パテントトロールに特許権を譲渡することは、なぜダメなのか

パテントトロールに狙われた瞬間

企業がある事業に成功し、大きな利益を得ていると、聞いたことがない名前の会社から1通の内容証明が届く。
内容証明を見ると「あなたの事業は、わが社が保有する特許権を侵害している。ただちに事業を止めるか、損害賠償せよ」と内容が書いてある。
内容証明を受けとった側は、相手の会社がどんな会社なのかをネットで検索してもホームページも何も引っ掛からない。
特許電子図書館などを利用して調べてみると、どうやらたくさんの特許権を保有しているようだ。

これは、実は珍しい光景ではありません。
昔から、特許権だけ取得していて、権利侵害している企業が現われたら金銭を要求することを繰り返す、「特許ゴロ」などと呼ばれる存在はいました。
それが、最近は「パテントトロール(パテント=特許、トロール=漁る人)」と呼ばれるようになっただけです。

パテントトロールの目的

こうした「特許ゴロ」「パテントトロール」の目的は、何か?
答えは「お金」です。

実際に事業をやっている会社が特許権侵害を理由に事業を止めること(差し止め)や損害賠償を請求してきた場合には、「クロスライセンス」によって、金銭を支払うことなく問題を解決することができます。
権利を保有している企業と権利侵害してしまった企業とで、お互いが保有していて利益に繋がる特許をお互いに無償で利用できるよう許諾しあえばいいのです。

しかし、「特許ゴロ」「パテントトロール」の場合には、自分たちは事業をやっていません。
そのため、パテントトロール側は「クロスライセンス」によって、権利侵害している企業から特許権の利用を許諾してもらう必要性がありません。
その代わりに「特許権侵害を理由に差し止めないから、損害賠償を支払って欲しい。さらには、事業を継続したいなら実施料を支払え」という要求をしてくるのです。

日本国内でのパテントトロールと企業の訴訟

実際に、日本国内でも、パテントトロールが著名な企業に金銭を要求するケースが相次いでいます。

トロールとして有名な独IPコムがイー・アクセスを相手取り、携帯電話の輸入・販売差し止めと約3千万円の損害賠償を求めていた訴訟では、東京地裁が1月下旬、IPコムの訴えを退けた。」
ルクセンブルクのトロールが10億円の損害賠償を求めて知財高裁にKDDIを訴えていた案件でも、1月下旬、トロール側が敗訴した。」
(日本経済新聞平成26年2月17日(月)朝刊より)

今のところは、パテントトロール側が負けています。
しかし、いずれも、3000万円の損害賠償請求、10億円の損害賠償請求と、国内企業はパテントトロールから高額な要求をされています。
もし、今後、このようなパテントトロール側からの訴訟で国内企業が不利=特許権侵害が認められ敗訴の色合いが出てくるようになれば、おそらく、判決ではなく和解での決着に至ることになると思われます。
それも、損害賠償プラス一定金額の実施料を支払い続けるという内容での和解になるはずです。

パテントトロール側は、訴訟という手間は経ますが、要は、他から仕入れた特許を保有しているだけで、今後の不労所得を得ることができてしまいます。
企業は、発明の苦労をしていない、特許権をトロール=買い漁っただけのパテントトロールに、せっかくの利益を分配しなければならないことになります。

たしかに、このような状態について、パテントトロール側は頭がいいと見ることができる側面も否定できません。
しかし、特許権をトロールして仕入れて、あとは権利侵害している企業を狙い撃ちして金銭要求するだけの会社というのは、健全とは思えません。やっていることの本質が、反社会的勢力による企業恐喝と似たようなものにしか思えません(権利があるので、恐喝そのものとまでは言いにくいことは確かです)。

大学からパテントトロールへの特許権譲渡の禁止

こうした実態を踏まえてか、大学が保有する特許権の譲渡に関して、今朝の新聞に次のような記事が載っていました。

文科省がこのほど大学向けの目安としてまとめた「知的財産の活用方策」の中で、特許譲渡時の事前調査の必要性を示した。特許を集めて訴訟に持ち込む管理会社は「パテント・トロール(特許の怪物)」と呼ばれる。大学が保有する特許を管理会社に譲渡する際は、国内企業を相手に知財訴訟を起こす管理会社ではないか、確認をする必要があると明記した。」
(日本経済新聞平成26年4月29日(火)朝刊より)

要するに、大学が特許権を取得したら、それを「パテントトロール」のような金銭要求することを目的とした企業には譲渡してはいけない。大学が特許権を「パテントトロール」に譲渡して、「パテントトロール」が金を稼ぐ武器を与えてはいけない。ということです。

大学の社会的責任

では、なぜ、そのような者に譲渡してはいけないのでしょうか。

大学の本来の目的は研究機関です。
研究は私利私欲のためではなく、大学という研究に専念できる環境で、世の中に役に立つ発明をして、それを世に広めていくことが、本来のあるべき姿かと思われます。
そのような存在である大学が、世の中のためになるような者に発明、特許権を譲渡することは問題がないとしても、金銭要求することを目的とする者にそれらを譲渡することは、大学の存在意義に関わると言ってもいいかもしれません。
だからこそ、今回の譲渡先の相手を事前に調査するということが要求されたのだと思います。

企業ならパテントトロールへの特許権譲渡は許されるのか。企業の社会的責任の観点から。

このように考えると、大学ではない企業なら、自社で保有していて、今現在は使用していない「休眠特許」をパテントトロールに譲渡してもいいのか、という問題が出てきます。
少なくとも、パテントトロールに「休眠特許」を譲渡すれば、譲渡対価を企業は取得することができます。
「休眠」のままにしておくよりはマシかもしれません。

しかし、この場合も、冷静に考えれば、おかしい。
パテントトロールを反社会的勢力に似た存在だと理解したとき、企業は「休眠特許」を反社会的勢力に譲渡して金銭を取得することができません。できないというよりは、やってはいけない、と言った方が適切かもしれません。
企業の社会的責任という点から考えると、反社会的勢力に金銭を請求できるネタを提供し、その反社会的勢力が、実際に事業をして利益をあげている企業から金銭だけを取得するというのは、絶対に許されません。
それと同じように、反社会的勢力とは言い切れないけれど、金銭要求を主目的としている反社会的勢力に似た存在であるパテントトロールに特許権というネタを提供することも、企業の社会的責任の観点から許されないことがわかっていただけると思います。

パテントトロールについて書きたいことは他にもありますが、今回は、この辺で。

日本でクラスアクション(消費者集団訴訟)は起きるのか?企業の対策は?

クラスアクション(集団訴訟)が提訴されるきっかけ

お店でデジカメを買ってきて、写真を撮ってみたら黒い点が写っていた。
そんな場合、デジカメを買った人は、カメラメーカーに対して文句・クレームを言う。デジカメの交換や無償修理を要求する。
これは、容易に想像できます。

しかも、デジカメで撮った写真が、一生に一度しかない記念写真、たとえば子供が生まれた、七五三、入学式、卒業式、結婚式といった場面での記念写真だったのに、そこに黒い点が写っていた。
こうなれば、感情的には、単にクレーム、カメラの交換、無償修理で済む話ではありません。
一生の思い出の瞬間が、デジカメのせいでお釈迦にされた訳ですから、その瞬間の思い出を返せ、お金を支払え、ということになるかもしれません。

アメリカでの日本企業へのクラスアクション(集団訴訟)

アメリカの場合、こうした事態が発生すれば、デジカメを購入した人が企業を訴えることができます。
しかも、一人では請求する金額が小さくて、訴訟にかかる費用のほうが企業から支払ってもらえる額より大きいようなときには、一人で訴えるのではなく、デジカメを購入して同じような症状に悩んでいる人たちで集団で訴えることができます。
これが、アメリカの「集団訴訟(クラスアクション)」と呼ばれるものです。

