Jリーグ 八百長警報の発表

企業で不祥事が発生した場合、今でこそ、積極的に公表する企業は増えてきました。
そうはいっても、まだまだ「公表することは控えたい」との本音を抱いている企業も多い印象を受けます。

企業の判断がまだまだ分かれる中、不祥事が現実に発生したわけではないのに、不正の疑いがあるとの警告を受けとったというだけの段階で、その事実を公表した組織があります。
サッカーのJリーグです。

「Jリーグは18日、世界各地のインターネットで行われているサッカー賭博に絡み、J1の試合で異常とみられる賭け方が発見されたとして八百長を監視するシステムから初めて警告を受け、調査したと発表した。不正の疑いもあるとして選手ら関係者約50人を聞き取り調査した結果、八百長はなかったと結論づけた。」(2014年3月18日共同通信より)

警告を受けただけで組織内の調査を行ない、八百長という不正がなかったのに発表したのです。
不正がなかったのに公表するというのは異例です。

なぜ、ここまでの異例の公表をしたのか、また公表ができたのか。
その背景を考えながら、企業の理想的な不正な事実の公表の時期について考えてみます。

不正を早期に公表することは企業の存在意義に関わる

Jリーグが早期公表の理由(推測)

Jリーグが異例の公表をした背景として推測できる理由の一つは、万が一、八百長が事実として存在すればサッカーの人気は凋落してしまう、ということだと思われます。

Jリーグはプロスポーツです。プロスポーツは人気があってナンボの世界です。誰も見に来ないならプロスポーツとは言えません。
日本代表が盛り上がっている、日本人選手が活躍して盛り上がっているのに、もし国内で八百長が発覚したとすれば、もし八百長の事実を隠していたとすれば、その盛り上がりは消えてなくなるかもしれません。
こうした背景が、警告段階という早期での公表をした理由であり、また早期に公表できた理由ではないかとも考えられます。

企業が不正を早期公表しなかったとしたら・・

さて、これを普通の企業に置き換えてみましょう。

企業はプロ営利集団です。プロ営利集団は売上を上げられてナンボの世界です。誰も商品を購入しないなら、誰もサービスを利用しないなら、プロ営利集団とは言えません。
企業の知名度が上がってきている、企業の好感度が上がってきている、商品・サービスの人気が高まっているのに、もし社内で不正が発生し、もし不正があった事実を早期に公表しなかったとしたら、どうなるでしょう?

後に、不正の存在が公になったときに、企業が不正を認識した時点で公表しなかったのは、なぜか?隠していたのか?と、社会から疑われます。
隠していたと疑われれば、企業の知名度、好感度、人気は一気に地に落ちます。
究極的には、損失拡大、売上低下、事業縮小、会社の清算に発展するかもしれません。

たとえば、食品メーカーで食品に異物が混入している事実が存在するのに、それを早期に公表しなかったとしたら・・。
自動車メーカーがブレーキに異常が発生している事実が存在するのに、それを早期に公表しなかったとしたら・・。

要は、早期に公表しないことは、組織や企業の存在意義を失わせることがある、ということです。

不正の公表と、企業の社会的責任(CSR)

企業の社会的責任と不正の公表

企業が不正を認識したときに早期に公表しないことが、存在意義に関わるということは、企業の社会的責任(CSR)であるとも言えます。

食品メーカーの例で言えば、食品を口にする消費者の安心や安全に対する社会的責任を負います。
自動車メーカーの例で言えば、自動車を運転するドライバーや乗車する人、さらに自動車の周辺にいる人たちの安全に対する社会的責任を負います。

そうした社会的責任を果たすためには、事実を認識した段階で早期に公表しなければならないということはわかるはずです。
公表が遅れて、誰かの安心、安全が損なわれてからでは社会的責任を果たさなかったことになってしまうからです。

