マンションのくい打ち問題は、まだまだ続きがありそうです。
そのため、くい打ち問題についてのレビュー第2弾は、もう少し経過を見てから書きます。

先日、同業者と飲み会をしていたときに、私の仕事内容が通常イメージする弁護士の業務=訴訟業務と違いすぎるということで、色々と質問されました。
そこで、今回は、「危機管理って何?」「なんで、危機管理広報を、やることになったの?」という、素朴な質問に回答しようと思います。

私が危機管理広報をメインにするようにした成り立ちと言い換えることができます。

辞め検(ヤメ検)の「危機管理」とは何が違うのか

最近では、元検察から弁護士に転向した、いわゆる「辞め検(ヤメ検)」の弁護士の方々が「危機管理」を業務内容としてアピールしているのをよく見かけます。
おそらく、元検察という経歴から察するに、「企業不祥事が起きても、いかに刑事事件にならないようにするか」というところに主眼があるのではないかと思います(あくまでイメージです)。

「いかに刑事事件にならないようにするか」は、私が考える「危機管理」ではありません。
それは、私の中では、刑事弁護でしかありません。
より広い意味では、予防法務ではあるかもしれません。

私が考えている「危機管理」は、企業が社会からの信頼を回復する、信用を取り戻すためにはどうしたらいいか、そもそも信頼を失わないようにしないためにはどうしたらいいか、に主眼を置いています。
社長であろうと従業員であろうと誰かが逮捕されるべきケースでは、逮捕され起訴されるべき、と思っています。
むしろ、逮捕、起訴されてでも、企業の中で変えていかなければならない部分は変えていこうと考えながら、アドバイスしています。
その点では、ヤメ検の「危機管理」とは、真逆かもしれません。

民暴の「危機管理」とは何が違うのか

一方で、民事介入暴力を専門にする弁護士の方々も「危機管理」という言葉を用いられます。
私の「危機管理」は、民暴の「危機管理」そのものではありませんが、どちらかというと、こちらに近いです。

民事介入暴力の「危機管理」は、企業が反社会的勢力やクレーマーから不当な要求をされたときに、いかに屈しないか、に主眼を置いています(私も過去に民暴委員会に籍を置いていました)。
これは、私が考えている「危機管理」の中に含まれます。

企業が不祥事を起こした場合に、企業は社会からの信頼を回復する、信用を取り戻す必要がある。
そのためには、株主や機関投資家や消費者や地域の意見を聞かなければならない。
その中で真っ当な意見があれば組み入れるけれども、すべて言うがまま、言いなりになるわけではない。
この言うがまま、言いなりになるわけではないというのは、民暴の「危機管理」と共通しています。

言うがまま、言いなりになるわけではない、というところの延長に、あくまでも会社の意思決定を行うのは、会社の取締役・取締役会である、という発想があります。

どういう成り立ちでの「危機管理」か

私が考えるところの「危機管理」は、社会からの信頼を回復する、信用を取り戻すための手段を講じるべきというところに主眼があります。
このベースになったのは、不当なクレーマーへの対応、土壌汚染をきっかけとした住民説明会、株主総会での取締役の説明義務、IR型の出資者(株主)に説明することに主眼を置いた株主総会への移行、企業の社会的責任が問われるようになった時代背景、個人情報漏えいでの被害者向け説明、マスコミへの取材対応などでの経験です。

弁護士である以上、法律で禁止されていることは企業活動でも禁止される、というところからスタートするのは当たり前です。
しかし、コンプライアンスという言葉が2000年以降に言われるようになった当初は、「法律をまもって、会社が潰れる」とも揶揄されました(今でも言っている人はいます)。
それも、違うだろ、と。

法律は守らなければいけない。でも、法律が定めていない中で企業にはできることがあるだろう。
まして、企業不祥事が起きたときには、会社が信頼を回復する、信用を回復する、ファンを失わない。そのために、できることは、山ほどあるではないか。
企業が不祥事を起こしたときこそ、マーケティングの手法などを積極的に活用すべきではないのか。
松下電器(現パナソニック)の石油ファンヒーターの大規模リコール事件のときに行われていた回収のために、次から次へと出てくる方策を見て、その思いは強くなりました。

ましてや、先に挙げたような経験を通じて、回答として期待しているのは、法律の話ではないことを体感しました。

そこからスタートしたのが、私が考えているところの「危機管理」の具体的な中身です。
一見するとコンサルティングのように誤解されるかもしれません。
しかし、あくまでもベースは、弁護士の立場からの発想です。

ベースは「戦略法務」

むろん、私ひとりで勝手に思い至ったのではなく、私が師事した中島茂弁護士が、日本で一番最初に提唱した「戦略法務」の考え方がベースになっています。
ちなみに、「戦略法務」という言葉は、今では広く使われるようになっています。
しかし、その内容を、企業には戦略目的があり、目的を達成するためには色々な手段があり、その中で法的手段をも使おう、と、広く企業戦略の一つに法務を位置づけているのは、中島茂弁護士だけだと思っています。

「危機管理広報」で考えていること

私が「危機管理」の一つとして行っている「危機管理広報」は、こうした「戦略法務」の考え方をベースにしているものです。

企業が不祥事を起こしたときには、目的は、信頼回復、信用回復、さらには、現在進行形の不祥事の拡大防止や被害の拡大防止などがある。
その目的を達成するためには、いろいろな手段があり、それを考えていこう。
その手段の一つとして用いるべき「広報」が「危機管理広報」である、という考え方です。

単に「訴訟になったときに不利にならないような説明をしよう」「責任を負わないような言葉選びをしよう」とは、発想の原点が違います。

あくまでも、目的達成のために必要なことを世の中や消費者にアピールして伝える、というところから、発想します。
法的責任を免れても、企業がマスコミから叩かれたら意味がない。消費者が離れていったら意味がない。
守るべきものは、社長以下役員の首ではなく、あくまで会社である。
もっと言えば、会社を取り巻く、株主、投資家、消費者、取引先、社会、従業員が守るべき対象である。
この思いに立った上で、今のタイミングで全部情報を隠さずに開示すべき、次の発表はこのタイミングで行うべき、発表を行う前にこの取引先などには事前に根回ししておくべき、軽々しい言葉選びをすると法的責任を認めて争う余地がなくなるので、同じ内容を言うにしても違う説明の仕方ができるのではないか、社内でもこういう言葉で説明すれば役員の理解が得られるのではないか、などのアドバイスをしています。