実際にも、今年に入ってから、ニコンやトヨタがアメリカで集団訴訟を提起されたことが報道されています。

米国でニコンのデジタルカメラを購入した消費者がこのほど、製品の欠陥と不当表示を訴え、同社に損害賠償などを求める集団訴訟(クラスアクション)をカリフォルニア州北部地区連邦地裁に提起した。購入者側は同州の消費者救済法や不正競争防止法などに違反していると主張している。」(日本経済新聞平成26年3月10日(月)朝刊より)

米国でトヨタ自動車の車を購入した消費者らがこのほどエンジン関連の欠陥を訴え、同社に損害賠償などを求める集団訴訟(クラスアクション)をカリフォルニア州北部地区連邦地裁に提起した。購入者側は同州の消費者救済法や不正競争防止法などに違反していると主張している。」(日本経済新聞平成26年4月28日(月)朝刊より)

日本版クラスアクションの特徴

では、日本で、アメリカのように消費者たちが集団になって企業に訴訟提起することはあるか?といえば、答えは「ある」です。

ただし、日本の場合、消費者たちが集団になって企業に訴訟を提起しても、裁判所は、消費者一人ひとりについてバラバラに損害賠償請求を認めるかどうかを判断していきます。
そのため、アメリカのような「集団訴訟」というものとは、少し違います。

このように説明すると「日本にもクラスアクションが導入されたと聞いた。アメリカのように集団訴訟が起きるのではないか」と質問される方もいます。

しかし、日本に導入されたクラスアクション、消費者集団訴訟(消費者の財産的被害の集団的回復のための民事手続)は、アメリカの集団訴訟とは異なります。また、従来、日本で行われていた、消費者たちが集団になって訴訟提起して、消費者一人ひとりについてバラバラに判断するという制度とも異なります。

日本版クラスアクション(集団訴訟)を提起できる人は限られている

日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)では、企業を訴えることができるのは、「特定適格消費者団体」という認定された団体に限られます。消費者が自ら企業を訴えることはできないのです。
そのため、入口のところでスクリーニングがかかります。
企業にクレームを持つ消費者たちや、企業からお金を取りたいと考える消費者たちから、やたらめったらと訴訟を提起されるわけではないのです。
ここが、アメリカのクラスアクションとの最大の違いです。

日本版クラスアクション(集団訴訟)は利用場面が限られている

入口(訴えを提起できる人が限定される)が違う延長として、実際の手続も特徴的です。
第1に、日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)は、利用できる場面が限られます。
「企業から物を買う契約をしたけれど、いつまで経っても物を渡してもらえない。物をよこせ」「企業から物を買う契約をしてお金を払ったけれど、正当な理由があって解約した。お金を返せ」「物の欠陥のせいで物が壊れた。物の分の額を損害賠償として支払え」といった種類の訴訟に限定されます。
他方、「精神的に苦痛を受けたので慰謝料を支払え」「物の欠陥のせいで物が壊れるだけではなく、仕事にも影響が出た。仕事ができなくて失った利益を損害賠償として支払え」などの訴訟では利用することができません。

日本版クラスアクション(集団訴訟)の第1ステップは「権利の存否」

第2に、日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)は、消費者が集団になって訴えるわけではなく、特定適格消費者団体が訴えることの結果として、訴訟は、まず、第1に書いたような内容の訴訟で企業に金銭請求権があるかなど、権利の存否がまず争点になります。

日本版クラスアクション(集団訴訟)の第2ステップは「債権届」

第3に、日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)は、権利が存在するとの判断が下ってから、訴訟した特定適格消費者団体は、同じ状況にあった消費者を、一定期間内に募り、債権届けを出してもらいます。インターネットなどを利用して集めます。訴えられた企業側も届け出る消費者を募らなければなりません。
そうして集まった消費者からの債権届けを、裁判所に提出するのです。
その後、企業は、届けられた債権ひとつひとつについて、「認める」「認めない」の判断を下していきます。

これが日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)の大きな特徴です。
アメリカとは、まったく色合いが違うということがわかっていただけるかと思います。

日本版クラスアクション(集団訴訟)に向けた企業の対策

このような状況を前提に企業側の対策を考えるとなると、大前提になるのは、消費者から訴訟されるような契約をしないことです。
ただ、それは、どれだけ注意をしていても不可避です。

企業側が特定適格消費者団体を同業同士で作ってしまい、なれ合いの訴訟をする、という禁じ手もあります。
これは、絶対にやってはダメです。企業がこのようなことをした瞬間に企業が社会的批判にさらされます。

「権利の存否」の争いに全力を注ぐ

実際には、特定適格消費者団体との訴訟で、上記のような事情を理由にした権利が消費者に存在するか否か(権利の存否)を争う部分に全力を注ぐことがすべだと思います。
ここで負けてしまえば、あとは、消費者をいかに集めるかというだけで、企業側の手を離れてしまいます。

 「権利の存否」の争いに必要なのは、契約締結過程等の記録

権利の存否を争う訴訟で企業側が勝つためには、企業と消費者との契約締結に問題はなかった、契約締結後も問題はなかったということを証明していかなければなりません。
そのためには、書面化または電子化されている「記録」「証拠」がすべてです。

契約締結過程で何が起きたのか、どんな勧誘の営業トークをし、どんな資料で説明・情報提供したか、消費者はどの程度理解していたか、理解したということが記録されているか、その後の物のやり取りに問題はなかったか、など、すべてを記録に残すのです。

契約を締結する動機が合理的である必要

「記録」「証拠」が揃っていても、契約の勧誘時から契約の締結、物の購入のプロセスが合理性を欠いていれば、そもそも、消費者の理解が劣っていることにつけこんで強制で買わせたのではないかという疑念が湧いてしまいます。
そのため、契約の勧誘時から契約の締結時だけではなく、消費者側の購入動機などがストーリーとして不自然ではないかまでも、確認しておく必要があります。

日本版クラスアクション(消費者集団訴訟)に過剰反応をする必要はありませんが、今できることは、記録化・証拠化に加えて、上記として考えたストーリーとしての不自然さがないかといった定例的なチェックです。
たとえば、70代の独身の男性が、半年もしないうちに布団を4枚も5枚も購入することなどは、通常は考えられないです。
そのため、これが自然の取引であったというためには、独身の高齢者が布団をそれほど購入する動機があったかどうかなどを日頃から確認しておくことが必要です。

インターネット取引で「説明義務・情報提供義務」が尽くされたと言えるためには

ネット取引の危険性と特定商取引法というルールの存在

Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングを初めとした、ネット取引は便利です。
家でくつろいでいるとき、通勤・通学の電車に乗っているときなど、ちょっとした空き時間があれば「これ買っておこう」「これ申し込んでおこう」と、インターネットに接続して、物を注文する、チケットの予約をするなど、便利すぎです。
しかも、物によっては通勤する電車の中から注文したものが、お昼休みに職場に届いたりすることさえあります。スピーディに物を届くというのも魅力です。
こうした便利さやスピーディな魅力から、今ではネット取引は当たり前の存在になってきました。私もよく使います。

その一方で、ネット取引は、お店・企業側と消費者・お客様側とが対面することがありません
売る側も買う側もお互いに「どんなお店から買うのかわからない(実店舗の雰囲気を知らない)」「どこの誰に売るのかわからない(住所や名前を知っていても、見たことがない)」という危険性があります。

この危険性の最大の象徴が「詐欺」です。
「買ったのに、物が届かない」「物は届いたけど、ホームページに掲載されていた写真とまったく品質が劣る」「売ったのに、お金が払われない」「物を送ったけど、注文していないと拒絶された」などといったことが日常茶飯事です。
中には、お客様が「注文したのは間違いがない。しかし、物が届くまでの数日間で気が変わったから、やっぱり要らない」などと言い出すケースもあります。

