「コーポレートガバナンス・コード」と「コーポレート・ガバナンス報告書」の提出期限

東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」が、平成27年6月1日から、すべての上場会社に適用されています。
名古屋証券取引所、福岡証券取引所、札幌証券取引所でも、同じようなコーポレートガバナンス・コードが適用されています。

上場会社は、この「コーポレートガバナンス・コード」に基づいて、「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければならない義務を負っています。

どうでもいいですが、「コーポレートガバナンス・コード」は「コーポレートガバナンス」と中黒なしで、「コーポレート・ガバナンス報告書」は「コーポレート・ガバナンス」と中黒ありと区別しているのは、なんででしょうね?

話が逸れました。
「コーポレート・ガバナンス報告書」は、平成27年6月1日以降に定時株主総会を開催した日から遅くても6か月経過するまでに提出しなければなりません。
3月31日を事業年度末としている上場会社の多くは、6月下旬に定時株主総会を開催したはずです。
となると、そこから6か月が経過する平成27年12月下旬までに「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければなりません。

「コーポレートガバナンス・コード」の特徴

ルールは自分で考えろ

「コーポレートガバナンス・コード」は法律ではありません。
そのため、「コーポレートガバナンス・コード」には、細かいルールは定まっていません。

「コード」、つまり、73個の原則を示し、「あとは自分で考えろ」というスタンスをとっています。
これを「プリンシプル・アプローチ」と言います。

社内でコーポレートガバナンスを徹底するため、わかりやすく言えば、取締役以下の上命下達の仕組み、取締役自身の規律維持、従業員からの報連相の仕組み、会社を支える株主との関係や投資家への情報開示は、自分の会社に合ったものを、自分たちで考えなさい、という大人の対応です。

守らないなら理由を説明せよ

「コーポレートガバナンス・コード」は国が定めたルールではありません。
あくまでも、東京証券取引所という組織が定めた規則に過ぎません。

さはさりながら、上場会社にコーポレートガバナンスを徹底させるための「コード」です。
そこで、「コードに従わないなら、従わない理由を説明せよ」というスタンスをとっています。
これを「コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)」と言います。

「自分たちは、コーポレートガバナンス・コードに従わなくても、コーポレートガバナンスが徹底している」と自負があるなら、説明してごらんなさい、という大人の対応です。

「コーポレートガバナンス・コード」では、取締役・監査役への教育・研修が求められている

「取締役・監査役のトレーニング」

「コーポレートガバナンス・コード」の内容の多くは、改正された会社法と重複しています。
しかし、改正会社法より踏み込んだ箇所も何点かあります。
その1つが「取締役・監査役のトレーニング」です。

「コーポレートガバナンス・コード」は、次のようように定めています。

【原則4-14】

新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担うものとして期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切に取られているか否かを確認すべきである。

注目すべき部分にアンダーラインを引きました。

1つは、取締役・監査役は、役割・責務に係る理解を深める、知識の習得や適切な更新等の研鑽に努める、との努力義務を課している部分です。
要するに、取締役・監査役は、自分の役割や責務を勉強せよ、ということです。
簡単に言えば、取締役・監査役は社内外での勉強会やセミナーに出席して勉強しなさい、ということです。

もう1つは、上場会社に、トレーニングの機会の提供・斡旋・費用支援を行う義務を課している点です。
要するに、上場会社が取締役・監査役が勉強する場を設けるか、費用を出しなさい、ということです。

さらには、取締役会は、取締役・監査役の勉強の状況を確認しなければならない義務を負っている点です。
社内外の勉強会やセミナーに出席したことについて、取締役会が報告を受けるか、取締役会で個々の取締役・監査役に勉強状況を確認しなければならない、ということです。

トレーニングのタイミング

こうした勉強が求められるのは、社内の取締役だけではなく、社外取締役・社外監査役も、です。
また、1回だけ勉強すれば、それで十分というわけではありません。

「コーポレートガバナンス・コード」は、次のように定めています。

【補助原則4-14①】

社外取締役・社外監査役を含む取締役・監査役は、就任の際には、会社の事業・財務・組織等に関する必要な知識を取得し、取締役・監査役に求められる役割と責務(法的責任を含む)を十分に理解する機会を得るべきであり、就任後においても、必要に応じ、これらを継続的に更新する機会を得るべきである。

