会社の技術情報が漏えいする原因。従業員による情報流出と産業スパイは、こうして情報を盗み出す。

東芝、情報流出事件

今年の3月に東芝と業務提携の関係にあったサンディスクの社員が、東芝から技術情報を盗み出し、それを手土産に韓国SKハイニックスに役員待遇で転職した、という事件が報じられたことは、記憶に新しいと思います。

同時期に同じ会社に転職していた技術者がいたため、その技術者から通報があり、それをきっかけに全容が解明し、情報を持ち出した社員は不正競争防止法違反で逮捕され、東芝が韓国SKハイニックスに損害賠償請求を提起するという顛末になりました。

情報漏えい、情報流出の多くの動機は、身勝手なもの

東芝情報流出事件の動機は、降格処分に対して「見返してやろうと思った」

東芝のケースは、社員がサンディスクで降格処分になったために「見返してやろうと思った」という動機で情報流出を行ったとも報道されています。つまりは、個人的な身勝手な動機から情報を持ち出したというものです。

情報漏えい、情報流出が故意に行われる場合、多くは、こうした身勝手な動機によるものです。

三菱UFJ証券顧客情報漏えい事件の動機は、キャバクラの借金

2009年1月に、三菱UFJ証券のシステム部部長代理が、同社の顧客情報149万人分、企業情報122万件分をCD-ROMにコピーして、それを名簿業者に35万円で販売し、最終的に4社に転売されていた、という事件がありました。

システム部部長代理という地位にあるが故に、会社のデータベースにアクセス権を持っていたので、そのアクセス権を悪用した。
しかも、部長代理であるということで、自らはデータのコピーを行わずに、派遣社員に命じて行っていた。

システム部部長代理という、本来ならデータベースを管理しなければならない立場の者が、情報漏えいを行っていたという意味では、衝撃的な事件でした。また、会社側の損害は70億円以上であった、とも報道されています。

この事件の動機もまた「キャバクラの借金が500万円を超えていた」という自分勝手なものでした。
もっと言うと、システム部部長代理としてのストレスが溜まり、そのストレスを解消するためにキャバクラに通い詰めてしまい、その結果、借金が膨らんでしまった、というものでした。

ストレス解消方法なら他にもあっただろうに・・。
結局、この件では、システム部部長代理は2年の実刑判決を受けました。

産業スパイは、年月をかけて信頼関係を作り出す

産業スパイの罰則強化の動き

以上は、自社あるいは提携先の従業員による情報流出、情報漏えいのケースです。
これに対して「産業スパイ」と呼ばれる者による情報流出も存在します。

産業スパイは、当初から会社の技術情報を盗み出すことを目的で入社し、年月をかけて会社と信頼関係を築き上げたふりをして、最後に技術情報を盗み出すとともに会社を退職して姿を隠します。

映画の中の世界だけかと思われるかもしれませんが、現実に何件も発生しています。

そのため、日本でも産業スパイの罰則を強化しようという動きがあります。

「政府は6月に決める「知的財産推進計画2014」の原案をまとめた。企業の営業秘密を不正に漏らした産業スパイへの罰則(最高1千万円の罰金か10年以下の懲役あるいは併科)を強化し、被害者の告訴がなくても提訴できる「非親告罪」にする。来年の通常国会に関連法案を提出する。」(日本経済新聞2014年5月19日朝刊より)

アメリカIBM産業スパイ事件

古くは、1982年に発生した、日立製作所・三菱電機の社員らによるアメリカIBM産業スパイ事件が有名です。
日立、三菱電機の社員ら6人が、アメリカIBMから機密情報を盗み出そうとして、FBIに逮捕された、という事件です。

こちらのWebサイトで詳細が説明されています。

「電子産業史 1982年:IBM産業スパイ事件」

中国人の産業スパイ/ヤマザキマザック事件

最近発生した産業スパイ事件としては、ヤマザキマザック事件が存在します。

2006年4月に日本の大学を卒業した中国人が、ヤマザキマザックに入社した後、社内の営業部員に工作機械の性能などを説明する販売部営業係に配属されて業務に従事していました。
この中国人が、2012年3月12日に、中国にいる父の体調が悪いとして退職を申し出ました。
ちなみに、本当に、この中国人の父の体調が悪かったのかどうかはわかっていません。

この中国人は、退職を申し出た3月12日の直前直後である2012年1月から3月19日にかけて、軍事転用も可能な、ヤマザキマザックの工作機械の設計図面や販売情報をサーバーから大量にコピーし始めました。

それを不審に思った同僚が社内で通報し、情報流出が発覚。
3月16日に所轄の警察に相談、19日に本社と中国人の自宅に捜索が行われ、出国予定日として計画していた3月26日の翌3月27日に逮捕されました(今年の2月3日から刑事裁判が始まったということまでは報道されていましたが、その後どうなったかは不明です)。

この事件が産業スパイであるとしたら、入社から6年をかけて信頼関係を築き上げたところで、情報を不正に取得して、その直後に退職しようとしていた、ということがわかります。要するに、産業スパイとしての目的を達成するために、6年もの年月を費やした、ということです。

会社がとるべき対策は

東芝情報流出事件、三菱UFJ証券事件、ヤマザキマザック事件、いずれも情報漏えいが発覚したのは、機密情報、技術情報への短期間での大量アクセス、大量コピーのログ(電子上の記録)が残っていたこと、パソコンのIPアドレスがわかったこと、でした。

なお、ヤマザキマザック事件では、中国人は、特定のパソコンから情報にアクセスした足跡を残さないため、IPアドレスを変えるとの偽装もしていたと報じられています。

この結果からわかるのは、社内にシステム部があるような会社では、特定の機密情報、技術情報へのアクセスが急増していないか、情報のコピーが急増していないかをチェックする、もし急増が確認できたとしたら従業員にその理由を確認する(システム部から上司に報告をする。上司がグルな可能性もあるので、その場合も想定して複数の上司に報告するのがベターです)。
こうした仕組み作りをしておくことが、会社がとるべき対策だろう、と考えます。

Jリーグ八百長警報の発表に見る、危機管理広報のタイミング

Jリーグ 八百長警報の発表

企業で不祥事が発生した場合、今でこそ、積極的に公表する企業は増えてきました。
そうはいっても、まだまだ「公表することは控えたい」との本音を抱いている企業も多い印象を受けます。

企業の判断がまだまだ分かれる中、不祥事が現実に発生したわけではないのに、不正の疑いがあるとの警告を受けとったというだけの段階で、その事実を公表した組織があります。
サッカーのJリーグです。

「Jリーグは18日、世界各地のインターネットで行われているサッカー賭博に絡み、J1の試合で異常とみられる賭け方が発見されたとして八百長を監視するシステムから初めて警告を受け、調査したと発表した。不正の疑いもあるとして選手ら関係者約50人を聞き取り調査した結果、八百長はなかったと結論づけた。」(2014年3月18日共同通信より)

警告を受けただけで組織内の調査を行ない、八百長という不正がなかったのに発表したのです。
不正がなかったのに公表するというのは異例です。

なぜ、ここまでの異例の公表をしたのか、また公表ができたのか。
その背景を考えながら、企業の理想的な不正な事実の公表の時期について考えてみます。

不正を早期に公表することは企業の存在意義に関わる

Jリーグが早期公表の理由(推測)

Jリーグが異例の公表をした背景として推測できる理由の一つは、万が一、八百長が事実として存在すればサッカーの人気は凋落してしまう、ということだと思われます。

Jリーグはプロスポーツです。プロスポーツは人気があってナンボの世界です。誰も見に来ないならプロスポーツとは言えません。
日本代表が盛り上がっている、日本人選手が活躍して盛り上がっているのに、もし国内で八百長が発覚したとすれば、もし八百長の事実を隠していたとすれば、その盛り上がりは消えてなくなるかもしれません。
こうした背景が、警告段階という早期での公表をした理由であり、また早期に公表できた理由ではないかとも考えられます。

企業が不正を早期公表しなかったとしたら・・

さて、これを普通の企業に置き換えてみましょう。

企業はプロ営利集団です。プロ営利集団は売上を上げられてナンボの世界です。誰も商品を購入しないなら、誰もサービスを利用しないなら、プロ営利集団とは言えません。
企業の知名度が上がってきている、企業の好感度が上がってきている、商品・サービスの人気が高まっているのに、もし社内で不正が発生し、もし不正があった事実を早期に公表しなかったとしたら、どうなるでしょう?

