契約社員・非正規社員の正社員登用という現象

2014年4月以降、「契約社員・非正規社員の正社員登用」というニュースが相次いでいます。

正社員化全体(平成26年4月4日付け日本経済新聞朝刊より)

中には、契約社員が正社員と同じ労働組合に加入することを認めたというニュースまで報じられています。

「三菱東京UFJ銀行の窓口業務などを担う約1万2千人の契約社員が正社員と同じ労働組合に入れるようになった。今春、希望する7千人が加入。新たに銀行と雇用契約を結ぶ人は全員が組合員になる。契約社員の大規模な組織化は大手銀行で初めて。」(平成26年4月4日付け日本経済新聞朝刊より)

「人手不足」「人材確保」は本当か?

これらのニュースを見ると、一様に「人手不足」「人材確保」「優秀な人材をつなぎ止めるため」「経験のある契約社員を定着させる」などが理由として報じられています。

でも、本当にそうなのでしょうか?

今までも、仕事はあったはずです。
景気が良くなっているからといって、急に、契約社員や非正規社員を正社員に登用しなければならないほど仕事が増えたのでしょうか。
景気が良くなって仕事が増えたとしても、契約社員や非正規社員がそのままの地位ではいけないのでしょうか。
契約社員や非正規社員の中に、急に、優秀な人材が増えたのでしょうか。
正社員登用にするだけではなく、正社員と同じ労働組合に加入できるようにすることまで必要なのでしょうか。

素朴に不思議に思っているので、その理由を考えてみようというのが、今回の投稿のテーマです。

有効求人倍率の変化

景気が良くなって、本当に人材不足になっているかどうか。
それを確認するのに一番手っ取り早いのが、有効求人倍率が増加しているかどうか、です。

日経新聞に載っていた有効求人倍率の変動表を見ると、たしかに、上昇していることは間違いありません。
しかし、その実際は、2013年までは1.0倍を切っていたのが、10%増加して、2014年3月時期で1.07倍になった程度。
業種別に見ても、前年度比微増。
求職者数、採用人数に具体的に落とし込んだとしても、到底、1社あたり契約社員を100人〜1万人単位で正社員化するほどの人材の必要性があるとは思えません。

そうなると、契約社員・非正規社員の正社員への登用には、別の理由がありそうです。

職業別有効求人倍率雇用改善比率(平成26年5月2日付け日本経済新聞夕刊より)

「ブラック企業」と批判されることと企業の社会的責任

そこで考えられる理由の1つは、最近流行りの「ブラック企業」とのレッテルを意識した採用ということです。
「ブラック企業」、端的に、労働基準法違反・労働契約法違反・労安衛法違反という違法行為を行っている企業と、違法までではないけれど従業員を酷使するイメージがついている企業に付けられている、ありがたくない異名です。

この異名が付けられてしまうと、企業の社会的信用や評価、イメージはダウンします。
そうなると、企業は、対策として、世の中の労働者の動向、世の中の目を意識しなければならなくなります。

そうした労働者の動向や世の中の目を意識して、企業が、次のような発想に立って対策を講じたということが推測されます。

企業は組織体、あるいは社会の公器として、体力があるなら、人材を採用して、労働の対価を十分かつ適正に支払わなければならない。企業には、労働者や社会との関係において、そうした社会的責任がある。こうした社会的責任を意識した人事採用を企業がするようになった。

・・という推論です。
正解どんぴしゃりではないかもしれないけれど、大きく外れてはいないのではないかな、と思います。

改正労働契約法が4月1日から施行されている

ただ、もっと掘り下げていくと、本当のところは、改正された労働契約法が2014年4月1日から施行されたことが、企業の背中を押したのではないかな、とも思います。

どういうことかと言うと、改正労働契約法は、次のようなルールを定めました。

  1. ある企業に2013年4月1日以降通算5年超契約更新されている契約社員は、労働者が希望すれば、正社員になれる。
  2. 契約が更新されていたとしても、契約と契約の間に6か月以上の空白期間がある場合には、その前後の労働契約期間は通算されない。※契約期間によって空白期間は長短します。
  3. 職場(事業場)が変わっても同一の企業なら契約期間は通算される。
  4. 契約期間中に育児休暇などを取った場合でも契約期間の通算期間にはカウントされる。

このルールができた結果、企業は、4月1日以降、繰り返し契約更新している契約社員を、順次、正社員として登用しなければなりません。
労働契約法どおりなら、最短で、2018年4月1日以後には、契約社員を正社員として登用しなければならない法的義務が生じます。
どのみち、2018年4月1日以降に、そうした法的義務が生じるなら、今のうちに、仕事を知って経験と技術のある契約社員を正社員化して、囲い込んでしまおう。
今なら景気も良いので、多少の人材確保のゆとりもある。
これが本音ではないのかな、と推論しています。

