マンション問題に見る、危機管理の対応窓口は一元化すべき

マンションの基礎工事に虚偽のデータを使用

大型マンションの基礎工事をする際、実際に施工した業者が地盤調査を実施しないまま、虚偽のデータを用いて工事をし、マンションが傾く事態になっていることが問題になっています。

「三井不動産グループ(※三井不動産レジデンシャル)が2006年に販売を始めた横浜市都筑区の大型マンションで、施工会社の三井住友建設側が基礎工事の際に地盤調査を一部で実施せず、虚偽データに基づいて工事をしていたことが13日分かった。複数の杭(くい)が強固な地盤に届いておらず、建物が傾く事態となっている。」
「住民側の指摘を受け、三井不動産レジデンシャルと三井住友建設が調査を開始。傾いたマンションの計52本の杭のうち28本の調査を終えた時点で、6本の杭が地盤の強固な「支持層」に到達しておらず、2本も打ち込まれた長さが不十分であることが判明した。傾きの原因の可能性がある。」(日本経済新聞2015年11月14日付朝刊)

実際に、施工した会社は、三井住友建築から下請した、旭化成の子会社の旭化成建材であると報じられています。

対住民との関係では、販売元が責任を負うべし

住民に対してマンションを販売したのは、三井不動産レジデンシャルです。
そのため、住民に対しての責任は、販売元である三井不動産レジデンシャルが負います。

三井不動産レジデンシャルは販売元にすぎず、施工業者は三井住友建設、実際に施工したのは旭化成建材です。
しかし、住民からすれば、誰が建てたのかは関係ありません。
住民の立場で考えれば、「三井不動産レジデンシャルから買ったマンションに問題があったのだ。マンションの購入代金は三井不動産レジデンシャルに支払った。三井不動産レジデンシャルが責任を取れ。」となるはずです。
そのため、対住民の問題は、三井不動産レジデンシャルが矢面に立つべきです。

焼肉酒家えびす事件

参考になる事件を一つ紹介します。
2011年5月に発生した、焼肉酒家えびすが店舗で提供したユッケを食べたお客さんが食中毒になり、そのうち5人が死亡するという事件です。
最終的に、焼肉酒家えびすは破産しました。

破産に至るまで焼肉酒家えびすがバッシングされた理由は、初めの社長記者会見で、社長が食中毒での死亡者に対してお詫びをしなかったことと、食中毒の原因が肉の卸業者にあると説明したことです。
お客さんの立場で考えれば、「焼肉酒家えびすでユッケを頼んだら食中毒になった。食事の代金は焼肉酒家えびすに支払った。焼肉酒家えびすが責任を取れ。」となるのです。
ところが、焼肉酒家えびすは、そうではなく、卸業者に責任を押し付けようとした。
責任を他社に押し付けたことで、批判が殺到したのです。

「被害者」意識は危機管理を失敗させる

不祥事の相談を受けていると、「うちの会社に責任はない。うちの会社は被害者です。」という意識を持っている企業が少なからずいます。
しかし、危機管理対応として「自分たちが被害者」との意識を持っていると、必ず失敗します。

焼肉酒家えびすの件は、その典型です。
ユッケを提供し、それにお金をもらっているのは、焼肉酒家えびすです。
だとすれば、お客さまへの責任を負うべきは、焼肉酒家えびすです。

今回のマンションの件でも同じです。
マンションを販売し、それにお金をもらっているのは、三井不動産レジデンシャルです。
だとすれば、お客さまへの責任を負うべきは、三井不動産レジデンシャルです。
施工会社が三井住友建設、実際の施工業者が旭化成建材であると説明する中で、「自分たちは被害者です。自分たちには責任がない」という意識や姿勢を見せた段階で、住民からの信頼を失います。

その点で、三井不動産レジデンシャルが、さっそく住民に対して説明を行っているのは評価できるところです。

「三井不動産レジデンシャルは住民への説明会を始めており「あってはならないことで申し訳ない」と陳謝。施工不良は8本という前提で構造計算をし直した結果「緊急を要する危険性はない」と説明している。」(日本経済新聞2015年11月14日付朝刊)

各関係企業の姿勢がバラバラでは住民の不信感を募らせる

先に書いたように、住民への責任は、販売元である三井不動産レジデンシャルが負うべきです。
つまり、責任の負い方は三井不動産レジデンシャルが自ら決すべきです。
責任の内容を決めるのは、三井住友建設でも、旭化成建材でもありません。

もちろん、その後の求償、役割分担のことを考えれば、三井不動産レジデンシャル、三井住友建設、旭化成建材の間で協議することは不可避です。
しかし、その場合でも、実現困難な責任の負い方にならないかどうかを協議すべきであって、責任の押し付け合いになることは避けなければなりません。
また、三井不動産レジデンシャルが責任を負うことを決めれば、三者間の役割分担や費用分担は後から決めたって言い訳です。
極端な話を言えば、三井住友建設や旭化成建材が協力しない、費用負担しないと拒否するのであれば、三井不動産レジデンシャルは他の業者に依頼して建て替えなりを先に行い、後から求償するということがあってもいいのです。

報道内容からすると、一見、三者の対応は同じ方向を向いているように思えます。

「横浜市都筑区の大型マンション基礎工事で虚偽のデータが使われた問題で、販売元の三井不動産レジデンシャルが、傾いた棟の建て替えも視野に検討を始めたことが14日分かった。施工会社の三井住友建設とともに年内に復元工事の方法を決める。この日、両社の幹部がマンションを訪れて改めて住民に謝罪、補償問題に誠実に対応することを約束したという。」(日本経済新聞2015年11月14日付夕刊)

「旭化成によると、傾いた建物の補強や改修、ほかの棟の調査にかかる費用は旭化成建材が全額を負担する。旭化成は「信頼を損なう結果となったことを深く反省し、心よりおわびする。居住者の安全を最優先に、売り主の三井不動産レジデンシャル、施工会社の三井住友建設と協力して、しかるべき対応をとる」としている。」(日本経済新聞2015年11月15日付朝刊)

「三井不動産レジデンシャルは今月上旬から住民向け説明会を開始。当初、今後の対応は「検討中」などとしていたが、15日には一転、傾いた1棟だけでなく全4棟を建て替える案を住民側に提示した。今回の問題で住民に発生する損害の補償にも対応するとしている。」(日本経済新聞2015年11月20日付朝刊)

その一方で、三者が責任を負うことについて一枚岩ではないかのような報道もされています。

「各社の主張はすれ違いを見せており利害が対立する可能性もある。住民への補償にも影響が出そうだ。
20日の記者会見で旭化成の平居正仁副社長は、データ改ざんの背景にマンションの販売業者や元請けから「工期を守れ」などの圧力があったかについて「当時は少しでも早くという状況はあった」と述べ、プレッシャーの存在を示唆した。
旭化成建材の商品開発部長は、杭(くい)が地中の支持層へ到達したかを担当者が見極める際「(三井住友建設が作製した)設計図を大前提にした」と話した。三井住友建設の設計図に不備があったことが短すぎる杭がいくつか出てきた原因だという考えだ。「非はゼネコンにもある」と漏らす旭化成幹部もいる。
三井不動産レジデンシャルの親会社、三井不動産幹部は「まさか地中奥深くに入っている、杭の打ち込みが不十分だとは思わなかった」と旭化成建材のデータ改ざんにあきれる三井住友建設も「下請けからあがってきた改ざんは見抜けない」という立場だ。」
旭化成の浅野敏雄社長も20日の記者会見で、三井不動産レジデンシャルが示した全4棟を建て替える費用について「売り主、施工会社と誠意を持って協議していきたい」と述べるにとどめ、旭化成側が全額を負担するとの考えは示さなかった。」(日本経済新聞2015年11月21日付朝刊)

このような報道がされてしまうのは、責任の負い方について説明する企業が一元化されていないのも一因です。
関係企業がそれぞれ大きな会社ではありますが、住民への責任の負い方という点では、三井不動産レジデンシャルに一元化して広報対応もすべきです。
対外窓口を一本化することは、企業危機管理の基本です。
仮に複数の企業が関係している場合でも、特定の企業を窓口にすべきです。
そうしないと、情報が錯綜してしまうからです。
上記のような報道がなされてしまうのは、まさに対外窓口が一本化されていないから起きたことです。

報道によると、27日に三井不動産レジデンシャルから責任の負い方が発表されるそうです。
その時点でも、責任の負い方について関係企業が一枚岩になっていないときには、住民からは「責任をなすりつけあっているだけではないか」と批判され、住民からの信頼を失うことは必須だろうと思います。

