社外取締役の存在・役割は会社の業績にとって意味があるのか

昨日、「『完全』社外取締役」について一本書きました。
今日も引き続き、社外取締役の役割について書きます。

社外取締役の役割・存在意義についての疑問

社外取締役に関して、常について回る議論が

  • 「社外取締役に効果ってあるのか?」
  • 「社外取締役で会社の売上が上がるのか?」
  • 「社外取締役でガバナンスに効果は出るのか?」

というものです。

社外取締役の効果についての分析結果

今日の日経新聞に、この部分について、おもしろい記事が載っていたので紹介します。

社外取締役の存在・役割は業務改善に影響があるのか?

まず、1つめは、社外取締役が業務改善に影響しているか、という疑問への研究結果です。

「代表的なものの一つが、早稲田大学の宮島英昭教授が12年に発表した論文だ。
宮島教授は社外取締役のいる企業といない企業との間で、業績改善にどのような違いがあるかを測定した。
得られた結論は
(1)社外取締役が業績改善に結びつきやすい企業と、そうでない企業がある
(2)製品の独自性が低く、複雑な事業を持たない企業ほど、社外取締役の選任で業績が改善しやすい
(3)逆に、人材やノウハウといった無形資産を競争力の源泉とする企業は社外取締役の有効性に乏しい――など。」
(2014年6月29日日本経済新聞朝刊より)

この研究結果の中で、注目すべきは、(2)と(3)でしょう。

「製品の独自性が低く、複雑な事業を持たない企業」と「人材やノウハウといった無形資産を競争力の源泉とする企業」とを区別して、前者では社外取締役の存在・役割は業務改善に効果がある、後者では社外取締役の存在・役割は業務改善に効果はない、と結論づけています。

「製品の独自性が低く、複雑な事業を持たない企業」と「人材やノウハウといった無形資産を競争力の源泉とする企業」の区別は、この記事からはわかりません。

強いて考えるなら、前者は、事業内容がマニュアル的な企業=社長が「右向け右」と指示したら、あるいは指示しなくても、上意下達で、事業が進んでいく企業かもしれません。
企業ではなく事業単位で言えば、組み立て工場のラインや経理処理など一定的な処理が行われる事業が、ここに該当するかもしれません。

後者は、社長が方向性だけ示したら、個々の事業については従業員の裁量に委ねられている企業かもしれません。
これも事業単位で言えば、システムエンジニアのようにプログラミングをする事業や広報事業が、ここに該当するかもしれません。

従業員による横領の問題などが発生しやすい営業は、両者の側面を含んでいる事業かもしれません。

要するにここで申し上げたいのは、企業として業務改善を目的として社外取締役を選任する場合には、改善したい事業分野がどこなのか、その社外取締役を選任することが、その事業分野の改善に効果的なのか、候補者をピックアップする時に社外取締役に期待する目的・役割と期待する効果・機能を明確にしておかなければ社外取締役を選任する意味はない、ということです。

社外取締役の存在・役割はROE・配当性向の改善に効果があるか?

もう一つは、社外取締役を選任することで、投資家・株主が納得するような株式への影響が生じるか、という疑問への研究成果です。

「外国人投資家の関心の高まりに対応し、UBS証券の大川智宏ストラテジストは、自己資本利益率(ROE)や配当性向と社外取締役の関係を分析している。
それによると、社外取締役がいない企業といる企業とでは、ROEの改善度合いや配当性向の高さで、明確な違いが認められた。しかし、大企業に限れば社外取締役比率でROE改善率や配当性向に大差はなかった。」(2014年6月29日日本経済新聞朝刊より)

この分析結果では、「大企業に限れば・・大差はなかった」とあります。
ここでも、大企業がどれくらいの規模を想定しているのかは明らかではありません。

ただ、ここで重要なのは、「明確な違いが認められた」という部分ではないかと思います。

ROEは、(1株あたりの利益)÷(1株あたりの株主資本)、で算出します。
1株あたりの利益は、(当期純利益)÷(発行済み株式数)、で算出します
1株あたりの株主資本は、(株主資本)÷(発行済み株式数)、で算出します。
要するに、(当期純利益)÷(株主資本)、がROEということです。

何を申し上げたいかというと、増資でもしない限り「株主資本」が増えることはないわけです。
ROEを改善させるために増資をすることは、そうそうないはずです。
ということは、ROEが改善したということは、当期純利益が改善した=向上したということです。
簡単に言えば、売上が上がった、あるいは/かつ、当期経常損失が減少した、ということです。

純利益が上がらなければ、配当に回す剰余金は増えないのですから、配当性向が向上したというのも、背景は同じです。

それでは、社外取締役を選任したことで、売上がアップした、and/or経常損失が減少した理由は、何なのか?
社外取締役がいるかどうかによって、消費者や顧客が、消費活動を変える、取引条件や態様を変えるとは想像できません。
となると、会社の売上アップ、経常損失の減少は、社外取締役が社内に影響を与える役割・機能を果たしたからだと考えることができます。

たとえば、社外取締役が入ったことで取締役会で経営上効果的なアドバイスを得ることができたのではないか。
それとも、社外取締役が入ったことで経費管理に厳しい目が及ぶようになり、経費節減に厳しいメスが入ったのではないか。
このような社外取締役の役割・機能が、売上アップ、経常損失が減少した理由として考えられます。

