危機管理広報の成り立ちなど

マンションのくい打ち問題は、まだまだ続きがありそうです。
そのため、くい打ち問題についてのレビュー第2弾は、もう少し経過を見てから書きます。

先日、同業者と飲み会をしていたときに、私の仕事内容が通常イメージする弁護士の業務=訴訟業務と違いすぎるということで、色々と質問されました。
そこで、今回は、「危機管理って何?」「なんで、危機管理広報を、やることになったの?」という、素朴な質問に回答しようと思います。

私が危機管理広報をメインにするようにした成り立ちと言い換えることができます。

辞め検(ヤメ検)の「危機管理」とは何が違うのか

最近では、元検察から弁護士に転向した、いわゆる「辞め検(ヤメ検)」の弁護士の方々が「危機管理」を業務内容としてアピールしているのをよく見かけます。
おそらく、元検察という経歴から察するに、「企業不祥事が起きても、いかに刑事事件にならないようにするか」というところに主眼があるのではないかと思います(あくまでイメージです)。

「いかに刑事事件にならないようにするか」は、私が考える「危機管理」ではありません。
それは、私の中では、刑事弁護でしかありません。
より広い意味では、予防法務ではあるかもしれません。

私が考えている「危機管理」は、企業が社会からの信頼を回復する、信用を取り戻すためにはどうしたらいいか、そもそも信頼を失わないようにしないためにはどうしたらいいか、に主眼を置いています。
社長であろうと従業員であろうと誰かが逮捕されるべきケースでは、逮捕され起訴されるべき、と思っています。
むしろ、逮捕、起訴されてでも、企業の中で変えていかなければならない部分は変えていこうと考えながら、アドバイスしています。
その点では、ヤメ検の「危機管理」とは、真逆かもしれません。

民暴の「危機管理」とは何が違うのか

一方で、民事介入暴力を専門にする弁護士の方々も「危機管理」という言葉を用いられます。
私の「危機管理」は、民暴の「危機管理」そのものではありませんが、どちらかというと、こちらに近いです。

民事介入暴力の「危機管理」は、企業が反社会的勢力やクレーマーから不当な要求をされたときに、いかに屈しないか、に主眼を置いています(私も過去に民暴委員会に籍を置いていました)。
これは、私が考えている「危機管理」の中に含まれます。

企業が不祥事を起こした場合に、企業は社会からの信頼を回復する、信用を取り戻す必要がある。
そのためには、株主や機関投資家や消費者や地域の意見を聞かなければならない。
その中で真っ当な意見があれば組み入れるけれども、すべて言うがまま、言いなりになるわけではない。
この言うがまま、言いなりになるわけではないというのは、民暴の「危機管理」と共通しています。

言うがまま、言いなりになるわけではない、というところの延長に、あくまでも会社の意思決定を行うのは、会社の取締役・取締役会である、という発想があります。

どういう成り立ちでの「危機管理」か

私が考えるところの「危機管理」は、社会からの信頼を回復する、信用を取り戻すための手段を講じるべきというところに主眼があります。
このベースになったのは、不当なクレーマーへの対応、土壌汚染をきっかけとした住民説明会、株主総会での取締役の説明義務、IR型の出資者(株主)に説明することに主眼を置いた株主総会への移行、企業の社会的責任が問われるようになった時代背景、個人情報漏えいでの被害者向け説明、マスコミへの取材対応などでの経験です。

弁護士である以上、法律で禁止されていることは企業活動でも禁止される、というところからスタートするのは当たり前です。
しかし、コンプライアンスという言葉が2000年以降に言われるようになった当初は、「法律をまもって、会社が潰れる」とも揶揄されました(今でも言っている人はいます)。
それも、違うだろ、と。

法律は守らなければいけない。でも、法律が定めていない中で企業にはできることがあるだろう。
まして、企業不祥事が起きたときには、会社が信頼を回復する、信用を回復する、ファンを失わない。そのために、できることは、山ほどあるではないか。
企業が不祥事を起こしたときこそ、マーケティングの手法などを積極的に活用すべきではないのか。
松下電器(現パナソニック)の石油ファンヒーターの大規模リコール事件のときに行われていた回収のために、次から次へと出てくる方策を見て、その思いは強くなりました。

ましてや、先に挙げたような経験を通じて、回答として期待しているのは、法律の話ではないことを体感しました。

そこからスタートしたのが、私が考えているところの「危機管理」の具体的な中身です。
一見するとコンサルティングのように誤解されるかもしれません。
しかし、あくまでもベースは、弁護士の立場からの発想です。

ベースは「戦略法務」

むろん、私ひとりで勝手に思い至ったのではなく、私が師事した中島茂弁護士が、日本で一番最初に提唱した「戦略法務」の考え方がベースになっています。
ちなみに、「戦略法務」という言葉は、今では広く使われるようになっています。
しかし、その内容を、企業には戦略目的があり、目的を達成するためには色々な手段があり、その中で法的手段をも使おう、と、広く企業戦略の一つに法務を位置づけているのは、中島茂弁護士だけだと思っています。

「危機管理広報」で考えていること

私が「危機管理」の一つとして行っている「危機管理広報」は、こうした「戦略法務」の考え方をベースにしているものです。

企業が不祥事を起こしたときには、目的は、信頼回復、信用回復、さらには、現在進行形の不祥事の拡大防止や被害の拡大防止などがある。
その目的を達成するためには、いろいろな手段があり、それを考えていこう。
その手段の一つとして用いるべき「広報」が「危機管理広報」である、という考え方です。

単に「訴訟になったときに不利にならないような説明をしよう」「責任を負わないような言葉選びをしよう」とは、発想の原点が違います。

あくまでも、目的達成のために必要なことを世の中や消費者にアピールして伝える、というところから、発想します。
法的責任を免れても、企業がマスコミから叩かれたら意味がない。消費者が離れていったら意味がない。
守るべきものは、社長以下役員の首ではなく、あくまで会社である。
もっと言えば、会社を取り巻く、株主、投資家、消費者、取引先、社会、従業員が守るべき対象である。
この思いに立った上で、今のタイミングで全部情報を隠さずに開示すべき、次の発表はこのタイミングで行うべき、発表を行う前にこの取引先などには事前に根回ししておくべき、軽々しい言葉選びをすると法的責任を認めて争う余地がなくなるので、同じ内容を言うにしても違う説明の仕方ができるのではないか、社内でもこういう言葉で説明すれば役員の理解が得られるのではないか、などのアドバイスをしています。