公務員との付き合い方~注意すべきは贈収賄だけではない

厚労省での収賄事件

マイナンバー制度の導入に関して、厚労省の室長補佐が収賄の被疑事実で逮捕されました。
報道によると、事件の概要は次のとおりです。

「逮捕容疑は2011年11月、マイナンバー制度導入に絡み、社会保障データをめぐる厚労省の調査研究事業など2件で、情報関連会社が受注できるよう有利な取り計らいをした謝礼と知りながら、同社の当時の社長から現金100万円を受け取った疑い。」
「捜査2課によると、同容疑者は公示前、受注の要件を定めた「仕様書」を作成するにあたり、同社に仕様書の原案を作成させるなどして便宜を図ったとされる。同容疑者は当時、社会保障担当参事官室の室長補佐で仕様書の作成で中心的な役割を担っていたという。」
厚労省によると、情報関連会社は逮捕容疑の2件を含め、08年度から15年度までに同省から7件で計約15億円の事業を受注している。」(日本経済新聞2015年10月14日付朝刊)

この事件では、受注できるように有利な取り計らいをしてもらった謝礼を交付したことで、贈収賄が問題になりました(贈賄側は公訴時効が成立しています)。

この事件が発生した現時点で他の企業が学ぶべきことは「公務員との付き合い方」です。
簡単に言えば、公務員に対する金銭の交付はもちろんのこと、受注に向けた営業活動などはどこまでできるのかという限界を知ることです。

公務員との付き合い方に関する規制その1~贈収賄~

企業と公務員との付き合い方に関する規制として、第一に思い浮かべるのは、贈収賄でしょう。

「職務行為」の範囲

例えば、今回の事件のように、発注者側の中心的な役割を担っていた公務員が、受注の便宜を図るのは、公務員の職務行為の典型です。
こうした公務員の職務行為に関して対価を企業が交付する。あるいは公務員が対価を要求する。
単純贈収賄の典型です。
5年以下の懲役です。

それ以外にも、「職務に密接に関連する行為」に対して、企業が対価を交付することや公務員が対価を要求することも単純贈収賄になります。

公務員が職務に基づいて事実上影響力を持っている場合が「職務に密接に関連する行為」です。
例えば、公務員が他の公務員に働きかける行為が、ここに含まれます。

企業からすれば、従前から取引を通じて付き合いのある公務員に依頼して、別の取引を担当する公務員を紹介してもらいたい、取引の受注に向けて口利きをしてもらいたい、と思うこともあるでしょう。
このような他の公務員を紹介してもらったり、口利きをしてもらうことも、「職務に密接に関連する行為」に含まれます。
そのために、紹介や口利きしてもらったことに対して、謝礼の意味などで「対価」を交付すると、贈賄罪になってしまうので、注意しなければなりません。

「対価」の例

「対価」は、金銭に限られません。
物品の贈与、接待、一席設ける、異性間の情交なども「対価」です。

ただし、過去の裁判例では、お中元やお歳暮の類は、社交儀礼の範囲内であれば、「対価」ではない、と判断されています。
そうはいっても、お中元やお歳暮なら必ず許されるわけではなく、あくまでも、社交儀礼の範囲内、という縛りがあります。
お中元やお歳暮で贈る物が高価な物であったり、何度も繰り返しお中元やお歳暮を贈っている場合には、職務行為の「対価」と判断されてしまいます。

企業からすれば、お世話になった公務員やこれから付き合いが始まるであろう公務員にお中元やお歳暮を贈ってお近づきになりたい、と思うこともあるでしょう。
しかし、その場合も、社交儀礼の範囲内か、要は、取引もない間柄のときでも、そういった物を贈るだろうか、ということを配慮しなければなりません。

公務員との付き合い方に関する規制その2~国家公務員倫理規程~

贈収賄以外に見落としてはならない規制があります。
それは、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程です。

これらは「国家公務員はこういうことをしてはいけない」と、あくまでも国家公務員を律する規制です。
違反して処罰されるのは、国家公務員だけです。
しかし、国家公務員に接する企業側が、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程を守らなければ、その企業は国家公務員の側からすれば迷惑きわまりない存在です。
国家公務員に「この企業のせいで処罰されることになった」「あの企業と接すると、まずいことに巻き込まれる」と受け取られたら、その企業は二度と国と取引することはできなくなるでしょう。
そのため、企業は、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程についても熟知しておかなければなりません。

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程のYoutube解説

企業が国家公務員倫理規程の内容を勉強する教材としては、Youtubeの存在があります。
国家公務員倫理審査会が、Youtubeに「事例で学ぶ倫理法・倫理規程」という動画をアップして、細かく解説しています。
https://www.youtube.com/user/koumuinrinri

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程の概要

国家公務員倫理規程は、大きく分けると3つの方法で、企業と国家公務員との付き合い方を規制しています。

1つめは、絶対に禁止される行為です。
2つめは、利害関係があるときに禁止される行為です。
3つめは、2つめの例外で、利害関係があっても許される行為です。

絶対に禁止される行為

絶対に禁止される行為の典型は、社会通念上相当と認められる程度を超えた接待や財産上の利益の供与です。
金額面でも、回数でも、「(営業活動として)やり過ぎでしょ」という場合には、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程違反とされます。
この場合には、贈収賄の場合と異なり、職務行為との対価性は要求されません。

企業側は営業活動ということで、高級な料亭で接待に行く、接待を頻繁に繰り返すなどすると、贈収賄には問われなくとも、営業の相手が国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程違反で処罰されてしまうことを理解しておくべきです。
そうしないと、過度の接待をしたということで、担当となる公務員が処分されいなくなり、結局、過去の営業活動が無意味になってしまうからです。

また、「つけ回し」も絶対に禁止されます。
「つけ回し」とはストーカーの意味ではありません。
「うちの会社のつけで飲んで良いですよ」などと、企業側の担当者が不在でも公務員が企業の費用負担で飲食することを認めることです。
これも、企業から公務員に金銭を交付しているのと同じことになるので、許されないのです。

利害関係があるときに禁止される行為

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程の中心となっているのが、この「利害関係があるときに禁止される行為」です。

例えば、企業が入札しようとしている取引がある、企業が許認可をもらおうとしている状況にある。
このような場合が、「利害関係」があるときの典型です。

このような「利害関係」があるときには、次の9個の行為を禁じられてます。

  1. 公務員への金銭、物品、不動産の贈与
  2. 金銭の貸付け
  3. 企業側の負担での、無償での物品・不動産の貸付け
  4. 企業側の負担での、無償でのサービス提供
  5. 未公開株式の提供
  6. 接待
  7. 遊技・ゴルフ
  8. 一緒に旅行
  9. 企業が第三者に、1~8の行為をさせること

この中で、よく質問を受けるものを説明します。

1の金銭、物品の贈与の典型は、香典や供花です。
例えば、取引担当者の親族がなくなったので、香典を出す、花を供えることは禁止されています。

3と4の企業側負担での無償の物品の貸付け、サービス提供で問題になるのが、企業側が公務員のタクシー代を負担する、公務員のためにハイヤーを用意するケースです。
この場合も、公務員側はタクシー代、ハイヤー代など必要な旅費を支給されるはずなので、企業側は負担できない、用意できないのが原則です。
しかし、例えば、公務員が企業の工場を視察することを予定し、企業側は日頃から工場と駅や空港間に専用バスや専用の社用車を用意しているときには、わざわざ「公務員のために」用意したわけではないので許されると考えられています。
また、例えば、駅から離れた場所にある企業内で公務員と打ち合わせをした後、たまたま企業側で駅や空港に行く者がいたときに企業側がタクシー代を負担するようなときにも、わざわざ「公務員のために」費用を負担したわけではないので許される、と考えられています。

6の遊技はソフトボールやテニス、ボウリングは含まれないと考えられています。なぜなのかはわかりません。

利害関係があっても許される行為

2の例外が、利害関係があっても許される行為です。
例えば、元々、大学時代から付き合いがある友人が、国家公務員になり、自社が取引しようとする部門の担当になった。
この場合に、友だちづきあいは一切禁止されるのか、というと、そういうわけではありません。

利害関係があっても許される行為とされているのは、典型的には、次の8つです。

  1. 宣伝用・記念品などのノベルティを配布
  2. 20人以上が出席する立食パーティでの記念品の贈呈
  3. 公務員が企業を訪問したときに、文房具や電話、ヘルメットを貸す
  4. 公務員が企業を訪問したときに、企業側が用意した自動車を利用
  5. 会議での茶菓子の提供
  6. 20人以上が出席する立食パーティでの飲食物の提供
  7. 会議での簡素な飲食物の提供
  8. 私的な関係でのつき合い

この中でよく質問があるのが、2と6です。
立食パーティは許されるとして、椅子に座ったらどうなるか、ということです。

立食パーティが許されるのは、みんなの見ている前では不正なことは行われないだろう、という理由からです。
そこで、椅子に座っていた場合でも50人以上なら許される、と考えられています。