後に、不正の存在が公になったときに、企業が不正を認識した時点で公表しなかったのは、なぜか?隠していたのか?と、社会から疑われます。
隠していたと疑われれば、企業の知名度、好感度、人気は一気に地に落ちます。
究極的には、損失拡大、売上低下、事業縮小、会社の清算に発展するかもしれません。

たとえば、食品メーカーで食品に異物が混入している事実が存在するのに、それを早期に公表しなかったとしたら・・。
自動車メーカーがブレーキに異常が発生している事実が存在するのに、それを早期に公表しなかったとしたら・・。

要は、早期に公表しないことは、組織や企業の存在意義を失わせることがある、ということです。

不正の公表と、企業の社会的責任(CSR)

企業の社会的責任と不正の公表

企業が不正を認識したときに早期に公表しないことが、存在意義に関わるということは、企業の社会的責任(CSR)であるとも言えます。

食品メーカーの例で言えば、食品を口にする消費者の安心や安全に対する社会的責任を負います。
自動車メーカーの例で言えば、自動車を運転するドライバーや乗車する人、さらに自動車の周辺にいる人たちの安全に対する社会的責任を負います。

そうした社会的責任を果たすためには、事実を認識した段階で早期に公表しなければならないということはわかるはずです。
公表が遅れて、誰かの安心、安全が損なわれてからでは社会的責任を果たさなかったことになってしまうからです。

Jリーグの例でいえば、プロスポーツ=選手たちが頑張っているから応援するというサポーターたちの信頼に対する社会的責任を追っている、と考えることができます。
人気があるかどうかが大事なプロスポーツの場合には、疑いすらも存在しないとサポーターに信じてもらわなければなりません。
それが、警告段階での異例の公表に繋がったのではないかと思います。

クライシス・コミュニケーションの観点から、ダスキン事件大阪高裁判決を読む

ダスキン事件と取締役の善管注意義務違反

会社に不正が発生した場合、その事実を公表することは、取締役の善管注意義務でもあります。

この点に関する重要な裁判例として、ダスキン事件の大阪高裁平成18年6月9日判決が存在します。

ダスキン事件というのは・・
ダスキン(ミスタードーナツ)が販売していた肉まんに、国内で認可されていない添加物が使用されていた。取引先業者からその事実を指摘されたものの、公表することなく、担当取締役が取引先業者に金銭を支払い事実を公表せず販売を継続。その2年後、行政の立入り検査を受けて公表した。結果、加盟店への営業補償、信頼回復のためのキャンペーン費用など約105億円の損害が発生。この損害について、株主が取締役を相手に代表訴訟を提起した・・という事件です。

大阪高裁判決は、公表の是非について、次のように判断しました
(ちょっと長めに引用します)。

これの混入が判明した時点で,ダスキンは直ちにその販売を中止し在庫を廃棄すると共に,その事実を消費者に公表するなどして販売済みの商品の回収に努めるべき社会的な責任があった」

一審被告Y2が本件混入や本件販売継続の事実を知りながら,事実関係をさらに確認すると共に,これを直ちに社長である一審被告Y1に報告し,事実調査の上で販売中止等の措置や消費者に公表するなどして回収の手だてを尽くすことの要否などを検討しなかったことについて,取締役としての善管注意義務の懈怠があった」

一審被告Y1は食品販売事業をその事業の一環とするダスキン代表取締役社長である。前年末に本件混入や,混入を知りながらあえてその販売を継続するという食品販売事業者としては極めて重大な法令違反行為が行われていた事実が判明した以上は,その実態と全貌を調査して原因を究明し再発防止のために必要な措置を講ずることはもとより,直ちに,担当者によって取られた対応策の内容を再点検して,食品衛生法違反の重大な違法行為により食品販売事業者が受けるおそれのある致命的な信用失墜と損失を回避するための措置を講じなければならない。その中で,マスコミ等への公表や,監督官庁への事後的な届出の要否等も当然検討されるべきである。」

現に行われてしまった重大な違法行為によってダスキンが受ける企業としての信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討することこそが,このとき経営者に求められていたことは明らかである。ところが,前記のように,一審被告らはそのための方策を取締役会で明示的に議論することもなく,「自ら積極的には公表しない」などというあいまいで,成り行き任せの方針を,手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは,到底,「経営判断」というに値しないものというしかない。」

ダスキン事件が言及した、公表時期、公表原則論

注目すべきは、公表は「社会的な責任」と明言している点です。
法的責任に留まらず、不正の公表は社会的責任と言及しているのです。
この点は、あまり指摘されてこなかった部分かもしれません。

大阪高裁は、それに加えて、取締役は、公表の必要性を検討することは「当然」とまで言い切り、さらに、「積極的に公表しない」という方針を決するには取締役会での議論を経た経営判断をしなければならない、とまで述べているのです。

これは、どういうことかというと、不正があれば公表を検討するのは当然であり、公表しないなら取締役会で経営判断と呼ぶに値する議論を経てからでなければならない(議論を経なければ公表しなければならない)、ということです。
もはや、企業は「公表したくない」という考え方は通用しない(そのような選択肢はない)と思った方がいいでしょう。

ダスキン事件判決まで見ていくと、Jリーグが八百長の警告を受けた時点で、その事実を公表することは社会的責任に沿ったものであり、公表したことはダスキン事件判決どおりの対応だったと理解することができます。
企業は、クライシス・コミュニケーションとして、この公表の姿勢やタイミングを学んでいく必要がありそうです。

取締役の善管注意義務違反と監督・監視義務違反は「コンプライアンスの不備」で説明してはいけない

石原産業の代表訴訟控訴審の和解と、そのコメントへの違和感

2014年5月20日、石原産業の代表訴訟で和解が成立しました。

石原産業の代表訴訟事件というのは・・・
石原産業は土壌埋め戻し材「フェロシルト」を生産、販売した。「フェロシルト」からは、土壌環境基準値を超える六価クロムが検出された。そのため、産業廃棄物処理法に基づく撤去命令を受け、石原産業は回収を行ない、回収費用等489億円を費やした。この回収費用等について取締役の損害賠償責任を問われた・・という事件です。

新聞では和解について、次のように報じられています。

「元取締役9人がコンプライアンスの不備に遺憾の意を表明し、和解金5千万円余りを会社に支払う。」
(平成26年5月21日付日本経済新聞朝刊より)

「コンプライアンスの不備に遺憾の意を表明」とあるので、この記事を読んだときには、取締役の内部統制システム(業務適正確保体制)の整備義務違反で責任が問われたのかと勘違いしました。しかし、一審判決を見てみると、問われた責任は、整備義務違反ではないようです。むしろ、一審判決を見ると、「コンプライアンスの不備」という言葉を使うことに違和感を覚える内容でした。

それでは、なぜ、コメントと一審判決の内容に食い違いが生じたのか?
その答えの仮説の一つは、取締役が自らの義務の意味を理解しきれていないからではないか、と推察します。

というのも、ここ最近、取締役・執行役員を相手にした研修のご依頼を受け、いろいろな会社に研修に伺うのですが、実は、多くの会社で、それが大企業であっても「善管注意義務、監督・監視義務とは何かがわからない。何をしたらいいのかがわからない」という役員の方からの声を聞くからです。
たしかに、法律を勉強したことがある人にとっては「取締役の善管注意義務、監督・監視義務」は馴染みがあるかもしれません。
しかし、これまで技術畑で仕事をしてきた役員の方々、営業畑で仕事をしてきた役員の方々には、わからないのも無理はありません。

そこで、今回は、取締役の「善管注意義務」とは何か?「監督・監視義務」とは何か?という、取締役の二大義務について説明します。基本編です。

取締役、執行役員と会社との関係

会社とは委任関係=取締役は経営判断のプロ、執行役員は業務執行のプロ

善管注意義務、監督・監視義務の説明に入る前に、取締役、執行役員と会社との関係を、まずおさらいしておきます。

多くの会社の取締役、執行役員の方の意識の中にあるのは「取締役、執行役員は従業員として働いてきた出世の一つ。部長の上(あるいは取締役兼部長、執行役員兼部長)の社内の地位(ポジション)・役職の肩書きである」という誤解です。
取締役、執行役員という地位は、社内の地位・役職ではありません。
取締役は、会社からいったん離れ、会社から経営判断のプロフェッショナルとして、会社の舵取りを任されている外部の人です。
執行役員は、会社からいったん離れ、会社から業務執行のプロフェッショナルとして、会社の運行を任されている外部の人です。

「会社からいったん離れ」というのは、従業員ではない、ということです。
「プロフェッショナルとして」「任されている」というのは、会社との関係は従業員のような労働契約(雇用契約)ではなく、委任契約である、ということです。

従業員ではない委任契約ということで、イメージしやすいのは、プロ野球の監督、コーチです。
任された期間中に結果を出さなければ契約終了=来年以降の契約はない。下手をすると任期中でも問答無用でクビになる。
取締役、執行役員は、プロ野球の監督、コーチと同じ立場ということです。
任期に結果を出さなければ、次の任期に取締役として選任されない。執行役員としての契約が更新されない。
任期中でも悪い結果を出せば、任期中でも解任されることがある。

従業員の場合には、労働契約法という法律でクビ(解雇)には、解雇権濫用法理という高いハードルがあります。
解雇の理由と、解雇が相当という2つの要件を満たさなければなりません。
しかし、取締役、執行役員の場合には、プロフェッショナルなので、解雇権濫用法理では保護されないのです。

中には、従業員兼取締役、雇用契約型執行役員という方もいらっしゃいます。
雇用契約型執行役員の場合は社内の地位・役職であり、解雇権濫用法理で保護されるという認識でも間違いではありません。
しかし、従業員兼取締役の場合は、従業員という社内の地位・役職だけではなく、取締役という経営判断のプロフェッショナルの両方を兼ねているという立場にあります。
これは、従業員として解雇されることはなくても、取締役の地位から解任されることはある、ということです。

取締役、執行役員の善管注意義務

取締役、執行役員はプロフェッショナルとして会社を任されている、という立場にあります。
しかし、任されているといっても、何でも自由に経営判断していい、何でも自由に業務執行していい、というわけではありません。

取締役は、株主総会で株主に選任されて、会社の経営判断を任されています。
そうだとすれば、取締役は、自分を選任してくれた株主を意識しながら、株主の利益のために経営判断しなければならない、ということになります。
株主の利益のためというのは、会社の価値を高めて株価を上げる、会社の売上を上げて株主に配当できるようにする、ということです。
これが「取締役の善管注意義務」です。

「善管注意義務」の「善管」というのは、善良な管理者という意味です。
会社の経営判断を善く任されている者ということです。
その立場から株主の利益に注意をしなければならない、これが「注意義務」の意味です。