もしこれらが理由だとすれば、社外取締役候補者を選任する場合に、取締役会で経営上効果的なアドバイスをしてくれる人なのか、あるいは経費管理に厳しい目を光らす人なのか。
こうした役割・機能を考えなければ、社外取締役を選任する意味がない
と言えます。

社外取締役=有名人ではダメ

ここまで見てきたとおり、社外取締役を選任する場合には、社外取締役の選任によって業務改善、あるいは、ROE・配当性向向上の何を期待するのか、その目的意識・役割を明確にしなければならないこと、また、その期待に応じた人選をしなければ、目的意識・役割と結果に齟齬が生じてしまうこと、を結論として出すことができます。

単に、元官僚とか、元裁判官、元検察庁、有名な経営者、取引先の経営者、社長と懇意にしている経営者や専門家であるとか、そういった外面だけで社外取締役を選んでも、その企業は社外取締役選任の効果は得られないということです。
「何かあったときに顔が利くだろう」という考えで社外取締役を選任しているのであれば、本末転倒ということです。
その考えで社外取締役を選任するのであれば、せいぜい、相談役か顧問に留めておくほうが無難ということです。

もしかしたら、社外取締役を選任しても「大企業では・・・大差はなかった」というのは、ここが要因になっているのかもしれません。

「『完全』社外取締役」を機能させるためのポイント〜2014年会社法改正

2014年6月株主総会での社外取締役の導入

2014年6月の株主総会が一通り終了しました。
今年の株主総会で争点の一つとなったのが、「社外」取締役の導入です。

今年の株主総会の結果、1部上場企業のうち、1人以上の社外取締役が導入された企業は74%に達したそうです。

「東京証券取引所によれば今年の株主総会で、1人以上の社外取締役を抱える企業は1部上場の74%まで高まった。社内の利害を超え、外部の視点で経営を判断する社外取締役の存在が、日本企業でも「標準」になってきた。これを最も求めているのが海外の投資家だ。」(2014年6月28日付日本経済新聞朝刊)

あれ、私のところには全然話が来てない・・・まだまだ私の不勉強故・・・もっと実績を重ねるしかないのであります。
見てろよ・・・。メラメラ。

私自身、過去に何社か社外取締役・社外理事に就任したことはあります。
たいていが社内で不祥事が起きた、社内で業務改革をしなければならない、そのために、社外の意見を聞こうという目的で私に声がかかったケースです。

私の性格から、初めのうちは静かにして状況や人間関係や性格を見定めますが、そのような目的で声を掛けていただいた以上、誰にも遠慮なく発言します(もちろん、発言の仕方や言葉選びには慎重にします)。
その結果、従来の雰囲気に馴染んだ役員や理事の方々とたいてい考え方が衝突します。
一部には理解を示してくれる役員、理事の方々もいらっしゃいますが、思いのほか、抵抗勢力は多い。

「ここまでやらなかったら、世の中の目は許してくれない」
「ここまで叩かれていることの本質は、ここにある。ここを解消しない限り、先には進めない」
「問題を起こした役員・理事の方々と一緒に働いていたから同情心があるのは仕方がない。しかし、ここは同情優先で動いてはいけない場面です」

これで衝突して1年経っても役員陣の考え方が変わらなければ、私から見限り辞任します。サヨナラ。サヨナラ。サヨナラ。
中には、理解を示してくれて、社外取締役ではなく顧問弁護士へ、というケースもあります。
また、不祥事改革、業務改革が終了して社外取締役の必要性がなくなったので、顧問弁護士の地位へ移行、というケースもあります。

ちょっと話がズレました。

何の話をしようとしたかったかというと、2014年6月に成立した改正会社法によって導入された「社外取締役」について、です。
「社外取締役」自体は、これまでの会社法にも存在しました。しかし、改正会社法によって導入されたのは、「社外」性の要件を高めた、いわば「『完全』社外取締役」と言って良いものかと思います(「完全社外取締役」という言い方はまだ一般化していません。あくまでここでの造語です)。

完全社外取締役に期待されていること

完全社外取締役に期待されていること

社外取締役に期待されていることは、取締役会での経営判断に社外の目を入れて、経営を厳しい目でチェックすること、でした。
しかし、実際には、監査役からの横滑り、ープ会社から横滑り、親族を導入した形だけの「社外」ということが多く、当初期待されていたような効果を残すことができなかった。
そこで、2014年改正会社法では、社外取締役の要件を厳しくしたのです。

完全社外取締役の要件

改正会社法のいう「社外」性の要件は、次の5つです。

  1. その会社・子会社の業務執行取締役等(業務執行取締役、執行役、支配人、使用人の総称です)ではなく、その就任前10年間、その会社・子会社の業務執行取締役等であったことがないこと
  2. 就任前10年間に一度でも、その会社・子会社の取締役、会計参与、監査役経験がある者(業務執行取締役等になったことがある者は除く)は、それらに就任する前10年間、その会社・子会社の業務執行取締役等であったことがないこと
  3. その会社の経営を支配する者、親会社の取締役、執行役、支配人、使用人ではないこと
  4. その会社の別の子会社の業務執行取締役等ではないこと
  5. その会社の取締役、執行役、支配人、重要な使用人、会社経営を支配する者の二親等以内の親族ではないこと