また、5と7の茶菓子や簡素な飲食物の提供も、接待にならない程度であれば、利害関係があるときに許される、と考えられています。
接待にならない程度というのは、国家公務員側は1万円を超える場合には届け出なければならないとされているので、1万円が一つの目安です。
あえて「簡素」ということを考慮すると、昼食の弁当や茶菓子が3000円を超えている場合も、簡素とは言いがたいとは思います。

8の私的な関係も、大学時代に同級生だった、しかし、大学卒業後付き合いはなく、取引しようと思ったら同級生であることがわかったという場合には、「私的な関係」よりも「利害関係」が上回るので許されないと考えられています。また、近所づきあいという点でも、日頃はつき合いがなかったのに、取引しようとしてから急に近所づきあいをしだしたという場合には、「私的な関係」よりも「利害関係」が上回るので許されないと考えられています。

4の企業側が用意した自動車の利用は、利害関係があるときに禁止される行為で説明したとおり、企業側が「わざわざ負担した」場合は許されません。

地方公務員、準公務員も同じ

以上は国家公務員に対する企業の接し方を中心に説明しました。
これは、企業が接する相手が地方公務員である場合や準公務員の場合でも同じです。

地方公務員の場合には各地方公共団体が独自に規程を定めているので、どこまでが許され、どこからが許されないかは、都度確認する必要があります。

また、独立行政法人、例えば昔の国立大学なども、同じような規程を定めていますので、都度確認する必要があります。

要注意!法律や規程を守っていれば、何をしても許されるわけではない

以上のように、企業と公務員との接し方には、法律や規程といったルールが存在します。
しかし、これらのルールを守っていれば、それで許されるわけではありません。
社会の目を意識しなければなりません。

世の中から「あの企業は公務員と癒着している」「公務員とズブズブの関係だ」と批判されてしまえば、その後、国や地方公共団体との取引をやりにくくなります。
また、何も違法性がなくても「倫理上問題ではないか」との批判を招けば、企業の見られ方が変わってしまいます。
企業としては、あらぬ誤解を受けないように、公務員との接し方には慎重になる必要があります。

「監査役」と「監査等委員である取締役」に求められる資質・能力の違い

監査等委員会設置会社への移行

改正会社法によって「監査等委員会設置会社」という機関設計が認められました。
平成26年6月の定時株主総会を機に、従来の監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行した会社がいくつも現われました。
その後も、監査等委員会設置会社に移行する会社が現われています。

監査役会設置会社の何が問題か

従来多くの会社、特に上場企業が利用していたのは「監査役会設置会社」です。
これは、株主総会が取締役と監査役を選び、取締役が取締役会のメンバーとなって、取締役をお互いに監視監督しあう。
監査役会は3人以上の監査役と2名以上の社外監査役をメンバーとして、監査役一人ひとりが取締役を監査する。
それによって、取締役相互の監視監督と監査役からの監査という二重のチェックで、取締役による不正を正そうとすることを目的としていました。

しかし、監査役会設置会社での粉飾決算の発生や、取締役相互の監視監督・監査役からの監査が十分に果たされていないという声も上がりました。
「仲間内だから牽制が働くわけがない。」「取締役・監査役内にも上下関係があるから監督は期待できない。」と。

こうした声を受けて「社外取締役」を期待する声が挙がるようになりました。
「取締役会での意思決定に「社外取締役」という外部の存在を入れて、チェックをしてもらおう」と。
改正会社法でも、社外取締役を選任しないのであれば、「選任することが相当でない理由」を説明する義務づけています。
しかし、「選任することが相当でない理由」を、毎事業年度、しかも具体的に説明することは相当困難です。
そのため、改正会社法は、社外取締役を事実上の義務づけています。

また、東京証券取引所は、平成26年2月10日から上場規程を見直し、独立取締役を1名以上確保することを要求しています。
さらに、東京証券取引所は、「コーポレートガバナンス・コード」の中で、独立社外取締役を2名以上選任することを義務づけています。

ところが、監査役会設置会社にしてみれば、社外監査役を2名以上選んでいるのに、さらに社外から独立社外取締役を入れるのは負担です。
社外の者を役員に4名も選ばなければならなくなってしまいます。
従業員が少ない会社であれば、役員ばかりが人数が増えるというバランスを欠く事態にもなりかねません。

そこで、社外取締役を導入するにせよ、渋々導入している様子も伺えました。
(※東証一部上場企業では、88%にあたる1655社で独立社外取締役が選任されています(日本取締役協会調べ))

監査等委員会設置会社への移行が増えた理由

こうした監査役会設置会社にとっての負担を回避しつつ、取締役による不正を正そうという目的にも応えるために、新しく創設されたのが「監査等委員会設置会社」です。

監査等委員会設置会社も、監査役会設置会社と同じように、株主総会が取締役を選び、取締役が取締役会のメンバーとなって、取締役をお互いに監視監督しあいます。
しかし、監査等委員会設置会社には、監査役がいません。もちろん、監査役会もありません。
監査役の代わりに、3名以上の「監査等委員である取締役」を選びます。

「監査等委員である取締役」は「取締役」です。
したがって、取締役会での議決権があり、意思決定・経営判断に参加して一票を投じます。

監査役会設置会社の取締役は、一人ひとりが取締役会でのメンバーであると同時に、業務執行取締役であることがほとんどでした。
しかし、「監査等委員である取締役」は業務執行には携わってはいけません。
もっぱら、意思決定・経営判断にのみ参加します。

また、「監査等委員である取締役」の過半数は社外取締役でなければなりません。
社外取締役が最低でも2人以上、取締役会での意思決定・経営判断に参加します。

これまでの監査役会設置会社は、取締役会での意思決定・経営判断を外部から監査役が監査するという仕組みでした。
これを、業務に携わっていない「監査等委員である取締役」、しかも、そのうち最低2人以上は社外取締役が、取締役会での意思決定・経営判断に議決権を持った形で参加する。
そうした方法で、取締役会での意思決定・経営判断の不正を直接止めることができる、というメリットがあります。

また、監査等委員会設置会社に移行することによって、社外監査役2名のほかに、独立社外取締役を2人以上選ぶという負担をも回避できます。

これらのメリットがあることから、「監査等委員会設置会社」に移行する会社が多くありました。

「監査役」に求められる資質と「監査等委員である取締役」に求められる資質に違いがある

監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行は、実質は、従来の監査役会設置会社の監査役が、監査等委員である取締役への横滑りです。
それによって、改正会社法、東証の上場規程、コーポレートガバナンス・コードなどの要請に応えることもできます。

しかし、内実が、監査役から「監査等委員である取締役」への横滑りで、本当に良いのでしょうか。

監査役は、取締役の意思決定・経営判断、業務執行が違法(不法)かそうでないか、必要な手続や議論を経ていないのではないかなど、法的な観点から、取締役を監視監督していれば十分でした。
そのため、違法(不法)かどうかを見極める能力や資質が要求されました。

他方、「監査等委員である取締役」は、取締役相互の監視監督することに加えて、取締役会での意思決定・経営判断に参加して議決権を行使します。
「監査等委員である取締役」は業務に携わっていないけれども、他の取締役の意思決定・経営判断のほか、業務執行の状況を監視監督します。
しかも、そこで求められる監視監督は、違法(不法)かそうでないか、必要な手続や議論を経ていないのではないかというだけでは足りません。
「監査等委員である取締役」は意思決定・経営判断には参加するので、他の取締役を監視監督する際には、意思決定・経営判断が妥当・適切なのかどうかをも監視監督しなければなりません。

そうなると、「監査等委員である取締役」に求められる能力や資質は、監査役と「監査等委員である取締役」では、自ずと異なってくるはずです。
「監査等委員である取締役」には、違法(不法)かどうかを見極める能力や資質に加えて、会社の意思決定・経営判断をもジャッジできる能力・資質まで求められるのです。

「監査等委員である取締役」を選任する場合には、そういった資質や能力を有しているかを踏まえて候補者を選び、株主に説明できるように備えておくことが不可欠だろうと思います。

取締役・監査役への研修やっていますか?~コーポレート・ガバナンス報告書の提出期限迫る

「コーポレートガバナンス・コード」と「コーポレート・ガバナンス報告書」の提出期限

東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」が、平成27年6月1日から、すべての上場会社に適用されています。
名古屋証券取引所、福岡証券取引所、札幌証券取引所でも、同じようなコーポレートガバナンス・コードが適用されています。

上場会社は、この「コーポレートガバナンス・コード」に基づいて、「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければならない義務を負っています。

どうでもいいですが、「コーポレートガバナンス・コード」は「コーポレートガバナンス」と中黒なしで、「コーポレート・ガバナンス報告書」は「コーポレート・ガバナンス」と中黒ありと区別しているのは、なんででしょうね?