執行役員は、取締役で決議されて、会社の業務執行を任されています。
取締役は株主への善管注意義務に基づいて、業務執行に適任者であるとの経営判断で、執行役員を選任しています。
そのため、執行役員は、自分を選任した取締役、ひいては取締役を選任した株主を意識して、株主の利益のために業務執行しなければならない、ということになります。
これが「執行役員の善管注意義務」です。

取締役相互の監督・監視義務

取締役会が設置されている会社では、取締役は自分ひとりで経営判断するわけではありません。
取締役会決議で経営判断します。取締役は取締役会を構成するメンバーの一人である、ということです。

取締役は取締役会を構成するメンバーであるということは、たんにメンバーとして取締役会に参加すればいいというだけではありません。他の取締役が善管注意義務を尽くしているか、それを日頃からチェックしておかなければならないのです。
これは、取締役自身が、他の取締役から日頃からチェックされているということも意味します。
お互いにチェックしあっている、ということです。
これが「取締役相互の監督・監視義務」です。

取締役の善管注意義務違反、監視義務違反を「コンプライアンスの不備」で説明しても問題の本質が見えない

石原産業の代表訴訟第一審判決では、生産販売担当取締役らが土壌環境基準値を超える六価クロムを含有するフェロシルトの開発中止義務、販売中止義務を尽くさなかったことについての善管注意義務、他の取締役らが土壌環境基準値を超える六価クロムの含有についての調査、確認することを指摘すべきとの善管注意義務、監督義務の存否や違反の有無などが問われました。

これは、取締役が本来尽くすべき義務を尽くしたのか否かという問題であって、控訴審の和解の経緯となった「コンプライアンスの不備」とは少し違うのではないかという印象を受けます。

そもそも、取締役が土壌環境基準値を超える六価クロムを含有するフェロシルトを開発、販売しても構わないという意識のもとで活動していたのであれば、「コンプライアンス意識が欠ける」ということで「コンプライアンスの不備」かもしれません。「不備」どころか「欠如」です。

しかし、取締役がお互いに監督しなければならないという認識がなかった、監督した末に相互に指摘しあう認識がなかった、認識があったけれども指摘しなかったというのであれば、「コンプライアンス」の問題ではなく、取締役として自分に任されている役割を果たしていない、つまり、取締役としての適正を欠くということではないでしょうか。
また、日頃から取締役に善管注意義務や監督・監視義務の意味を認識させておかなかった会社の準備不足、研修不足ともいえるかもしれません。

「コンプライアンス」という言葉を使えば何か説明したという風潮がありますが、「コンプライアンス」という言葉を使わずに何が問題だったのかを説明する方が、問題点の本質は見えてくるのではないかと思います。

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)は社長の責任

謝罪・記者会見は社長じゃないとダメなのか?

昨日、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)方法論序説として、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)には戦略目的を具体的に設定することが大事であるということを書きました。↓
危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)方法論序説

今日は、不祥事を起こした会社からご相談を受ける場合に、多い相談の一つ、「記者会見は社長がやらないとダメですか。」「謝罪の手紙は社長の文責じゃないとダメですか」「広報部や総務部の担当役員ではダメですか。」にお答えしたいと思います。

社長は謝罪・記者会見をするからこそ「代表」取締役

答えを先に言うと「記者会見も謝罪の手紙も代表取締役である社長の仕事」であり、謝罪をしなければならなくなった経緯、記者会見をしなければならなくなった経緯、不祥事の内容や程度によっては「社長ではなくても構わない」というのが結論です。

それは、なぜか?

社長は「代表」取締役だから、です。

会社が不祥事を起こして、記者会見をしなければならないケース、謝罪の手紙を消費者や顧客に送らなければならないケース、ホームページにリリースを出さなければならないようなケース、これは、どれも不祥事の程度が重大である場合や不祥事によって被害が生じる範囲が拡大するおそれがある場合です。

たとえば、食品メーカーの工場で従業員が毒物を混入させていたというケースが起きたとしましょう。
これは、消費者の生命・身体に影響が及ぶ可能性があるほどの重大な不祥事です。
しかも、食品が出荷され小売店の店頭に並んだ後に発覚したのであれば、食品が多くの地域に配送され、食品を口にする消費者の数が拡大する可能性さえあります。
毒物混入の事例ではありませんが、2000年に発生した雪印集団食中毒事件では、食中毒の被害者数は1万4780人とされています。

食品メーカーは、消費者の口に運ばれる物を作っている会社です。
その会社が消費者の口に毒物を運ぶ事態を招いたとなれば、会社の存在意義に関わります。
「今後も、わが社がこの社会に存在してもいいですか。許してもらえますか」ということを世の中にアピールして、社会や消費者からの信頼を回復するために、記者会見や謝罪の手紙を出すのです。

このようなアピールをしなければならない場面を「代表」取締役以外が行うことは、考えられません。
こういう行動を会社を対外的に「代表」して責任を持ってやれるからこそ、「代表」取締役と名乗っているのです。
もし責任を持ってやれないのであれば「代表」なんて肩書きを付けているのが恥ずかしいくらいです。
表に出るのが嫌なら「代表」から降りてしまえ、「代表」を名乗るのはおこがましい、とさえ思います。言い過ぎかな

食品メーカーの事例で例え話をしましたが、BtoCではない会社であっても同じです。
例えば、研究機関において論文ねつ造か否かが問題になるような事態が生じた場合を想定しましょう。
論文がねつ造されたからとそれによって、消費者や社会に具体的な被害が生じるわけはありません。被害が拡大する可能性はありません。

しかし、研究機関を通じて発表された論文が世界的に注目を浴びるような研究成果を内容としていた。あるいは、研究機関そのものが純然たる民間企業ではなかった(国の資本や補助金をもらっていた、国の監督下にあるなど)。
そういった場合、論文のねつ造が疑われるということは、研究機関の存在意義に関わります。
先の食品メーカーの事例と同じように、研究機関も「今後も、わが研究機関はこの社会に存在してもいいですか。国の資本や補助金という名の税金投入を許してもらえますか。」ということを世の中に問い、信頼を回復するために、記者会見なりを行うのです。
そのため、研究機関のようなBtoCではない組織であっても、「代表」の地位にある者が当初から責任をもって記者会見を行うべきなのです。

記者会見、謝罪をするのは、代表取締役社長に限られるわけではない

業務担当取締役、総務・広報担当取締役、部長が表に出ていい場面

だからといって、会社が不祥事を起こして記者会見をしなければならない場面、謝罪をしなければならない場面すべてに代表取締役が登場しなければならないかというと、そこまで硬直なものではありません。代表取締役でなくて、業務担当取締役や総務・広報担当の取締役や部長が行っても許される場面はあります。

代表取締役が記者会見に間に合わない場合

一つには、緊急時で、代表取締役が記者会見に間に合わない場合です。
実際にあったケースでは、記者会見時に代表取締役社長が海外出張中だったので、副社長、専務取締役が行ったというものがあります。
この場合、副社長、専務取締役が記者会見を行ったのは、あくまでも、代表取締役の代行として、です。そのため、代表取締役社長が出張から戻ってからは、代表取締役社長が記者会見を行いました。

被害の重大性がない、拡大可能性がない(被害者が少数特定できる)場合

もう一つは、記者会見を行うほど事案は重大ではなく、また被害が拡大する可能性はないけれども、あえて記者会見や消費者に対して謝罪文を発信する場合です。
実際にあったケースでは、顧客の氏名、住所、取引履歴などの個人情報が漏えいしたものの、漏えいした個人が特定されている、漏えいした情報件数が少数である、顧客と直接連絡が取れるといった場合です。

この場合、そもそも、顧客が特定されて、直接連絡を取れるわけですから、あえて、記者会見をして、世の中に個人情報が漏えいした事実を公にする必要まではありません。
しかし、個人情報の管理について世の中の目が厳しくなっているという背景や、個人情報の管理を世の中から厳しい目で見られる業種である場合には、あえて記者会見を行うということはあります。
この場合には、本来は記者会見を行う必要まではなかったのに、あえて記者会見をやる、というのですから、そもそも、代表取締役が登場するまでもない、ということです。

また、このような顧客が特定されて、直接連絡を取れるような個人情報漏えいのケースでは、会社から顧客に対して謝罪の手紙を送ることがあります。
この場合も、漏えいした個人情報の内容次第では、個人に生じる被害の程度が小さいともいえます。
そのようなときには、業務担当取締役や総務担当取締役名義で謝罪をすることもありえます。

「記者会見・謝罪は社長じゃなきゃダメですか?」ではなく「この場合には、記者会見や謝罪を社長以外に任せてもいいですか?」という思考経路への転換を

記者会見や謝罪は代表取締役社長が責任をもって行うのが基本ではあるけれども、内容や状況次第では、代表取締役社長以外が行うことでもいいということはわかっていただけたかと思います。

実は、この説明の流れ、つまり、本来は代表取締役社長が行わなければならないのだけれども、内容や状況次第では代表取締役社長以外が行っても「許される」という発想の順序は、絶対に身につけて欲しいことです。

この考えの順序を身につけられれば「記者会見・謝罪は社長が出なければダメですか?」という疑問は出てこなくなります。
代表取締役社長が記者会見・謝罪をするのが当然の前提になるからです。
この考えの順序を身につければ、「(代表取締役社長が記者会見・謝罪をしなければならないことはわかっているけれども)社長以外が記者会見・謝罪をしても許される場面ですか?」「社長以外に任せても構わないですか?」という、代表取締役社長以外が許容される場面かされない場面かを問うような言葉遣いになるはずなのです。

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の方法論序説

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)への問題意識

昨日、一昨日と、お客さまとの間で危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)についての意見交換、情報交換する場がありました。