ここでもアンダーラインを引きました。

勉強しなければならない取締役・監査役は、社外取締役・社外監査役も含まれます。
また、勉強のタイミングは、就任時と就任後と両方が求められています。

改正会社法の子会社・グループ会社の内部統制システムを考慮すると・・

改正会社法によって、内部統制システム(業務適性確保体制)の対象が、自社だけではなく、子会社含めた企業集団にまで拡がりました。
つまり、「コーポレートガバナンス・コード」に、会社法の改正内容を併せて読むと、親会社は、自社の取締役・監査役だけではなく、子会社・グループ会社の取締役・監査役にも、就任時と就任後の両方のタイミングで、勉強させなければならない、ということになります。

トレーニングの方針の開示

また、「コーポレートガバナンス・コード」は、取締役・監査役へのトレーニングの方針を開示することも求めています。

【補助原則4-14②】

上場会社は、取締役・監査役に対するトレーニングの方針について開示を行うべきである。

 

「コーポレート・ガバナンス報告書」には、取締役・監査役への研修を記載しなければならない

取締役・監査役への研修をまだ行っていないなら、急がないと提出期限に間に合わない

12月下旬までに「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければならない。しかし、取締役・監査役に対する研修を行っていない。
取締役・監査役に対する研修を行っていない場合には、「コーポレート・ガバナンス報告書」にて理由を説明しなければなりません。
単に「研修を行わなかった」では足りずに、「理由」の説明が求められているのです。
ここを見落としてはいけません。
「2015年は取締役・監査役に対して研修をしなかったけれど、日頃から取締役・監査役がこれこれこういうことを自主的に行ってコーポレートガバナンス・コードに沿ったコーポレートガバナンスを徹底できている」と説明できる会社は、それでもいいかもしれません。
他方で、「研修をしていない」会社、「研修をしなかったけれど、コーポレートガバナンスを徹底できている」とは説明できない会社は、至急で、取締役・監査役への研修を実施しなければなりません。

取締役・監査役への研修の実態

上場会社の皆さん、「コーポレートガバナンス・コード」に沿って、社外取締役・社外監査役を含む取締役・監査役、子会社・グループ会社の取締役・監査役に対して、組織についての知識習得や、役割や責務を理解するための研修を行っているでしょうか。

実際のところ、私の場合は、2015年に入ってから、グループ企業全体の取締役・監査役、さらには執行役員を含む役員一同に対しての集合研修の依頼を受けることが増えました。
また、研修対象としては、役員のほかに管理職も受講させる会社もあります。

では、具体的に、取締役・監査役に対してどのような研修を行った方がいいでしょうか。以下、テーマと誰がやるかについて補足します。

取締役・監査役への研修内容・テーマ

依頼される内容は、「役員が知っておくべき会社法の基礎知識」「取締役・監査役・執行役員の役割と責任」「ガバナンスに関わる会社法改正」が多い部分です。
「会社法の基礎知識」や「役割と責任」からスタートして、最近の企業に関するトラブルのトレンドに関するものを話すときもあります。
個別のテーマでは、個人情報の漏えいを筆頭とした情報管理、多重代表訴訟(特定責任追及の訴え)など役員が責任を負いやすい場合、取締役の監視監督義務違反が問われた裁判例、ハラスメントが多いです。
多くはありませんが、危機管理広報に注目して役員研修をする会社もあります。

取締役・監査役への研修を顧問弁護士以外の弁護士が行ったほうが適切な理由

顧問弁護士はいるけれど、あえて顧問ではない私に研修を依頼していただく企業が、ほとんどです。
顧問弁護士が研修したのでは、会社寄りになってしまい役員にとって厳しいことを言わない、という実態あるのだと思います。

また「コーポレート・ガバナンス報告書」に「外部からコンプライアンスや企業危機管理に詳しい講師を招いた」と記載しやすいからかもしれません。
その方が、投資家には、身内同士でお茶を濁したのではなく、キチンとした研修を行った、と見せやすいからかもしれません。