東洋ゴム工業問題の本質と広報の遅さ

東洋ゴム工業の性能偽装問題、何が問題か

性能偽装問題の概要

東洋ゴム工業が3度目の性能偽装をしていたことが2015年10月14日に明らかになりました。
今回は、2005年以降、子会社である東洋ゴム化工品が製造した鉄道車両や船舶の揺れを緩和するために使用される防振ゴムを、東洋ゴム工業は、材料試験を行わないまま、あるいは強度などの性能について虚偽のデータで出荷していたことというものです。
中には、強度の性能が10%に満たない製品もあったと報道されています。

詳しい経緯は、こちら(pdfファイルです)

3度の性能偽装は、東洋ゴム製品の安全性についての信用を低下させる

これで、2007年に耐震パネル耐火性能偽装問題、3月に大臣認定不適合の免震ゴムを出荷していた問題に続く3度目の性能偽装です。
今回の不正発覚は、以下のとおり3月の免震ゴム問題を受け、国内で緊急品質監査を実施して安全宣言をした直後に発覚したものです。

「3月の免震ゴム問題を受け、東洋ゴムは5~7月に国内外全23拠点で緊急品質監査を実施。8月10日に防振ゴムを含む製品で「正規品が出荷されていることを確認した」と対外的に“安全宣言”をしていた。」(日本経済新聞2015年10月15日付朝刊)

それだけに、3月の免震ゴムをきっかけとして行われた緊急品質監査が十分なものであったのか、そもそも過去の2度の性能偽装を会社として真摯に受けとめていたのか、疑問を抱かずにはいられません。

まして、問題が発生したのは、耐震パネルの耐火性能、免震ゴムの性能、鉄道車両や船舶に使用される防振ゴムの性能です。
いずれの製品にも共通しているのは、エンドユーザーの生命や身体に危害を生じさせる可能性があるということです。

そうなると、「東洋ゴム工業はエンドユーザーの生命・身体の安全を念頭に置いていないのではないか」という素朴な不信感も生まれかねません。
例えば、東洋ゴム工業の製品のうち消費者にとって身近な自動車用タイヤについても「安全性は大丈夫なのか」と信用を失い、商品を購入しなくなる消費者が現われる可能性も否定できません。

謝罪会見は本質に答えていない

今回の事件発覚後、東洋ゴム工業は、法令遵守を担当する常務執行役員と防振ゴム事業を担当する常務執行役員が記者会見を行いました。
ここも本当であれば、免震ゴム問題をきっかけに新体制を担うことになる、社長就任予定の常務執行役員が出席すべきです。
そのうえで、社長就任に向けての覚悟を語るべきでしょう。

また、記者会見で発せられた内容のうち、謝罪に関する言葉については、次のように報じられています。

「皆様に多大な心配と迷惑をかけ、誠に申し訳ありません」
「免震ゴム問題で再発防止を誓う中、許されざる行為であり、会社として重く受け止める」
「技術者の倫理意識が欠如している。再生に向け真剣に考えたい」 (日本経済新聞2015年10月15日付朝刊)

これはこれで、謝罪するために必要な内容を含んでいます。
ただ、今回は3度目の不正、しかも安全宣言直後に性能に関する不正が発覚した、という会見です。
そうだとすれば、「エンドユーザーの生命・身体の安全性を脅かす事態である」という、製品の安全性に向き合う会社の姿勢を認識した言葉が欲しかったところです。

従業員コンプライアンス研修が不正発覚に役だった

ただ、東洋ゴム工業が信用を取り戻すための光明がないわけではありません。
今回の防振ゴムの性能偽装が発覚したきっかけが、従業員に対するコンプライアンス研修の成果と言えるからです。

東洋ゴム工業は3月の免震ゴム問題をきっかけに、8月18日、19日に従業員に対してコンプライアンス研修を行った結果、翌8月20日に従業員から今回の防振ゴムの性能偽装について内部通報があり、不正が発覚したそうです。

研修の翌日に内部通報があるということは、滅多にあるものではありません。
従業員は、内部通報することで自分の身がばれることへの不安、通報によって会社に迷惑がかかるのではないかという不安、通報した結果として不利益に取り扱われるのではないかという不安を抱えているからです。
ところが、今回は、その不安を乗り越えて、翌日に内部通報する従業員が現われた。

会社のことを考え、エンドユーザーの生命や身体の安全を考える従業員がいるという点では、会社が信用を取り戻す可能性は十分にあると思います。

危機管理広報の遅さ

東洋ゴム工業の過去の2度の不正でも、今回の防振ゴムの性能偽装でも指摘されているのが、広報の遅さです。
会社が不祥事を起こした際の危機管理広報のタイミングの鉄則は「できる限り即日」です。

3月の免震ゴム問題は、会社が問題を認識してから3月に公表するまで1年半を要したことが批判の対象とされました。
その後、当時の会長、社長を含む取締役5人全員が責任を取って辞任しました。

今回の防振ゴムの性能偽装については、8月20日に内部通報がありました。
もちろん、内部通報はすべて正しいものではないので、ある程度は、社内調査を行うことは必要です。
それにしても、内部通報があってから公表まで2か月弱を要しています。

また、2015年10月14日に公表したにもかかわらず、東洋ゴム工業のウェブサイトのトップページは、10月16日時点で、3月の免震ゴム問題についての謝罪が掲載されているのみです。

TOYO TIRES企業サイト|東洋ゴム工業株式会社

10月14日に3度目の性能不正について公表したのであれば、ただちに、トップページを防振ゴムの性能偽装に関するものに差し替えるべきです。
こうした事実も、社内で横の連携がとれていないのではないかと、組織体制についての信用性を低下させる要素の一つになってしまいます。