最近の事例といえば理研問題が代表的ですが、「なぜ広報に失敗したのか」「トップはどの段階で会見に臨めば良かったのか」「なんで、こんなに長い間にわたって混乱しているのか」といったことが話題の中心でした。「2002年にベル研究所で起きたシェーンによる論文ねつ造事件とそっくりですね」との話題も出ました。

他方、理研問題とまったく同じ時期に、同じく臨床研究上の不正が問題視されていたノバルティスファーマは、ホールディングスのトップが辞任したのに新聞の社会面で報じられる程度で、理研問題ほど注目を浴びることはありませんでした。

「この両者の差は何だったのか」
この相違の理由を考えながら、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の序論について、改めて考えてみようと思います。

なお、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の入門知識については、↓に、よくある質問をまとめていますので、興味がある方はご覧下さい。
危機管理広報・クライシス・コミュニケーションのよくあるご相談

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)を行う際、戦略目的が固まっているか

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)とは何か

ここ数年、企業内で不祥事が発生した、しかも、それが社会から注目を集めるような不祥事だったというときには、ただちに世の中に説明しなければならない、場合によっては企業の言い分を釈明しなければならないと考えて、記者会見を行う、という姿勢が見られます。

こうした不祥事、危機を受けての記者会見のことを、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)と言います。

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の成否の鍵は「戦略目的」

記者会見を行って、世の中に情報発信すること自体は非常によいことだと思います。
しかし、徹底的に欠けているのは「何のために記者会見を行うのか」という戦略目的の設定です。
戦略目的を固めることなく記者会見を開いても、記者の質問に淡々と答えるだけ、もっといえば、記者から追及・糾弾されて社長以下がタジタジになっている様子がテレビニュースや新聞の写真として報道されるだけということになってしまいます。
記者会見の場に出席している社長以下トップも「何のためにここにいるんだろう。会社の言い分を釈明して事態を収束させたかったのに、それができていない。」と、会見を開いたこと自体に疑問を感じることもあるでしょう。
これでは、あえて、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)を行う意味がありません。

危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の成否を決するのは、事前に戦略目的を固めているかどうかに尽きます。

「戦略目的」とは何か

戦略目的とは何か。
わかりやすく言い換えると、危機発生時にあえて記者会見をやる狙いは何か、ということです。
それは、単に「事態を早期に収束させたい」という動機のことではありません。
記者会見を通じて「世の中からの信頼を回復したいので、自社は不正に対して厳しい姿勢で臨むことを示したい」というところまで、具体的に落とし込んでいくことが必要です。
そうすれば、記者会見の場では、終始一貫して、その目的に即した言動を心がければいいわけです。会見以外の場でも、会社としてどのように振る舞い、どのような対応をしたらいいかも、自ずと明らかになっていきます。

文字に起こすと当たり前のように思えますが、実は、これができていないことで記者会見を失敗しているケースは山ほどあります。
「結局、会見で何を言いたかったの?」と思えるケースは、ほぼ、戦略目的が固まっていなかったのだろう、具体的に落とし込めていなかったのだろう、と推測していいでしょう。

ノバルティスファーマと理研の比較

冒頭に挙げたノバルティスファーマの件、理研の件、両者の差はここにあったのではないかと思っています。私が関与したわけではないので、あくまで推測ですが・・。

ノバルティスファーマの事例

ノバルティスファーマの場合は、第一報が報じられた時点から、会社対社員という構図にはせず、社員が不正を行ったことに対して、会社が全容を解明し、会社の信頼を回復しようとしていたことがうかがえます。

「治療薬の効果を調べる大学の臨床研究に社員が身分を隠して関与したとする報告書をまとめていたことが23日、分かった。社員は2001年以降、データ解析などを担当していたという。社員は今月15日付で退職した。同社は22日、「不適切だった」として日本医学会や日本循環器学会などに報告した。同社によると、元社員が参加したのは高血圧症治療薬「ディオバン(一般名バルサルタン)」の臨床研究。」
「元社員は論文に名前を載せる場合は非常勤講師を務めていた「大阪市立大」の肩書を使い、社員であることを隠していた。上司は臨床研究への参加を支援していたほか、元社員の部下が関与したケースもあったという。」(2013年5月23日付日本経済新聞夕刊より)

実際に、上の第一報が報じられた後も、外部有識者会議を開催する、第三者委員会を設置する、スイスから法人トップが来日して記者会見を行い、日本法人と日本のホールディングスのトップが辞任に至るなど、会社として不正に厳しく臨む姿勢が伝わってきます。

理研の事例

これに対して、理研問題の場合は、当初から、会社対研究者という構図になってしまい、社員が不正を行ったことに対して、会社が全容を解明し信頼を回復するというよりは、会社と研究者の言い分のどちらが正しいかというところに注目が集まってしまいました。現状、まだ、この構図が続きそうな気配です。

もし、理研問題の場合も、会社が全容を解明し信頼を回復するという目的がはっきりしていれば、研究員個人による記者会見を行わせてはならず、会社が全部の窓口になっていなければおかしいはずです。
また、不正が明らかになっていない段階であったとしても、不正か否か全容が明らかになった段階でトップ以下の責任をどうするかを明言すると予告する、全容が明らかになった段階で調査報告を会見で行う、その時までは、マスコミが研究者個人にスポットを当てようとしても、理研側の広報が全窓口になるといった対応をすべきだったところです。
もっとも、理研の問題では、事前に理研事態が研究者個人にスポットが当たるような状況を作り出していたので、会社主導で会社が窓口になると広報したとしても、マスコミが研究者個人にスポットを当て続けたという側面も否定できませんが・・。
それでも、会社は「個人の精神面に関わるので」「重要な調査中ですので」などを理由に、個人にスポットが当たることを回避する工夫をしておくべきだっただろう、とは思います。

今日は、まず、序説ということで、戦略目的を固めるということについてお話ししました。
トップの役割=危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)では社長が記者会見すべきなのか、記者会見すべきとしたら登場するタイミングはいつなのか、については、あらためて投稿したいと思います。

契約社員の正社員登用が増えている理由と、その先

契約社員・非正規社員の正社員登用という現象

2014年4月以降、「契約社員・非正規社員の正社員登用」というニュースが相次いでいます。

正社員化全体(平成26年4月4日付け日本経済新聞朝刊より)

中には、契約社員が正社員と同じ労働組合に加入することを認めたというニュースまで報じられています。

「三菱東京UFJ銀行の窓口業務などを担う約1万2千人の契約社員が正社員と同じ労働組合に入れるようになった。今春、希望する7千人が加入。新たに銀行と雇用契約を結ぶ人は全員が組合員になる。契約社員の大規模な組織化は大手銀行で初めて。」(平成26年4月4日付け日本経済新聞朝刊より)

「人手不足」「人材確保」は本当か?

これらのニュースを見ると、一様に「人手不足」「人材確保」「優秀な人材をつなぎ止めるため」「経験のある契約社員を定着させる」などが理由として報じられています。

でも、本当にそうなのでしょうか?

今までも、仕事はあったはずです。
景気が良くなっているからといって、急に、契約社員や非正規社員を正社員に登用しなければならないほど仕事が増えたのでしょうか。
景気が良くなって仕事が増えたとしても、契約社員や非正規社員がそのままの地位ではいけないのでしょうか。
契約社員や非正規社員の中に、急に、優秀な人材が増えたのでしょうか。
正社員登用にするだけではなく、正社員と同じ労働組合に加入できるようにすることまで必要なのでしょうか。

素朴に不思議に思っているので、その理由を考えてみようというのが、今回の投稿のテーマです。

有効求人倍率の変化

景気が良くなって、本当に人材不足になっているかどうか。
それを確認するのに一番手っ取り早いのが、有効求人倍率が増加しているかどうか、です。

日経新聞に載っていた有効求人倍率の変動表を見ると、たしかに、上昇していることは間違いありません。
しかし、その実際は、2013年までは1.0倍を切っていたのが、10%増加して、2014年3月時期で1.07倍になった程度。
業種別に見ても、前年度比微増。
求職者数、採用人数に具体的に落とし込んだとしても、到底、1社あたり契約社員を100人〜1万人単位で正社員化するほどの人材の必要性があるとは思えません。

そうなると、契約社員・非正規社員の正社員への登用には、別の理由がありそうです。

職業別有効求人倍率雇用改善比率(平成26年5月2日付け日本経済新聞夕刊より)

「ブラック企業」と批判されることと企業の社会的責任

そこで考えられる理由の1つは、最近流行りの「ブラック企業」とのレッテルを意識した採用ということです。
「ブラック企業」、端的に、労働基準法違反・労働契約法違反・労安衛法違反という違法行為を行っている企業と、違法までではないけれど従業員を酷使するイメージがついている企業に付けられている、ありがたくない異名です。

この異名が付けられてしまうと、企業の社会的信用や評価、イメージはダウンします。
そうなると、企業は、対策として、世の中の労働者の動向、世の中の目を意識しなければならなくなります。

そうした労働者の動向や世の中の目を意識して、企業が、次のような発想に立って対策を講じたということが推測されます。

企業は組織体、あるいは社会の公器として、体力があるなら、人材を採用して、労働の対価を十分かつ適正に支払わなければならない。企業には、労働者や社会との関係において、そうした社会的責任がある。こうした社会的責任を意識した人事採用を企業がするようになった。

