コンプライアンス違反の通報・公益通報があった場合、会社はまずは受け容れて事実確認せよ

コンプライアンス通報窓口、公益通報者保護法の目的

2000年以降、「コンプライアンス」という用語が浸透し始め、多くの会社では、コンプライアンス通報窓口が設けられるようになりました。
2004年には公益通報者保護法が成立し、2006年4月1日から施行されています。

こうした背景には、社内の不正を告発した社員が会社によって冷遇される事例が相次いだことがあります。
冷遇というのは、告発したら配置転換され他に誰もいない地下室で勤務させられた、告発したら取引先からの契約を解約されたり取引先以外の同業他社も取引してくれなくなった、告発したら異動させられた、告発したら社長、上司や同僚から「どうして告発したのか」「裏切り者」などと詰め寄られたなど、いろんなケースがありました。

これでは、会社の中から不正をなくすことはできません。
まして、従業員が不正を発見したとしても、それを告発する余地がありません。
そこで、公益通報者保護法が成立したのです。

実例

今日、各紙で、エステサロンで労働基準監督署に深刻した従業員に対して社長による公益通報者保護法違反行為があった、労働組合に対する社長の圧力(不当労働行為)があったなどと録音された音声とともに報道されています
(日経は公益通報者保護法違反という観点から、朝日は不当労働行為という観点からの報道です。下線部ご参照)。

たかの友梨ビューティクリニック」を経営する「不二ビューティ」(東京)の従業員が加入するブラック企業対策ユニオンは28日、同社の高野友梨社長(66)から、組合活動をしていることを理由にパワーハラスメントを受けたとして、宮城県労働委員会不当労働行為の救済を申し立てた。」

「同ユニオンや弁護士によると、ユニオン側は今月22日、同社の仙台店に対し、仙台労働基準監督署が残業代の減額などの是正勧告をしたことについて会見する予定だった。そのことを知った高野社長は21日に仙台市を訪れ、仙台店の従業員15人や店長らを飲食店に集め、約2時間半にわたり持論を展開したという。

 同ユニオンが公開した当日の高野社長の言葉を録音したデータによると、高野社長は席上、組合に入っている女性を名指しして、「間違っているとはいわないけれども、この業界の実態をわかったときに、どうなんだろうか」と組合活動を非難した。さらに「労働基準法にぴったりそろったら、(会社は)絶対成り立たない」「つぶれるよ、うち。それで困らない?」などと問いただした。

 ほかの従業員にも「組合に入られた? 正直に言って」と組合員であるかどうかを確かめようとした。

 また、高野社長の名前で全国の店舗に対しファクスした文書を、店長に読み上げさせた。「社員数名が『ユニオン』という団体に加入し、『正義』という名を借りて、会社に待遇改善の団交を要求」「会社を誹謗(ひぼう)することは、自分のこれまで頑張ってきた道を汚すことだと私は思います」といった内容だった。」

(2014/08/29付朝日新聞Webサイトより)

 

「エステティックサロン「たかの友梨ビューティクリニック」の仙台店(仙台市)の女性従業員が28日、残業代を減額されたなどの問題を労働基準監督署に申告した行為を会社側が非難したのは公益通報者保護法などに違反するとして、厚生労働省に申し立てをした。

 女性が所属する労働組合が東京都内で記者会見して明らかにした。

 申立書や会見によると、経営する不二ビューティ(東京)の高野友梨社長が8月、仙台店の従業員を集め、女性が労基署に申告したことなどを非難。高野氏はその際「暴き出したりなんかして会社をつぶしてもいいの」と述べたという。」

(2014/08/29付け日本経済新聞朝刊より)

この報道の内容が事実かどうかは、私にはわかりません。
しかし、ここで報道されるような社長(会社)から告発者への対応がなされないようにするために、公益通報者保護法が定められました。
もし、これが事実なら、公益通報者保護法が定められた社会的背景を社長が理解していない、ということになります。