正社員に登用以外に、本当に人材を確保するための取り組み

正社員と契約社員・非正規社員の労働条件の統一

とはいえ、すべての企業が契約社員・非正規社員の正社員登用を前倒しするわけではありません。
契約社員・非正規社員を正社員として登用した企業にも、契約社員がまったく居なくなるわけではありません。
そうなると、正社員採用されていない契約社員・非正規社員の仕事へのモチベーションの確保も必要です。

そこで、企業によっては、正社員と契約社員・非正規社員の労働条件を同じにしようとすることを試みようとしています。
「同一労働同一賃金の原則」の実現といってもいいかもしれません。
同じ仕事しているなら、正社員と契約社員・非正規社員の労働条件を同じにしてしまおうという考えです。

「家具小売り世界最大手イケアの日本法人、イケア・ジャパン(千葉県船橋市)は9月をメドにパートの待遇を見直し、フルタイムで働く正社員と同等にする。契約期間を原則廃止したり、時間当たりの賃金水準をそろえたりして、正社員との垣根をなくす。」(平成26年4月16日付け日本経済新聞朝刊より)

「同一労働同一賃金の原則」は、企業の社会的責任という観点からも納得のいく、合理的なものです。
技術の差、知識の差、経験の差、役職の差がある労働者同士であれば賃金に差があるのは当たり前です。しかし、たとえば、単純労働で業務効率にも差がないような労働者同士であれば賃金は同一にしたほうが合理的です。
同質・同量への労働の対価を同じくする、当たり前といえば当たり前の話です。

正社員の二極化

契約社員・非正規社員を正社員として登用しても、せっかく正社員に登用した契約社員・非正規社員がすぐに辞めることになってしまえば、企業の負担も大きくなります。
そこで、企業が考えるのは、正社員が、なるべく辞めないようにするという試みです。

「新制度では、正社員に「全国転勤OK」「勤務地限定」という2つのキャリアパスをつくった。2つは個人の事情に合わせて途中で変更できる。契約社員は勤務地限定の正社員に変わり、それまでの正社員は進路を選べるようになった。結果はどうだったか。店舗で働く約1500人の正社員のうち、4割が勤務地限定の道を選んだという。」(平成26年5月12日付け日本経済新聞朝刊より)

これは、スターバックスコーヒージャパンの試みです。
契約社員から正社員化成りした労働者は「勤務地限定」という従来の契約社員の立場とほぼ同じ職場環境にして転勤などの負担・不安から解放し、そうではない正社員は「全国転勤OK」と「勤務地限定」を選べるようにして、職場環境を自分で選べるようにして負担・不安から解放するものです。
契約社員が正社員になったら全国に転勤(配転)させらるとなれば、契約社員は安心して正社員への道を希望することができなくなるからです。
これは「優秀な人材の囲い込み」「人材不足」という、契約社員を正社員化する当初の目的を実現する方法としては秀逸です。

ただ、個人的によくわからないのは、これって、旧来の「一般職」「事務職」採用と何が違うのか、ということです。ここは、もうちょっと調べたいと思います。

企業の今後の対策

企業の体力に応じて、順次、対応すればよいと思います。
契約社員を正社員として確保するだけの余裕がある会社は、「人材不足」「優秀な人材の囲い込み」という大義名分のほか、社会的責任もあるので、正社員化に積極的に取り込んでいけばよろしいかと。
他方、それほどの余裕がない会社でも、「優秀な人材の囲い込み」に力点を置き、そうした人材を囲んで成長すればいいとの目論見で、正社員化に積極的であってもいいかもしれません。

もちろん、余裕がない会社は、労働契約法どおりの運用であっても、問題はありません。ただ、その場合には、同業他社の動向には注意を払う必要があります。
同業他社が、契約社員・非正規社員の正社員化に積極的である、契約社員・非正規社員への同一労働同一賃金の原則の適用に積極的であるということがわかれば、労働者は、そちらの会社に流れて行ってしまうからです。
仕舞いには、自分たちの会社に人材が集まらなくなり、結局、クビを占めることになりかねません。

いずれにせよ、企業は、改正労働契約法を視野に入れ、将来的には契約社員を正社員化させるのか、それとも、契約社員はあくまで契約社員のままなのかを決めて、今後の人事政策と事業展開を考えていく必要があろうかと思います。

【2014年5月14日一部追記しました】