「危機管理広報の基本と実践」出版

「危機管理広報の基本と実践」出版

前回から一夏超えての久しぶりの更新となりました。
前回のレビューが6月の投稿だったので、4か月ぶりです。

まずは4か月間で一番大きいできごととしては、9月に中央経済社から「危機管理広報の基本と実践」を出版することができました。
私の中心業務である企業危機管理のうち「広報」にだけ焦点を当てました。

不祥事後の記者会見での失敗、プレスリリースでの失敗など、「広報」をおろそかにして企業危機管理を失敗し「炎上」してしまうケースが相次いでいます。
そこで、これまでの危機管理に関する仕事でのノウハウをベースに、各企業にて知っておいて欲しい危機管理広報の基本的な考え方とノウハウを解説しました。

なぜ、弁護士が広報の本を書いたのか

本の中でも触れましたが、なぜ、弁護士が危機管理「広報」の本を書くのか、と思われるかもしれません。

理由を一言で言えば、危機管理時の「広報」、これは、取締役の善管注意義務に含まれるからです。

取締役は、企業価値を高め株価を上げる、売上を上げる、利益を上げることが、「善管注意義務」として求められています。
そのために、取締役は、不祥事を起こさないように予防すること、不祥事が起きてしまったときには最少限度に食い止めることが求められます。

例えば、食品メーカーが異物混入事件を起こしてしまったときに、会社に与える損害を最少限度に食い止める。
そのために、異物が混入していたことについて謝罪し、同時に、社会に「広報」し、異物混入について注意喚起する。

顧客の個人情報を漏えいしてしまったときに、顧客離れを食い止め売上の低下を予防し、かつ、漏えいの被害者から訴訟等を起こされて会社が損害を賠償しないようにする。
そのために、情報漏えいした事故の内容について情報開示し、顧客からの信頼を取り戻すための「広報」をする。

このように、危機管理「広報」は、取締役の善管注意義務に含まれます。
どこまで広報をすれば、善管注意義務を果たしたことになるのか。
どのような広報をすれば、善管注意義務を果たしたことになるのか。
これ以上は広報を求められても回答する法的義務はない。でも、社会的責任の観点からは広報した方がよい。
これらの判断はいずれも、法律問題です。

そこで、弁護士の立場から「危機管理広報」にフォーカスした書籍を出版しました。

広報畑出身の危機管理広報のスペシャリストはたくさんいるかもしれません。
でも、弁護士の立場からのスペシャリストは、私が師事した中島茂弁護士しか知りません。

弁護士の立場からの「危機管理広報」が、広報畑出身のスペシャリストがいう「危機管理広報」とどこが違うのか、読み比べてみてもおもしろいかもしれません。

「月刊広報会議」での連載「リスク広報最前線」もスタート

「危機管理広報の基本と実践」の出版と奇しくも同じタイミングで、「月刊広報会議」の2015年9月号から、「リスク広報最前線」と題した危機管理広報についての記事を連載しています。
月刊広報会議での連載は、毎月1回、その月にあった不祥事に関わる広報について、弁護士の目から見て、危機管理広報として良かったところ、悪かったところを解説しています。

連載開始から、これまで3回記事を書きました。

1回目(2015年9月号)は、トヨタ自動車役員の薬物輸入事件。
2回目(2015年10月号)は、東芝の会計問題。
3回目(2015年11月号)は、オリンピックエンブレム問題。

今後も、トピックなテーマを取りあげて、弁護士の目線で解説していきます。

異物混入を公表するかどうかの判断基準

外食産業・食品業界の異物混入事件報道

2015年に入ってから、外食産業・食品業界での異物混入事件が相次いで報道されています。
半年以上前に食品の中に異物が混入していた事実があったことが、今になって報道されているケースもあります。
こうした報道を見ていると、「外食産業・食品会社は異物混入している事故を起こしたときには、全部、公表せよ」的な極端な意見も見られます。

異物混入だからといって、全部を公表する必要はない

でも、「食品に異物が混入している事故が発生したときに、全部の案件を公表しなければならないのか」と質問されたら、私の答えは「全部を公表する必要はありません」です。
その理由を説明しましょう。

現実的な問題として、食品への異物混入は常時発生しています。
昔ながらのラーメンのスープに店主の指が入っていた、レストランで出された料理に髪の毛が入っていた。
これだって、立派な異物混入事件です。

これらの異物混入でも公表するか?と言えば、公表するわけがない、というのが普通の考え方だと思うのです。
「今日、当店ではラーメンのスープに店主の指が入るという事故が起きました」とか、公表して誰のためになるの?という話です。

実は、この「公表して誰のためになるの?」というのが、異物混入事件の公表・非公表を判断するにあたっての元になる考え方なのです。

食品の安全性・安心の確保に繋がるかどうか

外食産業・食品業界が調理して提供する食品は、消費者である人の口に入るものです。
食品を口にした消費者が、身体の安全を害する、極端な話では生命を落とす、後遺症が残る、また食に対して安心できない。
そんな事態を引き起こすような外食産業・食品会社であれば、会社としての存在価値がありません。

異物が混入しているというのは、身体の安全は害さないかもしれないけれど、食に対する消費者の不安感を招き、消費者が安心して口にできないという事態を招きかねません。
会社としての存在価値が疑問視される一要素です。

とはいえ、異物がたまたま1つの食品に入っていたという場合は、その食品を手に取った消費者、口にしてしまった消費者一人を相手にお詫び以上の対応をすれば済む話しです。

他方で、異物が1つの食品だけではなく、他の食品にも入っている可能性がある場合には、異物を発見した消費者、異物を口にしてしまった消費者以外にも、同じような問題が生じる可能性があります。
その場合には、会社は、消費者一人ではなく、食品を手にする可能性がある購買予定者=世の中全体に、「異物が混入していた。他にも混入している可能性がある」と知らしめる必要があります。
その場合であっても、公表せずに黙っている会社は、存在価値がないに等しい。

実は、この説明の中に、公表するか公表しないかを判断する基準がすべて含まれています。

拡大可能性があるか

1つめの基準は「拡大可能性」です。
異物が混入している食品が1つに限られず、他にもあるか否か、ということです。

たとえば、食品工場の製造ラインで、ラインに従事する社員が農薬が希釈して混入していた。
これは、そのラインで製造された食品すべてに関わる可能性があります。
その食品は、広い販路をたどって消費者の口に届く可能性があります。