話が逸れました。
「コーポレート・ガバナンス報告書」は、平成27年6月1日以降に定時株主総会を開催した日から遅くても6か月経過するまでに提出しなければなりません。
3月31日を事業年度末としている上場会社の多くは、6月下旬に定時株主総会を開催したはずです。
となると、そこから6か月が経過する平成27年12月下旬までに「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければなりません。

「コーポレートガバナンス・コード」の特徴

ルールは自分で考えろ

「コーポレートガバナンス・コード」は法律ではありません。
そのため、「コーポレートガバナンス・コード」には、細かいルールは定まっていません。

「コード」、つまり、73個の原則を示し、「あとは自分で考えろ」というスタンスをとっています。
これを「プリンシプル・アプローチ」と言います。

社内でコーポレートガバナンスを徹底するため、わかりやすく言えば、取締役以下の上命下達の仕組み、取締役自身の規律維持、従業員からの報連相の仕組み、会社を支える株主との関係や投資家への情報開示は、自分の会社に合ったものを、自分たちで考えなさい、という大人の対応です。

守らないなら理由を説明せよ

「コーポレートガバナンス・コード」は国が定めたルールではありません。
あくまでも、東京証券取引所という組織が定めた規則に過ぎません。

さはさりながら、上場会社にコーポレートガバナンスを徹底させるための「コード」です。
そこで、「コードに従わないなら、従わない理由を説明せよ」というスタンスをとっています。
これを「コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)」と言います。

「自分たちは、コーポレートガバナンス・コードに従わなくても、コーポレートガバナンスが徹底している」と自負があるなら、説明してごらんなさい、という大人の対応です。

「コーポレートガバナンス・コード」では、取締役・監査役への教育・研修が求められている

「取締役・監査役のトレーニング」

「コーポレートガバナンス・コード」の内容の多くは、改正された会社法と重複しています。
しかし、改正会社法より踏み込んだ箇所も何点かあります。
その1つが「取締役・監査役のトレーニング」です。

「コーポレートガバナンス・コード」は、次のようように定めています。

【原則4-14】

新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担うものとして期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切に取られているか否かを確認すべきである。

注目すべき部分にアンダーラインを引きました。

1つは、取締役・監査役は、役割・責務に係る理解を深める、知識の習得や適切な更新等の研鑽に努める、との努力義務を課している部分です。
要するに、取締役・監査役は、自分の役割や責務を勉強せよ、ということです。
簡単に言えば、取締役・監査役は社内外での勉強会やセミナーに出席して勉強しなさい、ということです。

もう1つは、上場会社に、トレーニングの機会の提供・斡旋・費用支援を行う義務を課している点です。
要するに、上場会社が取締役・監査役が勉強する場を設けるか、費用を出しなさい、ということです。

さらには、取締役会は、取締役・監査役の勉強の状況を確認しなければならない義務を負っている点です。
社内外の勉強会やセミナーに出席したことについて、取締役会が報告を受けるか、取締役会で個々の取締役・監査役に勉強状況を確認しなければならない、ということです。

トレーニングのタイミング

こうした勉強が求められるのは、社内の取締役だけではなく、社外取締役・社外監査役も、です。
また、1回だけ勉強すれば、それで十分というわけではありません。

「コーポレートガバナンス・コード」は、次のように定めています。

【補助原則4-14①】

社外取締役・社外監査役を含む取締役・監査役は、就任の際には、会社の事業・財務・組織等に関する必要な知識を取得し、取締役・監査役に求められる役割と責務(法的責任を含む)を十分に理解する機会を得るべきであり、就任後においても、必要に応じ、これらを継続的に更新する機会を得るべきである。

ここでもアンダーラインを引きました。

勉強しなければならない取締役・監査役は、社外取締役・社外監査役も含まれます。
また、勉強のタイミングは、就任時と就任後と両方が求められています。

改正会社法の子会社・グループ会社の内部統制システムを考慮すると・・

改正会社法によって、内部統制システム(業務適性確保体制)の対象が、自社だけではなく、子会社含めた企業集団にまで拡がりました。
つまり、「コーポレートガバナンス・コード」に、会社法の改正内容を併せて読むと、親会社は、自社の取締役・監査役だけではなく、子会社・グループ会社の取締役・監査役にも、就任時と就任後の両方のタイミングで、勉強させなければならない、ということになります。

トレーニングの方針の開示

また、「コーポレートガバナンス・コード」は、取締役・監査役へのトレーニングの方針を開示することも求めています。

【補助原則4-14②】

上場会社は、取締役・監査役に対するトレーニングの方針について開示を行うべきである。

 

「コーポレート・ガバナンス報告書」には、取締役・監査役への研修を記載しなければならない

取締役・監査役への研修をまだ行っていないなら、急がないと提出期限に間に合わない

12月下旬までに「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければならない。しかし、取締役・監査役に対する研修を行っていない。
取締役・監査役に対する研修を行っていない場合には、「コーポレート・ガバナンス報告書」にて理由を説明しなければなりません。
単に「研修を行わなかった」では足りずに、「理由」の説明が求められているのです。
ここを見落としてはいけません。
「2015年は取締役・監査役に対して研修をしなかったけれど、日頃から取締役・監査役がこれこれこういうことを自主的に行ってコーポレートガバナンス・コードに沿ったコーポレートガバナンスを徹底できている」と説明できる会社は、それでもいいかもしれません。
他方で、「研修をしていない」会社、「研修をしなかったけれど、コーポレートガバナンスを徹底できている」とは説明できない会社は、至急で、取締役・監査役への研修を実施しなければなりません。

取締役・監査役への研修の実態

上場会社の皆さん、「コーポレートガバナンス・コード」に沿って、社外取締役・社外監査役を含む取締役・監査役、子会社・グループ会社の取締役・監査役に対して、組織についての知識習得や、役割や責務を理解するための研修を行っているでしょうか。

実際のところ、私の場合は、2015年に入ってから、グループ企業全体の取締役・監査役、さらには執行役員を含む役員一同に対しての集合研修の依頼を受けることが増えました。
また、研修対象としては、役員のほかに管理職も受講させる会社もあります。

では、具体的に、取締役・監査役に対してどのような研修を行った方がいいでしょうか。以下、テーマと誰がやるかについて補足します。

取締役・監査役への研修内容・テーマ

依頼される内容は、「役員が知っておくべき会社法の基礎知識」「取締役・監査役・執行役員の役割と責任」「ガバナンスに関わる会社法改正」が多い部分です。
「会社法の基礎知識」や「役割と責任」からスタートして、最近の企業に関するトラブルのトレンドに関するものを話すときもあります。
個別のテーマでは、個人情報の漏えいを筆頭とした情報管理、多重代表訴訟(特定責任追及の訴え)など役員が責任を負いやすい場合、取締役の監視監督義務違反が問われた裁判例、ハラスメントが多いです。
多くはありませんが、危機管理広報に注目して役員研修をする会社もあります。

取締役・監査役への研修を顧問弁護士以外の弁護士が行ったほうが適切な理由

顧問弁護士はいるけれど、あえて顧問ではない私に研修を依頼していただく企業が、ほとんどです。
顧問弁護士が研修したのでは、会社寄りになってしまい役員にとって厳しいことを言わない、という実態あるのだと思います。

また「コーポレート・ガバナンス報告書」に「外部からコンプライアンスや企業危機管理に詳しい講師を招いた」と記載しやすいからかもしれません。
その方が、投資家には、身内同士でお茶を濁したのではなく、キチンとした研修を行った、と見せやすいからかもしれません。

企業危機管理の転換期がやってきた?

企業危機管理の転換期が到来しているのではないか?という疑問

昨日の「2015年、新春のごあいさつ」の記事で、企業は、TwitterなどのSNSによって社会・消費者の不安・不満が増幅することを視野に入れて積極的な情報公開をすることが肝要であることについて触れました。
今日は、昨日の記事を書くことになった考え方の根っこの部分について書きます。

それは、昔ながらの危機管理の方法論だけでは通用しない時代になってきたのではないか? ということです。

前々からニュースを見ていて、昔ながらの危機管理の方法としては間違っていないはずなのに、なぜうまくいかないのだろう、と疑問を感じることがありました。
その疑問が、2014年年末に発生したペヤング異物混入事件、2015年に入ってから発生しているマクドナルド異物混入事件、不二家ケーキかび事件を見ていて、ほぼ確信に変わりました。

危機管理の王道的手法だけでは通用しなくなっているケースがある

昔ながらの危機管理の方法といえば、例えば、反社会的勢力や不当なクレーマーからの要求には毅然と対応する、社長を出せと言われても応じてはいけない(担当者が責任者である)などが有名です。
もちろん、これらの方法は、今でも間違っていません。
基本的には、この王道パターンで対応すべき、と考えています。