・・という推論です。
正解どんぴしゃりではないかもしれないけれど、大きく外れてはいないのではないかな、と思います。

改正労働契約法が4月1日から施行されている

ただ、もっと掘り下げていくと、本当のところは、改正された労働契約法が2014年4月1日から施行されたことが、企業の背中を押したのではないかな、とも思います。

どういうことかと言うと、改正労働契約法は、次のようなルールを定めました。

  1. ある企業に2013年4月1日以降通算5年超契約更新されている契約社員は、労働者が希望すれば、正社員になれる。
  2. 契約が更新されていたとしても、契約と契約の間に6か月以上の空白期間がある場合には、その前後の労働契約期間は通算されない。※契約期間によって空白期間は長短します。
  3. 職場(事業場)が変わっても同一の企業なら契約期間は通算される。
  4. 契約期間中に育児休暇などを取った場合でも契約期間の通算期間にはカウントされる。

このルールができた結果、企業は、4月1日以降、繰り返し契約更新している契約社員を、順次、正社員として登用しなければなりません。
労働契約法どおりなら、最短で、2018年4月1日以後には、契約社員を正社員として登用しなければならない法的義務が生じます。
どのみち、2018年4月1日以降に、そうした法的義務が生じるなら、今のうちに、仕事を知って経験と技術のある契約社員を正社員化して、囲い込んでしまおう。
今なら景気も良いので、多少の人材確保のゆとりもある。
これが本音ではないのかな、と推論しています。

正社員に登用以外に、本当に人材を確保するための取り組み

正社員と契約社員・非正規社員の労働条件の統一

とはいえ、すべての企業が契約社員・非正規社員の正社員登用を前倒しするわけではありません。
契約社員・非正規社員を正社員として登用した企業にも、契約社員がまったく居なくなるわけではありません。
そうなると、正社員採用されていない契約社員・非正規社員の仕事へのモチベーションの確保も必要です。

そこで、企業によっては、正社員と契約社員・非正規社員の労働条件を同じにしようとすることを試みようとしています。
「同一労働同一賃金の原則」の実現といってもいいかもしれません。
同じ仕事しているなら、正社員と契約社員・非正規社員の労働条件を同じにしてしまおうという考えです。

「家具小売り世界最大手イケアの日本法人、イケア・ジャパン(千葉県船橋市)は9月をメドにパートの待遇を見直し、フルタイムで働く正社員と同等にする。契約期間を原則廃止したり、時間当たりの賃金水準をそろえたりして、正社員との垣根をなくす。」(平成26年4月16日付け日本経済新聞朝刊より)

「同一労働同一賃金の原則」は、企業の社会的責任という観点からも納得のいく、合理的なものです。
技術の差、知識の差、経験の差、役職の差がある労働者同士であれば賃金に差があるのは当たり前です。しかし、たとえば、単純労働で業務効率にも差がないような労働者同士であれば賃金は同一にしたほうが合理的です。
同質・同量への労働の対価を同じくする、当たり前といえば当たり前の話です。

正社員の二極化

契約社員・非正規社員を正社員として登用しても、せっかく正社員に登用した契約社員・非正規社員がすぐに辞めることになってしまえば、企業の負担も大きくなります。
そこで、企業が考えるのは、正社員が、なるべく辞めないようにするという試みです。

「新制度では、正社員に「全国転勤OK」「勤務地限定」という2つのキャリアパスをつくった。2つは個人の事情に合わせて途中で変更できる。契約社員は勤務地限定の正社員に変わり、それまでの正社員は進路を選べるようになった。結果はどうだったか。店舗で働く約1500人の正社員のうち、4割が勤務地限定の道を選んだという。」(平成26年5月12日付け日本経済新聞朝刊より)

これは、スターバックスコーヒージャパンの試みです。
契約社員から正社員化成りした労働者は「勤務地限定」という従来の契約社員の立場とほぼ同じ職場環境にして転勤などの負担・不安から解放し、そうではない正社員は「全国転勤OK」と「勤務地限定」を選べるようにして、職場環境を自分で選べるようにして負担・不安から解放するものです。
契約社員が正社員になったら全国に転勤(配転)させらるとなれば、契約社員は安心して正社員への道を希望することができなくなるからです。
これは「優秀な人材の囲い込み」「人材不足」という、契約社員を正社員化する当初の目的を実現する方法としては秀逸です。

ただ、個人的によくわからないのは、これって、旧来の「一般職」「事務職」採用と何が違うのか、ということです。ここは、もうちょっと調べたいと思います。

企業の今後の対策

企業の体力に応じて、順次、対応すればよいと思います。
契約社員を正社員として確保するだけの余裕がある会社は、「人材不足」「優秀な人材の囲い込み」という大義名分のほか、社会的責任もあるので、正社員化に積極的に取り込んでいけばよろしいかと。
他方、それほどの余裕がない会社でも、「優秀な人材の囲い込み」に力点を置き、そうした人材を囲んで成長すればいいとの目論見で、正社員化に積極的であってもいいかもしれません。

もちろん、余裕がない会社は、労働契約法どおりの運用であっても、問題はありません。ただ、その場合には、同業他社の動向には注意を払う必要があります。
同業他社が、契約社員・非正規社員の正社員化に積極的である、契約社員・非正規社員への同一労働同一賃金の原則の適用に積極的であるということがわかれば、労働者は、そちらの会社に流れて行ってしまうからです。
仕舞いには、自分たちの会社に人材が集まらなくなり、結局、クビを占めることになりかねません。

いずれにせよ、企業は、改正労働契約法を視野に入れ、将来的には契約社員を正社員化させるのか、それとも、契約社員はあくまで契約社員のままなのかを決めて、今後の人事政策と事業展開を考えていく必要があろうかと思います。

【2014年5月14日一部追記しました】

住友電工株主代表訴訟の和解から考える、取締役の善管注意義務・忠実義務の内容

この週末、北海道まで、ある企業の取締役・執行役員向けの研修に行ってきました。
出席したのは、約50人ほどの役員の方々でした。
「おもしろかった」「わかりやすかった」という声がフィードバックで戻ってきたので、成功だったようです。

私が役員研修や従業員向け教育、公開セミナーで講師をする際に気をつけているのは「わかりやすさ」です。
受講される役員、従業員、セミナー参加者は、法律の専門家ではありません。
だから、あえて法律用語を使わない。可能な限り使わない。多少、本来の意味とは違っても、わかりやすい言葉に置き換える。
目的は、理解してもらうことだから、です。
これが講師として声を掛けてもらった専門家としての義務だと思っています。

さて、本日の本題は、この「義務」、取締役の善管注意義務・忠実義務のお話しです。

住友電工株主代表訴訟の和解

5月7日に、住友電工の株主代表訴訟で和解が成立しました。

光ケーブルなどを巡るカルテルを結び、独占禁止法違反(不当な取引制限)で約88億円の課徴金を納付した住友電気工業の当時の役員ら22人に同額の損害賠償を求めた株主代表訴訟で、役員らが会社に5億2000万円の解決金を支払う和解が7日、大阪地裁で成立した。」
株主側は「経営陣がカルテルの防止義務を怠ったうえ、違反を自主申告して課徴金減免を受ける制度を利用せず会社に損害を与えた」と主張していた」
(日本経済新聞平成26年5月8日(木)朝刊より)

和解であって判決ではないので、裁判所が株主の言い分を認めたわけではありません。
しかし、この株主の主張は、取締役が、自分自身の善管注意義務・忠実義務の内容を考えるにあたって無視できないものです。

なぜか?
それは、株主が主張していた取締役の善管注意義務違反・忠実義務違反の内容が、平成18年の蛇の目ミシン工業事件の最高裁判例で言及された取締役の善管注意義務・忠実義務の内容にそっくりだからです。

蛇の目ミシン工業事件の最高裁判決

平成18年の蛇の目ミシン工業事件で、最高裁は、次のように判決しました。
ちなみに、蛇の目ミシン工業事件というのは、いわゆる仕手筋として知られる株主が、蛇の目ミシン工業の株式を大量に取得し、それを暴力団の関連会社に売却するなどと取締役らを脅迫したところ、取締役らが、売却を取りやめてもらうため株主の要求に応じて約300億円を融資金の名目で交付するとの利益供与をしたことについて、利益供与を提案をした取締役、その提案に賛成した取締役らの善管注意義務違反・忠実義務違反が問われた訴訟です。

会社経営者としては,そのような株主から,株主の地位を濫用した不当な要求がされた場合には,法令に従った適切な対応をすべき義務を有するものというべきである。前記事実関係によれば,本件において,被上告人らは,Aの言動に対して,警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待できないような状況にあったということはできないから,Aの理不尽な要求に従って約300億円という巨額の金員をIに交付することを提案し又はこれに同意した被上告人らの行為について,やむを得なかったものとして過失を否定することは,できない」

前半の「法令に従った適切な対応をすべき義務」というのは、当たり前のことです。
それ以上に、蛇の目ミシン工業事件の最高裁判決でインパクトがあったのは、具体的に「警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待でき」た、それなのに、期待に即した適切な対応しなかったことが善管注意義務違反・忠実義務違反と言及した点でした。

違法行為発覚後の、取締役の損害拡大防止義務

これを住友電工の株主代表訴訟での株主の主張に即して考えてみます。

株主は「(カルテル)違反を自主申告して課徴金減免を受ける制度を利用せず会社に損害を与えた」とまで主張しています。
この部分は、蛇の目ミシン工業事件の「警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待でき」た、という判決の言い回しとそっくりなのです。
要は、取締役として、カルテルという法令違反が発生した後でも、「法令に従った適切な対応」として「課徴金減免制度(リニーエンシー)」を利用して、課徴金を免除してもらう、イコール会社の損害をゼロにする、という適切な対応をとることが期待できた。それなのに、期待どおりの適切な対応をしなかった。ということです。