食品会社としては、不特定多数の消費者の口に届く可能性がある商品に農薬が入っていることがわかれば、不特定多数の消費者=世の中に対して、「この製造ラインで作られた食品には農薬が入っている可能性があって危険なので口にしないで下さい」とアナウンスして知らしめる必要があります。

言われて見れば「当たり前」と思われるかもしれませんが、この「当たり前」の判断基準を持っていない会社が多いのが事実です。

異物混入でも、たとえば、ケーキに青カビが入っているというケースの場合には、同じ店舗・工場で、同じ時期に製造された他のケーキにも青カビが入っている可能性があるわけなので、公表する必要は出てきます。
虫が入っているというケースの場合には、同じラインで製造された他の食品に、虫の身体(物体)が入っていることはないけれど、虫のエキスが混入している可能性があるわけなので、公表する必要はありえます。
もちろん、虫が入っていれば全部公表ということではなく、どんな食品に、どんな形で虫が混入していたかという細かな事情を判断して、公表・非公表を判断する必要があります。

安全・安心に与える影響が重大か

もう1つの基準は「安全・安心に与える影響が重大か」です。
異物が混入している食品が1つであっても、それによって生命を落とす、身体に障害が残る、食中毒を起こす。
食品会社求められる、安全・安心を守るという基礎的な部分に問題があれば、それは公表する必要が出てきます。

たとえば、製品を口にした消費者が食中毒になった。
これは、食品会社が作った食品に安全性がないということです。
食品会社としての存在意義そのものに関わります。
安全ではない食品を提供するような会社は、食品を作らなくてもいい、むしろ作らないで欲しいからです。

だとすれば、仮に「拡大可能性」がないとしても、「安全・安心に重大な影響を与える」場合には、公表すべきです。

最近の新しい基準=SNS上での盛り上がり

2014年、2015年の異物混入事件を見ていると、報道で大きく取り扱われる以上に、SNSで話題になって、異物混入の事実が情報として拡散しているケースが見られます。
食品会社が「拡大可能性がない」「安全・安心に与える影響が重大ではない」と判断して公表しなかったケースであったとしても、SNSで情報が拡散している状況をそのまま放置しておいては、会社の評判が下がります。レピュテーション・リスクの最たるものです。

中には、事実と間違った情報が拡散してしまう場合もあります。また、意図的なねつ造が情報として拡散してしまう場合もあります。
これは、会社が対応しなければ、レピュテーション・リスクが拡がるだけです。

そこで、SNSで情報が拡散し盛り上がっているようなケースの場合には、会社は情報を公表すべきです。
ただし、会社が情報を公表することでSNSにネタを提供する、炎上のための油を注ぐことになってはいけません。

そのためには、ネットでは同じ土俵に乗らずに公表する方法を考えるべきです。
具体的には、会社のWeb上に、会社が認識している事実、原因や会社の見解を載せるということで、十分だと思います。

忘れてはいけないのは、「安全・安心」へのお詫び

食品の安全・安心を損なうような事態を招いた場合、多くの会社は、お詫びを公表します。
または、記者会見などでお詫びの言葉を述べます。

多くは、「このような事態を招き、申し訳ございません」という文言になっています。
しかし、お詫びをするのは、事態を招いたからではありません。
事態を招き、食の安全・安心を損ねて迷惑をかけた、あるいは不安に陥らせてしまったからお詫びをするのです。

だとすれば、単に「事態を招き、申し訳ございません」ではなく、「食品の安全を損ねご迷惑をおかけし、また当社製品に対する不安を招き、申し訳ございません」と謝罪するのが筋です。

ここができているか否かも、会社が本当に事件の本質を理解して異物混入事件に対応しているかを見定めるポイントです。

企業危機管理の転換期がやってきた?

企業危機管理の転換期が到来しているのではないか?という疑問

昨日の「2015年、新春のごあいさつ」の記事で、企業は、TwitterなどのSNSによって社会・消費者の不安・不満が増幅することを視野に入れて積極的な情報公開をすることが肝要であることについて触れました。
今日は、昨日の記事を書くことになった考え方の根っこの部分について書きます。

それは、昔ながらの危機管理の方法論だけでは通用しない時代になってきたのではないか? ということです。

前々からニュースを見ていて、昔ながらの危機管理の方法としては間違っていないはずなのに、なぜうまくいかないのだろう、と疑問を感じることがありました。
その疑問が、2014年年末に発生したペヤング異物混入事件、2015年に入ってから発生しているマクドナルド異物混入事件、不二家ケーキかび事件を見ていて、ほぼ確信に変わりました。

危機管理の王道的手法だけでは通用しなくなっているケースがある

昔ながらの危機管理の方法といえば、例えば、反社会的勢力や不当なクレーマーからの要求には毅然と対応する、社長を出せと言われても応じてはいけない(担当者が責任者である)などが有名です。
もちろん、これらの方法は、今でも間違っていません。
基本的には、この王道パターンで対応すべき、と考えています。

しかし、今は情報社会です。
「危機管理対応」「クレーマー対応」「反社会的勢力対応」などのマニュアルは、インターネット上で簡単に見つけることができます。
そのため、会社に攻め込む反社会的勢力や不当なクレーマーはもちろんのこと、まっとうなお客さんも、クレームを言う前に、会社がどう回答してくるかを調べ、情報として知っています。
そうなると、会社が昔ながらの危機管理の方法で対応しても、会社にクレームを付ける側は、その一つ先まで考えてクレームを付けてきます。
将棋に例えれば、先の先まで読みながらクレームを付けている、ということです。

また、昨日書いたように、TwitterなどのSNSが利用しやすくなったので、会社にクレームを付けるのと同時並行して、写真をTwitterやInstagramにアップして、インターネットを通じて世の中に情報を知らしめて戦うという人たちも増えています。
そのため、会社は、クレームを付けてきた相手=1個人だけを相手に危機管理の方法をして、クレームを言い出した人を納得させること、あるいは不当な要求を黙らせることに成功しても、インターネットを通じて情報を知って騒いでいる社会・消費者の声を抑えることができなければ危機管理の手法としては片手落ちということになっています。