こうした危険性が出現することを予防するために、特定商取引法という法律が定められています。
ネット取引は「通信販売」として、広告の表示方法・内容、誇大広告の禁止、お店側からの営業メールの制限、前払の場合にお店側からお客様側に書面を事前に交付する、申し込み撤回後(クーリングオフ後)の債務不履行の禁止、お客様が知らないうちに有料で注文したことになってしまう方法での取引の禁止などが規制されています。
詳しくは、こちらから。

ネット取引でも企業から消費者に対する説明義務・情報提供義務、消費者からの告知義務は重要

「詐欺」となるパターン以外でも、お客様が注文して物が届いた後になってから「そんな説明はホームページ上のどこにも書かれていなかった」「説明は書いてあるけれど、文章の意味がわかりにくい。それでは説明していないのと一緒だ」「説明は書いてあるけれど、大事なところが抜け落ちていて、そもそも説明されていない」などを理由に、返品を申し出たり、クレームを入れるケースも多々あります。

こうした事態は、なぜ起きてしまうのでしょうか。
対面販売ではないということだけが理由と言えるのでしょうか。

消費者が企業に対して告知義務違反にならない工夫

昨日の新聞、また先日の新聞に、次のような記事が掲載されていました。

(生命保険の申し込みに関して)「さらに10月からは健康状態に不安があり、自分の詳細な健康状態を「告知」する必要がある人でも、スマホを通じた申し込みが可能になった。通勤時や休み時間などにスマホで途中まで申し込み、自宅に帰ってからパソコンで申し込みを再開するような連動サービスも始めた。」
(平成26年4月24日(木)日本経済新聞夕刊より)

生命保険契約を申し込む時には、お客様が自分の健康状態を「告知」する告知義務を負います。
「3か月以内に医師の診察を受けていないか」「5年以内に7日以上の治療を受けていないか」などの質問項目があり、これに対して、申し込む側のお客様が回答する、という手続です。
保険勧誘員が「それくらい、告知しなくていいですよ」などと甘い言葉で誘って、死亡後に生命保険金が支払われなくて、生命保険の受取人である遺族などが訴訟を起こすケースが時々あります。

この記事は、生命保険契約をネット上で申し込むときに、お客様が健康状態の告知義務を負っている場合に、お客様が、スマホで途中まで申し込み、パソコンから申し込みを再開できる仕組みを紹介したものです。

これは、お客様が告知義務違反にならないような企業側の工夫と言えます。
スマホの狭い画面を見て時間に迫られながら申し込むことや、スマホの狭い画面で注意事項を見落としたまま申し込むことをを予防するという、企業側からお客様への配慮と捉えることができます。
その一方で、生命保険会社側が、後になって、お客様の遺族に「告知義務違反になるような勧誘をされた」と言われる口実を防ぐための、企業側の自己防衛策とも理解することができるかもしれません。

いずれにせよ、スマホ、パソコンのいずれの画面でも、お客様が告知義務違反にならないように、告知上の注意点を赤字で書いたり、告知を1画面ずつ行わせるなどの工夫をした方がよいかと思います。
対面ではないということは、企業側は、お客様が過って告知義務違反にならないように、お客様に配慮した万全の対策を講じていたといえる細心の注意を払わなければならないのです。

企業が消費者に対する説明義務・情報提供義務違反にならない工夫

もう一つ、次のような記事も掲載されていました。

国土交通省は24日、不動産の売買や賃貸でネット取引の解禁を検討する有識者会議を開いた。不動産会社に義務付けている取引条件など重要事項の対面説明を、ネット通話で代替できるようにするのが柱だ。」
(平成26年4月25日(金)日本経済新聞朝刊より)

この記事は、企業側がお客様に取引条件など重要事項を、ネット通話を介する方法で対面でしなければならいことを報じています。

ネット取引は対面販売ではなく、スマホやパソコンの画面だけを見て取引できることが最大の特徴です。
そのため、企業側がスマホやパソコンの画面に、取引条件や重要事項を文章で注意書きしても、お客様がそれを読み飛ばしたまま、あるいは誤解したまま「同意する」などのボタンを押すことは頻繁に起こりえます。
たとえ、取引内容が不動産の売買のように高額な取引であったとしても、重要事項や取引条件を読み飛ばす、内容を誤解することは、容易に想定できます。

先ほどの生命保険契約の申し込みでは、「告知」という細心の注意を払わなければならない場面で、画面上の工夫をしたほうがよいということを書きました。
この不動産取引の記事は、さらに一歩進んで、画面上で工夫するだけではなく、取引条件や重要事項は画面上の注意点に留めるのではなく、ネット通話(たとえばSkypeとかfacetimeなどでしょうか)を通じて画面越しに実際に会話をしなければならないことを求めようとするものです。
会話をすれば、読み飛ばすということは絶対に防ぐことができます。
会話をして、情報を提供すれば、お客様が取引条件や重要事項を誤解したままで契約を申し込むことを防ぐことも可能です。
取引条件や重要事項というトラブルの要因になりそうな項目について、取引内容が不動産の売買、賃貸といった高額、継続的な取引である場合には、説明義務や情報提供義務に、慎重さをより求めたものということができます。

説明義務・情報提供義務を尽くしたと言えるための企業の対処・対応

さて、生命保険会社、不動産会社以外の事業を行っている会社は、この記事を読んで、「生保、不動産はネット取引大変だなあ」で済ませてはいけません。
この記事だけを見ても、自社の危機管理・リスクマネジメントに活かすことができるのです。

既にAmazonやYahoo!ショッピングなどにネットショップを開いている会社の場合には「自分たちのホームページに取引条件や重要事項を記載しているけれども、お客様に誤解を与えるような表現になっていないだろうか」「ホームページに取引条件や重要事項を記載しているけれども、お客様が読み飛ばすような程度の目にとまらない書き方や字の大きさ、記載位置になっていないだろうか」「ホームページに取引条件や重要事項を記載しているけれども、お客様に必要な情報をすべて提供していると言えるだろうか」などを考えなければなりません。
難しく言えば、ネットショップ上の表現から、会社としての説明義務を尽くした、お客様は読みとばすわけがない、お客様は誤解するわけがない、と胸を張って言えるかどうかを確認するということです。
そのうえで「問題があるな」と感じたら、ネットショップのホームページ上の表現を改善していく必要があります。
それによって、将来生じるかもしれないお客様との無用なトラブルを回避することができるようになるのです。
具体的には、5W1Hをはっきりした文章を書く。主語述語をはっきりした文章を書く。難しい専門用語や省略語を使わない。といったことが心がけるべき最低限のポイントです。

「面倒くさい」と考えて何もしないか、それとも「後々トラブルに巻き込まれた方が、対応のことを考えたら、もっと面倒くさい」と考えて今のうちに表現を変えるか。
この2つの記事を読んで行動に移せるかどうか、その企業の危機管理・リスクマネジメントの意識の程度が問われているといってもいいかと思います。

リコールの回収率を上げるためには、社告・公表をわかりやすくする工夫を

リコールを行う場面

物を売るという取引では、物を作った後、あるいは物を売った後に「物を使うと生死の危険が生じる可能性がある」「生命までは奪われなくても重大事故に繋がる可能性がある」「そこまで深刻ではなくても、多数の人に影響が拡散する可能性がある」ということが判明することがあります。
これが可能性に留まらないで、実際に「生命を奪うような事故が発生してしまった」「重大事故に繋がってしまった」「多数の人に影響が生じてしまった」ということもあります。

B to Cの取引や、B to B to Cの取引で、こうした可能性が明らかになった場合、あるいは実際に事故が発生してしまった場合には、B に該当するメーカー、輸入業者、流通業者といった企業(Business)は、消費者(Customer)であるCに向けて、物の危険性を伝えて、物を使わせない、物を回収して修理する、物を回収して別の物と交換するなどの「製品リコール」をしなければなりません。

