この週末、北海道まで、ある企業の取締役・執行役員向けの研修に行ってきました。
出席したのは、約50人ほどの役員の方々でした。
「おもしろかった」「わかりやすかった」という声がフィードバックで戻ってきたので、成功だったようです。

私が役員研修や従業員向け教育、公開セミナーで講師をする際に気をつけているのは「わかりやすさ」です。
受講される役員、従業員、セミナー参加者は、法律の専門家ではありません。
だから、あえて法律用語を使わない。可能な限り使わない。多少、本来の意味とは違っても、わかりやすい言葉に置き換える。
目的は、理解してもらうことだから、です。
これが講師として声を掛けてもらった専門家としての義務だと思っています。

さて、本日の本題は、この「義務」、取締役の善管注意義務・忠実義務のお話しです。

住友電工株主代表訴訟の和解

5月7日に、住友電工の株主代表訴訟で和解が成立しました。

光ケーブルなどを巡るカルテルを結び、独占禁止法違反(不当な取引制限)で約88億円の課徴金を納付した住友電気工業の当時の役員ら22人に同額の損害賠償を求めた株主代表訴訟で、役員らが会社に5億2000万円の解決金を支払う和解が7日、大阪地裁で成立した。」
株主側は「経営陣がカルテルの防止義務を怠ったうえ、違反を自主申告して課徴金減免を受ける制度を利用せず会社に損害を与えた」と主張していた」
(日本経済新聞平成26年5月8日(木)朝刊より)

和解であって判決ではないので、裁判所が株主の言い分を認めたわけではありません。
しかし、この株主の主張は、取締役が、自分自身の善管注意義務・忠実義務の内容を考えるにあたって無視できないものです。

なぜか?
それは、株主が主張していた取締役の善管注意義務違反・忠実義務違反の内容が、平成18年の蛇の目ミシン工業事件の最高裁判例で言及された取締役の善管注意義務・忠実義務の内容にそっくりだからです。

蛇の目ミシン工業事件の最高裁判決

平成18年の蛇の目ミシン工業事件で、最高裁は、次のように判決しました。
ちなみに、蛇の目ミシン工業事件というのは、いわゆる仕手筋として知られる株主が、蛇の目ミシン工業の株式を大量に取得し、それを暴力団の関連会社に売却するなどと取締役らを脅迫したところ、取締役らが、売却を取りやめてもらうため株主の要求に応じて約300億円を融資金の名目で交付するとの利益供与をしたことについて、利益供与を提案をした取締役、その提案に賛成した取締役らの善管注意義務違反・忠実義務違反が問われた訴訟です。

会社経営者としては,そのような株主から,株主の地位を濫用した不当な要求がされた場合には,法令に従った適切な対応をすべき義務を有するものというべきである。前記事実関係によれば,本件において,被上告人らは,Aの言動に対して,警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待できないような状況にあったということはできないから,Aの理不尽な要求に従って約300億円という巨額の金員をIに交付することを提案し又はこれに同意した被上告人らの行為について,やむを得なかったものとして過失を否定することは,できない」

前半の「法令に従った適切な対応をすべき義務」というのは、当たり前のことです。
それ以上に、蛇の目ミシン工業事件の最高裁判決でインパクトがあったのは、具体的に「警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待でき」た、それなのに、期待に即した適切な対応しなかったことが善管注意義務違反・忠実義務違反と言及した点でした。

違法行為発覚後の、取締役の損害拡大防止義務

これを住友電工の株主代表訴訟での株主の主張に即して考えてみます。

株主は「(カルテル)違反を自主申告して課徴金減免を受ける制度を利用せず会社に損害を与えた」とまで主張しています。
この部分は、蛇の目ミシン工業事件の「警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待でき」た、という判決の言い回しとそっくりなのです。
要は、取締役として、カルテルという法令違反が発生した後でも、「法令に従った適切な対応」として「課徴金減免制度(リニーエンシー)」を利用して、課徴金を免除してもらう、イコール会社の損害をゼロにする、という適切な対応をとることが期待できた。それなのに、期待どおりの適切な対応をしなかった。ということです。

蛇の目ミシン工業事件の最高裁判決もそうですが、今回の住友電工株主訴訟の和解からは、取締役は、社内に違法行為が発生しないように日頃から注意義務を尽くすだけではなく、社内に違法行為が発生した場合でも、会社の損害が拡大しないように防止するような対応をとるべき注意義務がある、と自覚していたほうがよろしいかと思います。

逆に言えば、損害拡大防止義務を尽くさなかった取締役は、株主代表訴訟で、株主から「社内に違法行為が発生した。この場合に、具体的に、これこれという行動がとれたはずだ。しかし、その行動をとらなかった。結果、会社に損害が生じた」という具体的な行動まで指摘されて主張されたときには、そこから形勢を逆転して勝ちに行くのは難しいと覚悟した方がよいということです。

実は、これは、かつてのダスキン事件判決でも、原則公表すべき、と判断された点でもあります。
ダスキン事件判決まで言及し始めると長くなるので、今回は、ここまで。

【2014/05/16編集】
内容を一部編集(削除&追記)しました。