しかし、今は情報社会です。
「危機管理対応」「クレーマー対応」「反社会的勢力対応」などのマニュアルは、インターネット上で簡単に見つけることができます。
そのため、会社に攻め込む反社会的勢力や不当なクレーマーはもちろんのこと、まっとうなお客さんも、クレームを言う前に、会社がどう回答してくるかを調べ、情報として知っています。
そうなると、会社が昔ながらの危機管理の方法で対応しても、会社にクレームを付ける側は、その一つ先まで考えてクレームを付けてきます。
将棋に例えれば、先の先まで読みながらクレームを付けている、ということです。

また、昨日書いたように、TwitterなどのSNSが利用しやすくなったので、会社にクレームを付けるのと同時並行して、写真をTwitterやInstagramにアップして、インターネットを通じて世の中に情報を知らしめて戦うという人たちも増えています。
そのため、会社は、クレームを付けてきた相手=1個人だけを相手に危機管理の方法をして、クレームを言い出した人を納得させること、あるいは不当な要求を黙らせることに成功しても、インターネットを通じて情報を知って騒いでいる社会・消費者の声を抑えることができなければ危機管理の手法としては片手落ちということになっています。

ブログや2ちゃんねるなどの掲示板全盛期の頃と、SNS全盛期の今では、企業にとってのリスクは桁違い

SNSが登場する以前のブログや2ちゃんねるなどの掲示板が全盛の2000年代は、クレームを付けてきた相手が「ネットに書くぞ」と言っていても、企業側は「書いて欲しくはありませんが、止めることはできないので、書かれても仕方がありません」で対応することでも十分な対応でした。
これは、例え、ブログや2ちゃんねるに不平・不満を書かれても、2ちゃんねるやブログの場合には自分から情報を見に行こうとしなければ、投稿された内容を目にすることはありませんでした。
よほど盛り上がらない限り、投稿された内容が多くの人の目に触れることはなかったからです。
わかりやすく言えば、企業にとってはリスクがそれほど大きくなかったからです。

しかし、スマートフォンの普及率が高く、Twitter、Instagram、FacebookなどのSNSにが全盛期を迎えている2010年代の今は、クレームを言っている個人が簡単にスマートフォンで写真を撮り、それをSNSにアップし、かつ、SNSを通じてリツイートやシェアといった形で情報が拡散することが容易になりました。

情報の拡散が容易ということはどういうことかというと・・・・

SNSの利用者は、自らが積極的に情報をとりに行こうとせず、情報を受け身で待っているだけでも、自分が利用しているSNSのタイムライン、フィードに情報が流れてくる。
さらに、情報を流す人は一人とは限らない。
自分がTwitterでフォローしている人の中の複数、Facebookの友達になっている人の中の複数が情報を流すかもしれない。
SNS利用者は、受け身でも、企業の不祥事情報、例えば、食品の異物混入の情報を見逃すことなく、受けとることができる。
しかも、その受けとった情報を、リツイートやシェアの形で、バケツリレーの如く、自分のフォロワーに容易に知らせることができる。

こうした手順で情報がどんどん拡散していくのです。
この結果、不安や不満を持つ社会・消費者が声を出すようになるので、企業はそこにも対応しなければならない。
つまり、SNSの存在が、企業が危機管理対応をしていく中で、リスクの要素として大きなものになっているのです。

危機管理の王道的手法に、プラスアルファが必要になっている

企業は、今までの王道的な危機管理の方法論をリニューアルしていく必要があります。

「王道的な危機管理の対応だと、次は相手はこう出てくる。これにはどう対応したらいいか」
「クレームを付けてきた相手に対応するだけではなく、社会・消費者の声を抑えるためにはどうしたらいいか」

ここまで念頭に置く必要において対処しなければならないのです。

前者は、シミュレーションをどれだけできるか、ということでもあります。
従来のマニュアルをベースに、もう一歩先、二歩先まで考える。
頭を使えばできるはずです。

後者は、危機管理広報の体制を整え、何を広報していくかを考える、ということです。

詳細は、また別の機会に説明したいと思います。

日本経済新聞朝刊の「リスク~企業の処方箋~」の特集を読んで

今日は、雑感です。

8月30日から9月1日までの3日間、日本経済新聞の朝刊に「リスク~企業の処方箋~」という特集連載記事が掲載されていました。

大手企業が危機管理のために何をしているか。これを、次の3つのテーマで紹介していました。

  • 情報漏えい(8月30日)
  • 失敗から学ぶ(8月31日)=原因を踏まえた危機管理
  • トップによる把握(9月1日)=危機管理体制

率直に言って、非常によい特集でした。

私が常日頃から企業危機管理として、公開セミナーや社内役員研修・従業員研修でお話ししている内容や、事務所ブログに書いていることと、同じことが見事にわかりやすく書かれていました。
しかも、日経の記者らしく、大企業ではどのような取り組みをしているかが具体的に事例が紹介されていました。

ただ、気になるのは、「じゃ、この危機管理に弁護士がどう関わっているか。どう相談すれば良いのか」の視点があまりなかったこと。
たとえば、個人情報漏えいの件では、最後は、保険会社の話に行ってしまいました。
これでは、「個人情報漏えいは、結局、最後は賠償金の話でしょ」になってしまって、漏えい防止に対する問題意識は高まらない。

誰に、どう相談すれば良いのかがわからなければ、企業は関心持っても先に進めない。
ここが、今の企業危機管理の超えられない意識の壁なのかな、と思います。

問題意識がある企業は、誰に相談したらいいかわからない。
迷った末、結局、資格のない「危機管理コンサルタント」のところに相談に行く。
「危機管理コンサルタント」は法律的なことも含めたアドバイスをする。
経営面だけならともかく、「損害賠償になりますよ」「会社法の内部統制が不十分ですよ」といった法律的なアドバイスをしたら、その時点で弁護士法違反(非弁行為)。
しかし、これが堂々と行われている矛盾。

もしくは、顧問弁護士に相談に行く。
ある弁護士からは「事件になってからいらっしゃい」と言われる。
もしくは「~してはダメ」とばかり、言われる。
結局、会社からしてみれば「何もアドバイスしてくれないなら、コンサルタントのところに行くか」となる。

これでは、企業危機管理は根付かない。
もしくは、一部の問題意識の高い企業だけが、内輪で危機管理ができるようになって終わる。
いつまでも、企業危機管理を取り巻く社会環境は不十分なままで終わる。

もちろん、企業危機管理がわかっている弁護士が少なすぎるのが原因でもあります。
危機管理と弁護士がイコールで繋がってませんもんね。

だから、俺、がんばろっと。

コンプライアンス違反の通報・公益通報があった場合、会社はまずは受け容れて事実確認せよ

コンプライアンス通報窓口、公益通報者保護法の目的

2000年以降、「コンプライアンス」という用語が浸透し始め、多くの会社では、コンプライアンス通報窓口が設けられるようになりました。
2004年には公益通報者保護法が成立し、2006年4月1日から施行されています。

こうした背景には、社内の不正を告発した社員が会社によって冷遇される事例が相次いだことがあります。
冷遇というのは、告発したら配置転換され他に誰もいない地下室で勤務させられた、告発したら取引先からの契約を解約されたり取引先以外の同業他社も取引してくれなくなった、告発したら異動させられた、告発したら社長、上司や同僚から「どうして告発したのか」「裏切り者」などと詰め寄られたなど、いろんなケースがありました。

これでは、会社の中から不正をなくすことはできません。
まして、従業員が不正を発見したとしても、それを告発する余地がありません。
そこで、公益通報者保護法が成立したのです。

実例

今日、各紙で、エステサロンで労働基準監督署に深刻した従業員に対して社長による公益通報者保護法違反行為があった、労働組合に対する社長の圧力(不当労働行為)があったなどと録音された音声とともに報道されています
(日経は公益通報者保護法違反という観点から、朝日は不当労働行為という観点からの報道です。下線部ご参照)。

たかの友梨ビューティクリニック」を経営する「不二ビューティ」(東京)の従業員が加入するブラック企業対策ユニオンは28日、同社の高野友梨社長(66)から、組合活動をしていることを理由にパワーハラスメントを受けたとして、宮城県労働委員会不当労働行為の救済を申し立てた。」

「同ユニオンや弁護士によると、ユニオン側は今月22日、同社の仙台店に対し、仙台労働基準監督署が残業代の減額などの是正勧告をしたことについて会見する予定だった。そのことを知った高野社長は21日に仙台市を訪れ、仙台店の従業員15人や店長らを飲食店に集め、約2時間半にわたり持論を展開したという。

 同ユニオンが公開した当日の高野社長の言葉を録音したデータによると、高野社長は席上、組合に入っている女性を名指しして、「間違っているとはいわないけれども、この業界の実態をわかったときに、どうなんだろうか」と組合活動を非難した。さらに「労働基準法にぴったりそろったら、(会社は)絶対成り立たない」「つぶれるよ、うち。それで困らない?」などと問いただした。

