謝罪会見と不祥事広報(クライシス・コミュニケーション)

都議会での女性議員の質問中に「早く結婚しろ」などのヤジを発したことを認めた男性議員が、昨日、女性議員に直接謝罪し、あわせて謝罪会見を行いました。

ヤジの中身や今回の事件について、どうこう評価するつもりはありません。
ここでは、あくまでも、謝罪会見の内容について、企業の不祥事広報(クライシス・コミュニケーション)という観点から気になった点を取りあげます。

冒頭の謝罪発言こそが、事件の本質を理解しているかを明らかにする

男性議員は、謝罪会見の冒頭で、次のように謝罪の言葉を発しました。

この度は、私の「早く結婚した方がいいのではないか」という不適切な発言で、塩村議員および 東京都議会、そして都民の皆さまに多大なるご心痛、そしてご迷惑をおかけいたしましたことに、本当に心からお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。

女性議員の名前を挙げて謝罪することは、理解できます。
しかし、理解できないのは「都民の皆さま」に対するお詫びと、「多大なるご心痛」「ご迷惑」とのお詫びです。
この発言を見る限り、男性議員は、今回のヤジがこれほど大きな騒ぎになったことの本質がどこにあるのかを理解しきれていないのではないか、と感じます。

どういうことかといいますと・・

今回のヤジが大きな騒ぎになったことの本質は、ヤジの内容が、女性の人格を否定するような発言であったこと、です。
そうだとすれば、謝罪すべきは「女性の人格を否定する趣旨の発言をしてしまったこと」「そうした趣旨の発言を、都民から選ばれた議員の立場では発すべきではなかった」ことです。

これらの点が言及されていない冒頭の発言は、男性議員が事件の本質を理解していない、ということに繋がっていきます。

謝罪発言の中に、事件の本質が含まれているかどうかが、謝罪会見の成否を決する

「事件を起こして申し訳ありません」は、最低の謝罪発言

実は、記者会見の冒頭での謝罪発言が本質からズレている、あるいは本質に一切言及していないというのは、この件に限りません。

よくある企業不祥事の記者会見の席で「このたびは・・・という事件を起こし、申し訳ございません」「このたびは、・・・・という事件を起こし、お騒がせして申し訳ございません」との謝罪の言葉を耳にします。

一見すると、あるいは何気なく耳にしただけでは、問題があるように思えないかもしれません。
しかし、この謝罪の言葉では、何を謝っているのか、なぜ謝っているのかを会社が理解していないと評価してもいいかもしれません。

特に「・・・という事件を起こし、申し訳ございません」は、完全に形だけの謝罪と言ってもいいすぎではないかもしれません。
まだ、「お騒がせして」との言葉が入っている方がマシです。
しかし、それでも、十分とはいえません。

なぜか?

それは、企業が不祥事を起こして謝罪の会見をするのは、事件を起こしたからでも、「お騒がせ」したからでもないからです。

謝罪発言で言及すべき本質とは、何か?

たとえば、工場爆発事故、鉄道脱線事故、食品の産地偽装などといった事件の記者会見で謝罪すべきことは、何でしょう?

工場爆発事故であれば、爆発したことによって、周辺住民の皆さまの生活の平穏を害したこと、不安に陥らせてしまったこと。これが謝罪すべきことです。

鉄道脱線事故であれば、脱線したことで、乗客の生命・身体の安全を脅かしたこと、鉄道の運行に影響を与えたこと。これらが謝罪すべきことです。

食品の産地偽装であれば、提供される食事に対する信頼への裏切り、食の安全・安心を損ねたこと。これらが謝罪すべきことです。

これらが、謝罪すべき内容の本質なのです。
事件の本質について言及しない謝罪発言は、謝罪という名には値しません

謝罪発言は、企業の社会的責任とリンクしている

実は、謝罪発言で言及すべき本質は「企業の社会的責任(CSR)」とリンクしています。

企業の社会的責任とは、その企業が、なぜこの世の中、この社会に存在することが許されるのか、存在することによって社会にどんな意味があるのか、という話です。

周辺住民の生活の平穏を害するような工場なら存在しなくていい。
乗客の生命・身体の安全を脅かすような鉄道なら存在しなくていい。
食事に対する信頼を裏切るような食堂なら存在しなくていい。

こういうことです。

これは、突き詰めて考えていけば、多くの企業では、会社の企業理念に遡っていきます。
自分たちの会社は、なんのために設立され、なんのために企業活動を営んでいるのだろうか、ということを、集約したのが企業理念のはずだからです。

もし、今後、企業不祥事が起こり、謝罪会見が行われることになった場合、「冒頭の謝罪発言に事件の本質についての言葉が含まれているかどうか」をチェックするだけでも、その企業が事の本質を理解しているのかどうかが見えてきますので、参考にしてみて下さい。