ブログや2ちゃんねるなどの掲示板全盛期の頃と、SNS全盛期の今では、企業にとってのリスクは桁違い

SNSが登場する以前のブログや2ちゃんねるなどの掲示板が全盛の2000年代は、クレームを付けてきた相手が「ネットに書くぞ」と言っていても、企業側は「書いて欲しくはありませんが、止めることはできないので、書かれても仕方がありません」で対応することでも十分な対応でした。
これは、例え、ブログや2ちゃんねるに不平・不満を書かれても、2ちゃんねるやブログの場合には自分から情報を見に行こうとしなければ、投稿された内容を目にすることはありませんでした。
よほど盛り上がらない限り、投稿された内容が多くの人の目に触れることはなかったからです。
わかりやすく言えば、企業にとってはリスクがそれほど大きくなかったからです。

しかし、スマートフォンの普及率が高く、Twitter、Instagram、FacebookなどのSNSにが全盛期を迎えている2010年代の今は、クレームを言っている個人が簡単にスマートフォンで写真を撮り、それをSNSにアップし、かつ、SNSを通じてリツイートやシェアといった形で情報が拡散することが容易になりました。

情報の拡散が容易ということはどういうことかというと・・・・

SNSの利用者は、自らが積極的に情報をとりに行こうとせず、情報を受け身で待っているだけでも、自分が利用しているSNSのタイムライン、フィードに情報が流れてくる。
さらに、情報を流す人は一人とは限らない。
自分がTwitterでフォローしている人の中の複数、Facebookの友達になっている人の中の複数が情報を流すかもしれない。
SNS利用者は、受け身でも、企業の不祥事情報、例えば、食品の異物混入の情報を見逃すことなく、受けとることができる。
しかも、その受けとった情報を、リツイートやシェアの形で、バケツリレーの如く、自分のフォロワーに容易に知らせることができる。

こうした手順で情報がどんどん拡散していくのです。
この結果、不安や不満を持つ社会・消費者が声を出すようになるので、企業はそこにも対応しなければならない。
つまり、SNSの存在が、企業が危機管理対応をしていく中で、リスクの要素として大きなものになっているのです。

危機管理の王道的手法に、プラスアルファが必要になっている

企業は、今までの王道的な危機管理の方法論をリニューアルしていく必要があります。

「王道的な危機管理の対応だと、次は相手はこう出てくる。これにはどう対応したらいいか」
「クレームを付けてきた相手に対応するだけではなく、社会・消費者の声を抑えるためにはどうしたらいいか」

ここまで念頭に置く必要において対処しなければならないのです。

前者は、シミュレーションをどれだけできるか、ということでもあります。
従来のマニュアルをベースに、もう一歩先、二歩先まで考える。
頭を使えばできるはずです。

後者は、危機管理広報の体制を整え、何を広報していくかを考える、ということです。

詳細は、また別の機会に説明したいと思います。

月刊広報会議2015年1月号「リスクと広報」は危機管理広報担当者必読です!!

こんにちは。弁護士の浅見です。

10月からReviewの投稿がぱたりと止まってしまいました。
楽しみにしている方からは「次を待ってます」との声もいただいており、お待たせしまして、申し訳ございません。

10月以降も、朝日新聞社長交代、タカタのリコール問題、景品表示法の改正対応、焼きそば回収問題など、投稿したいネタは日々登場しています。
メディアから取材も受けました(中には記事にはならなかったものもありますが)。

しかし、情報を分析しきれていないので、年末年始にまとめてやります。しばし、お待ち下さい。

・・・と言い訳だけしても意味がないので、1冊、雑誌をご紹介します。

それは、月刊広報会議2015年1月号の「リスクと広報」です。

(残念ながら今回は取材を受けませんでした。いつでもお待ちしております。)

2014年に発生した事件事故の記者会見について、わかりやすくまとまっています。

各専門家の立場からコメントがあり、「そういう意見や見方もあるのか」と勉強になります。

ぜひ、読んでみてください。

朝日新聞誤報問題と記者のTwitterでの反応から考える、企業不祥事発生時の従業員のSNS利用

更新の間隔が空いてしまいました。

取りあげる話題は、9月11日に記者会見が行われた朝日新聞誤報問題(従軍慰安婦に関する吉田証言の誤報)についての同社記者の反応について、です(※政治的な観点から取りあげるつもりはありません)。

朝日新聞誤報問題と記者の反応

会見後に、同社記者がTwitterに投稿した内容が、次のように報じられました。

「会見の終了後、編集委員の男性は「今日はつらい日です。誤報のことはごめんなさい。でも、これで朝日新聞の記者やめたら漢がすたる」とツイート。「吉田調書と専門家の調書を読み解く取材に参加した」という地方支局勤務の男性は「誤った内容を伝えたことに深く反省いたします。関係者のみなさま本当に申し訳ありません。自らの取材手法を含めて見直していきます」と投稿した。」(2014年9月11日、産経新聞ニュース)

その他の反応もネット上にまとめられています。
【慰安婦誤報】朝日新聞記者アカウントのツイートまとめ

記者も従業員のはず。誤報=不祥事発生時の従業員のSNS利用として適切なのか、という問題意識

企業危機管理という側面から見たとき、こうした記者の反応・対応は適切なのか? という疑問が生じました。

というのも、記者は朝日新聞の従業員です。個人事業主ではありません。
誤報は朝日新聞という報道を目的とする事業会社の企業不祥事です。
企業不祥事が発生したときに、従業員が銘々にSNSに意見を投稿するというのは、他の事業会社では考えられません。

しかも、内容を見ると、従業員としての立場としての意見投稿ではなく、他人事=自分が働いている会社以外で起きた誤報問題であるかのような立場での投稿、または自分の政治的な意見を発しようとしている記者の方も散見されました。中には、役員などを批判する投稿をしている記者もいました。
こうした姿勢に違和感を感じずにはいられませんでした。
「企業不祥事を起こした会社の従業員のSNS利用として、これは適切なのか」と。

