謝罪・記者会見は社長じゃないとダメなのか?

昨日、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)方法論序説として、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)には戦略目的を具体的に設定することが大事であるということを書きました。↓
危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)方法論序説

今日は、不祥事を起こした会社からご相談を受ける場合に、多い相談の一つ、「記者会見は社長がやらないとダメですか。」「謝罪の手紙は社長の文責じゃないとダメですか」「広報部や総務部の担当役員ではダメですか。」にお答えしたいと思います。

社長は謝罪・記者会見をするからこそ「代表」取締役

答えを先に言うと「記者会見も謝罪の手紙も代表取締役である社長の仕事」であり、謝罪をしなければならなくなった経緯、記者会見をしなければならなくなった経緯、不祥事の内容や程度によっては「社長ではなくても構わない」というのが結論です。

それは、なぜか?

社長は「代表」取締役だから、です。

会社が不祥事を起こして、記者会見をしなければならないケース、謝罪の手紙を消費者や顧客に送らなければならないケース、ホームページにリリースを出さなければならないようなケース、これは、どれも不祥事の程度が重大である場合や不祥事によって被害が生じる範囲が拡大するおそれがある場合です。

たとえば、食品メーカーの工場で従業員が毒物を混入させていたというケースが起きたとしましょう。
これは、消費者の生命・身体に影響が及ぶ可能性があるほどの重大な不祥事です。
しかも、食品が出荷され小売店の店頭に並んだ後に発覚したのであれば、食品が多くの地域に配送され、食品を口にする消費者の数が拡大する可能性さえあります。
毒物混入の事例ではありませんが、2000年に発生した雪印集団食中毒事件では、食中毒の被害者数は1万4780人とされています。

食品メーカーは、消費者の口に運ばれる物を作っている会社です。
その会社が消費者の口に毒物を運ぶ事態を招いたとなれば、会社の存在意義に関わります。
「今後も、わが社がこの社会に存在してもいいですか。許してもらえますか」ということを世の中にアピールして、社会や消費者からの信頼を回復するために、記者会見や謝罪の手紙を出すのです。

このようなアピールをしなければならない場面を「代表」取締役以外が行うことは、考えられません。
こういう行動を会社を対外的に「代表」して責任を持ってやれるからこそ、「代表」取締役と名乗っているのです。
もし責任を持ってやれないのであれば「代表」なんて肩書きを付けているのが恥ずかしいくらいです。
表に出るのが嫌なら「代表」から降りてしまえ、「代表」を名乗るのはおこがましい、とさえ思います。言い過ぎかな

食品メーカーの事例で例え話をしましたが、BtoCではない会社であっても同じです。
例えば、研究機関において論文ねつ造か否かが問題になるような事態が生じた場合を想定しましょう。
論文がねつ造されたからとそれによって、消費者や社会に具体的な被害が生じるわけはありません。被害が拡大する可能性はありません。

しかし、研究機関を通じて発表された論文が世界的に注目を浴びるような研究成果を内容としていた。あるいは、研究機関そのものが純然たる民間企業ではなかった(国の資本や補助金をもらっていた、国の監督下にあるなど)。
そういった場合、論文のねつ造が疑われるということは、研究機関の存在意義に関わります。
先の食品メーカーの事例と同じように、研究機関も「今後も、わが研究機関はこの社会に存在してもいいですか。国の資本や補助金という名の税金投入を許してもらえますか。」ということを世の中に問い、信頼を回復するために、記者会見なりを行うのです。
そのため、研究機関のようなBtoCではない組織であっても、「代表」の地位にある者が当初から責任をもって記者会見を行うべきなのです。

記者会見、謝罪をするのは、代表取締役社長に限られるわけではない

業務担当取締役、総務・広報担当取締役、部長が表に出ていい場面

だからといって、会社が不祥事を起こして記者会見をしなければならない場面、謝罪をしなければならない場面すべてに代表取締役が登場しなければならないかというと、そこまで硬直なものではありません。代表取締役でなくて、業務担当取締役や総務・広報担当の取締役や部長が行っても許される場面はあります。

代表取締役が記者会見に間に合わない場合

一つには、緊急時で、代表取締役が記者会見に間に合わない場合です。
実際にあったケースでは、記者会見時に代表取締役社長が海外出張中だったので、副社長、専務取締役が行ったというものがあります。
この場合、副社長、専務取締役が記者会見を行ったのは、あくまでも、代表取締役の代行として、です。そのため、代表取締役社長が出張から戻ってからは、代表取締役社長が記者会見を行いました。

被害の重大性がない、拡大可能性がない(被害者が少数特定できる)場合

もう一つは、記者会見を行うほど事案は重大ではなく、また被害が拡大する可能性はないけれども、あえて記者会見や消費者に対して謝罪文を発信する場合です。
実際にあったケースでは、顧客の氏名、住所、取引履歴などの個人情報が漏えいしたものの、漏えいした個人が特定されている、漏えいした情報件数が少数である、顧客と直接連絡が取れるといった場合です。

この場合、そもそも、顧客が特定されて、直接連絡を取れるわけですから、あえて、記者会見をして、世の中に個人情報が漏えいした事実を公にする必要まではありません。
しかし、個人情報の管理について世の中の目が厳しくなっているという背景や、個人情報の管理を世の中から厳しい目で見られる業種である場合には、あえて記者会見を行うということはあります。
この場合には、本来は記者会見を行う必要まではなかったのに、あえて記者会見をやる、というのですから、そもそも、代表取締役が登場するまでもない、ということです。

また、このような顧客が特定されて、直接連絡を取れるような個人情報漏えいのケースでは、会社から顧客に対して謝罪の手紙を送ることがあります。
この場合も、漏えいした個人情報の内容次第では、個人に生じる被害の程度が小さいともいえます。
そのようなときには、業務担当取締役や総務担当取締役名義で謝罪をすることもありえます。

「記者会見・謝罪は社長じゃなきゃダメですか?」ではなく「この場合には、記者会見や謝罪を社長以外に任せてもいいですか?」という思考経路への転換を

記者会見や謝罪は代表取締役社長が責任をもって行うのが基本ではあるけれども、内容や状況次第では、代表取締役社長以外が行うことでもいいということはわかっていただけたかと思います。

実は、この説明の流れ、つまり、本来は代表取締役社長が行わなければならないのだけれども、内容や状況次第では代表取締役社長以外が行っても「許される」という発想の順序は、絶対に身につけて欲しいことです。

この考えの順序を身につけられれば「記者会見・謝罪は社長が出なければダメですか?」という疑問は出てこなくなります。
代表取締役社長が記者会見・謝罪をするのが当然の前提になるからです。
この考えの順序を身につければ、「(代表取締役社長が記者会見・謝罪をしなければならないことはわかっているけれども)社長以外が記者会見・謝罪をしても許される場面ですか?」「社長以外に任せても構わないですか?」という、代表取締役社長以外が許容される場面かされない場面かを問うような言葉遣いになるはずなのです。