ちょっとややこしいですが、実務的に影響が多いのは、2と4ではないか、と思います。
2は、たとえば、10年以上前に従業員から監査役に就任(昇進? 法的には従業員退職+監査役選任なので昇進ではありませんが、社会的には昇進という意識が高いと思いますので、あえて昇進と書きます)した者は、横滑りで取締役になっても、社外取締役とはいえない、ということです。
4はグループ会社内で、別のグループ会社の役員が社外取締役にはなれない、ということです。
グループ会社内で役員をたすき掛けして相互に就任させたり、親会社から子会社に出向・転籍していた役員が、別の子会社の役員になっても、社外取締役とはいえない、ということです。

完全社外取締役であることが重要なのではなく、完全社外取締役として機能することが重要

社外取締役に期待されていることは、社外の目で経営判断を厳しくチェックするということです。
完全社外取締役に就任したのに、多忙を理由に取締役会に出席していないのは論外です。
実際にも、取締役会への出席率が低い社外取締役については、重任(再度の就任)への賛成比率が下がっているとの報道もあります。

「単に社外というだけでなく、その質に視線は向かい始めている。トヨタ自動車の場合、取締役会の出席率が7割弱にとどまる社外取締役への支持は8割を切った。」(2014年6月28日日本経済新聞朝刊より)

この現象を突き詰めていくと、今後、社外取締役を選任するときに、既に他の会社の社外取締役に就任している有名人、何社も社外取締役に就任している有名人は、候補者から外していくという方向で考えなければなりません。
社外取締役の重要な兼職情報は事業報告に記載することになっていますので(会社法施行規則124条2号)、兼職が多い社外取締役は、本当に機能しているのかどうかを確認される可能性はあります。

さらに言えば、社外取締役として出席しただけで何の発言もしない社外取締役は「経営判断を厳しくチェックする」という機能を果たしていないということで、支持率=重任への賛成比率が下がっていく可能性もありえます。
現時点でも、社外取締役の意見によって会社の事業方針や事業にかかる決定が変更されたときには、その内容を事業報告に記載することが求められています(会社法施行規則124条4号ハ)。
そのため、今後の株主総会では、株主から「社外取締役が発言したことで、経営判断に影響とまではいえなくても、議論が活発になったものがあるか」程度の質問が出て、完全社外取締役が機能しているかどうかを訊かれる可能性はあります。
それを想定したQAは準備しておいたほうがよろしいのではないでしょうか。

完全社外取締役を機能させるための工夫

完全社外取締役の機能を発揮してもらうためには、取締役会に出席するようになっただけでは不十分であり、取締役会で十分な発言をしてもらうことが重要です。完全社外取締役はお飾りではありません。

そのためには、完全社外取締役にも、取締役会前に十分な情報を提供しておくことが必要不可欠です。
完全社外取締役に会社の業務内容や人事情報(単に役職というのではなく人間関係や性格まで)を十分に知ってもらう必要はあるうえ、取締役会で議論しようとしている議題の内容についても、完全社外取締役に理解してもらうことが必要です。

そのためには、社内に完全社外取締役から取締役会の前後に質問を受けたり、完全社外取締役からの命を受けて動ける担当者を設けておくことは必須だろうと思います。
実際には、取締役会以外にも完全社外取締役と社長などが意見交換できる機会を設けたりすることも必須でしょう。

都議会議員の謝罪会見から見る、不祥事広報のあり方

謝罪会見と不祥事広報(クライシス・コミュニケーション)

都議会での女性議員の質問中に「早く結婚しろ」などのヤジを発したことを認めた男性議員が、昨日、女性議員に直接謝罪し、あわせて謝罪会見を行いました。

ヤジの中身や今回の事件について、どうこう評価するつもりはありません。
ここでは、あくまでも、謝罪会見の内容について、企業の不祥事広報(クライシス・コミュニケーション)という観点から気になった点を取りあげます。

冒頭の謝罪発言こそが、事件の本質を理解しているかを明らかにする

男性議員は、謝罪会見の冒頭で、次のように謝罪の言葉を発しました。

この度は、私の「早く結婚した方がいいのではないか」という不適切な発言で、塩村議員および 東京都議会、そして都民の皆さまに多大なるご心痛、そしてご迷惑をおかけいたしましたことに、本当に心からお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。

女性議員の名前を挙げて謝罪することは、理解できます。
しかし、理解できないのは「都民の皆さま」に対するお詫びと、「多大なるご心痛」「ご迷惑」とのお詫びです。
この発言を見る限り、男性議員は、今回のヤジがこれほど大きな騒ぎになったことの本質がどこにあるのかを理解しきれていないのではないか、と感じます。

どういうことかといいますと・・

今回のヤジが大きな騒ぎになったことの本質は、ヤジの内容が、女性の人格を否定するような発言であったこと、です。
そうだとすれば、謝罪すべきは「女性の人格を否定する趣旨の発言をしてしまったこと」「そうした趣旨の発言を、都民から選ばれた議員の立場では発すべきではなかった」ことです。

