを主眼にしたものではありません。
「製品リコール」の考え方と向き合い方を前面に押し出し、巻末に他社事例を豊富に掲載して「こういうリコールの仕方もある」ということを、企業に提案しています。あくまでも「こうしたら、わかりやすいリコールになるよ」「こうしたら、リコール回収率が高くなるよ」という提案をしたものと位置づけていいと思います。
知らないよりは知っていて損はないので、企業の広報担当者は、一度、目を通しておくのがよろしいかと思います。