公益通報者保護法と現実の通報とのズレ

公益通報者保護法は、通報した者を保護するために定められた法律です。
しかし、公益通報者保護法も万全ではありません。

公益通報者保護法は「公益通報」をしたことによって不利益を課されない、と定めているものの、「公益通報」の範囲が狭すぎるのです。
平たく言えば、社内で、明確に法律違反ではないかもしれないけれど、「これってどうなの?」と何かしらの疑義があるにすぎない場合や、企業の社会的責任の観点からここは改善したほうがいいのではないか、として声をあげることは、「公益通報」に含まれないのです。

つまり、公益通報者保護法によって保護されない、ということになってしまいます。

しかし、現実に、通報窓口の仕事などを行うと、従業員の方からの通報の内容は、明確な法律違反を発見したという内容よりも、むしろ、法律違反かどうかは微妙(よくわからない)だけれども、企業理念や企業の社会的責任の観点からどうなの?という内容が圧倒的に多いのです。

もっといえば、明確に法律違反とわかっている通報よりも、こうした類の通報のほうが事実関係を調査してみたら、会社として大きな問題だった、通報された内容はその氷山の一角を従業員を見つけたケースだったということも多いのです。

そのため、従業員がこうした通報が積極的に、また身分を安心して通報できるようにするために、まずは、公益通報者保護法が改正されるべきです。

現実的には、まず社内ルールを見直し、コンプライアンス通報窓口には法律違反以外の通報も受け付けると門戸を広くしたうえで、こうした通報をした者に対しても会社は不利益を課してはならない、と定めておくべきです。

会社は通報を受けたら、まず事実確認・調査せよ

仮に従業員から通報があった場合に、上記で報道されたような形で社長が従業員や労働組合に圧力を掛けるのは最悪の対応です。
先に述べたように、通報内容が明確に法律違反ではない場合であったとしても、実は大きな不正の氷山の一角であったというケースも多々あります。
そのため、会社は、頭から通報を否定するのではなく、まずは、事実確認・調査を行うべきなのです。

そのうえで、事実が確認できないなら、通報者と連絡を取り合い、追加の情報を提供してもらい、事実確認を再度行う。
あるいは、事実無根であったなら、意図的に事実無根な通報をしたのか、それとも誤解に基づく通報だったのかを見極める。もし、意図的に事実無根な通報をしたというこであれば、そのときに、業務妨害という観点から通報者を処罰するかどうかを判断すればよいのです。

危機管理セミナー、社内研修の講師としての行脚の日々

お盆休みが明けてから、公開セミナーや社内研修の講師としての仕事が続いています。
毎日のように、東へ、西へと移動しています。

満足してもらうセミナー、社内研修のための準備

「せっかく講師として時間とお金を使って受講していただくなら、受講していただいた人に満足してもらいたい」

そのために、徹底した予習をしたうえで望んでいます。
セミナー中に間を取って「あ〜」とか「う〜」とか言うのも嫌いなので(自分が受講していたとき、そういう無駄な間が嫌いだった)、ひたすら話し続けられるように、予習には資料作成の3倍以上の時間を費やしています。

また、セミナー後の「話し方」「内容」などへの受講者アンケートの結果も気にしています。
その結果を見る限り、今のところ、セミナー講師としての仕事を始めてから9割以上の方に満足していただいているようです。ある意味、目的は達しているし、独り善がりにはなっていないようだ、と安堵しています。(評価が低いと、次回セミナー講師として呼ばれることがなくなっちゃいますので・・)

セミナー、研修時のポイント

そこで、今回は趣向を変えて、私がセミナーや研修を行う上で心がけているポイントについてお話ししたいと思います。

私が考えているたった一つのポイントは「具体的な事例を中心に話し、抽象論はなるべく避ける」です。

  • 過去の新聞事例、裁判事例を数多く紹介する。
  • 紹介するだけでなく、事例を詳細に把握することで、どこが問題解決のポイントだったのかを分析する。
  • そのうえで、どのように対処したらよかったかという解決策を提案する。
  • 提案の根拠について、法的な側面からと、危機管理的側面からの両方からアプローチして説明する。