 ほかの従業員にも「組合に入られた? 正直に言って」と組合員であるかどうかを確かめようとした。

 また、高野社長の名前で全国の店舗に対しファクスした文書を、店長に読み上げさせた。「社員数名が『ユニオン』という団体に加入し、『正義』という名を借りて、会社に待遇改善の団交を要求」「会社を誹謗(ひぼう)することは、自分のこれまで頑張ってきた道を汚すことだと私は思います」といった内容だった。」

(2014/08/29付朝日新聞Webサイトより)

 

「エステティックサロン「たかの友梨ビューティクリニック」の仙台店(仙台市)の女性従業員が28日、残業代を減額されたなどの問題を労働基準監督署に申告した行為を会社側が非難したのは公益通報者保護法などに違反するとして、厚生労働省に申し立てをした。

 女性が所属する労働組合が東京都内で記者会見して明らかにした。

 申立書や会見によると、経営する不二ビューティ(東京)の高野友梨社長が8月、仙台店の従業員を集め、女性が労基署に申告したことなどを非難。高野氏はその際「暴き出したりなんかして会社をつぶしてもいいの」と述べたという。」

(2014/08/29付け日本経済新聞朝刊より)

この報道の内容が事実かどうかは、私にはわかりません。
しかし、ここで報道されるような社長(会社)から告発者への対応がなされないようにするために、公益通報者保護法が定められました。
もし、これが事実なら、公益通報者保護法が定められた社会的背景を社長が理解していない、ということになります。

公益通報者保護法と現実の通報とのズレ

公益通報者保護法は、通報した者を保護するために定められた法律です。
しかし、公益通報者保護法も万全ではありません。

公益通報者保護法は「公益通報」をしたことによって不利益を課されない、と定めているものの、「公益通報」の範囲が狭すぎるのです。
平たく言えば、社内で、明確に法律違反ではないかもしれないけれど、「これってどうなの?」と何かしらの疑義があるにすぎない場合や、企業の社会的責任の観点からここは改善したほうがいいのではないか、として声をあげることは、「公益通報」に含まれないのです。

つまり、公益通報者保護法によって保護されない、ということになってしまいます。

しかし、現実に、通報窓口の仕事などを行うと、従業員の方からの通報の内容は、明確な法律違反を発見したという内容よりも、むしろ、法律違反かどうかは微妙(よくわからない)だけれども、企業理念や企業の社会的責任の観点からどうなの?という内容が圧倒的に多いのです。

もっといえば、明確に法律違反とわかっている通報よりも、こうした類の通報のほうが事実関係を調査してみたら、会社として大きな問題だった、通報された内容はその氷山の一角を従業員を見つけたケースだったということも多いのです。

そのため、従業員がこうした通報が積極的に、また身分を安心して通報できるようにするために、まずは、公益通報者保護法が改正されるべきです。

現実的には、まず社内ルールを見直し、コンプライアンス通報窓口には法律違反以外の通報も受け付けると門戸を広くしたうえで、こうした通報をした者に対しても会社は不利益を課してはならない、と定めておくべきです。

会社は通報を受けたら、まず事実確認・調査せよ

仮に従業員から通報があった場合に、上記で報道されたような形で社長が従業員や労働組合に圧力を掛けるのは最悪の対応です。
先に述べたように、通報内容が明確に法律違反ではない場合であったとしても、実は大きな不正の氷山の一角であったというケースも多々あります。
そのため、会社は、頭から通報を否定するのではなく、まずは、事実確認・調査を行うべきなのです。

そのうえで、事実が確認できないなら、通報者と連絡を取り合い、追加の情報を提供してもらい、事実確認を再度行う。
あるいは、事実無根であったなら、意図的に事実無根な通報をしたのか、それとも誤解に基づく通報だったのかを見極める。もし、意図的に事実無根な通報をしたというこであれば、そのときに、業務妨害という観点から通報者を処罰するかどうかを判断すればよいのです。

ベネッセホールディングス事件に見る個人情報漏えい時の企業のあるべき対応

ベネッセホールディングスでの個人情報漏えい

7月9日、ベネッセホールディングスで、お客様情報約760万件が漏えいし、その数は最大で約2070万件に及ぶ可能性があることが発表されました。

「このたび、ベネッセコーポレーション(以下「弊社」といいます。)のお客様情報約 760 万件が外部に漏えいしたことが確認されましたので、ご報告申し上げます。お客様情報が漏えい
したと思われるデータベースに保管されている情報の件数から推定すると、最大約 2,070 万件のお客様情報が漏えいしている可能性があります。」
(ベネッセホールディングス、2014年7月9日付プレスリリースより)

今回は、この件を通じて、企業が個人情報を漏えいした場合の対応について考えてみます。

個人情報漏えい時の企業内で行うべき対応については、過去に一通り書いたことがありますので、そちらもあわせてご確認ください。

個人情報漏えい時の対応でもっとも重要なことは、お客様の不安感を払拭すること

企業が個人情報を漏えいしたことについて対応する際、念頭に置いておくべきことは、お客様の不安感です。

その企業のお客様の誰でもが、次のような思いを抱きます。
担当者自身が「自分が個人情報を預けた立場」になって考えてみればわかるはずです。

  • 「私の個人情報が漏えいしたのではないか?」
  • 「どんな個人情報が漏えいしたのだろう?」
  • 「漏えいした個人情報は回収できないのか?」
  • 「いったい、これから私の身に何が降りかかるのだろう?」
  • 「会社として責任はどうとるつもりなのか(怒)」

そうだとすれば、企業としては、こうしたお客様の不安感を拭い去るように対応をしていかなければならない、ということになります。

その意味で、ベネッセホールディングスのプレスリリースが冒頭で「お客様をはじめとする皆様に、多大なご心配・ご迷惑をおかけいたしますことを、深くお詫び申し上げます。」と謝罪していることは、事件の本質を理解した謝罪文であると評価できます。

漏えいした個人情報の内容と範囲を特定する

「私の個人情報が漏えいしたのではないか?」「どんな個人情報が漏えいしたのだろう?」という不安を払拭するためには、漏えいした個人情報の内容と範囲を特定する必要があります。

ベネッセホールディングスのプレスリリースの内容

ベネッセホールディングスのプレスリリースでは、「漏えいしたお客様情報」と題して、次のように、漏えいした個人情報の内容と範囲を特定しています。

<該当するお客様>
現在、漏えいしたと考えられるのは、弊社が提供する通信教育サービス等のお客様に関する情報約 2,070 万件、うち、漏えいが確定している情報は約 760 万件です。該当する情報は別紙に記載するサービスをご利用いただいている(または過去ご利用いただいていた)お客様の情報です。

<漏えいが確認されている情報項目>
漏えいしたことが確認された情報項目は以下の通りです
 郵便番号
 お客様(お子様とその保護者)のお名前(漢字およびフリガナ)
 ご住所
 電話番号(固定電話番号または携帯電話番号)
 お子様の生年月日・性別
クレジットカード番号・有効期限、金融機関の口座情報、成績情報など上記項目以外の漏えいは確認されておりません

また、今般のお客様情報の漏えいは特定のデータベースからのものであり、漏えいしたリストを入手しデータ内容を調査した結果、別紙記載の商品・サービス以外のお客様情報を保管しているデータベースには、異常がないことを確認しております。

漏えいした個人情報の数の最大可能性を最初に摘示したことの重要性

ベネッセホールディングスのプレスリリースは、まず「お客様に関する情報約 2,070 万件、うち、漏えいが確定している情報は約 760 万件」と、最大数と確定数を両方記載しています。
これは、2070万件以上は漏洩していません、ということで、お客様を安心させるために必要な記載です。

もし、この記載がなく「漏えいが確定している情報は約760万件」とだけリリースして、後日になって、「約760万件以上の個人情報が漏えいしていることが発覚しました。実は1000万件でした」「さらに調査したら、約1500万件漏えいしていました」「いや実は・・・」などと訂正を繰り返したら、どうでしょう。
お客様は「もっと漏えい件数が増えるのではないか?」と不安になります。
そうした不安を抱かせないためには、最初から「最大で○○件の可能性」ということを明示していたほうが、事態は早期に収束しやすいのです。

漏えいした個人情報は、どのサービスを利用したお客様なのかを摘示することの重要性

あわせて、ベネッセホールディングスのプレスリリースでは、「該当する情報は別紙に記載するサービスをご利用いただいている(または過去ご利用いただいていた)お客様」「別紙記載の商品・サービス以外のお客様情報を保管しているデータベースには、異常がないことを確認しております」と記載し、どのサービスを利用したお客様の個人情報が漏えいした可能性があるということを明言しています。