リコールは、回収率を向上させる工夫が必須

ただし、忘れてはならないのは、「製品リコール」は「やる」こと自体が目的になってはいけないということです。
「製品リコール」の目的は、消費者に対して、「危険である」「使わないで欲しい」「回収させてほしい」「修理させて欲しい」というメッセージを伝えること。そのうえで、実際にメッセージどおりに消費者に行動してもらい回収率を上げること。です。

リコールの情報を消費者に伝えるための手段-「新聞社告」が第1位

そうなると、企業が「製品リコール」を行うにあたっては、どのような方法・手段をとれば、消費者にメッセージを伝えることができるだろうか、ということを第一に考えなければなりません。
特に、物に含まれる危険性が大きければ大きいほど、消費者に迅速にメッセージを伝えられなければなりません。
メッセージを発信する日が1日遅れた、あるいは消費者がメッセージを受けとるのを1日遅れた。それによって事故に直面してしまう、ということも充分ありえます。

では、どのような方法・手段が望ましいでしょうか。

平成24年10月に消費者委員会が調査した結果によると、消費者は、次の方法・手段で「製品リコール」のメッセージを知りたいと認識しているようです。

方法・手段 希望する人の割合(%) ※複数回答
新聞の社告での「回収のお知らせ」 58.5
ラジオ・テレビのコマーシャル 55.1
ラジオ・テレビ・WEBのニュース 50.7
メーカーからの連絡(郵送DM、電話) 45.7
新聞記事 39.6

消費者が新聞を以前よりも読まなくなったとの結果も出ていますが(全国紙を「ほとんど読まない」「全く読まない」人の割合は、平成18年は合計12.8%であったのに対し、平成24年は31.0%)、それでも、消費者の50%以上は、新聞での社告で「製品リコール」の情報を知りたいと思っているようです。
ちなみに、消費生活用製品安全法では、メーカーから行政に報告し、行政が公表するルートが定められていますが、しかし、消費者の83.4%は行政機関が「製品リコール」の情報を発信していることすら知らなかった、という結果もでています。

こうした結果からは、企業が「製品リコール」のメッセージを消費者に迅速かつ確実に伝えたいと思ったら、消費生活用製品安全法で行政に報告するだけでは不十分で、自分たちで新聞に社告を出す、マスコミのニュースに載るようにプレスリリースを出す、マスコミを通じたコマーシャルを提供するなどといった方法を選択しなければならないことがわかります。

リコール社告は、消費者が理解できなければ意味がない

企業は社告などを通じて「製品リコール」のメッセージを消費者に届けるだけでは不十分です。
消費者に社告などを通じて伝えたメッセージに沿った行動を取ってもらわなければ意味がありません。
消費者がメッセージに沿って「危険」だと認識して使うのを止める、「回収」や「修理」に出す(回収率を上げる)ためには、企業が発信するメッセージの内容を消費者が理解してもらう必要があります。
そのためには、第二に、企業は社告などの方法で伝えるメッセージの内容が、わかりやすく伝わるような工夫を考えなければならないのです。

具体的には、文章だけの社告にするではなく、写真や図解を駆使した社告にするのが、その工夫の核です。
たとえば、2014年4月24日、SONYは今年2月に発売したノートパソコンを製品リコールすることを発表しました。その新聞社告やWeb上に、消費者が手元にあるノートパソコンがリコール対象製品かどうか確認するための手順を、写真や図入りで工夫しています。
2014/04/11付Web上の製品リコールの案内(写真入り)
Sony Japan _ パーソナルコンピューターVAIO Fit 11A使用中止のお願いとお詫び
2014/4/24付Web上の製品リコールの案内(写真入り)
Sony Japan _ パーソナルコンピューターVAIO Fit 11A無償修理受付開始のお知らせ

わかりやすい社告を作るために・・・「リコールハンドブック2010」

わかりやすい「製品リコール」の社告を作成して回収率を向上させることは、2004、5年前後から、企業が積極的に取り組むようになっていました。おかげで、徐々に、工夫された、わかりやすい「製品リコール」の数は増えていきました。
その流れを受けて、経産省は、2007年に「リコールハンドブック2007」を発表し、2010年にはその改訂版となる「リコールハンドブック2010」と、その解説書となる「リコールハンドブック2010【手引き】」を発表しました。
2013年には、製品リコールにも、ISO規格ができました(ISO10393)。内容は、経産省のリコールハンドブック2010とほぼ同じです。

この「リコールハンドブック2010」は、法律ではありません。
企業が「製品リコール」をする際に「このハンドブックに従わなければならない」というルールを定めたわけではありません。実際のところ、内容は、定型書式を作成することを主眼にしたものではありません。
「製品リコール」の考え方と向き合い方を前面に押し出し、巻末に他社事例を豊富に掲載して「こういうリコールの仕方もある」ということを、企業に提案しています。あくまでも「こうしたら、わかりやすいリコールになるよ」「こうしたら、リコール回収率が高くなるよ」という提案をしたものと位置づけていいと思います。
知らないよりは知っていて損はないので、企業の広報担当者は、一度、目を通しておくのがよろしいかと思います。

平成26年の公正取引委員会は、カルテル・談合の取締りが活発?

昨日、タクシー料金の値上げと独禁法の関係についての疑問を投稿しました。
そこに絡めて、独禁法の監督官庁である公正取引委員会の最近の動きについて、今日は触れてみたいと思います。

平成26年1月~4月の公正取引委員会の動き

平成26年に入ってから、公正取引委員会がカルテル・談合を取り締まり、排除措置命令、課徴金を命じるという報道が例年より多い印象を受けます。
その数の多さは、まるで、何かキャンペーンでもやっているかの如く。
実際に報道された、排除措置命令や課徴金が命じられたケースだけでも、以下のとおりです。

平成26年3月18日
自動車を輸出する船便の貨物運賃を巡る価格カルテルを理由に、海運大手など4社に対し計約227億円の課徴金納付命令と再発防止などを求める排除措置命令を発令。
※課徴金額は日本郵船が約131億円で、1社当たりの過去最高額。
※川崎汽船が約56億9千万円、ノルウェーが本社のワレニウス・ウィルヘルムセン・ロジスティックスが約34億9千万円、日産専用船(東京都)が約4億2千万円。課徴金の総額は過去2番目の規模。

平成26年2月28日
インフルエンザの予防接種の料金でのカルテルを理由に、埼玉県吉川市と松伏町の医師でつくる吉川松伏医師会(会員74人)に再発防止を求める排除措置命令を発令。

平成26年2月3日
千葉県が発注した東日本大震災の復旧工事などを巡る談合で、同県東金市や山武市などの建設業者35社のうち20社に総額約2億2300万円の課徴金納付命令を発令。

平成26年1月31日
関西電力が発注した送電線工事を巡り、関電社員が事前に予定価格を業者に伝えるなど談合を助長し、談合していた電気設備工事会社61社に総額約23億7千万円の課徴金納付命令を発令。

これらの事件以外にも、
・車や機械などのベアリング(軸受け)に使われる部品「鋼球」の価格を巡るカルテルの疑いでの立入り検査。
・北陸新幹線(長野―金沢間)の融雪設備工事の入札を巡る談合の疑いでの強制調査・捜索。
・志賀高原スキー場(長野県山ノ内町)でリフト共通券を発行する志賀高原索道協会が加盟社による独自のリフト券販売を制限していたことに対する警告。
・浄水場や下水処理場で使用する水処理用の薬剤の入札で談合を繰り返していた疑いでの立入り検査。
・取引上の強い立場を利用して納入業者に従業員を派遣させるなどしたディスカウントショップに対し、優越的地位の濫用を理由とした課徴金12億円と排除措置命令の予定。
・土木工事に使う土管や側溝などコンクリート製品の価格を巡りカルテルを結んでいた疑いでの立入り検査。
・段ボール製品の販売を巡り、東日本各地で価格カルテルを結んでいたとして、公正取引委員会がメーカー約60社に対し、課徴金130億円と排除措置命令の予定。
・・・などが報道されています。