簡単にまとめてしまえば、これがすべてです。

簡単そうに見えるかもしれませんが、案外、これが難しいようです。
私の場合、幸いにも、高校生の頃くらいから、事例を分析して対策を考えるというのが得意だったこともあって、この作業が不得手ではありません。

「高校生のときに、事例分析して対策って何していたの?」と思われるかもしれません。
一番身近なのは、学校のテストです。
校内のテストで楽をしたかったので、教科書を勉強するよりも先に、学校のテストの特徴を掴む。
授業中に先生がこういう風に指摘した場所が出る、必ずこの分野や教科書のこの欄に書かれている場所から出るなど。
こんなことを自然としていて、それが楽しかったのです。

これは過去のエピソードですが、これが、企業危機管理の世界では役に立つのです。

事例分析こそが最高の企業危機管理を導く

たとえば、先月解説したベネッセホールディングスでの個人情報漏えい事件では、漏えいの究極の原因は、なんでしょうか?

表向きは、スマートフォンをパソコンに接続するとセキュリティが破れて、個人情報をスマートフォンにダウンロードできるというシステム上の問題であるかのように報じられています。
もちろん、それも原因であることに間違いはありません。
しかし、それは個人情報を漏えいしよう(持ち出そう)とする者の手段にしかすぎません。

実際には、個人情報を売却したいほど借金でお金に困っている人物に、個人情報をアクセスできる権限をあたえてしまったことが究極の原因なのです。
そもそも、そういう人物にアクセス権限を与えていなければ、個人情報を漏えいしようという動機が芽生えることはなく、あの事件は起きなかったのです。

あの事件をきっかけに、企業危機管理を行い、個人情報を含む情報漏えいを予防しようというのであれば、個人情報など会社の重要な情報にアクセスできる権限を有する者が日頃からお金に困っている風ではないか、そういうグチをこぼしているのを聞いたことがないかなどを気にする。もし、そういう素振りの者がいれば、重要な情報にはアクセスさせる権限を与えない。
これが本当の企業危機管理ということです。
(詳しくは、個人情報漏えい対策は、セキュリティを強化するだけでは三流 のエントリーに)

生の事実は、頭で考える観念的な企業危機管理よりも、よっぽど具体的な対策を考えるヒントを与えてくれます。
事例を紹介したほうが、身近なので、受講者にもわかりやすいという利点もあります。

だからこそ、私は、具体的な事例の紹介や分析を中心にしたセミナーや社内研修を行っています(その代わり、法改正がどーのこーのという、法律論で終始するセミナーは弁護士の割に不得手です)。

不祥事を起こした場合の公表するかしないかの判断基準

昨日、企業研究会で「危機管理広報」をテーマにした4時間のセミナーを行いました。
企業で不祥事が発生した場合に広報はどう対応するべきかをテーマにしたセミナーで、早6年、年に2〜3回行っています。

特に、この半年は企業不祥事に事欠かず、また多くの記者会見、プレスリリース、DM、Web開示とバリエーションに跳んだ広報の手段を見ることができました。そうした直近の事例などを踏まえつつ、不祥事が発生した場合に広報はどう動くかというノウハウをお話ししました。

毎回、セミナー時に、広報担当者の方が気にされていて、私が説明して好評なのが、公表の要否の判断基準です。

個人情報を漏えいしてしまった、賞味期限切れの食品を販売してしまったなどの事例で、記者会見まで必要なのか、それともWeb開示だけで足りるのか、それともDMが必要なのか、など、どのように考えて判断すればよいか、という考え方というか、目安です。

私は、過去の事例や最近の動向を見ながら、2つの要素が判断基準である、と考えています。
1つは、危機の重大性。もう1つは、危機の拡大可能性。この2つです。

危機の重大性というのは、たとえば食中毒で死者が1人発生したというような、人の生死に関わるようなことを意味します。また、個人情報の漏えいであれば、氏名、住所だけでなく、金融機関の口座番号など、人の財産に関わるような情報が漏えいしたときも危機が重大であると整理しています。

