外食産業・食品業界の異物混入事件報道

2015年に入ってから、外食産業・食品業界での異物混入事件が相次いで報道されています。
半年以上前に食品の中に異物が混入していた事実があったことが、今になって報道されているケースもあります。
こうした報道を見ていると、「外食産業・食品会社は異物混入している事故を起こしたときには、全部、公表せよ」的な極端な意見も見られます。

異物混入だからといって、全部を公表する必要はない

でも、「食品に異物が混入している事故が発生したときに、全部の案件を公表しなければならないのか」と質問されたら、私の答えは「全部を公表する必要はありません」です。
その理由を説明しましょう。

現実的な問題として、食品への異物混入は常時発生しています。
昔ながらのラーメンのスープに店主の指が入っていた、レストランで出された料理に髪の毛が入っていた。
これだって、立派な異物混入事件です。

これらの異物混入でも公表するか?と言えば、公表するわけがない、というのが普通の考え方だと思うのです。
「今日、当店ではラーメンのスープに店主の指が入るという事故が起きました」とか、公表して誰のためになるの?という話です。

実は、この「公表して誰のためになるの?」というのが、異物混入事件の公表・非公表を判断するにあたっての元になる考え方なのです。

食品の安全性・安心の確保に繋がるかどうか

外食産業・食品業界が調理して提供する食品は、消費者である人の口に入るものです。
食品を口にした消費者が、身体の安全を害する、極端な話では生命を落とす、後遺症が残る、また食に対して安心できない。
そんな事態を引き起こすような外食産業・食品会社であれば、会社としての存在価値がありません。

異物が混入しているというのは、身体の安全は害さないかもしれないけれど、食に対する消費者の不安感を招き、消費者が安心して口にできないという事態を招きかねません。
会社としての存在価値が疑問視される一要素です。

とはいえ、異物がたまたま1つの食品に入っていたという場合は、その食品を手に取った消費者、口にしてしまった消費者一人を相手にお詫び以上の対応をすれば済む話しです。

他方で、異物が1つの食品だけではなく、他の食品にも入っている可能性がある場合には、異物を発見した消費者、異物を口にしてしまった消費者以外にも、同じような問題が生じる可能性があります。
その場合には、会社は、消費者一人ではなく、食品を手にする可能性がある購買予定者=世の中全体に、「異物が混入していた。他にも混入している可能性がある」と知らしめる必要があります。
その場合であっても、公表せずに黙っている会社は、存在価値がないに等しい。

実は、この説明の中に、公表するか公表しないかを判断する基準がすべて含まれています。

拡大可能性があるか

1つめの基準は「拡大可能性」です。
異物が混入している食品が1つに限られず、他にもあるか否か、ということです。

たとえば、食品工場の製造ラインで、ラインに従事する社員が農薬が希釈して混入していた。
これは、そのラインで製造された食品すべてに関わる可能性があります。
その食品は、広い販路をたどって消費者の口に届く可能性があります。

食品会社としては、不特定多数の消費者の口に届く可能性がある商品に農薬が入っていることがわかれば、不特定多数の消費者=世の中に対して、「この製造ラインで作られた食品には農薬が入っている可能性があって危険なので口にしないで下さい」とアナウンスして知らしめる必要があります。

言われて見れば「当たり前」と思われるかもしれませんが、この「当たり前」の判断基準を持っていない会社が多いのが事実です。

異物混入でも、たとえば、ケーキに青カビが入っているというケースの場合には、同じ店舗・工場で、同じ時期に製造された他のケーキにも青カビが入っている可能性があるわけなので、公表する必要は出てきます。
虫が入っているというケースの場合には、同じラインで製造された他の食品に、虫の身体(物体)が入っていることはないけれど、虫のエキスが混入している可能性があるわけなので、公表する必要はありえます。
もちろん、虫が入っていれば全部公表ということではなく、どんな食品に、どんな形で虫が混入していたかという細かな事情を判断して、公表・非公表を判断する必要があります。

安全・安心に与える影響が重大か

もう1つの基準は「安全・安心に与える影響が重大か」です。
異物が混入している食品が1つであっても、それによって生命を落とす、身体に障害が残る、食中毒を起こす。
食品会社求められる、安全・安心を守るという基礎的な部分に問題があれば、それは公表する必要が出てきます。

たとえば、製品を口にした消費者が食中毒になった。
これは、食品会社が作った食品に安全性がないということです。
食品会社としての存在意義そのものに関わります。
安全ではない食品を提供するような会社は、食品を作らなくてもいい、むしろ作らないで欲しいからです。

だとすれば、仮に「拡大可能性」がないとしても、「安全・安心に重大な影響を与える」場合には、公表すべきです。

最近の新しい基準=SNS上での盛り上がり

2014年、2015年の異物混入事件を見ていると、報道で大きく取り扱われる以上に、SNSで話題になって、異物混入の事実が情報として拡散しているケースが見られます。
食品会社が「拡大可能性がない」「安全・安心に与える影響が重大ではない」と判断して公表しなかったケースであったとしても、SNSで情報が拡散している状況をそのまま放置しておいては、会社の評判が下がります。レピュテーション・リスクの最たるものです。

中には、事実と間違った情報が拡散してしまう場合もあります。また、意図的なねつ造が情報として拡散してしまう場合もあります。
これは、会社が対応しなければ、レピュテーション・リスクが拡がるだけです。

そこで、SNSで情報が拡散し盛り上がっているようなケースの場合には、会社は情報を公表すべきです。
ただし、会社が情報を公表することでSNSにネタを提供する、炎上のための油を注ぐことになってはいけません。

そのためには、ネットでは同じ土俵に乗らずに公表する方法を考えるべきです。
具体的には、会社のWeb上に、会社が認識している事実、原因や会社の見解を載せるということで、十分だと思います。

忘れてはいけないのは、「安全・安心」へのお詫び

食品の安全・安心を損なうような事態を招いた場合、多くの会社は、お詫びを公表します。
または、記者会見などでお詫びの言葉を述べます。

多くは、「このような事態を招き、申し訳ございません」という文言になっています。
しかし、お詫びをするのは、事態を招いたからではありません。
事態を招き、食の安全・安心を損ねて迷惑をかけた、あるいは不安に陥らせてしまったからお詫びをするのです。

だとすれば、単に「事態を招き、申し訳ございません」ではなく、「食品の安全を損ねご迷惑をおかけし、また当社製品に対する不安を招き、申し訳ございません」と謝罪するのが筋です。

ここができているか否かも、会社が本当に事件の本質を理解して異物混入事件に対応しているかを見定めるポイントです。