ネット取引の危険性と特定商取引法というルールの存在

Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングを初めとした、ネット取引は便利です。
家でくつろいでいるとき、通勤・通学の電車に乗っているときなど、ちょっとした空き時間があれば「これ買っておこう」「これ申し込んでおこう」と、インターネットに接続して、物を注文する、チケットの予約をするなど、便利すぎです。
しかも、物によっては通勤する電車の中から注文したものが、お昼休みに職場に届いたりすることさえあります。スピーディに物を届くというのも魅力です。
こうした便利さやスピーディな魅力から、今ではネット取引は当たり前の存在になってきました。私もよく使います。

その一方で、ネット取引は、お店・企業側と消費者・お客様側とが対面することがありません
売る側も買う側もお互いに「どんなお店から買うのかわからない(実店舗の雰囲気を知らない)」「どこの誰に売るのかわからない(住所や名前を知っていても、見たことがない)」という危険性があります。

この危険性の最大の象徴が「詐欺」です。
「買ったのに、物が届かない」「物は届いたけど、ホームページに掲載されていた写真とまったく品質が劣る」「売ったのに、お金が払われない」「物を送ったけど、注文していないと拒絶された」などといったことが日常茶飯事です。
中には、お客様が「注文したのは間違いがない。しかし、物が届くまでの数日間で気が変わったから、やっぱり要らない」などと言い出すケースもあります。

こうした危険性が出現することを予防するために、特定商取引法という法律が定められています。
ネット取引は「通信販売」として、広告の表示方法・内容、誇大広告の禁止、お店側からの営業メールの制限、前払の場合にお店側からお客様側に書面を事前に交付する、申し込み撤回後(クーリングオフ後)の債務不履行の禁止、お客様が知らないうちに有料で注文したことになってしまう方法での取引の禁止などが規制されています。
詳しくは、こちらから。

ネット取引でも企業から消費者に対する説明義務・情報提供義務、消費者からの告知義務は重要

「詐欺」となるパターン以外でも、お客様が注文して物が届いた後になってから「そんな説明はホームページ上のどこにも書かれていなかった」「説明は書いてあるけれど、文章の意味がわかりにくい。それでは説明していないのと一緒だ」「説明は書いてあるけれど、大事なところが抜け落ちていて、そもそも説明されていない」などを理由に、返品を申し出たり、クレームを入れるケースも多々あります。

こうした事態は、なぜ起きてしまうのでしょうか。
対面販売ではないということだけが理由と言えるのでしょうか。

消費者が企業に対して告知義務違反にならない工夫

昨日の新聞、また先日の新聞に、次のような記事が掲載されていました。

(生命保険の申し込みに関して)「さらに10月からは健康状態に不安があり、自分の詳細な健康状態を「告知」する必要がある人でも、スマホを通じた申し込みが可能になった。通勤時や休み時間などにスマホで途中まで申し込み、自宅に帰ってからパソコンで申し込みを再開するような連動サービスも始めた。」
(平成26年4月24日(木)日本経済新聞夕刊より)

生命保険契約を申し込む時には、お客様が自分の健康状態を「告知」する告知義務を負います。
「3か月以内に医師の診察を受けていないか」「5年以内に7日以上の治療を受けていないか」などの質問項目があり、これに対して、申し込む側のお客様が回答する、という手続です。
保険勧誘員が「それくらい、告知しなくていいですよ」などと甘い言葉で誘って、死亡後に生命保険金が支払われなくて、生命保険の受取人である遺族などが訴訟を起こすケースが時々あります。

この記事は、生命保険契約をネット上で申し込むときに、お客様が健康状態の告知義務を負っている場合に、お客様が、スマホで途中まで申し込み、パソコンから申し込みを再開できる仕組みを紹介したものです。

これは、お客様が告知義務違反にならないような企業側の工夫と言えます。
スマホの狭い画面を見て時間に迫られながら申し込むことや、スマホの狭い画面で注意事項を見落としたまま申し込むことをを予防するという、企業側からお客様への配慮と捉えることができます。
その一方で、生命保険会社側が、後になって、お客様の遺族に「告知義務違反になるような勧誘をされた」と言われる口実を防ぐための、企業側の自己防衛策とも理解することができるかもしれません。

