監査等委員会設置会社への移行

改正会社法によって「監査等委員会設置会社」という機関設計が認められました。
平成26年6月の定時株主総会を機に、従来の監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行した会社がいくつも現われました。
その後も、監査等委員会設置会社に移行する会社が現われています。

監査役会設置会社の何が問題か

従来多くの会社、特に上場企業が利用していたのは「監査役会設置会社」です。
これは、株主総会が取締役と監査役を選び、取締役が取締役会のメンバーとなって、取締役をお互いに監視監督しあう。
監査役会は3人以上の監査役と2名以上の社外監査役をメンバーとして、監査役一人ひとりが取締役を監査する。
それによって、取締役相互の監視監督と監査役からの監査という二重のチェックで、取締役による不正を正そうとすることを目的としていました。

しかし、監査役会設置会社での粉飾決算の発生や、取締役相互の監視監督・監査役からの監査が十分に果たされていないという声も上がりました。
「仲間内だから牽制が働くわけがない。」「取締役・監査役内にも上下関係があるから監督は期待できない。」と。

こうした声を受けて「社外取締役」を期待する声が挙がるようになりました。
「取締役会での意思決定に「社外取締役」という外部の存在を入れて、チェックをしてもらおう」と。
改正会社法でも、社外取締役を選任しないのであれば、「選任することが相当でない理由」を説明する義務づけています。
しかし、「選任することが相当でない理由」を、毎事業年度、しかも具体的に説明することは相当困難です。
そのため、改正会社法は、社外取締役を事実上の義務づけています。

また、東京証券取引所は、平成26年2月10日から上場規程を見直し、独立取締役を1名以上確保することを要求しています。
さらに、東京証券取引所は、「コーポレートガバナンス・コード」の中で、独立社外取締役を2名以上選任することを義務づけています。

ところが、監査役会設置会社にしてみれば、社外監査役を2名以上選んでいるのに、さらに社外から独立社外取締役を入れるのは負担です。
社外の者を役員に4名も選ばなければならなくなってしまいます。
従業員が少ない会社であれば、役員ばかりが人数が増えるというバランスを欠く事態にもなりかねません。

そこで、社外取締役を導入するにせよ、渋々導入している様子も伺えました。
(※東証一部上場企業では、88%にあたる1655社で独立社外取締役が選任されています(日本取締役協会調べ))

監査等委員会設置会社への移行が増えた理由

こうした監査役会設置会社にとっての負担を回避しつつ、取締役による不正を正そうという目的にも応えるために、新しく創設されたのが「監査等委員会設置会社」です。

監査等委員会設置会社も、監査役会設置会社と同じように、株主総会が取締役を選び、取締役が取締役会のメンバーとなって、取締役をお互いに監視監督しあいます。
しかし、監査等委員会設置会社には、監査役がいません。もちろん、監査役会もありません。
監査役の代わりに、3名以上の「監査等委員である取締役」を選びます。

「監査等委員である取締役」は「取締役」です。
したがって、取締役会での議決権があり、意思決定・経営判断に参加して一票を投じます。

監査役会設置会社の取締役は、一人ひとりが取締役会でのメンバーであると同時に、業務執行取締役であることがほとんどでした。
しかし、「監査等委員である取締役」は業務執行には携わってはいけません。
もっぱら、意思決定・経営判断にのみ参加します。

また、「監査等委員である取締役」の過半数は社外取締役でなければなりません。
社外取締役が最低でも2人以上、取締役会での意思決定・経営判断に参加します。

これまでの監査役会設置会社は、取締役会での意思決定・経営判断を外部から監査役が監査するという仕組みでした。
これを、業務に携わっていない「監査等委員である取締役」、しかも、そのうち最低2人以上は社外取締役が、取締役会での意思決定・経営判断に議決権を持った形で参加する。
そうした方法で、取締役会での意思決定・経営判断の不正を直接止めることができる、というメリットがあります。

また、監査等委員会設置会社に移行することによって、社外監査役2名のほかに、独立社外取締役を2人以上選ぶという負担をも回避できます。

これらのメリットがあることから、「監査等委員会設置会社」に移行する会社が多くありました。

「監査役」に求められる資質と「監査等委員である取締役」に求められる資質に違いがある

監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行は、実質は、従来の監査役会設置会社の監査役が、監査等委員である取締役への横滑りです。
それによって、改正会社法、東証の上場規程、コーポレートガバナンス・コードなどの要請に応えることもできます。

しかし、内実が、監査役から「監査等委員である取締役」への横滑りで、本当に良いのでしょうか。

監査役は、取締役の意思決定・経営判断、業務執行が違法(不法)かそうでないか、必要な手続や議論を経ていないのではないかなど、法的な観点から、取締役を監視監督していれば十分でした。
そのため、違法(不法)かどうかを見極める能力や資質が要求されました。

他方、「監査等委員である取締役」は、取締役相互の監視監督することに加えて、取締役会での意思決定・経営判断に参加して議決権を行使します。
「監査等委員である取締役」は業務に携わっていないけれども、他の取締役の意思決定・経営判断のほか、業務執行の状況を監視監督します。
しかも、そこで求められる監視監督は、違法(不法)かそうでないか、必要な手続や議論を経ていないのではないかというだけでは足りません。
「監査等委員である取締役」は意思決定・経営判断には参加するので、他の取締役を監視監督する際には、意思決定・経営判断が妥当・適切なのかどうかをも監視監督しなければなりません。

そうなると、「監査等委員である取締役」に求められる能力や資質は、監査役と「監査等委員である取締役」では、自ずと異なってくるはずです。
「監査等委員である取締役」には、違法(不法)かどうかを見極める能力や資質に加えて、会社の意思決定・経営判断をもジャッジできる能力・資質まで求められるのです。

「監査等委員である取締役」を選任する場合には、そういった資質や能力を有しているかを踏まえて候補者を選び、株主に説明できるように備えておくことが不可欠だろうと思います。