これもまた、これ以外のサービスしか利用していないお客様は個人情報が漏えいしていないから安心してください、というメッセージを伝えるものです。

漏えいした個人情報の内容を特定することは、最重要

しかも、ベネッセホールディングスのプレスリリースは「漏えいしたことが確認された情報項目は以下の通りです」「クレジットカード番号・有効期限、金融機関の口座情報、成績情報など上記項目以外の漏えいは確認されておりません」と、漏えいした個人情報の内容を特定しています。

これによって、「もしかしたら、クレジットカードが悪用されるのではないか」「金融機関の口座からお金を抜かれるのではないか」「子どもの成績が表に出てしまうのではないか」などという不安を払拭することができます。

個人情報を漏えいしたということで生じるお客様の不安を一つずつ取り除いていく。
そのためには、こうした個人情報の内容の特定というのは、意味があることです。

ベネッセホールディングスでの個人情報漏えい対応の最大の特徴=Webサイトの最大活用

これまでの個人情報漏えい事件でも、企業のWebサイトに個人情報漏えいについての情報を掲載することは行われていました。
ただ、今回のベネッセホールディングスの場合、過去の個人情報漏えい事件とは比較にならないほど、Webサイトが充実していることも特徴です。
これは、ベネッセホールディングスが B to C を業態とする会社であり、一般消費者に向けての情報発信を怠れば、企業としての信頼を失う可能性が高いということからではないかと推察できます。

企業Webサイトのトップページの頭に、個人情報漏えい事件についての専用ページへのリンクを掲載

ベネッセホールディングスでは、会社の公式サイトのトップに、個人情報漏えい事件についての専用ページへのリンクを掲載しています。

Benesse  ベネッセグループ

赤く囲ったのは私が注釈したものです。
謝罪と専用ページへのリンクがわかりやすく掲載されているのは評価されて良いと思います。

プレスリリースをわかりやすく構成し直し、問い合わせ窓口も掲載

次いで、専用ページを訪問すると、プレスリリースの内容を一般のお客様が読んでもわかりやすくなるように、構成し直されています。
あわせて、問い合わせ窓口が赤囲みで掲載され、その赤囲みの中に、強調したいポイントも列挙されています。
※この赤囲みはベネッセホールディングスがしたものです

お客様に情報を伝えるというWebサイトに掲載することの役割を、よく理解した対応かと思われます。

ベネッセコーポレーションにおける個人情報漏えいに関するお知らせとお詫び(お問い合わせ窓口のご案内)

お客様からのよくある質問と回答のページ

さらに、特筆すべきは、「多く寄せられているご質問とその回答」のページの存在です。

大抵の場合、こうした良くある質問と回答(FAQ)のページが作られても、社内の目線で見た質問と回答だけで埋められていることが多いです。
しかし、ベネッセホールディングスの場合、お客様目線に立った質問と回答が数多く、しかも、日々、最新の質問と回答が追加掲載されています。

発表から日がない中で、ここまで充実させているのもまた評価されるべき点ではないかと思います。

多く寄せられているご質問

ブログ形式での日々の情報更新

そのうえで、「お客様へのご案内」「対策進捗」「プレスリリース」がブログ形式で、投稿されるようになっています。
正直、これらの内容は重複する部分もあるので統合してしまってもいいような気もしますが・・・。
とはいえ、ブログ形式、つまり、最新の情報が常に一番上に来るように情報がアップされているのは、他の企業では見られなかったパターンではないかと思います。

他の企業にとっては、危機管理対応として参考になる

今回のベネッセホールディングスのプレスリリース、Webサイトの作り込み方は、他の企業にとっても、事件・事故対応、危機管理対応として非常に参考になるものです。
役員間、総務・広報の各部署では、他社事例の分析として社内共有しておくべきかと思われます。

私が企業不祥事広報のセミナーなどでお話ししている内容がほとんどすべて網羅されている、という点でも、私の目から見たら十分な対応をしているなと感じます。
私に仕事振ってくれれば、もっと良かったのですが・・・。私の日常的な仕事は、こういう対応策の提案・助言ですので・・・。

社外取締役の存在・役割は会社の業績にとって意味があるのか

昨日、「『完全』社外取締役」について一本書きました。
今日も引き続き、社外取締役の役割について書きます。

社外取締役の役割・存在意義についての疑問

社外取締役に関して、常について回る議論が

  • 「社外取締役に効果ってあるのか?」
  • 「社外取締役で会社の売上が上がるのか?」
  • 「社外取締役でガバナンスに効果は出るのか?」

というものです。

社外取締役の効果についての分析結果

今日の日経新聞に、この部分について、おもしろい記事が載っていたので紹介します。

社外取締役の存在・役割は業務改善に影響があるのか?

まず、1つめは、社外取締役が業務改善に影響しているか、という疑問への研究結果です。

「代表的なものの一つが、早稲田大学の宮島英昭教授が12年に発表した論文だ。
宮島教授は社外取締役のいる企業といない企業との間で、業績改善にどのような違いがあるかを測定した。
得られた結論は
(1)社外取締役が業績改善に結びつきやすい企業と、そうでない企業がある
(2)製品の独自性が低く、複雑な事業を持たない企業ほど、社外取締役の選任で業績が改善しやすい
(3)逆に、人材やノウハウといった無形資産を競争力の源泉とする企業は社外取締役の有効性に乏しい――など。」
(2014年6月29日日本経済新聞朝刊より)

この研究結果の中で、注目すべきは、(2)と(3)でしょう。

「製品の独自性が低く、複雑な事業を持たない企業」と「人材やノウハウといった無形資産を競争力の源泉とする企業」とを区別して、前者では社外取締役の存在・役割は業務改善に効果がある、後者では社外取締役の存在・役割は業務改善に効果はない、と結論づけています。

「製品の独自性が低く、複雑な事業を持たない企業」と「人材やノウハウといった無形資産を競争力の源泉とする企業」の区別は、この記事からはわかりません。

強いて考えるなら、前者は、事業内容がマニュアル的な企業=社長が「右向け右」と指示したら、あるいは指示しなくても、上意下達で、事業が進んでいく企業かもしれません。
企業ではなく事業単位で言えば、組み立て工場のラインや経理処理など一定的な処理が行われる事業が、ここに該当するかもしれません。

後者は、社長が方向性だけ示したら、個々の事業については従業員の裁量に委ねられている企業かもしれません。
これも事業単位で言えば、システムエンジニアのようにプログラミングをする事業や広報事業が、ここに該当するかもしれません。

従業員による横領の問題などが発生しやすい営業は、両者の側面を含んでいる事業かもしれません。

要するにここで申し上げたいのは、企業として業務改善を目的として社外取締役を選任する場合には、改善したい事業分野がどこなのか、その社外取締役を選任することが、その事業分野の改善に効果的なのか、候補者をピックアップする時に社外取締役に期待する目的・役割と期待する効果・機能を明確にしておかなければ社外取締役を選任する意味はない、ということです。

社外取締役の存在・役割はROE・配当性向の改善に効果があるか?

もう一つは、社外取締役を選任することで、投資家・株主が納得するような株式への影響が生じるか、という疑問への研究成果です。

「外国人投資家の関心の高まりに対応し、UBS証券の大川智宏ストラテジストは、自己資本利益率(ROE)や配当性向と社外取締役の関係を分析している。
それによると、社外取締役がいない企業といる企業とでは、ROEの改善度合いや配当性向の高さで、明確な違いが認められた。しかし、大企業に限れば社外取締役比率でROE改善率や配当性向に大差はなかった。」(2014年6月29日日本経済新聞朝刊より)

この分析結果では、「大企業に限れば・・大差はなかった」とあります。
ここでも、大企業がどれくらいの規模を想定しているのかは明らかではありません。

ただ、ここで重要なのは、「明確な違いが認められた」という部分ではないかと思います。

ROEは、(1株あたりの利益)÷(1株あたりの株主資本)、で算出します。
1株あたりの利益は、(当期純利益)÷(発行済み株式数)、で算出します
1株あたりの株主資本は、(株主資本)÷(発行済み株式数)、で算出します。
要するに、(当期純利益)÷(株主資本)、がROEということです。

何を申し上げたいかというと、増資でもしない限り「株主資本」が増えることはないわけです。
ROEを改善させるために増資をすることは、そうそうないはずです。
ということは、ROEが改善したということは、当期純利益が改善した=向上したということです。
簡単に言えば、売上が上がった、あるいは/かつ、当期経常損失が減少した、ということです。

純利益が上がらなければ、配当に回す剰余金は増えないのですから、配当性向が向上したというのも、背景は同じです。

それでは、社外取締役を選任したことで、売上がアップした、and/or経常損失が減少した理由は、何なのか?
社外取締役がいるかどうかによって、消費者や顧客が、消費活動を変える、取引条件や態様を変えるとは想像できません。
となると、会社の売上アップ、経常損失の減少は、社外取締役が社内に影響を与える役割・機能を果たしたからだと考えることができます。

