クラスアクション(集団訴訟)が提訴されるきっかけ

お店でデジカメを買ってきて、写真を撮ってみたら黒い点が写っていた。
そんな場合、デジカメを買った人は、カメラメーカーに対して文句・クレームを言う。デジカメの交換や無償修理を要求する。
これは、容易に想像できます。

しかも、デジカメで撮った写真が、一生に一度しかない記念写真、たとえば子供が生まれた、七五三、入学式、卒業式、結婚式といった場面での記念写真だったのに、そこに黒い点が写っていた。
こうなれば、感情的には、単にクレーム、カメラの交換、無償修理で済む話ではありません。
一生の思い出の瞬間が、デジカメのせいでお釈迦にされた訳ですから、その瞬間の思い出を返せ、お金を支払え、ということになるかもしれません。

アメリカでの日本企業へのクラスアクション(集団訴訟)

アメリカの場合、こうした事態が発生すれば、デジカメを購入した人が企業を訴えることができます。
しかも、一人では請求する金額が小さくて、訴訟にかかる費用のほうが企業から支払ってもらえる額より大きいようなときには、一人で訴えるのではなく、デジカメを購入して同じような症状に悩んでいる人たちで集団で訴えることができます。
これが、アメリカの「集団訴訟(クラスアクション)」と呼ばれるものです。

実際にも、今年に入ってから、ニコンやトヨタがアメリカで集団訴訟を提起されたことが報道されています。

米国でニコンのデジタルカメラを購入した消費者がこのほど、製品の欠陥と不当表示を訴え、同社に損害賠償などを求める集団訴訟(クラスアクション)をカリフォルニア州北部地区連邦地裁に提起した。購入者側は同州の消費者救済法や不正競争防止法などに違反していると主張している。」(日本経済新聞平成26年3月10日(月)朝刊より)

米国でトヨタ自動車の車を購入した消費者らがこのほどエンジン関連の欠陥を訴え、同社に損害賠償などを求める集団訴訟(クラスアクション)をカリフォルニア州北部地区連邦地裁に提起した。購入者側は同州の消費者救済法や不正競争防止法などに違反していると主張している。」(日本経済新聞平成26年4月28日(月)朝刊より)

日本版クラスアクションの特徴

では、日本で、アメリカのように消費者たちが集団になって企業に訴訟提起することはあるか?といえば、答えは「ある」です。

ただし、日本の場合、消費者たちが集団になって企業に訴訟を提起しても、裁判所は、消費者一人ひとりについてバラバラに損害賠償請求を認めるかどうかを判断していきます。
そのため、アメリカのような「集団訴訟」というものとは、少し違います。

このように説明すると「日本にもクラスアクションが導入されたと聞いた。アメリカのように集団訴訟が起きるのではないか」と質問される方もいます。

しかし、日本に導入されたクラスアクション、消費者集団訴訟(消費者の財産的被害の集団的回復のための民事手続)は、アメリカの集団訴訟とは異なります。また、従来、日本で行われていた、消費者たちが集団になって訴訟提起して、消費者一人ひとりについてバラバラに判断するという制度とも異なります。

日本版クラスアクション(集団訴訟)を提起できる人は限られている

日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)では、企業を訴えることができるのは、「特定適格消費者団体」という認定された団体に限られます。消費者が自ら企業を訴えることはできないのです。
そのため、入口のところでスクリーニングがかかります。
企業にクレームを持つ消費者たちや、企業からお金を取りたいと考える消費者たちから、やたらめったらと訴訟を提起されるわけではないのです。
ここが、アメリカのクラスアクションとの最大の違いです。

日本版クラスアクション(集団訴訟)は利用場面が限られている

入口(訴えを提起できる人が限定される)が違う延長として、実際の手続も特徴的です。
第1に、日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)は、利用できる場面が限られます。
「企業から物を買う契約をしたけれど、いつまで経っても物を渡してもらえない。物をよこせ」「企業から物を買う契約をしてお金を払ったけれど、正当な理由があって解約した。お金を返せ」「物の欠陥のせいで物が壊れた。物の分の額を損害賠償として支払え」といった種類の訴訟に限定されます。
他方、「精神的に苦痛を受けたので慰謝料を支払え」「物の欠陥のせいで物が壊れるだけではなく、仕事にも影響が出た。仕事ができなくて失った利益を損害賠償として支払え」などの訴訟では利用することができません。

日本版クラスアクション(集団訴訟)の第1ステップは「権利の存否」

第2に、日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)は、消費者が集団になって訴えるわけではなく、特定適格消費者団体が訴えることの結果として、訴訟は、まず、第1に書いたような内容の訴訟で企業に金銭請求権があるかなど、権利の存否がまず争点になります。

日本版クラスアクション(集団訴訟)の第2ステップは「債権届」

第3に、日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)は、権利が存在するとの判断が下ってから、訴訟した特定適格消費者団体は、同じ状況にあった消費者を、一定期間内に募り、債権届けを出してもらいます。インターネットなどを利用して集めます。訴えられた企業側も届け出る消費者を募らなければなりません。
そうして集まった消費者からの債権届けを、裁判所に提出するのです。
その後、企業は、届けられた債権ひとつひとつについて、「認める」「認めない」の判断を下していきます。

これが日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)の大きな特徴です。
アメリカとは、まったく色合いが違うということがわかっていただけるかと思います。

日本版クラスアクション(集団訴訟)に向けた企業の対策

このような状況を前提に企業側の対策を考えるとなると、大前提になるのは、消費者から訴訟されるような契約をしないことです。
ただ、それは、どれだけ注意をしていても不可避です。

企業側が特定適格消費者団体を同業同士で作ってしまい、なれ合いの訴訟をする、という禁じ手もあります。
これは、絶対にやってはダメです。企業がこのようなことをした瞬間に企業が社会的批判にさらされます。

「権利の存否」の争いに全力を注ぐ

実際には、特定適格消費者団体との訴訟で、上記のような事情を理由にした権利が消費者に存在するか否か(権利の存否)を争う部分に全力を注ぐことがすべだと思います。
ここで負けてしまえば、あとは、消費者をいかに集めるかというだけで、企業側の手を離れてしまいます。

 「権利の存否」の争いに必要なのは、契約締結過程等の記録

権利の存否を争う訴訟で企業側が勝つためには、企業と消費者との契約締結に問題はなかった、契約締結後も問題はなかったということを証明していかなければなりません。
そのためには、書面化または電子化されている「記録」「証拠」がすべてです。

契約締結過程で何が起きたのか、どんな勧誘の営業トークをし、どんな資料で説明・情報提供したか、消費者はどの程度理解していたか、理解したということが記録されているか、その後の物のやり取りに問題はなかったか、など、すべてを記録に残すのです。

契約を締結する動機が合理的である必要

「記録」「証拠」が揃っていても、契約の勧誘時から契約の締結、物の購入のプロセスが合理性を欠いていれば、そもそも、消費者の理解が劣っていることにつけこんで強制で買わせたのではないかという疑念が湧いてしまいます。
そのため、契約の勧誘時から契約の締結時だけではなく、消費者側の購入動機などがストーリーとして不自然ではないかまでも、確認しておく必要があります。

日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)に過剰反応をする必要はありませんが、今できることは、記録化・証拠化に加えて、上記として考えたストーリーとしての不自然さがないかといった定例的なチェックです。
たとえば、70代の独身の男性が、半年もしないうちに布団を4枚も5枚も購入することなどは、通常は考えられないです。
そのため、これが自然の取引であったというためには、独身の高齢者が布団をそれほど購入する動機があったかどうかなどを日頃から確認しておくことが必要です。