厚労省での収賄事件

マイナンバー制度の導入に関して、厚労省の室長補佐が収賄の被疑事実で逮捕されました。
報道によると、事件の概要は次のとおりです。

「逮捕容疑は2011年11月、マイナンバー制度導入に絡み、社会保障データをめぐる厚労省の調査研究事業など2件で、情報関連会社が受注できるよう有利な取り計らいをした謝礼と知りながら、同社の当時の社長から現金100万円を受け取った疑い。」
「捜査2課によると、同容疑者は公示前、受注の要件を定めた「仕様書」を作成するにあたり、同社に仕様書の原案を作成させるなどして便宜を図ったとされる。同容疑者は当時、社会保障担当参事官室の室長補佐で仕様書の作成で中心的な役割を担っていたという。」
厚労省によると、情報関連会社は逮捕容疑の2件を含め、08年度から15年度までに同省から7件で計約15億円の事業を受注している。」(日本経済新聞2015年10月14日付朝刊)

この事件では、受注できるように有利な取り計らいをしてもらった謝礼を交付したことで、贈収賄が問題になりました(贈賄側は公訴時効が成立しています)。

この事件が発生した現時点で他の企業が学ぶべきことは「公務員との付き合い方」です。
簡単に言えば、公務員に対する金銭の交付はもちろんのこと、受注に向けた営業活動などはどこまでできるのかという限界を知ることです。

公務員との付き合い方に関する規制その1~贈収賄~

企業と公務員との付き合い方に関する規制として、第一に思い浮かべるのは、贈収賄でしょう。

「職務行為」の範囲

例えば、今回の事件のように、発注者側の中心的な役割を担っていた公務員が、受注の便宜を図るのは、公務員の職務行為の典型です。
こうした公務員の職務行為に関して対価を企業が交付する。あるいは公務員が対価を要求する。
単純贈収賄の典型です。
5年以下の懲役です。

それ以外にも、「職務に密接に関連する行為」に対して、企業が対価を交付することや公務員が対価を要求することも単純贈収賄になります。

公務員が職務に基づいて事実上影響力を持っている場合が「職務に密接に関連する行為」です。
例えば、公務員が他の公務員に働きかける行為が、ここに含まれます。

企業からすれば、従前から取引を通じて付き合いのある公務員に依頼して、別の取引を担当する公務員を紹介してもらいたい、取引の受注に向けて口利きをしてもらいたい、と思うこともあるでしょう。
このような他の公務員を紹介してもらったり、口利きをしてもらうことも、「職務に密接に関連する行為」に含まれます。
そのために、紹介や口利きしてもらったことに対して、謝礼の意味などで「対価」を交付すると、贈賄罪になってしまうので、注意しなければなりません。

「対価」の例

「対価」は、金銭に限られません。
物品の贈与、接待、一席設ける、異性間の情交なども「対価」です。

ただし、過去の裁判例では、お中元やお歳暮の類は、社交儀礼の範囲内であれば、「対価」ではない、と判断されています。
そうはいっても、お中元やお歳暮なら必ず許されるわけではなく、あくまでも、社交儀礼の範囲内、という縛りがあります。
お中元やお歳暮で贈る物が高価な物であったり、何度も繰り返しお中元やお歳暮を贈っている場合には、職務行為の「対価」と判断されてしまいます。

企業からすれば、お世話になった公務員やこれから付き合いが始まるであろう公務員にお中元やお歳暮を贈ってお近づきになりたい、と思うこともあるでしょう。
しかし、その場合も、社交儀礼の範囲内か、要は、取引もない間柄のときでも、そういった物を贈るだろうか、ということを配慮しなければなりません。

公務員との付き合い方に関する規制その2~国家公務員倫理規程~

贈収賄以外に見落としてはならない規制があります。
それは、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程です。

これらは「国家公務員はこういうことをしてはいけない」と、あくまでも国家公務員を律する規制です。
違反して処罰されるのは、国家公務員だけです。
しかし、国家公務員に接する企業側が、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程を守らなければ、その企業は国家公務員の側からすれば迷惑きわまりない存在です。
国家公務員に「この企業のせいで処罰されることになった」「あの企業と接すると、まずいことに巻き込まれる」と受け取られたら、その企業は二度と国と取引することはできなくなるでしょう。
そのため、企業は、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程についても熟知しておかなければなりません。

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程のYoutube解説

企業が国家公務員倫理規程の内容を勉強する教材としては、Youtubeの存在があります。
国家公務員倫理審査会が、Youtubeに「事例で学ぶ倫理法・倫理規程」という動画をアップして、細かく解説しています。
https://www.youtube.com/user/koumuinrinri

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程の概要

国家公務員倫理規程は、大きく分けると3つの方法で、企業と国家公務員との付き合い方を規制しています。

1つめは、絶対に禁止される行為です。
2つめは、利害関係があるときに禁止される行為です。
3つめは、2つめの例外で、利害関係があっても許される行為です。

絶対に禁止される行為

絶対に禁止される行為の典型は、社会通念上相当と認められる程度を超えた接待や財産上の利益の供与です。
金額面でも、回数でも、「(営業活動として)やり過ぎでしょ」という場合には、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程違反とされます。
この場合には、贈収賄の場合と異なり、職務行為との対価性は要求されません。

企業側は営業活動ということで、高級な料亭で接待に行く、接待を頻繁に繰り返すなどすると、贈収賄には問われなくとも、営業の相手が国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程違反で処罰されてしまうことを理解しておくべきです。
そうしないと、過度の接待をしたということで、担当となる公務員が処分されいなくなり、結局、過去の営業活動が無意味になってしまうからです。

