コーポレートガバナンスと日本版スチュワードシップ・コード

近時、「ガバナンス」という言葉が当たり前のように使われています。

「コーポレートガバナンス」という言葉を、経営者の責任を問う例がその典型です。
要するに、経営者、つまり取締役・監査役は、社内で不正が起きないような仕組み作りをしているか、不正が起きたときに対処できるな仕組み作りをしているか、ということです。

経営者=取締役・監査役は、株主に株主総会で議決権を行使して選任される立場です。
そこで、株主が、あらかじめ「こんな経営者なら支持する。こんな経営者は支持しない。」という方針を出しておく。
これが「スチュワードシップ・コード」と呼ばれるものです。

日本では、2014年2月に金融庁が機関投資家に向けて「日本版スチュワードシップ・コード」を発表しました。
日本版スチュワードシップ・コード

2014年8月末時点で160の機関投資家が日本版スチュワードシップ・コードの受入を表明したそうです(金融庁HPより)。

これは、結局のところ、経営陣に株主のことを意識しながら経営判断しなさい、ということを促すためのもの、という広い意味では「コーポレートガバナンス」に役立つと言えるでしょう。

日本版スチュワードシップ・コードの必要性への疑問

ただ、正直言って、これって本当に必要なものなのか?というのを素朴に感じます。

株式会社にとって株主はオーナーです。
そのオーナーは1人ではありません。ましてや、機関投資家だけではありません。
機関投資家が大量に株式を保有している大株主の一人であることは否定できません。
しかし、機関投資家以外の個人株主もたくさんいます。

金融庁の「日本版スチュワードシップ・コード」を発表し、機関投資家がそれを受け容れたからといって、経営陣は機関投資家だけを見ていればいいわけではありません。
機関投資家だけを見ていれば、たしかに、自分の取締役・監査役の地位は安泰かもしれません。
しかし、果たして、それで株主全体の利益を考えた経営判断ができるのか、という疑問は尽きません。

経営陣は、誰よりもその会社の業務の内容を知っている人たちです。
時には、自分の地位が危うくなっても機関投資家の意向に背く経営判断をしなければならない場合もあるでしょう。
そうしたときに、「日本版スチュワードシップ・コード」は、むしろ、適正な経営判断をしようとしている経営陣にとって足かせになりはしないかな、と危惧するのです。

たとえば、西武ホールディングスとサーベラスの関係。
報道を見ている分には、経営陣と投資家との判断がぶつかり合って、衝突しあって、それでも少しずつ前進している、というように見えます。
気概のある経営陣だからこそ、衝突する経営判断もできたのかもしれません。
これが日和見の経営陣だったら、いったい、どうなっていたのか。

要するに、日本版スチュワードシップ・コードとか、機関投資家には良いのかもしれませんが、経営陣にとっては余計なお世話ということになるのではないかと思うのです。

企業統治指針(コーポレートガバナンスコード)、ナニソレ?

日本版スチュワードシップ・コードとは別にもう一つ見逃せない動きがあります。
金融庁と東京証券取引所による「企業統治指針(コーポレートガバナンスコード)」の策定に向けた動きです。

「上場企業の経営規律を強化し収益力を向上させるための企業統治(コーポレートガバナンス)指針作りが始まった。金融庁と東京証券取引所が7日、有識者会議の初会合を開いた。論点になりそうなのは社外取締役の人数や企業同士の株式持ち合い抑制策。経済界には慎重な意見が多く、どこまで踏み込めるかがポイントになる。指針を来年6月までにまとめる。」(2014年8月8日、日本経済新聞より)

9月30日には3回目の有識者会議が行われるそうです。

会社法と会社法施行規則で内部統制(業務適正確保体制)について株式会社の動きをがんじがらめにし(財務面の内部統制にはさらに金融商品取引法もある)、さらに、法律でもなんでもないルールとして「企業統治指針(コーポレートガバナンスコード)」を作ってがんじがらめに輪を掛ける。

経営陣にガバナンスをしっかり徹底させて、不正をおこなわせないようにする、という基本的な考えには諸手を挙げて賛成します。

しかし、会社で不正が行われない仕組み作りをする、不正が行われたときの対処づくりを考える。
これは、本来、経営陣に任せて、その会社ごとにオリジナリティのある仕組み作りをさせればいい話です。
行政である金融庁や、上場会社に株式取引の市場を提供している東京証券取引所が考えることではないと思うのです。
率直に言えば、これも余計なお節介であり、会社経営の組織作りにまで行政が口を挟むな、と感じます。

もちろん、自分で考えられない経営陣(や、実際にルール作りをする法務/総務部門)にとっては、参考になると思います。
しかし、本当は、ここを自分の頭で考えてこそ、高い報酬をもらえる経営陣であり、ホワイトカラーで管理部門と呼ばれる人たちのはずです。
それを行政や取引所に任せるなんて・・・(以下、激辛になるので略)。

しばらく動向を見守りたいと思います