蛇の目ミシン工業事件の最高裁判決もそうですが、今回の住友電工株主訴訟の和解からは、取締役は、社内に違法行為が発生しないように日頃から注意義務を尽くすだけではなく、社内に違法行為が発生した場合でも、会社の損害が拡大しないように防止するような対応をとるべき注意義務がある、と自覚していたほうがよろしいかと思います。

逆に言えば、損害拡大防止義務を尽くさなかった取締役は、株主代表訴訟で、株主から「社内に違法行為が発生した。この場合に、具体的に、これこれという行動がとれたはずだ。しかし、その行動をとらなかった。結果、会社に損害が生じた」という具体的な行動まで指摘されて主張されたときには、そこから形勢を逆転して勝ちに行くのは難しいと覚悟した方がよいということです。

実は、これは、かつてのダスキン事件判決でも、原則公表すべき、と判断された点でもあります。
ダスキン事件判決まで言及し始めると長くなるので、今回は、ここまで。

【2014/05/16編集】
内容を一部編集(削除&追記)しました。

顧問弁護士・顧問契約のメリット

いよいよGWが明けてウィークデーが始まりました。
そこで、今日は、いつものニューストピック中心の記事と趣向を変えて、「顧問弁護士」「弁護士との顧問契約」についての記事を投稿します。
リニューアル前はホームページの一コンテンツとして書いていた内容に、若干、手を加えました。

「スポット」型法律相談と「顧問契約」型法律相談

企業が弁護士に法律相談する方法には、「スポット」型の法律相談と、「顧問契約」を結んでいる顧問弁護士との法律相談とがあります。

「スポット」型法律相談

「スポット」型の法律相談とは、企業が弁護士に相談したい案件があるたびごとに弁護士とその都度契約をし、その案件限りの法律相談するという方法です。
たとえば、弁護士に相談したい内容はあるけれど、相談したい案件ごとに弁護士を変えたいというような場合に適しています。

そういった意味では、「スポット」型の法律相談は、「ある特定の案件に限って、その案件の分野に強い弁護士に相談したい。日頃は、弁護士に相談したい案件は他にない。」というように、会社から弁護士に相談したい内容と機会が限定されている場合に適した法律相談の方法です。

顧問弁護士との「顧問契約」に基づく法律相談

「顧問契約」を結んだ顧問弁護士との法律相談とは、企業が毎月一定額の顧問料を弁護士にあらかじめ支払い、その顧問料の範囲内で、顧問弁護士にいつでも法律相談することができるという方法です。

多くの会社は、「法律相談」以前に、単に弁護士の意見を聞きたいだけという場合が多いのように思います。弁護士に法律相談して、相談の結果次第では訴訟を行うことまでも検討しているという状況は少ないのではないでしょうか。
実際、当事務所の場合、顧問契約を締結している会社から連絡いただくことが多いのは「この契約書を簡単に目を通してもらって、弁護士の立場から、一言、法律的なアドバイスして欲しい」「取締役会での経営判断に当たって、弁護士の立場から参考意見を聞きたい」と、法律の専門家である弁護士の立場からの意見を聞きたいという法律相談です。
このような「一言でいいので、法律的なアドバイスして欲しい」「弁護士の立場から意見を聞きたい」という場合は、「顧問契約」型の顧問弁護士による法律相談が適しています。

費用面では「顧問契約」が、実は、お得

「顧問契約」型の顧問弁護士による法律相談は、料金がスポット型の法律相談に比べて割安になるというメリットがあります。

「スポット」型の法律相談の場合、弁護士との相談に時間がかかればかかるだけ、あるいは弁護士による作業量が増えれば増えるだけ、会社が弁護士に支払う報酬が加算されます。
弁護士が請求する法律相談料は、訴訟以外の場合には「タイムチャージ制」になっていることが多いです(事務所によっては訴訟の場合もタイムチャージになっていることもあります)。

タイムチャージ制というのは、1時間あたり○○円と値段が決まっていて、相談時間、作業時間に応じて、○○円が加算されていく方法です。
たとえば、「スポット」型の法律相談に基づいて弁護士に契約書の作成を依頼する場合には、(「弁護士との法律相談に要した時間(企業から弁護士に対する契約の趣旨の説明)」+「弁護士が契約書の作成・修正に要した時間」)×タイムチャージ料 がかかる、という仕組みになります。
法律相談料が1時間だとしても、弁護士が契約書の作成に3時間を要したら、(1時間+3時間)×タイムチャージ料(15分あたり10,800円)=43,200円、が発生します。

なお、当事務所は、契約書、内容証明、意見書の作成などの場合には、一つの文書を作成する業務を委託したという扱いにして、タイムチャージによる加算ではなく、1件あたり5万円(税別)~で費用をご請求することにしています(作業内容によって増額することもございます。)。

これに対して、「顧問契約」型の顧問弁護士による法律相談の場合、事前に支払った顧問料の範囲内であれば、自由に何度でも顧問弁護士に法律相談をすることができます
たとえば、当事務所では、毎月54,000円の顧問料をお支払いただいた場合には、毎月合計2時間までは自由に何度でも顧問弁護士として法律相談をすることができます。
畏まった相談から、ちょっと意見を聞きたいという場合まで、合計2時間までは電話、メール、会議などを自由に行えます。
もし、この2時間すべてを「スポット」型の法律相談で行おうとすれば、4時間×タイムチャージ料(15分あたり10,800円)=43,200円を支払わなければなりません。

費用面で考えると、実は、「顧問契約」の方がお得なのです。

「法律相談」の内容・質の充実度では、「顧問契約」が、ずっとお得

以上のほかに「顧問契約」型の法律相談には、次のメリットが考えられます。

【顧問弁護士のメリット1】いつでも相談できる

「スポット」型の法律相談の場合、 あるいは初めて弁護士に法律相談をする場合には、会社は、弁護士を探し出し、法律事務所に電話やメールをし、法律相談(会議)の予約をしなければなりません。
その結果、弁護士の調整がつかない場合には、電話やメールをしてから法律相談が行われるまでに、1週間くらいあいてしまうこともあります。
しかし、これでは、その1週間のうちに、会社が法律相談しようと考えていた危機やリスクが拡大してしまうということもあります。

これに対して、「顧問契約」を結んでいる場合、会社は、会議という形で法律相談を行わなくても、いつでも、顧問弁護士に電話やメールで相談することができます。
「顧問弁護士に相談したいことができたから、ちょっとメールしてみよう」「顧問弁護士の意見を、ちょっと電話で聞いてみよう」と思えば、いつでも、相談できるのです。
たとえば、社長や役員が取引先に訪問している商談中に疑問が生じたら、その場で顧問弁護士に電話して、法律相談を受けられます。
つまり、会社としては、社内に気になる危機やリスクが発生したときに、いつでも、顧問弁護士の法律相談を受けることができます。

「いつでも相談できる」というのは、危機管理・リスクマネジメントのもっとも重要なポイントの一つです。

【顧問弁護士のメリット2】誰でも相談できる

「スポット型」の法律相談の場合、弁護士に法律相談をするためには、弁護士に相談に行くこと、弁護士に支払う相談料などについて社内での稟議・決裁を経なければなりません。
また、弁護士に法律相談に行くためには、社内の法務担当者が同行しなければならないといった会社もあります。
そのため、法律相談するというだけでも、多くの手間や時間がかかってしまいます。

しかし、「顧問契約」を結んでいる場合には、会社から弁護士に対して毎月顧問料という形で法律相談料が事前に支払われているため、法律相談をするたびに、そのような社内稟議・決裁を経る必要はありません。
また、顧問弁護士への法律相談も、電話やメールだけで簡単に済ませることが可能です。
さらに、法務担当者が不在であったとしても、会社の中の誰でもが法律相談をすることができます。
営業で問題があった、支店や営業所で問題があったというときに、法務部担当者が不在でも、営業や支店・営業所から直接、相談することができます。
そのため、会社としては、社内に気になる危機やリスクが発生したときに、誰でも、顧問弁護士の法律相談を受けることができます。

「誰でも相談できる」ことも、危機管理・リスクマネジメントのうえで、もっとも重要なポイントの一つです。

【顧問弁護士のメリット3】 気軽に相談できる

「弁護士は敷居が高い」ということが、よく言われます。
その敷居の高さ故に、会社として、弁護士に「ちょっと意見を聞いてみたい」「専門家として相談にのってほしい」と思うことがあったとしても、「訴訟になるほどの重大なケースではないし、まだ裁判になるかどうかもわからない」と考えて、弁護士への相談を躊躇してしまう。そんなことがあるのではないでしょうか。

しかし、「顧問契約」を結んでいる場合には、顧問料の範囲内であれば、自由に、何度でも、顧問弁護士に相談することができます。
「ちょっと契約書に見てほしい条文がある」ということや、「取引先に出すアナウンス文書の文面について、法律の専門家としての意見を聞きたい」ということまで、自由に相談することができます。
裁判である必要はありませんし、裁判になるほど重大なケースである必要もありません。 法律問題かどうかがわかっている必要もありません。

弁護士と顧問契約を結ぶと、俄然、「弁護士の敷居は低く」なります。

【顧問弁護士のメリット4】会社の状況に応じたアドバイスを得られる

「スポット」型の法律相談の場合、会社と弁護士とが初対面のことがあります。
また、弁護士が、相談に来ている会社の存在や内情をよく知らないことがあります。
そのため、会社は、法律相談を行う前に、弁護士に対して、会社の概要や業務内容の案内から始めなければなりません。

