マンションの基礎工事に虚偽のデータを使用

大型マンションの基礎工事をする際、実際に施工した業者が地盤調査を実施しないまま、虚偽のデータを用いて工事をし、マンションが傾く事態になっていることが問題になっています。

「三井不動産グループ(※三井不動産レジデンシャル)が2006年に販売を始めた横浜市都筑区の大型マンションで、施工会社の三井住友建設側が基礎工事の際に地盤調査を一部で実施せず、虚偽データに基づいて工事をしていたことが13日分かった。複数の杭(くい)が強固な地盤に届いておらず、建物が傾く事態となっている。」
「住民側の指摘を受け、三井不動産レジデンシャルと三井住友建設が調査を開始。傾いたマンションの計52本の杭のうち28本の調査を終えた時点で、6本の杭が地盤の強固な「支持層」に到達しておらず、2本も打ち込まれた長さが不十分であることが判明した。傾きの原因の可能性がある。」(日本経済新聞2015年11月14日付朝刊)

実際に、施工した会社は、三井住友建築から下請した、旭化成の子会社の旭化成建材であると報じられています。

対住民との関係では、販売元が責任を負うべし

住民に対してマンションを販売したのは、三井不動産レジデンシャルです。
そのため、住民に対しての責任は、販売元である三井不動産レジデンシャルが負います。

三井不動産レジデンシャルは販売元にすぎず、施工業者は三井住友建設、実際に施工したのは旭化成建材です。
しかし、住民からすれば、誰が建てたのかは関係ありません。
住民の立場で考えれば、「三井不動産レジデンシャルから買ったマンションに問題があったのだ。マンションの購入代金は三井不動産レジデンシャルに支払った。三井不動産レジデンシャルが責任を取れ。」となるはずです。
そのため、対住民の問題は、三井不動産レジデンシャルが矢面に立つべきです。

焼肉酒家えびす事件

参考になる事件を一つ紹介します。
2011年5月に発生した、焼肉酒家えびすが店舗で提供したユッケを食べたお客さんが食中毒になり、そのうち5人が死亡するという事件です。
最終的に、焼肉酒家えびすは破産しました。

破産に至るまで焼肉酒家えびすがバッシングされた理由は、初めの社長記者会見で、社長が食中毒での死亡者に対してお詫びをしなかったことと、食中毒の原因が肉の卸業者にあると説明したことです。
お客さんの立場で考えれば、「焼肉酒家えびすでユッケを頼んだら食中毒になった。食事の代金は焼肉酒家えびすに支払った。焼肉酒家えびすが責任を取れ。」となるのです。
ところが、焼肉酒家えびすは、そうではなく、卸業者に責任を押し付けようとした。
責任を他社に押し付けたことで、批判が殺到したのです。

「被害者」意識は危機管理を失敗させる

不祥事の相談を受けていると、「うちの会社に責任はない。うちの会社は被害者です。」という意識を持っている企業が少なからずいます。
しかし、危機管理対応として「自分たちが被害者」との意識を持っていると、必ず失敗します。

焼肉酒家えびすの件は、その典型です。
ユッケを提供し、それにお金をもらっているのは、焼肉酒家えびすです。
だとすれば、お客さまへの責任を負うべきは、焼肉酒家えびすです。

今回のマンションの件でも同じです。
マンションを販売し、それにお金をもらっているのは、三井不動産レジデンシャルです。
だとすれば、お客さまへの責任を負うべきは、三井不動産レジデンシャルです。
施工会社が三井住友建設、実際の施工業者が旭化成建材であると説明する中で、「自分たちは被害者です。自分たちには責任がない」という意識や姿勢を見せた段階で、住民からの信頼を失います。

その点で、三井不動産レジデンシャルが、さっそく住民に対して説明を行っているのは評価できるところです。

「三井不動産レジデンシャルは住民への説明会を始めており「あってはならないことで申し訳ない」と陳謝。施工不良は8本という前提で構造計算をし直した結果「緊急を要する危険性はない」と説明している。」(日本経済新聞2015年11月14日付朝刊)

各関係企業の姿勢がバラバラでは住民の不信感を募らせる

先に書いたように、住民への責任は、販売元である三井不動産レジデンシャルが負うべきです。
つまり、責任の負い方は三井不動産レジデンシャルが自ら決すべきです。
責任の内容を決めるのは、三井住友建設でも、旭化成建材でもありません。