これらの点が言及されていない冒頭の発言は、男性議員が事件の本質を理解していない、ということに繋がっていきます。

謝罪発言の中に、事件の本質が含まれているかどうかが、謝罪会見の成否を決する

「事件を起こして申し訳ありません」は、最低の謝罪発言

実は、記者会見の冒頭での謝罪発言が本質からズレている、あるいは本質に一切言及していないというのは、この件に限りません。

よくある企業不祥事の記者会見の席で「このたびは・・・という事件を起こし、申し訳ございません」「このたびは、・・・・という事件を起こし、お騒がせして申し訳ございません」との謝罪の言葉を耳にします。

一見すると、あるいは何気なく耳にしただけでは、問題があるように思えないかもしれません。
しかし、この謝罪の言葉では、何を謝っているのか、なぜ謝っているのかを会社が理解していないと評価してもいいかもしれません。

特に「・・・という事件を起こし、申し訳ございません」は、完全に形だけの謝罪と言ってもいいすぎではないかもしれません。
まだ、「お騒がせして」との言葉が入っている方がマシです。
しかし、それでも、十分とはいえません。

なぜか?

それは、企業が不祥事を起こして謝罪の会見をするのは、事件を起こしたからでも、「お騒がせ」したからでもないからです。

謝罪発言で言及すべき本質とは、何か?

たとえば、工場爆発事故、鉄道脱線事故、食品の産地偽装などといった事件の記者会見で謝罪すべきことは、何でしょう?

工場爆発事故であれば、爆発したことによって、周辺住民の皆さまの生活の平穏を害したこと、不安に陥らせてしまったこと。これが謝罪すべきことです。

鉄道脱線事故であれば、脱線したことで、乗客の生命・身体の安全を脅かしたこと、鉄道の運行に影響を与えたこと。これらが謝罪すべきことです。

食品の産地偽装であれば、提供される食事に対する信頼への裏切り、食の安全・安心を損ねたこと。これらが謝罪すべきことです。

これらが、謝罪すべき内容の本質なのです。
事件の本質について言及しない謝罪発言は、謝罪という名には値しません

謝罪発言は、企業の社会的責任とリンクしている

実は、謝罪発言で言及すべき本質は「企業の社会的責任(CSR)」とリンクしています。

企業の社会的責任とは、その企業が、なぜこの世の中、この社会に存在することが許されるのか、存在することによって社会にどんな意味があるのか、という話です。

周辺住民の生活の平穏を害するような工場なら存在しなくていい。
乗客の生命・身体の安全を脅かすような鉄道なら存在しなくていい。
食事に対する信頼を裏切るような食堂なら存在しなくていい。

こういうことです。

これは、突き詰めて考えていけば、多くの企業では、会社の企業理念に遡っていきます。
自分たちの会社は、なんのために設立され、なんのために企業活動を営んでいるのだろうか、ということを、集約したのが企業理念のはずだからです。

もし、今後、企業不祥事が起こり、謝罪会見が行われることになった場合、「冒頭の謝罪発言に事件の本質についての言葉が含まれているかどうか」をチェックするだけでも、その企業が事の本質を理解しているのかどうかが見えてきますので、参考にしてみて下さい。

 

株主総会当日、事務局席で弁護士は何をやっているか

定時株主総会はなぜ6月下旬に集中するのか

6月17日のトヨタ自動車の株主総会を皮切りに、3月決算期の会社の定時株主総会が集中して行われるシーズンが始まりました。

そもそも、なんで、6月下旬に定時株主総会が集中するのか、ということから説明します。

会社法では、株式会社は、決算期(事業年度)から3か月以内に株主総会を行わなければならない、と定めています。
3月決算期の会社は、6月末までに株主総会を行わなければならない、ということです。

決算期から3か月以内に行えば良いので、極端な話、3月決算期であれば4月にやっても5月にやってもいいのです。
しかし、現実には、決算を締めたり、株主総会の準備期間、招集通知の発送期間などを考慮すると、どうしても6月下旬に集中します。

あとは、平日に行うのか、週末に行うのかなどを考慮していくと、自然と、同じような時期に集中していくことになります。

別に、会社が集中日に集中させようと考えているから、6月下旬に集中するわけではないのです(もちろん、中には、あまり株主に出席して欲しくないという思惑から、あえて集中させている会社もありますが・・)

【2014年6月28日追記】

2014年6月28日付日本経済新聞朝刊によると、3月決算の上場企業で、6月27日の集中日に株主総会を開催した企業は39%だったそうです。

株主総会の事務局で、弁護士は何をしているのか

企業法務に携わる弁護士にとっても、株主総会事務局(議長や取締役・監査役の後ろの席)でのアシスト役で神経をすり減らす時期でもあります。

総会までの準備はもちろん忙しいです。
しかし、それ以上に、株主総会当日の朝からの緊張感、株主総会の全議案の採決が通った後閉会宣言に至ったときの緊張からの開放感のほうが、何年やっても、何回やっても、心身を蝕みます。

