効果的な従業員コンプライアンス教育は、事例を用いたグループ検討・討論方式

伊藤忠商事の「社会的責任」教育

「コンプライアンス」「企業の社会的責任」が企業に求められるようになってから、各企業では、従業員への教育に工夫を凝らしています。
私が、この1年間を通じてセミナーで話すことが多い、従業員のSNS利用についても、SNS利用を従業員にいかにして教育していくかが最近の注目点になっています。

その中で、伊藤忠商事の「社会的責任」教育についての報道がありました。

「伊藤忠商事はグループ企業の広報担当者を対象に、企業の社会的責任(CSR)をテーマとした勉強会を都内の本社で開いた。約50社計80人の広報担当者らを7、8人のグループに分け、会社や従業員、株主などの立場に設定。人権や労働、環境、腐敗防止をテーマにした具体的な事例への対応策を発表し評価し合うゲームを活用した。」(2014年9月30日付け、日本経済新聞朝刊より)

要は、グループで事例検討をしあうというもので、特に目新しいものではありません。

私が4年ほど前から行っている某上場企業の従業員教育では、丸2日がかりでコンプライアンスや企業の社会的責任について、事例を用いてグループ検討・議論をしています。
他にも半日から1日がかりで同じような教育をしている会社は複数あります。

そこで、今回は、コンプライアンス・企業の社会的責任に関する効果的な従業員の教育方法について、簡単に触れてみたいと思います。

従業員教育に事例を使うことの効果

従業員教育に事例を用いる最大の効果は、臨場感があるということです。

主に過去に報道された企業不祥事や、いろいろな企業で実際に発生している日常的な不祥事をベースにした教育用の事例を作ると、被害者数などの数字に具体性があり、不祥事が発生してから企業に対する批判や報道が拡大していくまでの日程やプロセスに具体性が出てきます。

不祥事以外の事例でも同じです。
株主とのやり取りが問題になった事例、消費者や取引先とのトラブルがこじれた事例、社会から会社の対応が批評された事例、従業員の労働環境が問題になった事例など、社内で発生した実例、他社事例、報道された事例を具体的に取りあげると臨場感が増します。

そうなると、教育される側の従業員も「この時点で、こうすれば、よいのではないか」などと、時の流れに沿って臨機応変に考えられます。

自分の頭で「ああでもない」「こうでもない」「これがいいのでは」と考える機会を与えることは、自分が不祥事やコンプライアンスを問われる場面を疑似体験するのと同じことなので、考えが深まるのです。

事例の検討・協議をグループで行うことの効果

目的は視野を広げて、社会的責任の中身を知ること

そうした事例の検討は、グループで行うと、なお一層効果的です。
グループで検討・協議することで、自分の頭の中で思いつくこと以外にも、他の従業員がどんなことを考えているのか意見を聞くことができます。
それによって視野が広がるのです。
視野が広がるということは、自分の頭以外の社会の意見を知ることができるということです。
つまりは、自然と世の中の常識を知ることができて、コンプライアンス=企業の社会的責任=社会から何が求められているか、を知ることができるようになります。
答えを出すことが目的ではなく、世の中にはいろんな意見があると知ることが目的なのですから、視野が広がればそれで目的を達したことになるのです。

グループの人数は4人が理想

グループの人数について伊藤忠商事は7〜8人のグループで行ったと報じられています。
しかし、私は、過去の経験に照らすと、それは人数としては多いなと思います。
7〜8人ではどうしても議論に参加しないで聞いているだけ、中には自分では考えない人が出てきてしまうからです。
できれば4人、多くても6人が限界ではないかと思います。

グループ内には役職の高低をなくし、思い思いに話せるように工夫する

しかも、そのグループ内には役職の高低がないようにする。
経験値、入社からの履歴が同じようなメンバーを一つにすると、グループ内でフラットな議論ができるようになります。
フラットな議論とは、誰かの意見に従うのではなく、また、誰かが話しを纏めてしまうのでもなく、思うがままにお互いに変な遠慮がなく闊達な議論ができるということです。
もっと言えば、素朴な疑問や、ちょっとした思いつきでさえ、議論の対象にできるということです。