もちろん、その後の求償、役割分担のことを考えれば、三井不動産レジデンシャル、三井住友建設、旭化成建材の間で協議することは不可避です。
しかし、その場合でも、実現困難な責任の負い方にならないかどうかを協議すべきであって、責任の押し付け合いになることは避けなければなりません。
また、三井不動産レジデンシャルが責任を負うことを決めれば、三者間の役割分担や費用分担は後から決めたって言い訳です。
極端な話を言えば、三井住友建設や旭化成建材が協力しない、費用負担しないと拒否するのであれば、三井不動産レジデンシャルは他の業者に依頼して建て替えなりを先に行い、後から求償するということがあってもいいのです。

報道内容からすると、一見、三者の対応は同じ方向を向いているように思えます。

「横浜市都筑区の大型マンション基礎工事で虚偽のデータが使われた問題で、販売元の三井不動産レジデンシャルが、傾いた棟の建て替えも視野に検討を始めたことが14日分かった。施工会社の三井住友建設とともに年内に復元工事の方法を決める。この日、両社の幹部がマンションを訪れて改めて住民に謝罪、補償問題に誠実に対応することを約束したという。」(日本経済新聞2015年11月14日付夕刊)

「旭化成によると、傾いた建物の補強や改修、ほかの棟の調査にかかる費用は旭化成建材が全額を負担する。旭化成は「信頼を損なう結果となったことを深く反省し、心よりおわびする。居住者の安全を最優先に、売り主の三井不動産レジデンシャル、施工会社の三井住友建設と協力して、しかるべき対応をとる」としている。」(日本経済新聞2015年11月15日付朝刊)

「三井不動産レジデンシャルは今月上旬から住民向け説明会を開始。当初、今後の対応は「検討中」などとしていたが、15日には一転、傾いた1棟だけでなく全4棟を建て替える案を住民側に提示した。今回の問題で住民に発生する損害の補償にも対応するとしている。」(日本経済新聞2015年11月20日付朝刊)

その一方で、三者が責任を負うことについて一枚岩ではないかのような報道もされています。

「各社の主張はすれ違いを見せており利害が対立する可能性もある。住民への補償にも影響が出そうだ。
20日の記者会見で旭化成の平居正仁副社長は、データ改ざんの背景にマンションの販売業者や元請けから「工期を守れ」などの圧力があったかについて「当時は少しでも早くという状況はあった」と述べ、プレッシャーの存在を示唆した。
旭化成建材の商品開発部長は、杭(くい)が地中の支持層へ到達したかを担当者が見極める際「(三井住友建設が作製した)設計図を大前提にした」と話した。三井住友建設の設計図に不備があったことが短すぎる杭がいくつか出てきた原因だという考えだ。「非はゼネコンにもある」と漏らす旭化成幹部もいる。
三井不動産レジデンシャルの親会社、三井不動産幹部は「まさか地中奥深くに入っている、杭の打ち込みが不十分だとは思わなかった」と旭化成建材のデータ改ざんにあきれる三井住友建設も「下請けからあがってきた改ざんは見抜けない」という立場だ。」
旭化成の浅野敏雄社長も20日の記者会見で、三井不動産レジデンシャルが示した全4棟を建て替える費用について「売り主、施工会社と誠意を持って協議していきたい」と述べるにとどめ、旭化成側が全額を負担するとの考えは示さなかった。」(日本経済新聞2015年11月21日付朝刊)

このような報道がされてしまうのは、責任の負い方について説明する企業が一元化されていないのも一因です。
関係企業がそれぞれ大きな会社ではありますが、住民への責任の負い方という点では、三井不動産レジデンシャルに一元化して広報対応もすべきです。
対外窓口を一本化することは、企業危機管理の基本です。
仮に複数の企業が関係している場合でも、特定の企業を窓口にすべきです。
そうしないと、情報が錯綜してしまうからです。
上記のような報道がなされてしまうのは、まさに対外窓口が一本化されていないから起きたことです。

報道によると、27日に三井不動産レジデンシャルから責任の負い方が発表されるそうです。
その時点でも、責任の負い方について関係企業が一枚岩になっていないときには、住民からは「責任をなすりつけあっているだけではないか」と批判され、住民からの信頼を失うことは必須だろうと思います。