そこで、企業不祥事が発生した場合に、当該会社の従業員は個人で利用しているSNSで、何を発すべきか、あるいは、どのようにSNSを利用すべきかという問題を考えてみたいと思います。

企業不祥事を起こした会社の従業員のSNS利用で生じる問題

従業員が自分の身元を明らかにしてSNSを利用している場合、他人からは、当該従業員のSNS投稿は「不祥事を起こした会社の従業員の意見」というフィルターを通して見られます。

SNSの利用ではありませんが、例えば、企業不祥事を起こした会社の従業員にマスコミが出待ち取材を行う。
その取材でのコメント内容は、テレビ・新聞を通じて「不祥事を起こした××社の従業員は・・・・とコメントした」と報じられます。あるいは、無言で出待ち取材から逃げる様を報じられます。

つまり、従業員一個人の反応が、当該不祥事を起こした企業姿勢であるかのような報じられ方をします。
テレビ視聴者、新聞読者は、こうした報道を見て、「不祥事を起こした会社なのに、従業員はけしからんコメントをした」「不祥事を起こした会社なのに、お詫びもなく逃げるだけか」と憤りを感じる。そこまで達しなくても、少なくとも、その会社に対して、こういう反応をする会社なのかという印象を抱くようになります。

こうした従来の出待ち取材の報道とそれに対する視聴者・読者の反応の仕方は、そのまま、SNSの投稿とそれを見たネット利用者の反応でも同じと思って良いかと思います。
「不祥事を起こした会社なのに、従業員はこういうことを考えているのか」「不祥事を起こした会社なのに、お詫びもなく言い訳や逃げるだけか」と。

要は、従業員が身元を明らかにしてSNSを利用している場合には、当該従業員が不祥事を起こした会社の広報担当者ではないとしても、ネット利用者=世の中から見れば「不祥事を起こした会社の従業員のコメント」と受けとられてしまうのです。このことを忘れてはいけません。

企業不祥事を起こした会社の従業員は、SNSに何を投稿すべきか

不祥事を起こした会社の従業員であるという意識を持つ

企業不祥事を起こした会社の従業員が、自分の身元を明らかにしてSNSを利用している場合には、まず、「自分の投稿内容は、不祥事を起こした会社の従業員のコメントという色眼鏡で見られることを意識しなければなりません。
そうなれば、自然と、SNSに投稿する内容は慎重になっていくはずです。

不祥事を起こした当事会社の一員としてお詫びをする

また、当該従業員が広報担当でないとしても、また不祥事の直接の当事者ではないにしても、不祥事を起こした当事会社の一員として、「××という問題を起こして、××に迷惑、心配をおかけして申し訳ない」という世の中へのお詫びを発しなければならないと思います。
つまり、SNSを個人で利用している場合であっても、不祥事を起こした会社の広報として、SNSへの投稿内容を考えなければいけません。

詳細や個人の意見・推測は投稿してはいけない

当該従業員が広報担当であっても、また不祥事の直接の当事者であったとしても、SNSの個人利用では、個人の見解を述べてはいけません。広報担当者ではなく、直接の当事者でもないなら、個人の見解のほか、事実に対する推測も述べてはいけません。

ましてや、不祥事を起こした会社、つまり自分自身が働いている会社の経営陣を批判することは避けるべきです。
世の中から見たときには、「あまりに他人事として捉えすぎではないか?」と写ってしまうからです。もっと言えば、「批判する前に改善できていなかった(あるいは改善の声を挙げなかった)投稿者自身が悪いのだ」と否定的に捉えられてしまうからです。

あくまでも、お詫びの投稿だけに留めておくべきです。
詳細について知らないのであれば、不祥事の内容については「不祥事の詳細について正確には知らない。誤解を招いてもいけないので、憶測で述べるのは避けたい。」と投稿すべきです。
これが企業不祥事広報=危機管理広報=クライシス・コミュニケーションの基本です。

広報部門は危機管理広報=クライシス・コミュニケーションの観点から、各従業員にSNSの利用上の注意点を指導すべき

以上のようなポイントを、本当は、企業不祥事が発生する前から、会社の広報部門が従業員に指導しておいて欲しいのです。不祥事が発生した場合は、なおさらです。
もちろん、指導とはいっても、日頃から隠蔽体質にするという意味ではありません。
あくまでも、不祥事を起こした会社の従業員がSNSを利用する場合には、世の中から、色眼鏡で見られてしまうから注意して欲しいという危機意識を従業員に抱かせるような試みをして欲しいということです。
それができる会社とできない会社で、危機管理広報=クライシス・コミュニケーションがうまい会社、下手な会社が別れますし、もっと言えば、報道が早々に収束するかどうかにも影響してくると思います。

新日鐵住金名古屋製鉄所の爆発事故に見る、地域社会との共存

工場事故と地域住民

工場では事故は不可避です。
爆発事故、土壌汚染、騒音問題などが頻発します。

こうした事故が発生したときに、企業は危機管理として事故対応を行います。
その時に忘れてはならない存在が「地域住民」です。

企業の工場がその場所で操業することが許されるのは、地域住民に受け容れられているからです。
その地域住民の平穏な生活や生命・身体に不安を生じさせる事故を発生させた場合には、地域住民に迷惑を掛けた、不安を与えたということを肝に銘じて、地域住民に理解を求める行動を取らなければなりません。

これは「企業の社会的責任」と言えます。

新日鐵住金名古屋製鉄所での爆発事故と、地域住民への配慮

9月3日に新日鐵住金名古屋製鉄所で爆発事故が発生しました。
報道によると、2014年で5回目の事故だそうです。

「3日午後0時45分ごろ、愛知県東海市東海町5の新日鉄住金名古屋製鉄所から「コークス炉付近で爆発があった」と119番通報があった。愛知県警東海署や同製鉄所によると、15人がけがをして病院に搬送され、うち5人が気道熱傷などで重傷という。」