また、過去に行った研修では法務部が複数いるグループでは、法律的な結論に引きずられがちだったという特徴もありました。
そのため、グループの構成には法務部経験者、法学部出身者などはできるだけ1人にするなどの工夫も必要です。

検討・議論をリードする立場の技術が必要

グループで事例を議論・検討して他の人の意見を聞くと、それで視野が広がるので、最低限の目的は達します。
ただ、企業として、コンプライアンス教育、企業の社会的責任についての従業員教育の効果を挙げたいのであれば、より重要なのは、全体のリード役の腕です。

たとえば、グループで議論・検討してもらった結果を発表してもらう。
その発表を受けて、さらに議論を拡げる。
また、提供した事例に条件を付け加えて、事例を変化させ、その場合でも同じ結論になるかその場で考えさせる。

こうしたことをできるようにするためには、リード役が事例をよく知り、またその周辺知識が深くないとできません。
弁護士なら誰でもできるのかといえばそう簡単ではなく、法律知識以外にも詳しくないと、このリード役は、できません(そうおっしゃって、顧問弁護士がいるのに、あえて私に研修をご依頼いただく企業が多いです。ありがとうございます)。
そういった意味で、リード役の技術が重要なのです。

ちなみに、当事務所では、従業員、経営陣、管理職向けに、そうしたグループ研修を数多くやっていますので、お気軽にお問い合わせください。
なお、新入社員や全社員向けの研修だけではなく、営業職・広報部門・人事部門・工場など特定の職種だけを相手にした研修も行っています。
(最後の項は宣伝です)

朝日新聞誤報問題と記者のTwitterでの反応から考える、企業不祥事発生時の従業員のSNS利用

更新の間隔が空いてしまいました。

取りあげる話題は、9月11日に記者会見が行われた朝日新聞誤報問題(従軍慰安婦に関する吉田証言の誤報)についての同社記者の反応について、です(※政治的な観点から取りあげるつもりはありません)。

朝日新聞誤報問題と記者の反応

会見後に、同社記者がTwitterに投稿した内容が、次のように報じられました。

「会見の終了後、編集委員の男性は「今日はつらい日です。誤報のことはごめんなさい。でも、これで朝日新聞の記者やめたら漢がすたる」とツイート。「吉田調書と専門家の調書を読み解く取材に参加した」という地方支局勤務の男性は「誤った内容を伝えたことに深く反省いたします。関係者のみなさま本当に申し訳ありません。自らの取材手法を含めて見直していきます」と投稿した。」(2014年9月11日、産経新聞ニュース)

その他の反応もネット上にまとめられています。
【慰安婦誤報】朝日新聞記者アカウントのツイートまとめ

記者も従業員のはず。誤報=不祥事発生時の従業員のSNS利用として適切なのか、という問題意識

企業危機管理という側面から見たとき、こうした記者の反応・対応は適切なのか? という疑問が生じました。

というのも、記者は朝日新聞の従業員です。個人事業主ではありません。
誤報は朝日新聞という報道を目的とする事業会社の企業不祥事です。
企業不祥事が発生したときに、従業員が銘々にSNSに意見を投稿するというのは、他の事業会社では考えられません。

しかも、内容を見ると、従業員としての立場としての意見投稿ではなく、他人事=自分が働いている会社以外で起きた誤報問題であるかのような立場での投稿、または自分の政治的な意見を発しようとしている記者の方も散見されました。中には、役員などを批判する投稿をしている記者もいました。
こうした姿勢に違和感を感じずにはいられませんでした。
「企業不祥事を起こした会社の従業員のSNS利用として、これは適切なのか」と。

そこで、企業不祥事が発生した場合に、当該会社の従業員は個人で利用しているSNSで、何を発すべきか、あるいは、どのようにSNSを利用すべきかという問題を考えてみたいと思います。

企業不祥事を起こした会社の従業員のSNS利用で生じる問題

従業員が自分の身元を明らかにしてSNSを利用している場合、他人からは、当該従業員のSNS投稿は「不祥事を起こした会社の従業員の意見」というフィルターを通して見られます。

