パテントトロールに狙われた瞬間

企業がある事業に成功し、大きな利益を得ていると、聞いたことがない名前の会社から1通の内容証明が届く。
内容証明を見ると「あなたの事業は、わが社が保有する特許権を侵害している。ただちに事業を止めるか、損害賠償せよ」と内容が書いてある。
内容証明を受けとった側は、相手の会社がどんな会社なのかをネットで検索してもホームページも何も引っ掛からない。
特許電子図書館などを利用して調べてみると、どうやらたくさんの特許権を保有しているようだ。

これは、実は珍しい光景ではありません。
昔から、特許権だけ取得していて、権利侵害している企業が現われたら金銭を要求することを繰り返す、「特許ゴロ」などと呼ばれる存在はいました。
それが、最近は「パテントトロール(パテント=特許、トロール=漁る人)」と呼ばれるようになっただけです。

パテントトロールの目的

こうした「特許ゴロ」「パテントトロール」の目的は、何か?
答えは「お金」です。

実際に事業をやっている会社が特許権侵害を理由に事業を止めること(差し止め)や損害賠償を請求してきた場合には、「クロスライセンス」によって、金銭を支払うことなく問題を解決することができます。
権利を保有している企業と権利侵害してしまった企業とで、お互いが保有していて利益に繋がる特許をお互いに無償で利用できるよう許諾しあえばいいのです。

しかし、「特許ゴロ」「パテントトロール」の場合には、自分たちは事業をやっていません。
そのため、パテントトロール側は「クロスライセンス」によって、権利侵害している企業から特許権の利用を許諾してもらう必要性がありません。
その代わりに「特許権侵害を理由に差し止めないから、損害賠償を支払って欲しい。さらには、事業を継続したいなら実施料を支払え」という要求をしてくるのです。

日本国内でのパテントトロールと企業の訴訟

実際に、日本国内でも、パテントトロールが著名な企業に金銭を要求するケースが相次いでいます。

トロールとして有名な独IPコムがイー・アクセスを相手取り、携帯電話の輸入・販売差し止めと約3千万円の損害賠償を求めていた訴訟では、東京地裁が1月下旬、IPコムの訴えを退けた。」
ルクセンブルクのトロールが10億円の損害賠償を求めて知財高裁にKDDIを訴えていた案件でも、1月下旬、トロール側が敗訴した。」
(日本経済新聞平成26年2月17日(月)朝刊より)

今のところは、パテントトロール側が負けています。
しかし、いずれも、3000万円の損害賠償請求、10億円の損害賠償請求と、国内企業はパテントトロールから高額な要求をされています。
もし、今後、このようなパテントトロール側からの訴訟で国内企業が不利=特許権侵害が認められ敗訴の色合いが出てくるようになれば、おそらく、判決ではなく和解での決着に至ることになると思われます。
それも、損害賠償プラス一定金額の実施料を支払い続けるという内容での和解になるはずです。

パテントトロール側は、訴訟という手間は経ますが、要は、他から仕入れた特許を保有しているだけで、今後の不労所得を得ることができてしまいます。
企業は、発明の苦労をしていない、特許権をトロール=買い漁っただけのパテントトロールに、せっかくの利益を分配しなければならないことになります。

たしかに、このような状態について、パテントトロール側は頭がいいと見ることができる側面も否定できません。
しかし、特許権をトロールして仕入れて、あとは権利侵害している企業を狙い撃ちして金銭要求するだけの会社というのは、健全とは思えません。やっていることの本質が、反社会的勢力による企業恐喝と似たようなものにしか思えません(権利があるので、恐喝そのものとまでは言いにくいことは確かです)。

大学からパテントトロールへの特許権譲渡の禁止

こうした実態を踏まえてか、大学が保有する特許権の譲渡に関して、今朝の新聞に次のような記事が載っていました。

文科省がこのほど大学向けの目安としてまとめた「知的財産の活用方策」の中で、特許譲渡時の事前調査の必要性を示した。特許を集めて訴訟に持ち込む管理会社は「パテント・トロール(特許の怪物)」と呼ばれる。大学が保有する特許を管理会社に譲渡する際は、国内企業を相手に知財訴訟を起こす管理会社ではないか、確認をする必要があると明記した。」
(日本経済新聞平成26年4月29日(火)朝刊より)

要するに、大学が特許権を取得したら、それを「パテントトロール」のような金銭要求することを目的とした企業には譲渡してはいけない。大学が特許権を「パテントトロール」に譲渡して、「パテントトロール」が金を稼ぐ武器を与えてはいけない。ということです。

大学の社会的責任

では、なぜ、そのような者に譲渡してはいけないのでしょうか。

大学の本来の目的は研究機関です。
研究は私利私欲のためではなく、大学という研究に専念できる環境で、世の中に役に立つ発明をして、それを世に広めていくことが、本来のあるべき姿かと思われます。
そのような存在である大学が、世の中のためになるような者に発明、特許権を譲渡することは問題がないとしても、金銭要求することを目的とする者にそれらを譲渡することは、大学の存在意義に関わると言ってもいいかもしれません。
だからこそ、今回の譲渡先の相手を事前に調査するということが要求されたのだと思います。

企業ならパテントトロールへの特許権譲渡は許されるのか。企業の社会的責任の観点から。

このように考えると、大学ではない企業なら、自社で保有していて、今現在は使用していない「休眠特許」をパテントトロールに譲渡してもいいのか、という問題が出てきます。
少なくとも、パテントトロールに「休眠特許」を譲渡すれば、譲渡対価を企業は取得することができます。
「休眠」のままにしておくよりはマシかもしれません。

しかし、この場合も、冷静に考えれば、おかしい。
パテントトロールを反社会的勢力に似た存在だと理解したとき、企業は「休眠特許」を反社会的勢力に譲渡して金銭を取得することができません。できないというよりは、やってはいけない、と言った方が適切かもしれません。
企業の社会的責任という点から考えると、反社会的勢力に金銭を請求できるネタを提供し、その反社会的勢力が、実際に事業をして利益をあげている企業から金銭だけを取得するというのは、絶対に許されません。
それと同じように、反社会的勢力とは言い切れないけれど、金銭要求を主目的としている反社会的勢力に似た存在であるパテントトロールに特許権というネタを提供することも、企業の社会的責任の観点から許されないことがわかっていただけると思います。

パテントトロールについて書きたいことは他にもありますが、今回は、この辺で。