株主総会の集中シーズンを乗り越えた7月は、ほぼ抜け殻になっています。
集中シーズンは、通常の仕事のほかに、株主総会の招集通知のチェックやシナリオ、想定問答のチェックなどで、週の合計睡眠時間が20時間前後になることもザラです。
そのため、7月になると、ロングバケーションを取り、海外に長期旅行に行く弁護士もいます。
私は高校野球が大好きなので(年間で練習試合も含め100試合以上は現地で観戦しています)、夏の選手権=甲子園の予選が始まる7月には予選べったりの日々を送ります。

ちょっと話が外れました・・。
株主総会の当日、弁護士は事務局で何をしているかという話です。

株主総会の事務局で弁護士は何をやっているのかというと・・・簡単にまとめると、次の2つです。

  1. 議長による議事進行・議事運営が会社法に違反していないかのチェックとアシスト
  2. 取締役・監査役による回答が、説明義務を尽くしているかのチェックとアシスト

私の場合、これらのアシスト業務(サポート業務と言っても良いかもしれません)を終えると、株主からの質問が出る株主総会が終わった時には事務局の机の上に、書き殴ったA5サイズのメモ用紙が山になっています。

議長による議事進行・議事運営のチェックとアシストとは

通常は、議事進行にはシナリオを用意しているので、議長がシナリオを読み上げ、シナリオどおりに議事進行・議事運営していれば問題ありません。

しかし、株主から動議が出た場合には、動議に対応しなければなりません。
典型的な動議は、会社が提案した議案とは違う内容を株主が提案する「修正動議」と、議長による議事進行が不満なので議長を交代することを要求する「議長不信任動議」です。

たとえば、会社が剰余金配当(株主配当)を1株あたり100円とする議案を提案したのに対して、株主が1株あたり200円としたらどうかと提案するのが、修正動議です。

もちろん、動議が出た場合には、動議対応のノウハウがあるので、そのノウハウを駆使して、事務局から議長に対して議事進行、議事運営のアシストしていくことになります。

気をつけなければならないのは、修正動議を受け付けた後、採決時に修正動議の存在を忘れないようにすることです。
会社側提案の原案を採決してしまえば修正動議は採決するまでもなく否決されることになるので、その旨をキチンと説明しないと修正動議の採決をしていないではないかと株主から指摘されてしまう可能性もあります。極端な場合には、株主総会の取消訴訟を提起されることもありえます。

取締役・監査役が説明義務を尽くしているかのチェックとアシストとは

株主が簡単な質問をしてくれればいいですが、何を質問したいのかわからない場合や意見なのか質問なのかわからない場合がよくあります。
そうした場合に、事務局は、要するに株主の質問は何かをまとめます。

そのうえで、

  1. そもそも取締役が説明義務を負っている質問なのか
  2. 説明してはいけない質問なのか
  3. 説明義務は負っていないけれど、説明が禁止される質問ではないので、答えてもいい質問なのか

を分類します。

この分類作業をするためには、株主総会の招集通知、計算書類、付属明細などに記載されている内容を頭に入れておくことはもちろん、最近は、事業報告をパワーポイント(キーノート)を使って招集通知に記載されていない内容も会場で株主に説明することがあるので、そのパワーポイントの内容を頭に入れておくことが必要です。

取締役が説明する場合には、答えるべきポイントやキーワードは「これ」というものを、事務局から取締役に提示します。
株主総会の招集通知に記載されている事項であれば、招集通知の何ページに記載があります、ということも指摘します。
そのため、私の場合には、株主総会に先立って、招集通知の内容を丸暗記ほどではないけれど、どこに何が書いてあるか、どういったことが書かれているかを、会社ごとに覚えるようにしています。

また、株主が複数の内容を質問している場合には、取締役が質問すべてに回答しているか、質問への回答を漏らしていないかをチェックします。
質問が3つなのに取締役が2つしか回答しなかった場合には、事務局は、議長と回答した取締役に回答漏れがあることを指摘して、補足して回答してもらいます。
そうでなければ、説明義務違反として、株主総会の取消事由になる可能性があるからです。

事務局に弁護士がいた方が望ましい株主総会

株主総会は上場会社だけに要求されるものではありませんが、なんだかんだ言っても、弁護士が事務局でゴリゴリにアシストをする必要があるのは、上場会社の株主総会です。非上場の場合には、株主同士が知り合いであったりするので、株主総会前に社長が事前説明に伺うなどして、株主総会は形だけという場合が多いです。

それに対し、上場会社の場合には、いわゆる総会屋を含め、どんな株主が来場するのかが当日までわかりません。
そのため、総会が終わるまで事務局対応が必要なのかどうか、どの程度までアシストしなければならないのかがわからない。
結局、事務局に株主総会対応になれた弁護士がいるのかどうかが、総会の帰趨を決すると言っても過言ではありません。

ちなみに、ベンチャー企業で株主に怪しげなファンドが入ってしまっている場合も、弁護士が事務局で活躍する場合が多いです。

私が弁護士になって5年も経っていなかった頃ですが、今はもうなくなってしまったベンチャー企業から、株主総会の前々日に相談を受け、株主総会の事務局に行ってみたら、ファンドという名の株主の半分以上がその筋の方々だったということがありました。

今から思えば、客観的に見れば軟禁されているといってもいい状況ではありましたが、淡々と事務局対応をして、議長に踏ん張っていただき、突っ込み処のない議事運営をしてもらったところ、最終的には、株主から「もう終わっていい」との言葉を勝ち取ることができました。