「名古屋製鉄所では今年1月以降、黒煙が発生する事故が計4回発生。新日鉄住金は8月、原因究明や改善策の検討のため、社内に事故対策委員会などを設けたばかりだった。」(2014年9月4日、日本経済新聞朝刊より)

新日鐵住金は事故対策委員会を設けて原因究明や改善策を検討しようとしていたところなので、内部的には十分な対策を行っていたと言えます。

しかし、その一方で、これまでの4度の事故での地域住民への配慮が不十分だったのではないかとも思えます。
住民からの不満の声が出ているからです。

「新日鉄住金名古屋製鉄所(愛知県東海市)で3日発生し、15人が負傷した爆発事故は、同製鉄所で今年5回目の黒煙発生だ。「またか」「いいかげんにしてほしい」。住民らは不安や不満を募らせた。」(2014年9月4日、日本経済新聞朝刊より)

新日鐵住金が地域住民を全く配慮していなかったのか?と言うと、そういうわけではないようです。
少なくとも、記者会見での謝罪コメントを見る限り、地域住民には配慮しています。

「新日鉄住金名古屋製鉄所(愛知県東海市)の爆発で15人が負傷した事故で、新日鉄住金の酒本義嗣・名古屋製鉄所長らが3日午後、記者会見を開き、「地域、社会のみなさまに大変なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と陳謝した。」(2014年9月3日、日本経済新聞電子版より)

そうであるにもかかわらず、地域住民から不安や不満が出るのはなぜか?ということです。

もちろん、1年で5回目の事故が原因であることも否定できません。

ただ、それ以上に、これまでの4回の事故で地域住民の方の不安や不満を十分に吸い上げられていなかったのかもしれないなとも思えます。

たとえば、住民説明会を行っていなかった、住民説明会を行ったけれど地域住民の方たちが理解できるほど噛み砕いていなかった(説明の内容が難しかった)、住民説明会への参加率が低かったので参加していない住民も多くいたなどが考えられます。

住民説明会を行う際で、もっとも大事なポイント

そこで、ここでは、もし企業が工場での爆発事故などを起こしてしまったときに、企業は住民説明会を行うべきか、住民説明会を行うときに、どういった点に配慮をすべきかについて解説したいと思います。

住民説明会を行わなければ、地域住民への配慮を欠く

仮に住民説明会を行わないのであれば、その姿勢そのものが、地域住民への配慮が欠けていたという評価になりましょう。
事故を発生させ、地域住民の方に迷惑を掛けた、不安・不満を抱かせたという意識があれば、地域住民の方に説明するのは筋だからです。
法的責任云々ではありません。
企業に地域社会と共存する意思があるかどうかという問題です。

実際に、ある会社では、住民説明会を行うだけでなく、地域住民のお宅に1軒1軒訪問し説明に上がったこともあります。そこまで行うのかどうか。
新日鐵住金の場合、報道からは明らかではないので、過去4回の事故のときにどのような行動をとったのかは気になります。

住民説明会の目的と、地域住民への謝罪

だからといって、住民説明会を行えばそれで足りる、というわけではありません。
形だけの住民説明会を行っても意味はありません。

住民説明会の目的は、企業と地域住民との共存のために、地域住民の不安、不満を解消することです。
そうだとすれば、住民説明会では、地域住民が事故で抱いた不安や不満に正面から答える必要があります。

例えば、事故によって消防車などが出動し、地域住民の平穏な生活を破ってしまった。
まず、そこに謝罪が必要です。

住民説明会では、わかりやすさを第一に

また、爆発事故となれば、原発の事故の例を見るまでもなく、地域住民は工場で何を扱っていたのか、それによって地域住民の生命、身体に影響があるような物質などが浮遊しないか、もっとわかりやすく言えば、爆発事故によって身体に害は生じないか、今までどおりの普通の生活をそのまま送っていて大丈夫なのか、を心配します。

そうした地域住民の立場に立って、企業は爆発事故の内容を説明していかなければなりません。

地域住民の立場に立つということは、わかりやすさ、ということに繋がります。

  • 専門用語を使用しない
  • 図などを使って目で見てわかるようにする
  • これから、どのような害が可能性があるか

などを、噛み砕いて説明する必要があるのです。

レベルは、小学6年生くらいが理解できる程度です。
小学6年生をレベルに設定するのは、そのレベルまで落とし込めば、住民説明会に出席している人がほぼ等しく十分な理解ができるからです。

今回の新日鐵住金の例でいえば、「黒煙があがった」ということです。
そうであれば、工場で扱っていたのは何か、黒煙に含まれている物質は何か、その物質や煙を吸い込んで身体に害はないか、どれくらいを体内に取り込むと健康被害が生じるかなどを説明する必要があります。

どれくらいというのも専門単位で説明するのではなく、成人の大人が1日2時間黒煙の中で煙りを吸い続けたら、何日間で何人に1人の割合で呼吸困難になる可能性が出てくるとか、何日間で肺がんになる可能性がどの程度増加するなどという具体的な説明です。

会社の立場で考えて住民説明会を行おうとすると、どうしても地域住民のフラストレーションをぬぐいきれないままになってしまう可能性があります。
説明内容を少し工夫するだけで、同じ住民説会を行うにしても地域住民の納得度合いが変わってくるので、ぜひ、わかりやすさに挑戦して欲しいと思います。

命に関わる副作用は法律に義務がなくても消費者に公表すべし

ノベルティスファーマ社の副作用報告漏れ事案

ノバルティスファーマ社は7月に白血病治療薬の副作用を厚労省に報告していなかったことで厚労省から改善命令を受けました。
この改善命令に関連して、副作用の未報告事例がそれ以外にもあったことが新たに明らかになりました。

「(ノベルティスファーマ社)は白血病治療薬による重い副作用を16症例21件把握しながら国に報告しなかったなどとして、7月に厚労省から改善命令を受けた。この際、販売するすべての薬で同様の報告漏れがなかったかどうか報告するよう指示され、約1万例を調査していた。

その結果、同社が販売する薬との因果関係が否定できない重い副作用症例は少なくとも2579例あった。白血病治療薬など抗がん剤が多く、患者の副作用は腎障害などで、死亡した事例もあったという。これとは別に自社薬との因果関係を調査中の副作用症例は6118例あるといい、薬事法違反の未報告事案はさらに増える可能性がある。厚労省は9月末までに全ての調査結果を報告するよう指示した。」(日本経済新聞2014年8月30日朝刊より)