たとえば、社外取締役が入ったことで取締役会で経営上効果的なアドバイスを得ることができたのではないか。
それとも、社外取締役が入ったことで経費管理に厳しい目が及ぶようになり、経費節減に厳しいメスが入ったのではないか。
このような社外取締役の役割・機能が、売上アップ、経常損失が減少した理由として考えられます。

もしこれらが理由だとすれば、社外取締役候補者を選任する場合に、取締役会で経営上効果的なアドバイスをしてくれる人なのか、あるいは経費管理に厳しい目を光らす人なのか。
こうした役割・機能を考えなければ、社外取締役を選任する意味がない
と言えます。

社外取締役=有名人ではダメ

ここまで見てきたとおり、社外取締役を選任する場合には、社外取締役の選任によって業務改善、あるいは、ROE・配当性向向上の何を期待するのか、その目的意識・役割を明確にしなければならないこと、また、その期待に応じた人選をしなければ、目的意識・役割と結果に齟齬が生じてしまうこと、を結論として出すことができます。

単に、元官僚とか、元裁判官、元検察庁、有名な経営者、取引先の経営者、社長と懇意にしている経営者や専門家であるとか、そういった外面だけで社外取締役を選んでも、その企業は社外取締役選任の効果は得られないということです。
「何かあったときに顔が利くだろう」という考えで社外取締役を選任しているのであれば、本末転倒ということです。
その考えで社外取締役を選任するのであれば、せいぜい、相談役か顧問に留めておくほうが無難ということです。

もしかしたら、社外取締役を選任しても「大企業では・・・大差はなかった」というのは、ここが要因になっているのかもしれません。

「『完全』社外取締役」を機能させるためのポイント〜2014年会社法改正

2014年6月株主総会での社外取締役の導入

2014年6月の株主総会が一通り終了しました。
今年の株主総会で争点の一つとなったのが、「社外」取締役の導入です。

今年の株主総会の結果、1部上場企業のうち、1人以上の社外取締役が導入された企業は74%に達したそうです。

「東京証券取引所によれば今年の株主総会で、1人以上の社外取締役を抱える企業は1部上場の74%まで高まった。社内の利害を超え、外部の視点で経営を判断する社外取締役の存在が、日本企業でも「標準」になってきた。これを最も求めているのが海外の投資家だ。」(2014年6月28日付日本経済新聞朝刊)

あれ、私のところには全然話が来てない・・・まだまだ私の不勉強故・・・もっと実績を重ねるしかないのであります。
見てろよ・・・。メラメラ。

私自身、過去に何社か社外取締役・社外理事に就任したことはあります。
たいていが社内で不祥事が起きた、社内で業務改革をしなければならない、そのために、社外の意見を聞こうという目的で私に声がかかったケースです。

私の性格から、初めのうちは静かにして状況や人間関係や性格を見定めますが、そのような目的で声を掛けていただいた以上、誰にも遠慮なく発言します(もちろん、発言の仕方や言葉選びには慎重にします)。
その結果、従来の雰囲気に馴染んだ役員や理事の方々とたいてい考え方が衝突します。
一部には理解を示してくれる役員、理事の方々もいらっしゃいますが、思いのほか、抵抗勢力は多い。

「ここまでやらなかったら、世の中の目は許してくれない」
「ここまで叩かれていることの本質は、ここにある。ここを解消しない限り、先には進めない」
「問題を起こした役員・理事の方々と一緒に働いていたから同情心があるのは仕方がない。しかし、ここは同情優先で動いてはいけない場面です」

これで衝突して1年経っても役員陣の考え方が変わらなければ、私から見限り辞任します。サヨナラ。サヨナラ。サヨナラ。
中には、理解を示してくれて、社外取締役ではなく顧問弁護士へ、というケースもあります。
また、不祥事改革、業務改革が終了して社外取締役の必要性がなくなったので、顧問弁護士の地位へ移行、というケースもあります。

ちょっと話がズレました。

何の話をしようとしたかったかというと、2014年6月に成立した改正会社法によって導入された「社外取締役」について、です。
「社外取締役」自体は、これまでの会社法にも存在しました。しかし、改正会社法によって導入されたのは、「社外」性の要件を高めた、いわば「『完全』社外取締役」と言って良いものかと思います(「完全社外取締役」という言い方はまだ一般化していません。あくまでここでの造語です)。

完全社外取締役に期待されていること

完全社外取締役に期待されていること

社外取締役に期待されていることは、取締役会での経営判断に社外の目を入れて、経営を厳しい目でチェックすること、でした。
しかし、実際には、監査役からの横滑り、ープ会社から横滑り、親族を導入した形だけの「社外」ということが多く、当初期待されていたような効果を残すことができなかった。
そこで、2014年改正会社法では、社外取締役の要件を厳しくしたのです。

完全社外取締役の要件

改正会社法のいう「社外」性の要件は、次の5つです。

  1. その会社・子会社の業務執行取締役等(業務執行取締役、執行役、支配人、使用人の総称です)ではなく、その就任前10年間、その会社・子会社の業務執行取締役等であったことがないこと
  2. 就任前10年間に一度でも、その会社・子会社の取締役、会計参与、監査役経験がある者(業務執行取締役等になったことがある者は除く)は、それらに就任する前10年間、その会社・子会社の業務執行取締役等であったことがないこと
  3. その会社の経営を支配する者、親会社の取締役、執行役、支配人、使用人ではないこと
  4. その会社の別の子会社の業務執行取締役等ではないこと
  5. その会社の取締役、執行役、支配人、重要な使用人、会社経営を支配する者の二親等以内の親族ではないこと

ちょっとややこしいですが、実務的に影響が多いのは、2と4ではないか、と思います。
2は、たとえば、10年以上前に従業員から監査役に就任(昇進? 法的には従業員退職+監査役選任なので昇進ではありませんが、社会的には昇進という意識が高いと思いますので、あえて昇進と書きます)した者は、横滑りで取締役になっても、社外取締役とはいえない、ということです。
4はグループ会社内で、別のグループ会社の役員が社外取締役にはなれない、ということです。
グループ会社内で役員をたすき掛けして相互に就任させたり、親会社から子会社に出向・転籍していた役員が、別の子会社の役員になっても、社外取締役とはいえない、ということです。

完全社外取締役であることが重要なのではなく、完全社外取締役として機能することが重要

社外取締役に期待されていることは、社外の目で経営判断を厳しくチェックするということです。
完全社外取締役に就任したのに、多忙を理由に取締役会に出席していないのは論外です。
実際にも、取締役会への出席率が低い社外取締役については、重任(再度の就任)への賛成比率が下がっているとの報道もあります。

「単に社外というだけでなく、その質に視線は向かい始めている。トヨタ自動車の場合、取締役会の出席率が7割弱にとどまる社外取締役への支持は8割を切った。」(2014年6月28日日本経済新聞朝刊より)

この現象を突き詰めていくと、今後、社外取締役を選任するときに、既に他の会社の社外取締役に就任している有名人、何社も社外取締役に就任している有名人は、候補者から外していくという方向で考えなければなりません。
社外取締役の重要な兼職情報は事業報告に記載することになっていますので(会社法施行規則124条2号)、兼職が多い社外取締役は、本当に機能しているのかどうかを確認される可能性はあります。

さらに言えば、社外取締役として出席しただけで何の発言もしない社外取締役は「経営判断を厳しくチェックする」という機能を果たしていないということで、支持率=重任への賛成比率が下がっていく可能性もありえます。
現時点でも、社外取締役の意見によって会社の事業方針や事業にかかる決定が変更されたときには、その内容を事業報告に記載することが求められています(会社法施行規則124条4号ハ)。
そのため、今後の株主総会では、株主から「社外取締役が発言したことで、経営判断に影響とまではいえなくても、議論が活発になったものがあるか」程度の質問が出て、完全社外取締役が機能しているかどうかを訊かれる可能性はあります。
それを想定したQAは準備しておいたほうがよろしいのではないでしょうか。

完全社外取締役を機能させるための工夫

完全社外取締役の機能を発揮してもらうためには、取締役会に出席するようになっただけでは不十分であり、取締役会で十分な発言をしてもらうことが重要です。完全社外取締役はお飾りではありません。

そのためには、完全社外取締役にも、取締役会前に十分な情報を提供しておくことが必要不可欠です。
完全社外取締役に会社の業務内容や人事情報(単に役職というのではなく人間関係や性格まで)を十分に知ってもらう必要はあるうえ、取締役会で議論しようとしている議題の内容についても、完全社外取締役に理解してもらうことが必要です。

そのためには、社内に完全社外取締役から取締役会の前後に質問を受けたり、完全社外取締役からの命を受けて動ける担当者を設けておくことは必須だろうと思います。
実際には、取締役会以外にも完全社外取締役と社長などが意見交換できる機会を設けたりすることも必須でしょう。