今さらですが、日本は自由競争社会のはずです。
もちろん、自由競争社会だからといっても、企業間の競争で何をしていいという訳ではありません。
品質、価格、取引条件といった三大要素については、公平・公正なルールのもとで、企業間の競争が求められています。
これが、独占禁止法という、自由競争を確保するための法律の趣旨であり、目的である、と理解しています。

ところが、一定の分野については、品質、価格、取引条件について、国から介入が入ります。
その一つの例が、タクシー業界です。
タクシーの場合、「タクシー業務適正化特別措置法」と「道路運送法」が主な関係法令のようです。

これらの法律が何を規制しているかを簡単に言うと、タクシー業務適正化特措法はタクシー事業の品質の最低限を保護するように免許制やら何やらを。道路運送法はタクシー料金やら何やらを。しかも、よく読むと、タクシー料金の上限だけではなく、タクシー料金の下限まで定めています。

タクシーは客を乗せる、つまり、お客さんの命を預かるわけですから、タクシー業務適正化特措法によって、品質を最低限保護することは当然だと思います。
また、道路運送法によって料金の上限を規制することは、どこまでも値上げしかねないから規制するという趣旨で理解できます。
他方で、道路運送法によってタクシー料金の下限まで規制することは、存在意義がよくわかりません。

なぜ、タクシー運賃について書いているかというと、タクシー運賃が高いから、今日の新聞を見ていて、頭が混乱しているからです。今日の新聞に次のような報道がありました。

「国土交通省がタクシー業界に値上げするよう圧力をかけている。全国5地区で国が定めた下限より安い運賃で営業する27の事業者に値上げを迫る勧告書を22日に手渡した。規制強化に多くの事業者は反発。下限を下回る「違法状態」の運賃で営業を続けると公言する事業者もある。」

(日本経済新聞平成26年4月23日(水)朝刊より)

タクシー業者が足並み揃えてタクシー料金を値上げしようとしている場合に、国交省が「高すぎるから値上げするな」と制するなら、意味はわかります。
初めに「タクシー運賃、官民攻防」との見出しを見たときには、独禁法が頭にあったので、そのように理解しました。

しかし、よく読むと、「値上げしろ」と言っているのは国交省。それに「値上げしない」と抗っているのはタクシー業界。
見出しを見たときと、まったく逆の構図ができあがっているそうです。

タクシー業界は、必要以上の値上げをしないで、企業間で価格競争をしようとしている。
しかし、国交省は、価格競争はさせまい、とする。
なんで?
このReviewを書きながらも、未だによく理解できません。

国交省が平成21年4月から7月にかけて行った「タクシー運賃制度研究会」の資料の中に何かヒントがあるかと思いましたが・・・タクシー料金の下限が「適正な原価」に「適正な利潤」を加えたものになっているかが検討された、ということしかわかりませんでした。
「適正な原価」というのは、ドライバーの人件費、ガソリン等燃料費、車輌償却費、車輌修繕費のことだそうです。

はて?

他の業界も、原価があって売値があって、そこから営業利益を出す、という構図は同じはずです。
売値を下げて品質が下がるのであれば、品質を規制すればいいだけで、売値の下限を規制するというのは、筋違いなはずです。
企業努力で値下げして、自分たちの会社の体力の限界まで値下げする。
一時期の牛丼価格戦争、ハンバーガー価格戦争などはその典型です。
他方で、高くてもお客さんが来るという自信があれば値上げする。
これが自由競争社会の本来の姿だと思います。

もちろん、他の企業を市場から撤退させ、その後の市場の独占を目論見、力尽きる限りまで値下げするというのは、自由競争の方法として「やりすぎ」とみなして、「不当廉売」として規制されるべきです。
他の業界で、業界各社が横並びで「適正な原価に適正な利潤を加えた価格を最低料金にしよう」などとすれば、価格カルテルです。課徴金の対象です。
実際に、今日の新聞では、コンクリート製品で価格の値上げ端を決めようとしたカルテルがあったという疑いで、公正取引委員会が立入をした例も報道されています。

「土木工事に使う土管や側溝などコンクリート製品の価格を巡りカルテルを結んでいた疑いが強まったなどとして、公正取引委員会は23日、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで、「網走管内コンクリート製品協同組合」(北海道北見市)に加盟する企業など10社前後を立ち入り検査した。」
「各社は少なくとも1~2年前から、協同組合の会合の場で、建設業者向けのコンクリート製品価格の値上げ幅を決めるなどしていた疑い。最大で7割程度価格を引き上げた製品もあったという。」

(日本経済新聞平成26年4月23日(水)夕刊より)

しかし、なぜ、タクシー業界だけが、国交省主導で、「適正な原価」に「適正な利潤」を加えた、タクシー料金の下限を定めないといけないのでしょう。
まったく、理解ができません。
国交省主導で「適正な原価」に「適正な利潤」を加えたタクシー料金の下限を決めたことで、誰かが利するということかもしれません。

もちろん、利用者の立場からすれば、流しのタクシーを適当に拾ってみたら基本料金が高いという事態は嫌だな、というのはありますが・・。

【2014年5月31日追記】

同じような発想で、タクシー会社は、国が定めたタクシー運賃よりも安い運賃で営業していることについて、国から運賃変更命令を出さないように、との仮処分を申立て、通常訴訟も提起していたようです。
2014年5月23日に、大阪地裁が仮処分を認める決定を出したそうです(2014年5月24日日本経済新聞朝刊)。