SNSの利用ではありませんが、例えば、企業不祥事を起こした会社の従業員にマスコミが出待ち取材を行う。
その取材でのコメント内容は、テレビ・新聞を通じて「不祥事を起こした××社の従業員は・・・・とコメントした」と報じられます。あるいは、無言で出待ち取材から逃げる様を報じられます。

つまり、従業員一個人の反応が、当該不祥事を起こした企業姿勢であるかのような報じられ方をします。
テレビ視聴者、新聞読者は、こうした報道を見て、「不祥事を起こした会社なのに、従業員はけしからんコメントをした」「不祥事を起こした会社なのに、お詫びもなく逃げるだけか」と憤りを感じる。そこまで達しなくても、少なくとも、その会社に対して、こういう反応をする会社なのかという印象を抱くようになります。

こうした従来の出待ち取材の報道とそれに対する視聴者・読者の反応の仕方は、そのまま、SNSの投稿とそれを見たネット利用者の反応でも同じと思って良いかと思います。
「不祥事を起こした会社なのに、従業員はこういうことを考えているのか」「不祥事を起こした会社なのに、お詫びもなく言い訳や逃げるだけか」と。

要は、従業員が身元を明らかにしてSNSを利用している場合には、当該従業員が不祥事を起こした会社の広報担当者ではないとしても、ネット利用者=世の中から見れば「不祥事を起こした会社の従業員のコメント」と受けとられてしまうのです。このことを忘れてはいけません。

企業不祥事を起こした会社の従業員は、SNSに何を投稿すべきか

不祥事を起こした会社の従業員であるという意識を持つ

企業不祥事を起こした会社の従業員が、自分の身元を明らかにしてSNSを利用している場合には、まず、「自分の投稿内容は、不祥事を起こした会社の従業員のコメントという色眼鏡で見られることを意識しなければなりません。
そうなれば、自然と、SNSに投稿する内容は慎重になっていくはずです。

不祥事を起こした当事会社の一員としてお詫びをする

また、当該従業員が広報担当でないとしても、また不祥事の直接の当事者ではないにしても、不祥事を起こした当事会社の一員として、「××という問題を起こして、××に迷惑、心配をおかけして申し訳ない」という世の中へのお詫びを発しなければならないと思います。
つまり、SNSを個人で利用している場合であっても、不祥事を起こした会社の広報として、SNSへの投稿内容を考えなければいけません。

詳細や個人の意見・推測は投稿してはいけない

当該従業員が広報担当であっても、また不祥事の直接の当事者であったとしても、SNSの個人利用では、個人の見解を述べてはいけません。広報担当者ではなく、直接の当事者でもないなら、個人の見解のほか、事実に対する推測も述べてはいけません。

ましてや、不祥事を起こした会社、つまり自分自身が働いている会社の経営陣を批判することは避けるべきです。
世の中から見たときには、「あまりに他人事として捉えすぎではないか?」と写ってしまうからです。もっと言えば、「批判する前に改善できていなかった(あるいは改善の声を挙げなかった)投稿者自身が悪いのだ」と否定的に捉えられてしまうからです。

あくまでも、お詫びの投稿だけに留めておくべきです。
詳細について知らないのであれば、不祥事の内容については「不祥事の詳細について正確には知らない。誤解を招いてもいけないので、憶測で述べるのは避けたい。」と投稿すべきです。
これが企業不祥事広報=危機管理広報=クライシス・コミュニケーションの基本です。

広報部門は危機管理広報=クライシス・コミュニケーションの観点から、各従業員にSNSの利用上の注意点を指導すべき

以上のようなポイントを、本当は、企業不祥事が発生する前から、会社の広報部門が従業員に指導しておいて欲しいのです。不祥事が発生した場合は、なおさらです。
もちろん、指導とはいっても、日頃から隠蔽体質にするという意味ではありません。
あくまでも、不祥事を起こした会社の従業員がSNSを利用する場合には、世の中から、色眼鏡で見られてしまうから注意して欲しいという危機意識を従業員に抱かせるような試みをして欲しいということです。
それができる会社とできない会社で、危機管理広報=クライシス・コミュニケーションがうまい会社、下手な会社が別れますし、もっと言えば、報道が早々に収束するかどうかにも影響してくると思います。