素直に、素朴に「なんか多くないかな」と感じます。

平成20年~24年までの公正取引委員会の実績

例年がどれくらいかというと、

公取法的措置数平成24年度 公正取引委員会年次報告 より)

上の図を見ていただくと、排除措置命令が発令された数は、平成24年度が20年、平成23年度が22年、平成22年度が12件、平成21年度が26件、平成20年度が17件ということがわかります。ちなみに、年次報告には載っていませんが、平成25年に公表された案件は8件です(報道資料)。
それに対し、平成26年は、報道された上記4件を含め、平成26年4月24日現在で6件の排除措置命令と警告が発令され、1件が刑事告発され、さらに2件が排除措置命令と警告の準備に入っています(報道資料)。
このペースが続くと、過去5年間を超える、30件という大台に乗りそうなペースです。

公取課徴金額平成24年度 公正取引委員会年次報告 より)

なお、課徴金は、上記の海運カルテルだけで総額227億円に達しているので、総額では早くも平成24年度を超過しました。

公正取引委員会の動きの背景にあるもの

なぜ、平成26年は、公正取引委員会はカルテル、談合に対して、これほど積極的なのでしょうか。

もちろん、そもそも事件になるような案件が存在したというのは、当然の前提でしょう。
カルテル、談合が存在しなければ、公正取引委員会が取り締まることさえありません。

しかし、平成26年に入って、本日までに公正取引委員会が課徴金を課し、排除措置命令を発し、あるいは刑事告発した案件は、平成15年以降(志賀高原)、平成20年以後(海運)、平成21年以後(関電、千葉県)、平成23年(インフルエンザ、北陸新幹線)と、古い案件が摘発されたものです。

つまり、平成26年の直前に急遽、カルテル、談合が増えたわけではなく、公正取引委員会が過去に遡ってまでしてカルテル、談合を積極的に取り締まっていると理解した方がよさそうです。

推論1-消費税導入が公正取引委員会を活性化させた

1つの理由としては、消費税の導入があるかもしれません。
4月から消費税がアップし、それに伴い、企業間の取引で消費税を転嫁して取引額が増額することを正当な理由なしに拒否する行為を、公正取引委員会は取り締まっています。
下請法違反に対する取り締まりの延長と捉えていいと思います。
消費税転嫁拒否行為に対して、公正取引委員会は20億円を超える予算を確保し、積極的に取り組んでいます。
公正取引委員会の中で働く職員にしてみれば、隣の部署が消費税転嫁拒否行為の取締りで成果を上げていれば、それに負けじと、自分たちも成果を上げる。
そのために、カルテル、談合を積極的に処分するという方向で力が働く。
このような力学が働くことはあってもおかしくない、と思います。

推論2-事務総長が変わったことで公正取引委員会を活性化させた

もう1つの理由は、今年1月から公正取引委員会の事務総長が変わったということです。
事務総長が変わったので、カルテル、談合などに対して今まで以上に積極的に取り組むようになったということが考えられます。
事務総長が、平成26年2月19日の定例会見で、唐突に、「課徴金減免制度(リニーエンシー)」について会見したことからも、事務総長が変わったことで今まで以上にカルテル、談合摘発に力を入れるようになったというのは、あながち穿った見方ではないのかな、と思っています。

カルテル、談合に巻き込まれないための企業の対応

で、結局何が言いたいのかというと、カルテル、談合などそもそも違法行為なので「やってはいけない」ことは今さら言うまでもないけれども、カルテル、談合の場に接する機会、誘われる機会がある業界の会社は、今まで以上に慎重にしたほうがよい、ということです。

具体的には、業界同士の集まりの場で、カルテル、談合などと思われるような話題をしない。
もし、カルテル、談合とおぼしき話題が出てきたら、その場から離席する。
離席の際には、お茶をこぼしたことを理由にして立ち去るなどして、その場から離席していたことを周囲に印象づける。
離席後は、会場に戻ってこない。
・・といったことを徹底することです。

課徴金減免制度(リニーエンシー)の活用

また、もしも、カルテル、談合が行ったことがあり、それが見つかっていないだけだとしたら、ただちに「課徴金減免制度(リニーエンシー)」を利用することです。
それによって、会社に及ぶ被害を最小限度に食い止める。
課徴金減免制度を利用したからといって、それで、会社が社会的に批判を浴びることもありません。
課徴金減免制度を積極的に利用して、課徴金を免除してもらうということが、会社の危機管理・リスクマネジメントとしては、非常に重要なことを再認識する必要があります。
そのためには、従業員に、課徴金減免制度の存在を知ってもらうこと、使い方を知ってもらうこと、課徴金減免制度の利用に前向きな社内風土を作っていくことが必要があると思います。

国交省がタクシー運賃の値上げを勧告することと、品質、価格、取引条件による自由競争の保護を目的とする独占禁止法の精神との矛盾への疑問

今さらですが、日本は自由競争社会のはずです。
もちろん、自由競争社会だからといっても、企業間の競争で何をしていいという訳ではありません。
品質、価格、取引条件といった三大要素については、公平・公正なルールのもとで、企業間の競争が求められています。
これが、独占禁止法という、自由競争を確保するための法律の趣旨であり、目的である、と理解しています。

ところが、一定の分野については、品質、価格、取引条件について、国から介入が入ります。
その一つの例が、タクシー業界です。
タクシーの場合、「タクシー業務適正化特別措置法」と「道路運送法」が主な関係法令のようです。

これらの法律が何を規制しているかを簡単に言うと、タクシー業務適正化特措法はタクシー事業の品質の最低限を保護するように免許制やら何やらを。道路運送法はタクシー料金やら何やらを。しかも、よく読むと、タクシー料金の上限だけではなく、タクシー料金の下限まで定めています。

タクシーは客を乗せる、つまり、お客さんの命を預かるわけですから、タクシー業務適正化特措法によって、品質を最低限保護することは当然だと思います。
また、道路運送法によって料金の上限を規制することは、どこまでも値上げしかねないから規制するという趣旨で理解できます。
他方で、道路運送法によってタクシー料金の下限まで規制することは、存在意義がよくわかりません。

なぜ、タクシー運賃について書いているかというと、タクシー運賃が高いから、今日の新聞を見ていて、頭が混乱しているからです。今日の新聞に次のような報道がありました。

「国土交通省がタクシー業界に値上げするよう圧力をかけている。全国5地区で国が定めた下限より安い運賃で営業する27の事業者に値上げを迫る勧告書を22日に手渡した。規制強化に多くの事業者は反発。下限を下回る「違法状態」の運賃で営業を続けると公言する事業者もある。」

(日本経済新聞平成26年4月23日(水)朝刊より)

タクシー業者が足並み揃えてタクシー料金を値上げしようとしている場合に、国交省が「高すぎるから値上げするな」と制するなら、意味はわかります。
初めに「タクシー運賃、官民攻防」との見出しを見たときには、独禁法が頭にあったので、そのように理解しました。

しかし、よく読むと、「値上げしろ」と言っているのは国交省。それに「値上げしない」と抗っているのはタクシー業界。
見出しを見たときと、まったく逆の構図ができあがっているそうです。

タクシー業界は、必要以上の値上げをしないで、企業間で価格競争をしようとしている。
しかし、国交省は、価格競争はさせまい、とする。
なんで?
このReviewを書きながらも、未だによく理解できません。

国交省が平成21年4月から7月にかけて行った「タクシー運賃制度研究会」の資料の中に何かヒントがあるかと思いましたが・・・タクシー料金の下限が「適正な原価」に「適正な利潤」を加えたものになっているかが検討された、ということしかわかりませんでした。
「適正な原価」というのは、ドライバーの人件費、ガソリン等燃料費、車輌償却費、車輌修繕費のことだそうです。

はて?