こうしたことが想定される会社の場合には、事務局に弁護士を入れておくことが望ましいです。

上場会社はなだらかな減少傾向に

弁護士が事務局で活躍する機会が多いのは上場企業の場合が圧倒的に多いのですが、その上場企業の数がなだらかに減少しています。

親子会社や企業グループで上場していたのを、親会社が持株会社に移行して子会社を完全子会社化するケース、そもそも連結ベースなら子会社を上場させている意味がないとして子会社を完全子会社化したら非上場化するケースが相次いでいます。

東証のデータを見ても、2006年末の2416社をピークに、徐々に上場会社は減少しています(2013年7月に大証と統合して一気に1100社が増えましたが、純粋に東証として見れば減少傾向です)。

上場会社数の推移
(出典元 http://www.tse.or.jp/listing/companies/b7gje6000000pj9r-att/b7gje6000000pjqx.pdf )

つまり何が言いたいのかと言いますと・・・

私が株主総会の事務局でアシストしていた会社も、3社ほど完全子会社化、あるいは合併してしまったので、そもそも株主総会を開催する必要がなくなりました。つまり、私が事務局でアシストする仕事がなくなってしまいました。

というわけで、今のところ、来年の6月下旬の株主総会シーズンに余裕がありますので、もしお困りの会社がありましたら、お声がけください(宣伝)

TBSドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」に見る、株主総会の議事運営のポイント

ルーズヴェルト・ゲームと臨時株主総会

前回の更新から、間が空いてしまいました。

さて、間もなく、都市対抗野球の季節です(今年の開催は7月18日から29日まで)。
毎年、仕事帰りや週末に東京ドームに寄って都市対抗野球を最低でも10試合は見ているので、今から楽しみで仕方がないです。

今、その都市対抗野球をテーマにしたドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」が放送されています。
ちょうど、先週の日曜日は、臨時株主総会の場面でした。

株主総会の事務局に入る機会も多く、気になる場面が多々あったので、今日は、ルーズヴェルト・ゲームでの臨時株主総会の場面を題材に、いくつか説明したいと思います。

株主による臨時株主総会の招集請求

株主総会の目的事項は何だったのか?

「ルーズヴェルト・ゲーム」では、青島製作所の株主が株主総会の開催を要求したことをきっかけに、臨時株主総会が開催されました。

会社法では、すべての株主が持っている議決権の3%以上を、6か月前から保有する株主だけが、取締役に株主総会の目的事項と招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる、と定められています。

ドラマの中では、青島製作所とイツワ電器の経営統合の是非を巡って採決をしていました。
そのため、株主は、青島製作所とイツワ電器との合併や株式交換などを目的事項として、株主総会の招集を請求したように思えます。
ただ、株主は「趣旨説明(※後述します)」の中で、経営統合に反対する取締役の解任を求めるとも言及していたので、株主は、青島製作所の取締役の解任を求めて、株主総会の招集を請求したのかもしれません。

ちなみに、取締役会が設置されている会社では、株主総会の目的事項は、会社法で株主総会決議事項とされているものか、定款に記載されているものに、限られます
それ以外の議案を目的事項として招集請求されたとしても、会社は、株主総会の目的事項とする必要はありませんし、目的事項にしてはいけないのです。

ドラマなので、そこまで厳密には考えていないのだと思いますが、招集請求の目的事項はなんだったのかな、と考えながらテレビを見ていました。

 招集請求をすることができる株主の保有期間要件の例外

ちなみに、ルーズヴェルト・ゲームを見ていると、株主側の席に座っていた株主が7名しかいませんでした。
しかも、株主総会が終わった後、会長が、招集請求した株主に株式の買取の相談に乗るということを持ち掛けていました。
そこからは、青島製作所の株主は、株式を譲渡するにあたって青島製作所の取締役会の承認を必要とする、公開会社ではない会社(非公開会社)ではないか、と推測できます。
※公開・非公開というのは上場・非上場の意味ではありません。株式の譲渡にあたって取締役会の承認を必要とするかしないかの違いです。

非公開会社の場合には、株主総会の招集を請求できる株主は、総株主の議決権の3%以上を保有していればよく、6か月前から株式を保有し続けている必要はありません

株主による趣旨説明

青島製作所の株主総会では、議案に入る前に、議長が株主に「趣旨説明どうぞ」として、趣旨説明をさせていました。
これは、株主総会の招集を請求した株主に、他の株主の前で、自分の言葉で、株主総会を請求した理由を説明させるための機会を与えるためのものです。

私も、過去に担当した株主総会で3度、株主による趣旨説明の機会に直面したことがあります。
通常は、株主が株主総会の招集を請求した場合ではなく、株主提案権を行使した場合で、提案した株主に行わせるものです。

株主提案は、株主が株主総会の目的事項を提案する(たとえば定時株主総会で会社側が提案した議案に反対する議案を提案する)ものです。
その意味で、株主が臨時株主総会の招集を請求する場合と、株主主導で権利を行使している点で共通しています。