また、「つけ回し」も絶対に禁止されます。
「つけ回し」とはストーカーの意味ではありません。
「うちの会社のつけで飲んで良いですよ」などと、企業側の担当者が不在でも公務員が企業の費用負担で飲食することを認めることです。
これも、企業から公務員に金銭を交付しているのと同じことになるので、許されないのです。

利害関係があるときに禁止される行為

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程の中心となっているのが、この「利害関係があるときに禁止される行為」です。

例えば、企業が入札しようとしている取引がある、企業が許認可をもらおうとしている状況にある。
このような場合が、「利害関係」があるときの典型です。

このような「利害関係」があるときには、次の9個の行為を禁じられてます。

  1. 公務員への金銭、物品、不動産の贈与
  2. 金銭の貸付け
  3. 企業側の負担での、無償での物品・不動産の貸付け
  4. 企業側の負担での、無償でのサービス提供
  5. 未公開株式の提供
  6. 接待
  7. 遊技・ゴルフ
  8. 一緒に旅行
  9. 企業が第三者に、1~8の行為をさせること

この中で、よく質問を受けるものを説明します。

1の金銭、物品の贈与の典型は、香典や供花です。
例えば、取引担当者の親族がなくなったので、香典を出す、花を供えることは禁止されています。

3と4の企業側負担での無償の物品の貸付け、サービス提供で問題になるのが、企業側が公務員のタクシー代を負担する、公務員のためにハイヤーを用意するケースです。
この場合も、公務員側はタクシー代、ハイヤー代など必要な旅費を支給されるはずなので、企業側は負担できない、用意できないのが原則です。
しかし、例えば、公務員が企業の工場を視察することを予定し、企業側は日頃から工場と駅や空港間に専用バスや専用の社用車を用意しているときには、わざわざ「公務員のために」用意したわけではないので許されると考えられています。
また、例えば、駅から離れた場所にある企業内で公務員と打ち合わせをした後、たまたま企業側で駅や空港に行く者がいたときに企業側がタクシー代を負担するようなときにも、わざわざ「公務員のために」費用を負担したわけではないので許される、と考えられています。

6の遊技はソフトボールやテニス、ボウリングは含まれないと考えられています。なぜなのかはわかりません。

利害関係があっても許される行為

2の例外が、利害関係があっても許される行為です。
例えば、元々、大学時代から付き合いがある友人が、国家公務員になり、自社が取引しようとする部門の担当になった。
この場合に、友だちづきあいは一切禁止されるのか、というと、そういうわけではありません。

利害関係があっても許される行為とされているのは、典型的には、次の8つです。

  1. 宣伝用・記念品などのノベルティを配布
  2. 20人以上が出席する立食パーティでの記念品の贈呈
  3. 公務員が企業を訪問したときに、文房具や電話、ヘルメットを貸す
  4. 公務員が企業を訪問したときに、企業側が用意した自動車を利用
  5. 会議での茶菓子の提供
  6. 20人以上が出席する立食パーティでの飲食物の提供
  7. 会議での簡素な飲食物の提供
  8. 私的な関係でのつき合い

この中でよく質問があるのが、2と6です。
立食パーティは許されるとして、椅子に座ったらどうなるか、ということです。

立食パーティが許されるのは、みんなの見ている前では不正なことは行われないだろう、という理由からです。
そこで、椅子に座っていた場合でも50人以上なら許される、と考えられています。

また、5と7の茶菓子や簡素な飲食物の提供も、接待にならない程度であれば、利害関係があるときに許される、と考えられています。
接待にならない程度というのは、国家公務員側は1万円を超える場合には届け出なければならないとされているので、1万円が一つの目安です。
あえて「簡素」ということを考慮すると、昼食の弁当や茶菓子が3000円を超えている場合も、簡素とは言いがたいとは思います。

8の私的な関係も、大学時代に同級生だった、しかし、大学卒業後付き合いはなく、取引しようと思ったら同級生であることがわかったという場合には、「私的な関係」よりも「利害関係」が上回るので許されないと考えられています。また、近所づきあいという点でも、日頃はつき合いがなかったのに、取引しようとしてから急に近所づきあいをしだしたという場合には、「私的な関係」よりも「利害関係」が上回るので許されないと考えられています。

4の企業側が用意した自動車の利用は、利害関係があるときに禁止される行為で説明したとおり、企業側が「わざわざ負担した」場合は許されません。

地方公務員、準公務員も同じ

以上は国家公務員に対する企業の接し方を中心に説明しました。
これは、企業が接する相手が地方公務員である場合や準公務員の場合でも同じです。

地方公務員の場合には各地方公共団体が独自に規程を定めているので、どこまでが許され、どこからが許されないかは、都度確認する必要があります。

また、独立行政法人、例えば昔の国立大学なども、同じような規程を定めていますので、都度確認する必要があります。

要注意!法律や規程を守っていれば、何をしても許されるわけではない

以上のように、企業と公務員との接し方には、法律や規程といったルールが存在します。
しかし、これらのルールを守っていれば、それで許されるわけではありません。
社会の目を意識しなければなりません。

世の中から「あの企業は公務員と癒着している」「公務員とズブズブの関係だ」と批判されてしまえば、その後、国や地方公共団体との取引をやりにくくなります。
また、何も違法性がなくても「倫理上問題ではないか」との批判を招けば、企業の見られ方が変わってしまいます。
企業としては、あらぬ誤解を受けないように、公務員との接し方には慎重になる必要があります。