他の業界も、原価があって売値があって、そこから営業利益を出す、という構図は同じはずです。
売値を下げて品質が下がるのであれば、品質を規制すればいいだけで、売値の下限を規制するというのは、筋違いなはずです。
企業努力で値下げして、自分たちの会社の体力の限界まで値下げする。
一時期の牛丼価格戦争、ハンバーガー価格戦争などはその典型です。
他方で、高くてもお客さんが来るという自信があれば値上げする。
これが自由競争社会の本来の姿だと思います。

もちろん、他の企業を市場から撤退させ、その後の市場の独占を目論見、力尽きる限りまで値下げするというのは、自由競争の方法として「やりすぎ」とみなして、「不当廉売」として規制されるべきです。
他の業界で、業界各社が横並びで「適正な原価に適正な利潤を加えた価格を最低料金にしよう」などとすれば、価格カルテルです。課徴金の対象です。
実際に、今日の新聞では、コンクリート製品で価格の値上げ端を決めようとしたカルテルがあったという疑いで、公正取引委員会が立入をした例も報道されています。

「土木工事に使う土管や側溝などコンクリート製品の価格を巡りカルテルを結んでいた疑いが強まったなどとして、公正取引委員会は23日、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで、「網走管内コンクリート製品協同組合」(北海道北見市)に加盟する企業など10社前後を立ち入り検査した。」
「各社は少なくとも1~2年前から、協同組合の会合の場で、建設業者向けのコンクリート製品価格の値上げ幅を決めるなどしていた疑い。最大で7割程度価格を引き上げた製品もあったという。」

(日本経済新聞平成26年4月23日(水)夕刊より)

しかし、なぜ、タクシー業界だけが、国交省主導で、「適正な原価」に「適正な利潤」を加えた、タクシー料金の下限を定めないといけないのでしょう。
まったく、理解ができません。
国交省主導で「適正な原価」に「適正な利潤」を加えたタクシー料金の下限を決めたことで、誰かが利するということかもしれません。

もちろん、利用者の立場からすれば、流しのタクシーを適当に拾ってみたら基本料金が高いという事態は嫌だな、というのはありますが・・。

【2014年5月31日追記】

同じような発想で、タクシー会社は、国が定めたタクシー運賃よりも安い運賃で営業していることについて、国から運賃変更命令を出さないように、との仮処分を申立て、通常訴訟も提起していたようです。
2014年5月23日に、大阪地裁が仮処分を認める決定を出したそうです(2014年5月24日日本経済新聞朝刊)。

情報管理のためにパスワードを設定しても、秘密管理がずさんなら「営業秘密」として保護されない

企業秘密(営業秘密)が不正競争防止法で保護されるための3要件

会社が業務の中で扱う情報の多くが、現在、デジタル化されています。
「企業秘密」と呼ばれる類のデータも、デジタル化され、パソコンやサーバーで管理されていることが増えてきました。

ここで、簡単に、教科書的に知識のおさらいをします。

「企業秘密」を第三者が不正に取得することや、第三者に不正に提供することは、不正競争防止法という法律で制限(禁止)されています。不正な取得や不正な提供がされれば、差し押さえたり、損害賠償請求することができます。

厳密には、不正競争防止法では「企業秘密」ではなく「営業秘密」と名前が変わります。
会社は秘密と思っていても、誰でもが既に知っている情報。
会社は秘密として保護に値する価値があると思っていても、何の役にも立たない情報、価値のない情報。
会社は秘密と思っていても、管理がずさんで誰でも見られるような情報。
(上から順に「非公知性」「有用性」「秘密管理性」の要件と言われたりします)
これらの情報は、会社は「企業秘密」と思っていても、法律が保護する必要性がありません。
そこで、これらの情報を「企業秘密」から除外したものを、「営業秘密」と呼んで、不正競争防止法で保護しています。

と、ここまでが教科書の知識です。ふーっ。つまらない。

「秘密管理性」を欠けば「営業秘密」として保護できない

この中で、会社の立場で、意外に見落とされがちなのが「会社は秘密と思っていても、管理がずさんで誰でも見られるような情報」は「営業秘密」に該当しない、という部分です。
ここが何を意味しているかというと、会社が「秘密」をどのように管理しているか、その管理方法次第では、法律で保護してもらえない、ということです。

顧客情報、取引先との営業活動や取引履歴の情報、契約内容、研究開発のデータなどがデジタル化され、会社のパソコンや共有サーバーに保存されているということは、よくあります。
これらのデジタル化された情報を社内の誰でもが見られるようになっていれば、会社は「秘密」として管理していない、逆から言えば、誰でも見ていいと「オープン」に管理していることになります。つまり、保護の対象外ということです。

そこで、よく見られるのが、デジタル化された情報を見られる役員、職員を限定して「秘密」に管理する、という管理方法です。
実際に、特定の情報にはIDとパスワードを入力しないと中を見ることができない、IDとパスワードを限定した者にだけ配布、という管理方法にしている会社も多いだろうと思われます。

ただし、特定の情報にIDとパスワードを設定し、限定した者にだけ配布していても、そのIDとパスワードが誰でもが見られる状態になっていれば、IDとパスワードを設定したことが意味をなしません。
その場合には、管理がずさんなので「オープン」に管理しているということになるだろうと思います。
典型的なのが、IDとパスワードを付箋に貼って、パソコンなどに貼り付けておく、というパターンです。
IDとパスワードの種類が多ければ多いほど、「そんなに覚えられない。忘れたら仕事で困る。だから貼っておく」ということになりがちです。

秘密管理に問題があった事例とその対処

この秘密管理に関連して、次のような事件が報道されました。

「国交省によると、スカイマークの従業員は20日午後1時半ごろ、空港第1ターミナルで暗証番号を書いた紙をなくしたことに気付いた。約20分後に空港関係者が出発ロビーで紙を発見した。発見されるまでに誰かの目に触れた可能性もあるため、変更を指示した」

(日本経済新聞平成26年4月22日(火)朝刊より)

ここで目を引くのは、「暗証番号を紙に書いていた」「(紛失から)約20分後に空港関係者が紙を発見した」「誰かの目に触れた可能性があるため、変更を指示」という3点です。

まず、「暗証番号を紙に書いていた」という点。
推測すると、暗証番号を紙に書いた状態でその紙を持ち歩いていた、ということだと思います。
暗証番号は、IDとパスワードと同じように、情報に接することができる人を制限するためのものです。
そういった意味を持つ暗証番号を、従業員が紙に書いて持ち歩くことが本当に許されることだったのか。
再発を防止するためには、そこから検証した方がよいのではないか
と思います。

賛否両論あると思います。
暗証番号を紙に書いて持ち歩いた状況がどんな場面だったのか。どんな必要性があって、紙に書いて持ち歩いていたのかも、新聞紙面からはわかりません。
しかし、この原因を検証しないで、暗証番号を紙に書いて持ち歩くことが日常化してしまえば、再度、紙を紛失するということが繰り返されるおそれがあります。
そうなれば、パソコンにIDとパスワードを貼っていて、それを他人が見たというのと、秘密管理の程度についての評価は変わらなくなっていきます。

他方で、「20分後に発見」「誰かの目に触れた可能性もあるため」「変更を指示」という点。
ここは対応としては適切だったと思います。
暗証番号を書いた紙が手元になかった時間は20分かもしれません。しかし、その20分間に誰かが見た可能性があるかもしれません。
その日は暗証番号を悪用しないかもしれません。でも、後日、悪用するかもしれません。
そうした「かもしれない」というリスクを想定して、「変更を指示」という対処は、事後対応としては適切だったかと思います。