過去の裁判例では、株主提案のケースにおいて、議長は、提案株主に提案理由等の説明の機会を与えるべき、と判断しています(山形交通事件。山形地判平成1年4月18日)。

取締役による説明義務

説明義務を尽くすためでも、他社の評価をしてはいけない

青島製作所の株主総会では、株主からの質問に対して、議長である社長が、イツワ電器がいかに経営上の課題があるのか、その財務内容にまで言及していました。
本来の株主総会であれば、これは絶対に行ってはならないことです。

株主の質問に対して会社の取締役が回答することを、説明義務といいます。

この説明義務は、株主が議決権を行使して、賛成・反対のどちらの意思表明をするかを判断するにあたって必要な範囲で課せられているものです。
株主が青島製作所とイツワ電器の経営統合の是非を問うたことについて、青島製作所はなぜ反対したのか、青島製作所の中の経営判断を回答すればよいのです。
まして、イツワ電器は上場会社です。上場会社であれば、決算・財務諸表が公開されています。
その公開されている情報の範囲をもとに、青島製作所が経営統合に反対するに至った判断のプロセスを回答するだけならいいとしても、公開されていない情報をもとに、上場会社を非難して、経営が危ないとまで言及することは、法的に問題です。
名誉毀損、信用毀損、風説の流布・・・などなど。

説明者は議長だけが指名することができる

また、ルーズヴェルト・ゲームでは、株主が専務取締役を指名して、専務取締役の回答を求めていました。
説明するのは会社の「取締役」が行うものであり、どの取締役が回答するかを指名することができるのは議長に限られます

ドラマでは、専務取締役が回答するしかないというような状況ではありました。
しかし、それでも、本来なら、議長が「専務から回答させます」などと回答者を指名してから取締役が回答すべきでありました。

同じように、株主総会を招集した株主の発言に対して、会長が回答している場面もありましたが、あれも、議長がコントロールをしなければならない場面でした。

採決の方法

青島製作所の株主総会では、専務取締役の合図を以て、株主総会を招集した株主が、採決のタイミングを催促していました。
しかし、株主総会で、いつ、どのタイミングで採決を諮るのかを決められるのは、議長だけです。
議事運営、議事進行は、議長の専権です。

したがって、もし議長が、このタイミングでは採決を諮るべきではないと考えていれば、株主が採決を促していても、他の株主に発言を促すなどをしてもよかったのです。

インデックス事件から有価証券報告書虚偽記載での取締役の責任を考える

インデックス、有価証券報告書虚偽記載(粉飾決算)の疑い

2014年5月28日、上場企業インデックス社の社長、会長が有価証券報告書虚偽記載の被疑事実で逮捕されました。

「両容疑者の逮捕容疑は、2012年8月期決算で、実際には最終損益が約6億円の赤字で約4億円の債務超過状態だったのに、約2億円の黒字で約3億9千万円の資産超過状態と虚偽の記載をした有価証券報告書を提出した疑い。関係者によると、同社は実際は取引をしていないのに、帳簿上商品の売買があったように見せかける循環取引の手法で、IT(情報技術)システムなどを取引先と仮装売買し、利益などをかさ上げしていたという。」
(2014年5月28日、日本経済新聞夕刊より)

虚偽記載をしたことについて、会長自らがメールで指示をしていたと、積極的な関与が報道されています。

関係者によると、落合容疑者は決算期末に業績が振るわないと、総務部の担当者に「数字が目標に足りないので対応するように」などとする内容のメールを送っていた。メールは複数回にわたり送信されたという。」
(2014年5月29日、日本経済新聞朝刊より)

会長が積極的に関与していたことが事実だと確定したわけではありませんが、もし事実だとすれば、会長は刑事責任(金融商品取引法違反)だけではなく、株主に対して損害賠償責任を負うことになることは必至です。

取締役が関与した場合の損害賠償責任の有無、額については、ライブドア訴訟(東京地裁平成20年6月13日、東京高裁平成21年12月16日、最高裁平成24年3月13日)、西武鉄道訴訟(東京地裁平成20年4月24日、東京高裁平成21年2月26日、最高裁平成23年9月13日、差戻し後の東京高裁平成26年1月30日)が参考になります。

では、取締役主導ではなく、部下が勝手に操作なり細工をして有価証券報告書の虚偽記載に至った場合、取締役の民事上の責任はどうなるでしょうか。
過去の裁判例から振り返ってみます。

取締役主導ではなく従業員が有価証券報告書虚偽記載をした場合にも取締役は責任を負うのか

従業員が架空の売上げを計上したことで、結果的に有価証券報告書の虚偽記載になってしまった場合でも、取締役は株主や会社に対して損害賠償責任を負わなければならない場合があります。

それは、従業員が架空売上の計上をすることができないように、取締役がリスク管理体制を整備していなかった場合です。

最高裁平成21年7月9日

この問題に関して、次のようなケースが存在しました。

事業部長が取引先からの注文書を偽造して、自社の財務部に、架空の売上を報告した。
しかも、監査法人と財務部が取引先に売掛金の残高確認書を送ったときに、営業マンが取引先を訪問し、取引先に残高確認書を開封させずに回収し、営業マン自らが残高確認書に虚偽の金額を記入して、取引先の印鑑も偽造して、監査法人と財務部に返信していた。
その結果、監査法人も財務部も架空の売上の存在を気がつくことができなかった。
・・というものです。