いずれにせよ、スマホ、パソコンのいずれの画面でも、お客様が告知義務違反にならないように、告知上の注意点を赤字で書いたり、告知を1画面ずつ行わせるなどの工夫をした方がよいかと思います。
対面ではないということは、企業側は、お客様が過って告知義務違反にならないように、お客様に配慮した万全の対策を講じていたといえる細心の注意を払わなければならないのです。

企業が消費者に対する説明義務・情報提供義務違反にならない工夫

もう一つ、次のような記事も掲載されていました。

国土交通省は24日、不動産の売買や賃貸でネット取引の解禁を検討する有識者会議を開いた。不動産会社に義務付けている取引条件など重要事項の対面説明を、ネット通話で代替できるようにするのが柱だ。」
(平成26年4月25日(金)日本経済新聞朝刊より)

この記事は、企業側がお客様に取引条件など重要事項を、ネット通話を介する方法で対面でしなければならいことを報じています。

ネット取引は対面販売ではなく、スマホやパソコンの画面だけを見て取引できることが最大の特徴です。
そのため、企業側がスマホやパソコンの画面に、取引条件や重要事項を文章で注意書きしても、お客様がそれを読み飛ばしたまま、あるいは誤解したまま「同意する」などのボタンを押すことは頻繁に起こりえます。
たとえ、取引内容が不動産の売買のように高額な取引であったとしても、重要事項や取引条件を読み飛ばす、内容を誤解することは、容易に想定できます。

先ほどの生命保険契約の申し込みでは、「告知」という細心の注意を払わなければならない場面で、画面上の工夫をしたほうがよいということを書きました。
この不動産取引の記事は、さらに一歩進んで、画面上で工夫するだけではなく、取引条件や重要事項は画面上の注意点に留めるのではなく、ネット通話(たとえばSkypeとかfacetimeなどでしょうか)を通じて画面越しに実際に会話をしなければならないことを求めようとするものです。
会話をすれば、読み飛ばすということは絶対に防ぐことができます。
会話をして、情報を提供すれば、お客様が取引条件や重要事項を誤解したままで契約を申し込むことを防ぐことも可能です。
取引条件や重要事項というトラブルの要因になりそうな項目について、取引内容が不動産の売買、賃貸といった高額、継続的な取引である場合には、説明義務や情報提供義務に、慎重さをより求めたものということができます。

説明義務・情報提供義務を尽くしたと言えるための企業の対処・対応

さて、生命保険会社、不動産会社以外の事業を行っている会社は、この記事を読んで、「生保、不動産はネット取引大変だなあ」で済ませてはいけません。
この記事だけを見ても、自社の危機管理・リスクマネジメントに活かすことができるのです。

既にAmazonやYahoo!ショッピングなどにネットショップを開いている会社の場合には「自分たちのホームページに取引条件や重要事項を記載しているけれども、お客様に誤解を与えるような表現になっていないだろうか」「ホームページに取引条件や重要事項を記載しているけれども、お客様が読み飛ばすような程度の目にとまらない書き方や字の大きさ、記載位置になっていないだろうか」「ホームページに取引条件や重要事項を記載しているけれども、お客様に必要な情報をすべて提供していると言えるだろうか」などを考えなければなりません。
難しく言えば、ネットショップ上の表現から、会社としての説明義務を尽くした、お客様は読みとばすわけがない、お客様は誤解するわけがない、と胸を張って言えるかどうかを確認するということです。
そのうえで「問題があるな」と感じたら、ネットショップのホームページ上の表現を改善していく必要があります。
それによって、将来生じるかもしれないお客様との無用なトラブルを回避することができるようになるのです。
具体的には、5W1Hをはっきりした文章を書く。主語述語をはっきりした文章を書く。難しい専門用語や省略語を使わない。といったことが心がけるべき最低限のポイントです。

「面倒くさい」と考えて何もしないか、それとも「後々トラブルに巻き込まれた方が、対応のことを考えたら、もっと面倒くさい」と考えて今のうちに表現を変えるか。
この2つの記事を読んで行動に移せるかどうか、その企業の危機管理・リスクマネジメントの意識の程度が問われているといってもいいかと思います。