事後対応が適切だっただけに、これからの再発防止のためにどう対処したらよいか、つまり、暗証番号を紙に書いて持ち歩くことの是非を忘れずに検証してほしいのです。
そうしないと、危機管理の意識が高いのか、低いのか、よくわからない、どっちつかずとも言えてしまうかもしれません。

参考までに・・注意喚起の工夫例

話しはまったく違いますが、飛行機繋がりということで1つ追加でお話しします。

先日、スターフライヤーという機体が黒くカラーリングされた飛行機に乗ったときのことです(基本はANA派です)。

飛行機に乗ると、離陸前にベルト着用の注意、救命胴衣、酸素マスクなどの注意が必ず行われます。
ANA、JALなどでは、地味な模範ビデオが流れるだけなので、正直、あんまり見てません退屈です。
しかし、スターフライヤーが違うところは、忍者をモチーフにして、見てる人が楽しめるようなビデオにしていることです。
否が応でも「おもしろいな」と、見入ってしまいます。後ろの席に座っていたおばちゃんたちご婦人の団体方は爆笑しながら見てました。
結果として、ビデオを見入った人には注意が伝わることになります。

こうした注意が乗客に伝わる工夫をすることも、危機管理の手法として、非常に学べるかと思います。
実は、これは飛行機の注意というだけではなく、実は、コンプライアンス教育、社内研修でも気をつけるべき点でもあります。
教育、研修と危機管理については、また別の機会で書きたいと思います。

第三者委員会報告書を、弁護士が第三者委員会ガイドラインに則って採点・格付けするとか

人は、他人より優位に立ちたいとき、他人に対して点数をつけたがる。

司法修習時代にお世話になった裁判官と話しをしていたときに、次のようなことを言っていたのが、今でも記憶に残っています。
「かつての上席だった裁判官が書いた判決の内容を良いとか悪いとか評論したら、その裁判官から『人が書いたものに論評できるようになるとは、お前もえらくなったな』と言われた」と。

このエピソードが何を意味しているかというと、裁判官同士ってめんどくせっ、他人の書いた文章を論評できるのは、それ以上のレベルにあるというときだ、ということです。
もっとわかりやすく言えば、他人の書いた文章に点数を付けるときは、他人よりも上だと認められるときに限られるべきだ、と言ってもいいかもしれません。

何のことを言っているかというと、「第三者委員会報告書格付け委員会」なるものが設立され、日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を作ったメンバーが、同委員会のメンバーになり、企業の不祥事発生後に第三者委員会が作成した調査報告書を採点し格付けし、Web上に公表すること、についてです(日本経済新聞平成26年4月21日(月)朝刊、ご参照)。

大規模な企業不祥事が発生したときに、社内調査だけで調査を済ませずに、第三者委員会という外部の者が調査を行う。
企業は、社長以下全員が、第三者委員会が行う調査に全面的に協力しなければならない。
第三者委員会が作成する調査報告書は、ただの免罪符になってはいけない。株主や消費者などに資するために中立公正な立場で調査報告書を作成する。

このようなガイドラインに書かれている内容や考え方自体は非常に良いと思いますし、それ自体は浸透されていくべきだと思います。
実際、第三者委員会としての調査ではなくとも、社内調査をして報告書を作成するようなときには、私も参考にしています(元々考えていることは同じ)。

しかし、第三者委員会が作成した調査報告書を、ガイドラインの基準に沿って書かれているかどうかを採点し格付けする、というのは筋が違う、と思うわけです。

簡単に言えば、同業者が書いた書面の内容を採点する、格付けする、ということは、同業者の仕事ぶりを採点することになるわけです。しかも、その採点基準は、自分たちが作ったルールに照らすという。
ちょっと踏み外しているのではないか、と思わずにはいられないのです。

では、自分たちが作成した調査報告書は誰が採点するのか(利害関係がある者は採点から外れると報道されているけれど、仲間同士でしょ?)。一切批判されないような出来なのか。
自分たちの作る報告書は完璧だという自覚がなければ、 同業者が書いた仕事ぶりを採点して格付けまでしてしまおうという発想にはならないのではないかな、と。

第三者委員会から実名で反論が来れば、そのままWebに掲載するそうです。
しかし、もし自分が批判される側の第三者委員会のメンバーであったとすれば、無視します。
だって、「同業者に採点される謂われはねえ」「反論するなり反応すればするほど、格付け委員会が注目される」でしょ。
「愛の反対は無関心」とマザーテレサがいうように、反論がある人は「無関心」でいるでしょう。

・・と、「第三者委員会報告書格付け委員会」についてはスタンスは反対ですが、せっかくWebができて第三者委員会の報告書が集約されるのであれば、少なくともデータベースとしては利用したいと思います(まだWebサイトできあがってないんですね。ググってもヒットしません)。
そこに掲載されている第三者委員会の報告書の内容が良いものか悪いものかは自分で判断しますので。

出世の仕組みを変えない限り、失敗やミスの隠蔽・改ざんを予防することはできない

失敗やミスをしたときに、自分の非や責任を認めることは、非常にストレスが強いものです。
人は自分が責められることを嫌うからです。

しかし、企業で働く以上、仕事の中で失敗やミスをしてしまったときには、ただちに、それを訂正し、またその仕事に関わる人・会社に報告しなければなりません。

ところが、仕事の中で失敗やミスをしてしまったときにも、自分の非や責任を認めたくないという態度が現われる場合があります。
自分の非や責任を認めないと突っぱねているだけなら、まだマシかもしれません。
酷いものになると、自分の非や責任の証拠を消し去る作業が行われます。
「隠蔽」や「改ざん」と呼ばれる作業です。
議事録を改ざんする、業務報告書を改ざんする、社内資料を隠してしまうなど・・・企業不祥事が発覚するときには、ほぼ必ずといっていいほど、「隠蔽」「改ざん」はセットで行われています

不祥事の発覚後に、遡って、社内資料などを「隠蔽」「改ざん」していたことが発覚した場合、その企業に対する評価は地に落ちます。
改善するつもりがないと世間から評価され、批判を浴びます。
不祥事の原因が、日常的な「隠蔽」「改ざん」である場合には、たとえ、それを個人が勝手に行っていたとしても、その企業の情報管理体制、その企業の組織的なコンプライアンスへの意識の低さが疑われます。

最近は「隠蔽」や「改ざん」がしやすくなってきました。
かつては、議事録や業務報告書などの文書はボールペンによる手書きで作成されていました。
ボールペンによる手書きの場合、そこに書かれた内容を「隠蔽」「改ざん」しても、不自然なところがあるのでわかりやすい傾向にあります。
文字を書き足した痕跡がある。インクの色や濃度が違う。見た目でわかりやすくかったです。

ところが、文房具が進化すると、ボールペンによる手書きの文書も「隠蔽」「改ざん」されやすくなります。
実際に、行政機関で、消せるボールペンを使って、手書き文書の「隠蔽」「改ざん」が行われているという報道がされています。

「川崎市は3月に公表した定期監査で、財務に関する書類など計57件に職員が消せるボールペンを使用していたと発表。文字が薄かったため判明したという。名古屋市でも昨年5月公表の監査で出張書類などでの使用が明らかになった。」

「千葉県警は昨年11~12月、車庫証明書を偽造したとして中古車販売会社の社員ら4人を有印公文書偽造・同行使容疑で逮捕した。社員らは消せるボールペンで書いた在庫車の車庫証明書を正規に取得。新たに車を仕入れた際の証明書取得の手間を省くため、車名などを消して書き換える手口で少なくとも435台分を偽造したとみられる。」