このケースについて、最高裁平成21年7月9日は、次のように判断しました。

本件不正行為当時,上告人は,①職務分掌規定等を定めて事業部門と財務部門を分離し,②C事業部について,営業部とは別に注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM課及びソフトの稼働確認を担当するCR部を設置し,それらのチェックを経て財務部に売上報告がされる体制を整え,③監査法人との間で監査契約を締結し,当該監査法人及び上告人の財務部が,それぞれ定期的に,販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し,その返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとしていたというのであるから,上告人は,通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていたものということができる。
そして,本件不正行為は,C事業部の部長がその部下である営業担当者数名と共謀して,販売会社の偽造印を用いて注文書等を偽造し,BM課の担当者を欺いて財務部に架空の売上報告をさせたというもので,営業社員らが言葉巧みに販売会社の担当者を欺いて,監査法人及び財務部が販売会社あてに郵送した売掛金残高確認書の用紙を未開封のまま回収し,金額を記入して偽造印を押捺した同用紙を監査法人又は財務部に送付し,見掛け上は上告人の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという,通常容易に想定し難い方法によるものであったということができる。
 
 また,本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど,上告人の代表取締役であるAにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない。 
 さらに,前記事実関係によれば,売掛金債権の回収遅延につきBらが挙げていた理由は合理的なもので,販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく,監査法人も上告人の財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから,財務部が,Bらによる巧妙な偽装工作の結果,販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し,直接販売会社に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても,財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない。 
 以上によれば,上告人の代表取締役であるAに,Bらによる本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない。 」

この裁判例のポイントは、「リスク管理体制が整備されていたか」という点と、その「リスク管理体制が機能していたか」という点を分けて、取締役のリスク管理体制構築義務違反の有無を判断していることです。

要は、

①リスク管理体制が整備されていなければ当然責任を負うし、
②仮にリスク管理体制が整備されていたとしても、その体制が機能していなければ、その場合にも取締役は責任を負う

ということです。

リスク管理体制を「機能させる」ための、取締役の責任

会社のお金の流れに不正が生じないように、リスク管理体制、平たく言えば、チェックできる体制を整えておくこと。
これは、今さら言うまでもなく、既に整備している会社が多いと思います。
特に、上場企業であれば、金融商品取引法で整備することが法的にも義務づけられているので、整備されているはずです。

そうだとすると、取締役の地位にある者にとって現実に重要なのは、リスク管理体制を「機能」させるためには、あるいは、何か問題が起きた場合であっても、リスク管理体制が「機能している(していた)」と第三者から評価されるようにするためには、日頃から何をしておけばいいのか(何をしておかなければならないのか)、ということです。

裁判例が指摘した3つのチェックポイント

上の裁判例を見ると、リスク管理体制が「機能」していたと評価されるためのポイントとして、次の3つを挙げることができます。

  1. 売掛金債権の回収遅延について従業員らが挙げていた理由は合理的なものといえるかどうか。
  2. 販売会社との間で過去に紛争が生じたことがないかどうか。
  3. 監査法人が財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたどうか。

もちろん、「機能」していたというためには、この3つだけをチェックしておけばよいというわけではないと思います。
上の裁判例では、この3つのポイントがあったというだけであって、取締役として、他にできることがあれば、やっておかなければならないことは当然です。
あくまでも、この3つのポイントは、取締役が行うべき最低限のポイントとして位置づけておくべきでしょう。

従業員の説明や報告が「合理的」であるかどうか敏感になる

1つめのポイントから言えるのは、取締役は、従業員からの説明や報告を聞いて「合理的である」「合理的ではない」と疑問を抱けるように自分自身の勘を磨いておく、「合理的ではない」と気がついたら、その時点で取締役が自ら従業員の説明や報告内容の真偽を確認しなければならない、ということです。

取締役自身だけではなく、財務部門など担当部署が「合理的ではない」と気づくように勘を磨かせる、財務部門が「合理的ではない」と感づいたら自主的に説明や報告の内容の真偽を確認するように鍛えておく(教育、研鑽させる)ことも、取締役の責任といえます。

取引先とのトラブルの有無、要因、経緯を確認する

2つめのポイントから言えるのは、取締役は、取引先との間でトラブルが生じていないかどうか、トラブルが生じていたとしたら、その要因は何かを確認・究明する、トラブルが収束していたとしたら、どのような経緯だったのかを確認する、ということです。

この前提として、取引先との間でトラブルが発生したときには、取締役の耳に入るように、報告体制を仕組み作りしておくことも必要です。

監査法人の適正意見に耳を傾ける

3つめのポイントから言えるのは、取締役は、財務諸表の内容について監査法人・公認会計士・税理士などの社外の会計のプロが疑問を抱いていないか、真偽について疑義を唱えたときに、その部分と理由について監査法人等から詳細を説明してもらうと同時に、社内で、その実態を独自調査する、あるいは担当部署に確認して報告を受けるようにする、ということです。

取締役は会計の専門家ではないですから、会計のプロから指摘された点について、取締役が自ら調査できるとは限りません。
その場合には、取締役が会計のプロに同席を求めながら、担当部署の責任者から報告を受けるということも、取締役が取るべき方法として考えられます。