しかし、「顧問契約」を結んでいる場合には、日々の法律相談を通じて、会社と顧問弁護士とが相互をよく知ることになり、両者の距離は縮まります。
その結果、顧問弁護士は会社の内情をよく知るようになるため、会社は顧問弁護士からその会社の実情に応じたアドバイスやコンサルティングを受けることができるようになります。
「会社のトップがワンマンなので、この問題を、どのように説明していったらいいでしょうか」「社内の根回しは、どの人から順序よく接していけばいいでしょう」という、会社勤めならではの相談をして、そのアドバイスも受けられるのです

会社の実情に沿ったアドバイスを法律の専門家である顧問弁護士から受けることができることは、危機管理・リスクマネジメントの最も重要なポイントの一つです。

【顧問弁護士のメリット5】素早い対応を期待できる

顧問弁護士に法律相談した場合には、顧問弁護士による素早いレスポンス(応答)を期待することができます。
会社経営者が経営判断をしていく中で「顧問弁護士にちょっと相談したい」と考える状況や、法務担当者が「顧問弁護士の意見を確認したい」と考える状況は、弁護士の素早いレスポンスを求めている場合がほとんどだと思います。顧問弁護士からの素早いレスポンスが得られることは、日々の企業経営にとって大きなメリットになります。
顧問弁護士から素早いレスポンスを得られることは、会社にとっては、目の前に起きている(起きつつある)危機やリスクを早急に管理することができることを意味します。
顧問弁護士による「素早い対応」 は、まさに、会社の危機管理・リスクマネジメントの核心となるポイントです。

なお、アサミ経営法律事務所では、電話・メールで相談を受け付けた場合には、原則として、遅くとも24時間以内に、何らかの応答をすることを心がけています。

【顧問弁護士のメリット6】社外に対する信頼を得られる

会社が取引先と交渉する場合や紛争に巻き込まれた場合に、経営者や担当者が「私は『・・・』と思う」と自分の考えを取引先に説明するのと、「顧問弁護士に意見を聞いていた」「顧問弁護士によると法的には『・・・・』だということだ」と弁護士の意見として対外的に説明するのとでは、取引先に与える信頼感が異なります。
「顧問弁護士に聞いてきた」という一言だけで、あなたの会社は、取引先から「この会社は顧問弁護士がいるのか」「弁護士が専門家としてそういっているなら仕方がない」と信頼されることになるのです。

もちろん、ビジネスの場での解決ということで、法律論がそのまま紛争解決の基盤になることはないかもしれません。
それでも、「法的に優位な立場にあるから、この紛争解決に向けて譲歩してもいい」というスタンスで取引先に接するのと、「法的な優位な立場にあることを知らないまま、お得意先だから紛争解決に向けて譲歩せざるを得ない」というスタンスで取引先に接するのとでは、問題解決の落とし所も変わってきます。

【顧問弁護士のメリット7】社外との交渉・紛争解決がしやすくなる

メリット6とも関連でいますが、顧問弁護士に「いつでも」「誰でも」「気軽に」相談することができる結果、会社は、取引先と交渉しなければならないケースに直面した場合や、取引先との紛争に巻き込まれた場合に、顧問弁護士からのアドバイスを受けながら、交渉や紛争解決に望むことができます。
会社が交渉や紛争の当事者となって周りが見えないような状況に陥った場合でも、顧問弁護士が、交渉や紛争の内容を第三者としての立場から客観的に見つめ、的確なアドバイスをすることで、当事者ではできなかった冷静な解決ができるようになります。
危機管理やリスクマネジメントにおいて、最も重要なのは、当該会社以外の第三者が見たときに、その交渉や紛争解決が的はずれではないといえることです。
その意味で、交渉や紛争解決の際に、顧問弁護士の意見を聞くということは、会社の危機管理・リスクマネジメント上、必要不可欠な要素です。

【顧問8】法務コストを削減できる=法務のアウトソーシング

「コンプライアンス」という概念が浸透してきたこともあり、大手企業、特に上場企業では、法務部門・総務部門を強化しています。

その一方で、中小企業の場合、法務部門・総務部門にまで力を入れる余裕がないという企業が多いのではないかと思います。
そのため、中小企業では、社内で法律問題に直面したときに、専門の部署の担当者が問題を解決することは難しく、他の部署の担当者が他の仕事と掛け持ちで法律問題を解決するしかありません。
しかし、「顧問契約」を結んでいる場合、会社は、社内の法律相談を、顧問弁護士にアウトソーシングしてしまうことができます。その分、法務部門・総務部門の人材確保、人材育成にかける費用やコストを削減できます。
そのうえ、法律に詳しくない社内の担当者が直面した法律問題について調べている間に、顧問弁護士に相談して回答を得てしまえば、時間の節約にもなります。

また、顧問弁護士は、法律の専門家です。法律知識が中途半端な社内の担当者が間違った法的判断をするのであれば、社外の顧問弁護士に法律の専門家としての意見を聞いた方が確実で安心です。
顧問弁護士がいることは、法律に照らした判断を誤らないという意味でも、危機管理・リスクマネジメントのもっとも重要なポイントの一つです。

【顧問弁護士のメリット9】全国・どの業種でもOK

当事務所では、原則として、どのような業種の企業様でも、顧問弁護士就任のご依頼があった場合には、お引き受けいたしております。ただし、反社会的勢力と関係する企業、コンプライアンス違反から改善する姿勢が見られない企業との契約はお断りしております。

東京以外の企業でも、電話やメールが主な相談方法になること、場合によってはスカイプなどを利用したオンラインでの相談になることで構わないのであれば、顧問契約を締結し、顧問弁護士としての職務を遂行させていただいております。実際に、現在も、北は北海道、南は福岡、長崎から相談を受けています。

【顧問弁護士のメリット10】顧問割引制度が活用できる

当事務所では、顧問契約を結んでいる場合、裁判になった場合の着手金・成功報酬の算定にあたって、顧問割引制度を導入しています。

たとえば、「スポット」型の法律相談によって、訴訟を依頼された場合、原則として、着手金は請求額の5%相当、成功報酬は勝訴額の10%相当として計算しております。
しかし、「顧問契約」を結んでいる場合には、着手金・成功報酬を、スポット型の法律相談による場合の80%(20%割引)とさせて頂いております。

「アメーバ経営」とコンプライアンス体制・危機管理体制

GWもいよいよ終わりに近づいてきました。
幸い、GW後半は天気にも恵まれたので、一日中外にいたら、激しい紫外線の影響で真っ赤に日焼けしてしまいました(例年のことですが)。顔が痛いくらいに赤黒く・・。
GW明けからビジネス街や裁判所には相応しくないほどの色黒さで、「あの人は、何の仕事をしているのか?サイパンでも行ったのか?」という奇異の目で見られる日がまたやってきます。

「アメーバ経営」をコンプライアンス、危機管理の分野に活かす

このGWに、日本航空(JAL)が「アメーバ経営」を拡大して、売上高営業利益率10%以上を維持することを目標とするとの報道がありました。

「日本航空は2010年の経営破綻後、京セラから取り入れた部門別採算制度をグループ全体に広げる。本体と運航系や整備系の連結子会社19社で導入済みだが、15年度末までに販売系を含む主要な連結子会社35社に拡大する。部門別採算制度の適用拡大により、燃油費を除くコストを16年度までに13年度比で年間約400億円削減し、売上高営業利益率10%以上の連結財務目標を堅持する。」
(日本経済新聞平成26年5月4日(日)朝刊より)

要は、事業部制をもっと細分化して10人程度のグループに分け、各グループごとに採算が取れているかどうかを判断する方法を「アメーバ経営」と呼ぶそうです。

この「アメーバ経営」の経営論としての是非はともかく、実は、この方法論は、社内コンプライアンス体制、社内危機管理体制にこそ生きるのではないかと思います。

多くの会社のコンプライアンス体制、危機管理体制

多くの会社では、社内コンプライアンス体制、社内危機管理体制と称して、

  1. 全社的なコンプライアンス規程や危機管理規程を作成し、
  2. 社長をトップに据えて、情報が各従業員からトップにあがるような仕組み作り、
  3. また、各従業員に対しトップからの指示が効率よく伝達されるような仕組み作り、
  4. さらに、業務手順の中に決裁項目を増やす、あるいはルールを増やす

ということに取り組んでいるようです。

ただ、社内コンプライアンス体制、社内危機管理体制で重要なのは、規程、仕組み、決裁・ルールのいずれでもないと思っています。
結局のところ、それらは、一度作ってしまえば、あとからは変更が利きにくい、「会社が決めたもの」として「従わなければならないもの」と、役員・従業員に理解されてしまいます。
ひいては、役員・従業員は「規程、仕組み、決裁・ルールを守る」ことに比重を置き、最終目標であるコンプライアンスの徹底、危機管理の実践は眼中になくなってしまうケースが往々にあるからです。

「アメーバ・コンプライアンス」「アメーバ危機管理」

むしろ、社内コンプライアンス体制、社内危機管理体制で重要なのは、役員・従業員同士による相互チェックと、個々人のコンプライアンス・危機管理に対する意識の向上です。
個々人の意識が向上した結果、最終的に、全社的に意識が向上したということになれば、理想的な組織だと思います。

こうした考え方にマッチするのが、「アメーバ経営」の手法ではないかと思います。
「アメーバ・コンプライアンス」「アメーバ危機管理」と表現してもいいかもしれません(私が勝手に命名)。

どういうことかというと・・

社内を10人くらいずつの集団に分ける。多くの会社では、1つの課・グループ単位、もしくは1つの島単位になるかもしれません。
この10人くらいずつの集団の中で、従業員同士による相互チェックと、個々人のコンプライアンス・危機管理の意識の向上を図るのです。