危機の拡大可能性というのは、不祥事の被害や迷惑を受ける人の数が多数であると見込まれる場合を意味します。個人情報を漏えいしたけれど、漏えいした件数は10件だけであるというときには、拡大可能性はありません。他方で、漏えいした件数が最大で1000件、ただし増減の可能性があるというときには、拡大可能性はあると考えています。

この危機の重大性、危機の拡大可能性の2つを併せて、広報手段を選択すればよろしい。

危機が重大で、かつ、拡大可能性があるということであれば、多くの人に危機の存在と内容を知ってもらう必要がある。しかも、直ちに知ってもらう必要がある。
そのため、記者会見をはじめ、あらゆる広報手段を講じる必要がある。

危機が重大だけれども、拡大可能性はないということであれば、個別の被害者だけでの対応で足りる可能性がある。
ただし、死者が出たような場合には、企業として責任と反省の意思を明らかにするために貴社会見を行う必要がある。

危機は重大ではないけれど、拡大可能性はあるということであれば、多くの人に危機の存在と内容を知ってもらう必要がある。ただし、危機が重大ではないので、そこまで迅速性は要求されない。
そこで、Web開示と新聞社告、プレスリリースだけで済むかもしれない。

危機の重大性はなく、拡大可能性もないというのであれば、公表する必要性はない。

この考え方がすべての不祥事に当てはまるわけではありませんが、8割方はこの判断基準で考えてよろしいのではないかと思います。

残りの2割はどうするか。

そこは経験が物を言いますので、ご相談を。

高校野球の「カバーリング」「バックアップ」に学ぶ、企業危機管理

前回の投稿から間が空いてしまいましたね。

1週間いただいた夏休みが終わってしまいました。昨日から事務所は営業を再開しております。
とはいえ、まだまだ夏休みの後遺症からか、難しい単語が書かれた活字を見たくない状態です。

私、夏休みは実家に帰りはしますが、しかし、実家は電車で30分の距離なので、年がら年中立ち寄っていたりします。
そのため、お盆の中心は里帰りではなく、むしろ、高校野球です。
毎年、年間100試合以上は高校野球、大学野球、社会人野球を見ているので、高校野球、甲子園を、毎年楽しみにしています。
今年は、小学生(学童野球)の日本一を決めるマクドナルド・トーナメントを神宮球場で見てから、5泊6日と甲子園で高校野球三昧の日々を過ごしました。

高校野球の何が魅力かについては語り尽くされていますので、私がどういう目線で見ているかについてお話ししたいと思います。

1つは普通の野球好きとして選手の素材と試合展開を見ています。
もう1つは、これが仕事とも重なる「危機管理」的視点での高校野球観戦です。

高校野球と危機管理、何が関係あるの?と思われるかもしれません。
実は、大いに関係します。

典型的なのが「バックアップ」と「カバーリング」です。

たとえば、ノーアウトランナーなし。バッターが1・2塁間の方向にセカンドゴロを打った。
この時に、ピッチャーがベースのカバーに入っているか、キャッチャーがバックアップに入っているか。
「危機管理」の意識があるチームは、「ファーストが離塁しているのを想定して」ピッチャーがカバーに入っていますし、「セカンドの暴投を想定して」キャッチャーが全力でバックアップに入っています。
反対に「危機管理」の意識がないチームは、そういったプレーがいい加減であったりします。

指導者に「危機管理」の意識ができているからなのか、選手に「危機管理」の考え方が身についているからなのか。
どういう理由であれ、そうした「危機管理」的プレーができているかをチェックするのが楽しみです。
結論から言うと、「危機管理」的プレーができているチームは強いです。勝ちあがります。
高校野球、大学野球、社会人野球と上がって行くにつれ、「危機管理」的プレーは徹底されています。

翻って、これを企業活動にあてはめてみると、役員や従業員に「危機管理」の意識がある企業は、ミスが発生してもミスが大きくならない。
役員や従業員の「危機管理」の意識が低い企業は、ミスが発生するとミスは大きくなる。

まずは、日常の企業活動で「バックアップ」「カバーリング」ができているかだけでも、チェックしてみては、いかがでしょうか。