死亡事例があったのに未公表は企業の社会的責任を果たしていない

この事例で見過ごせないのが、死亡した患者がいたにもかかわらず、報告していない事案があったという点です。

ノベルティスファーマ社が取り扱っていたのは、薬です。
薬は、患者の体内に取り込む性質のものです(外用薬は別として)。
体内に取り込む性質の薬を使用して、副作用が生じ、中には死亡した事例があった。
ところが、それを報告していなかった。

見方を変えれば、薬を使用して死亡する患者が他に発生する可能性があるかもしれないのに、それを黙っていた、と理解することもできます。

こうした事態は、ノベルティスファーマ社が「薬を通じて患者の生命を預かっている」という自社の社会的責任を軽視していたと評することができます。

本来であれば、薬の副作用であるとの因果関係が否定できない死亡事案が発生したのであれば、その時点で、社会や医療機関に向けて、「自社の薬を使用した患者が死亡する事故が生じた、自社の薬の使用を控えるように」との注意喚起をしなければならないはずです。
仮に、そうした注意喚起によって一時的に会社の売上が減ることになったとしても、注意喚起をして新たな死亡者が発生しないように努めることが「患者の生命を預かっている」会社が果たすべき責任だろうと思われます。
この注意喚起は、法律上、厚労省への報告義務があろうがなかろうが、企業の社会的責任という観点から行うべきことです。

公表することの意味

企業の社会的責任は、企業の存在価値のこと

ここで、「企業の社会的責任」の意味内容を掘り下げてみたいと思います。

私は、「企業の社会的責任」というのは、その企業が社会に存在することが許される理由、一言で言えば、企業の存在価値ということだと理解しています。
要するに、その企業が存在することが、なぜ社会に受け容れられているか、なぜ世の中が許容しているか、ということです。

公表の第1の意味=社会に自社の存在価値を問う

ノベルティスファーマ社は「薬で患者の生命を預かっている会社」だからこそ、社会に受け容れられているのです。
副作用による患者の死亡という、その会社の存在意義と矛盾する事案を生じさせてしまったのだとしたら、その時点で、「わが社は、このまま社会に存在していてもいいですか」と世の中に問わなければならない。
そのために「公表」をしなければならないのです。

公表の第2の意味=次なる死亡事故を防ぐ

また、先に書いたように、副作用による患者の死亡事故が発生したのであれば、「薬で患者の生命を預かっている会社」は、次なる死亡者が出ないように注意喚起をしなければなりません。
これが、その会社の使命です。
死亡事案が発生したら、ただちに「公表」しなければ、その使命を果たすことはできません。

公表しない会社は存在価値を問われる

結局、何が言いたいのかというと、死亡事案のような重大事案が生じたのに、「公表」に消極的な会社は、社会から存在価値が問われることもやむを得ない、ということです。

ノベルティスファーマ社に限らず、世間に存在している会社は、死亡事案のような重大事案が発生したときには、躊躇なく「公表」するようになって欲しいのです。

不祥事を起こした場合の公表するかしないかの判断基準

昨日、企業研究会で「危機管理広報」をテーマにした4時間のセミナーを行いました。
企業で不祥事が発生した場合に広報はどう対応するべきかをテーマにしたセミナーで、早6年、年に2〜3回行っています。

特に、この半年は企業不祥事に事欠かず、また多くの記者会見、プレスリリース、DM、Web開示とバリエーションに跳んだ広報の手段を見ることができました。そうした直近の事例などを踏まえつつ、不祥事が発生した場合に広報はどう動くかというノウハウをお話ししました。

毎回、セミナー時に、広報担当者の方が気にされていて、私が説明して好評なのが、公表の要否の判断基準です。

個人情報を漏えいしてしまった、賞味期限切れの食品を販売してしまったなどの事例で、記者会見まで必要なのか、それともWeb開示だけで足りるのか、それともDMが必要なのか、など、どのように考えて判断すればよいか、という考え方というか、目安です。

私は、過去の事例や最近の動向を見ながら、2つの要素が判断基準である、と考えています。
1つは、危機の重大性。もう1つは、危機の拡大可能性。この2つです。

危機の重大性というのは、たとえば食中毒で死者が1人発生したというような、人の生死に関わるようなことを意味します。また、個人情報の漏えいであれば、氏名、住所だけでなく、金融機関の口座番号など、人の財産に関わるような情報が漏えいしたときも危機が重大であると整理しています。

危機の拡大可能性というのは、不祥事の被害や迷惑を受ける人の数が多数であると見込まれる場合を意味します。個人情報を漏えいしたけれど、漏えいした件数は10件だけであるというときには、拡大可能性はありません。他方で、漏えいした件数が最大で1000件、ただし増減の可能性があるというときには、拡大可能性はあると考えています。

この危機の重大性、危機の拡大可能性の2つを併せて、広報手段を選択すればよろしい。

危機が重大で、かつ、拡大可能性があるということであれば、多くの人に危機の存在と内容を知ってもらう必要がある。しかも、直ちに知ってもらう必要がある。
そのため、記者会見をはじめ、あらゆる広報手段を講じる必要がある。

危機が重大だけれども、拡大可能性はないということであれば、個別の被害者だけでの対応で足りる可能性がある。
ただし、死者が出たような場合には、企業として責任と反省の意思を明らかにするために貴社会見を行う必要がある。

危機は重大ではないけれど、拡大可能性はあるということであれば、多くの人に危機の存在と内容を知ってもらう必要がある。ただし、危機が重大ではないので、そこまで迅速性は要求されない。
そこで、Web開示と新聞社告、プレスリリースだけで済むかもしれない。

危機の重大性はなく、拡大可能性もないというのであれば、公表する必要性はない。

この考え方がすべての不祥事に当てはまるわけではありませんが、8割方はこの判断基準で考えてよろしいのではないかと思います。

残りの2割はどうするか。

そこは経験が物を言いますので、ご相談を。