Jリーグの例でいえば、プロスポーツ=選手たちが頑張っているから応援するというサポーターたちの信頼に対する社会的責任を追っている、と考えることができます。
人気があるかどうかが大事なプロスポーツの場合には、疑いすらも存在しないとサポーターに信じてもらわなければなりません。
それが、警告段階での異例の公表に繋がったのではないかと思います。

クライシス・コミュニケーションの観点から、ダスキン事件大阪高裁判決を読む

ダスキン事件と取締役の善管注意義務違反

会社に不正が発生した場合、その事実を公表することは、取締役の善管注意義務でもあります。

この点に関する重要な裁判例として、ダスキン事件の大阪高裁平成18年6月9日判決が存在します。

ダスキン事件というのは・・
ダスキン(ミスタードーナツ)が販売していた肉まんに、国内で認可されていない添加物が使用されていた。取引先業者からその事実を指摘されたものの、公表することなく、担当取締役が取引先業者に金銭を支払い事実を公表せず販売を継続。その2年後、行政の立入り検査を受けて公表した。結果、加盟店への営業補償、信頼回復のためのキャンペーン費用など約105億円の損害が発生。この損害について、株主が取締役を相手に代表訴訟を提起した・・という事件です。

大阪高裁判決は、公表の是非について、次のように判断しました
(ちょっと長めに引用します)。

これの混入が判明した時点で,ダスキンは直ちにその販売を中止し在庫を廃棄すると共に,その事実を消費者に公表するなどして販売済みの商品の回収に努めるべき社会的な責任があった」

一審被告Y2が本件混入や本件販売継続の事実を知りながら,事実関係をさらに確認すると共に,これを直ちに社長である一審被告Y1に報告し,事実調査の上で販売中止等の措置や消費者に公表するなどして回収の手だてを尽くすことの要否などを検討しなかったことについて,取締役としての善管注意義務の懈怠があった」

一審被告Y1は食品販売事業をその事業の一環とするダスキン代表取締役社長である。前年末に本件混入や,混入を知りながらあえてその販売を継続するという食品販売事業者としては極めて重大な法令違反行為が行われていた事実が判明した以上は,その実態と全貌を調査して原因を究明し再発防止のために必要な措置を講ずることはもとより,直ちに,担当者によって取られた対応策の内容を再点検して,食品衛生法違反の重大な違法行為により食品販売事業者が受けるおそれのある致命的な信用失墜と損失を回避するための措置を講じなければならない。その中で,マスコミ等への公表や,監督官庁への事後的な届出の要否等も当然検討されるべきである。」

現に行われてしまった重大な違法行為によってダスキンが受ける企業としての信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討することこそが,このとき経営者に求められていたことは明らかである。ところが,前記のように,一審被告らはそのための方策を取締役会で明示的に議論することもなく,「自ら積極的には公表しない」などというあいまいで,成り行き任せの方針を,手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは,到底,「経営判断」というに値しないものというしかない。」

ダスキン事件が言及した、公表時期、公表原則論

注目すべきは、公表は「社会的な責任」と明言している点です。
法的責任に留まらず、不正の公表は社会的責任と言及しているのです。
この点は、あまり指摘されてこなかった部分かもしれません。

大阪高裁は、それに加えて、取締役は、公表の必要性を検討することは「当然」とまで言い切り、さらに、「積極的に公表しない」という方針を決するには取締役会での議論を経た経営判断をしなければならない、とまで述べているのです。

これは、どういうことかというと、不正があれば公表を検討するのは当然であり、公表しないなら取締役会で経営判断と呼ぶに値する議論を経てからでなければならない(議論を経なければ公表しなければならない)、ということです。
もはや、企業は「公表したくない」という考え方は通用しない(そのような選択肢はない)と思った方がいいでしょう。

ダスキン事件判決まで見ていくと、Jリーグが八百長の警告を受けた時点で、その事実を公表することは社会的責任に沿ったものであり、公表したことはダスキン事件判決どおりの対応だったと理解することができます。
企業は、クライシス・コミュニケーションとして、この公表の姿勢やタイミングを学んでいく必要がありそうです。