従業員同士の相互チェック

従業員同士の相互チェックは、イメージが掴みやすいかと思います。
同じ課・グループ・島にいる従業員が、日常業務の中でミスをしていないか、ミスを隠していないか、ミスを起こした場合の社内対応・社外対応をどうするか、これを日頃からチェックしあう。
チェックといっても、「チェックリストを作る」とかではありません。
「先週、仕事でこんなことに困ったと言っていたけど、どう解決したのか」「この前、仕事でミスをしたと言っていたけど、原因はなんだったのか」「この前、取引先からの要求で困っていると言っていたけれど、何を要求されたのか」など、コンプライアンス、危機管理に関わる内容を、日頃から会話するというだけで充分です。

従業員個々の意識の向上

日頃からコミュニケーションを取っておくことで、1つの課・グループ内では、ミスの共有、原因の共有などができます。
その結果、各人が「こういうミスが起きやすい」「ミスが発生する場合には、こんなことが問題になるのか」などの、コンプライアンス・危機管理の勘所を養っていくことができるようになります。勘所が養われれば、コンプライアンス・危機管理の意識も向上していきます。
また、同僚から仕事でのミスなどを指摘されることで、ミスを隠蔽することも難しくなります。つまり、ミスが発生したら、早期に会社に報告しておこうという姿勢に繋がって行きやすいです。
もし、1つの課・グループ単位では対処することが困難であるような事情が存在していることがわかれば、その時こそ、仕組みやルールに基づいて、社内で報告し、対処法への舵取りを待つ。これによって、社内でも不祥事の隠蔽などを見つけやすくなります。会社には早期発見というメリットもあります。
もっといえば、目の届く範囲の同僚たちと日頃からコミュニケーションを取っておくことで、もし万が一、何かが起きた場合でも、「とりあえず課・グループ内には報告しておこう」と、情報報告のハードルが低くなるというメリットもあります。

「アメーバ・コンプライアンス」「アメーバ危機管理」の実践

現実的には、「コンプライアンス責任者」という肩書きを有する社員を1つの課・グループに配置し(課・グループ内から選ぶ)、毎週・毎朝、「先週のミス」「昨日一昨日のミス」などを朝会の場などで話し合いして、それをトップに繋がるルートに報告する(ミスがなかったときには「ミスがなかった」と報告する)、という取り組みをすることになろうかと思います。

なお、コンプライアンス責任者に選ばれた人の意識が低いと、そもそも、そうした課・グループ内でのコミュニケーションが満足に行われない、情報がコンプライアンス責任者の耳に届いたとしても、緊張感を持たずに、コンプライアンス責任者からトップに繋がるルートに報告しないということが起きてしまいます。

実際に、コンプライアンス責任者と呼ばれる人を選任して、毎週、本社に報告を入れることをルール化している企業は存在します。
しかし、その場合でも、コンプライアンス責任者の報告内容が不十分である、コンプライアンス責任者からの報告が行われないなどのこともあります。
そうした場合には、会社としては、コンプライアンス責任者を即時に指名替えするなどの対処をしていくことが必要です。

同種事案が連続で発生した場合の情報保存管理体制に対する取締役の責任

秘密管理性に疑義がある企業秘密の漏えい

先日、会社にとっての企業秘密であっても、秘密管理の方法がずさんなら、不正競争防止法の「営業秘密」として、法的に保護されないとのエントリーを書きました。

情報管理のためにパスワードを設定しても、秘密管理がずさんなら「営業秘密」として保護されない

先日のエントリーのきっかけになったケースと同種の情報漏えい(情報紛失)が連続して発生しています。

「航空会社AIRDO(エア・ドゥ)の男性社員が、羽田空港の第1、第2ターミナルビルの職員専用エリア出入り口の暗証番号を記した紙を紛失していたことが2日、分かった。」(日本経済新聞平成26年5月2日(金)夕刊より)

「ANAホールディングスの子会社「ANAウイングス」の30代男性パイロットが、全国30以上の空港の関係者専用エリアに出入りできる暗証番号を記載したメモを一時紛失したことが2日、分かった。」「パイロットは4月25日未明、酒を飲んだ後、愛知県内のコンビニ店でかばんごとメモを置き忘れた。店員が約1時間後に愛知県警に届け、同日中にパイロットに戻った。」(日本経済新聞平成26年5月3日(土)朝刊より)

4月20日にスカイマークの社員が、暗証番号を書いた紙を20分間紛失して、暗証番号の変更を余儀なくされてから、わずか2週間足らずで2件の同種事案が発生したことになります。

航空会社の秘密管理性

エア・ドゥもANAウイングスも「暗証番号は暗号化」され、暗証番号を知った人が、そのままでは使えないように対処している点は、暗証番号が漏えいしたときのことを想定した予防策を講じていたということなので、この点は評価できると思います。

しかし、スカイマーク、エア・ドゥ、ANAウイングスの3社に共通しているのは、暗証番号を記載した紙を所持してたが故に、それを紛失した(暗証番号を紙に記載して持ち歩くことには対策を講じていなかった)、ということです。この点は非難されるべき点です。

そもそも暗証番号を紙に書いて持ち歩くことの是非については、先日のエントリーに書いたとおりです。
今日は、それとはまた違う角度から、暗証番号という情報のセキュリティ・情報管理に対する取締役の責任に触れてみたいと思います。

「情報保存管理体制」の整備についての取締役の責任

情報セキュリティの目的は、企業の損害発生の予防

企業が、情報セキュリティ対策を講じる最大の理由は、企業秘密や顧客情報などが漏えいして、漏えいの被害者(取引先や顧客)から企業に対する損害賠償を防ぐためです。裏を返せば、企業に個人情報を預けてくれた人に余計な損害を生じさせないように防ぐためです。
もう一つ付け加えるなら、企業の情報管理体制に対する世の中からの批判を防ぐ、情報管理に対する信頼を確保するためでもあるといえます。

このように情報セキュリティ対策を講じるのは、どちらかというと、企業が賠償を負担することがないようにとの企業危機管理的視点からの損害賠償対策に重きがおかれていました。

情報の保存管理体制の整備義務

しかし、企業の取締役・取締役会の立場に立って考えてみると、企業がこうした損害賠償対策を講じることは、単に、将来の損害賠償を予防するため、企業に個人情報を預けてくれた人に余計な損害を生じさせないようにするため、企業の信頼を維持するためだけを意味するものではありません。

取締役・取締役会にとっては、暗証番号を含む情報の保存管理をしなければならないことは法的な義務なのです。
取締役・取締役会は、いわゆる「内部統制システム」、会社法の言葉を用いれば「業務適正確保体制」を整備しなければならない法的義務を負います。
この「業務適正確保体制」の中には、「情報の保存及び管理に関する体制」を含むと定められています。
すなわち、取締役・取締役会は、「情報の保存及び管理に関する体制」を整備しなければならない法的義務を負っている、と理解できます
この保存・管理されるべき「情報」には、本件のような暗証番号は当然、含まれます。

企業が取り組むべき情報の保存管理体制の整備

航空会社各社が情報の保存管理体制としてルール化すべき内容

航空会社各社にて、一連の暗証番号の紛失が発生した原因は「従業員が暗証番号を記載した紙を紛失」したことでした。
この原因からは、そもそも、従業員が暗証番号を記載した紙を持ち歩くことがなければ問題は生じなかったはずである、ということがわかります。

そうだとすれば、取締役らは、暗証番号という情報の保存管理体制として、「従業員が暗証番号を紙に書き出さないようにする」あるいは「暗証番号を書き出した紙を持っている場合には持ち歩いてはいけない」といった、暗証番号を紙に書き出すことを禁止する、暗証番号が書かれている紙を持ち歩くことを禁止するところから体制を整備(ルール化)していかなければならない、ということになります。
紙への書き出しを禁止するのか、暗証番号が書かれた紙の持ち歩きを禁止するのかは、どちらがいいかは取締役らの裁量です。
今のように、暗証番号が漏えいしたときに備えて暗証番号をそのままでは使えないとする体制(ルール)だけでは、不十分ということです。

情報の保存管理体制を整備・改善する時期

では、取締役らは、いつ、こうした情報の保存管理体制の整備に取り組まなければならないでしょうか。答えは、「今すぐ」です。

一連の暗証番号の紛失事案が続いていますので、各企業の取締役は、暗証番号の紛失という危機の存在を知った状態にあります。
この場合、取締役は、暗証番号の紛失という危機を回避しなければなりません。
危機の存在をしっているからこそ、再発を予測できるし、再発を回避することもできます。
となると、暗証番号の紛失事案が続発している今こそ、こうした情報の保存管理体制の整備、改善に取り組まなければならないのです。

情報の保存管理体制の整備義務違反の責任

他方、今すぐには、暗証番号の保存管理体制を整備しないで放置していた。
整備するまでの間に、暗証番号が再度、外部に漏えいしてしまった。
そのうえ、今までの報道とは異なり、暗証番号を入手した第三者がそれを悪用して、空港内の立入禁止エリアや一時的な立入制限エリア、特に航空業務に支障が出るようなエリアへの立入などが発生してしまった。

こうした事態に至ってしまった場合、取締役は情報漏えいという危機の存在を知っていたのに、情報の保存管理体制を整備していなかったという評価になりかねません。
しかも、再発を予測して情報保存管理体制を整備することは容易に可能だったのに、整備しなかったという評価になります。

そうなれば、万が一、暗証番号を入手した第三者がそれを悪用し、航空業務に支障が生じるような事態に陥れば、取締役は情報の保存管理体制を整備する法的義務を履行していなかったことを理由に、法的責任(損害賠償など)を問われる可能性があります。