「茨城県土浦市消防本部の30代の男性職員は消せるボールペンで勤務管理表を書き、上司の決裁後、市人事課に持ち込む間に残業時間を水増し。約70万円を不正受給したとして懲戒免職となった。」

(日本経済新聞平成26年4月19日(土)夕刊より)

最近は、ボールペンでの手書きよりも、パソコンで作成されるデジタル文書も増えてきました。
そうしたデジタル文書は、手書きよりも巧妙に、バレにくいように、一旦作成した後に文字や文章を追加したり、訂正したりすることができます。
それだけ、「隠蔽」「改ざん」しやすい、ということです。

ボールペンでの手書きによる「隠蔽」「改ざん」が上記報道のように行われているのだとすれば、デジタル文書での「隠蔽」「改ざん」は、もっと行われている、と考えていいと思います。
報道された「隠蔽」「改ざん」は、氷山の一角だと理解して良いでしょう。

では、どうすれば、「隠蔽」「改ざん」がなくなるでしょうか。

上の記事によると・・

「消せるボールペンは行政文書で使わないように」。川崎市の担当者は今月、新人職員約180人の研修で呼びかけた。

呼び掛けが行われた、ということだそうです。

しかし、どんなに従業員に呼び掛けをしても、消えるボールペンを使うことはなくなっても、「隠蔽」「改ざん」はなくならないと思います。
なぜかといえば、今の企業の多くが、一度でも失敗やミスをすれば、その従業員を出世コースから外し、半永久的に戻ってこられないという人事制度になってしまっているからです。
つまり、従業員が失敗やミスをすることに対し企業が寛容ではないので、従業員は出世コースから外れたくないとの思いから失敗やミスを必死で隠す、という悪循環になってしまっているのです。
これは、一度でも失敗やミスをすれば、自分自身のことは横に置き、さも鬼の首を取ったように騒ぎ、失敗やミスした人を非難する、揚げ足をとり続ける、という低俗な人たちの気質に由来しているような気がしてなりません。
この人事のあり方を変えない限り、従業員は失敗やミスを必死で隠すという自己防衛策を手放すことはないでしょう。
その意味で、企業の人事評価を変えることも、企業の「危機管理」「リスクマネジメント」として捉えるべき事柄だと思います。
そのように人事評価、人事制度が変わっていけば、わざわざ「内部告発」という形を待つまでもなく、自分から失敗やミスを進んで報告するということにつながるはずです。

企業危機管理・リスクマネジメントの入口は、他社事例を反面教師にすること

自分の会社で「危機管理」「リスクマネジメント」を実践しようと思い立っても、どこから手を付ければいいかわからない。
そういった声を、時折耳にします。
「内部統制(業務適正確保体制)」を社内に導入しようとしたときが、その典型でした。

内部統制を社内に導入するときに、多くの会社がどうしたか。
多くの会社は、アメリカのトレッドウェイ委員会組織委員会が作成した「COSOフレームワーク」を頼りにして、「部署別のリスクの洗い出し」→「リスクの評価」という手順を踏んで、社内ルールを定めて、書面化していきました。
要するに、「うちの部署は、こんな失敗やミスをしたことあるよな。失敗やミスをしがちだよな。というリストアップ作業を行う。その失敗やミスは会社に与えるダメージはどれくらいの大きさかな。だいたい、こんなもんだろう。じゃあ、そういう失敗やミスをしないようにするためには、どうしようか。ダメージを最小限に食い止めるにはどうしたら良いだろう。何かルールを決めて、文書を残そうか」というものです。

その手法を全面的に否定するつもりはありませんが、だが、しかし、正直、ぶっちゃけ、手間だけかかって、会社の現場にとっては、めんどくさい。
「またルール増えたよ」「また書面作るのかよ」そんな不満が聞こえてきます。
私も、会社で働いていたら、同じように思います。

もっと言えば、これらは、自分たちでこういうことが起こりそうだなと発生を予測しただけで、担当者や現場の想定内のリスクの洗い出しにしかなりません。
企業で不祥事が発生するときには、洗い出されなかったリスク、リストアップされなかった失敗やミスが原因で起きることが多々あります。そうした予想外のものに対して、ルールは無力です。

さらに付け加えるなら、ルールを作れば作るほど、会社の活力は失われていきます
人は感情で生きる動物です。
「アレもダメ。これもダメ」と言われれば言われるほど、「だったら面倒くさいから、やらない」という考えになりがちです。
これが会社の閉塞感を生み出します。

では、会社が「危機管理」「リスクマネジメント」を実践するためには、何が、一番手っ取り早いのか。
答えは、他社事例を徹底的に分析すること、です。

ここに1つの例を紹介します。

「10年以上にわたって乗用車の欠陥を放置した米ゼネラル・モーターズ(GM)。メアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は議会公聴会で批判の矢面に立ったが、ダメージをひとまず最小限で食い止めた。バーラ氏流の危機管理で、反面教師になったのはトヨタ自動車だ。」

9695999693819691E2EAE2E3E38DE2EAE2E6E0E2E3E69793E3E2E2E2-DSKDZO7010696019042014EA1000-PN1-2

(日本経済新聞平成26年4月19日(土)朝刊より)

アメリカのGM社は、自動車のエアバッグが作動しないにもかかわらず、リコールを10年以上も放置していた件について、アメリカ議会公聴会でヒアリングされました。
その際、2010年にトヨタ自動車が意図しない急加速問題で、アメリカ議会公聴会でヒアリングされ、バッシングされた事件を徹底的に分析した、というのが、上に引用した記事の内容です。

要は、同業他社であるトヨタが公聴会でのヒアリングの結果、世の中からバッシングを受けたことを、GM社にも起こりうる危機であると捉え、その危機の原因を分析して、公聴会に対応し、危機を回避した、のです。

この行動が「危機管理」「リスクマネジメント」の入口であり、お手本です。

自分たちで失敗やミスを予測して洗い出すのではなく、他社で発生した不祥事、失敗、ミスを参考にする。
その不祥事、失敗、ミスの原因を、新聞記事やマスメディアの報道、その会社が発行したプレスリリースから読み解く。
そのうえで、その原因と同じことが自社で起きうるかどうかを判断する。
このステップを踏めば、「危機管理」「リスクマネジメント」をすることは容易になっていきます。
はっきり言うと、他社事例を分析していると楽しく「危機管理」「リスクマネジメント」ができるようになる。
他社事例を詳しく知っていればいるほど、「危機管理」「リスクマネジメント」の引き出しが増えていく。
果たして、自分たちの予測以上の問題に直面しても、慌てずに、その問題に対処できるようになっていくのです。

ただし、意識しなければいけないのは、失敗、ミスの原因の分析は徹底的に行う、ということです。
具体的に、従業員が会社の顧客データベースにアクセスして、顧客情報を盗み出し、その顧客情報を社外の第三者に売った、という事件を例に説明しましょう。

多くの場合、「従業員が顧客データベースにアクセスできたことが問題だ。盗み出せるようになっていたことが問題だ。だから、システムを強固な物にしよう。IDとパスワードと複数の人によるチェックが必要なことにしよう」となりがちです。

それも間違ってはいません。
しかし、事例分析としては浅い、浅すぎです。
もう一歩踏み込む必要があります。

従業員が顧客データベースにアクセスして名簿を盗み出した目的は、それを第三者に売ってお金を得ることです。
では、なぜ、お金が欲しかったのでしょうか。
従業員の身内に不幸があったのかもしれない。従業員の家のローンの返済がきつくなってしまったのかもしれない。従業員の子どもの学費が足りなくなってしまったのかもしれない。従業員が仕事でミスをして会社の財務に穴を空けてしまったので、バレないように補てんしようとしていたのかもしれない。従業員が仕事のストレスを溜めこみ、ギャンブル、水商売や風俗にハマってしまって、多額の借金を負ってしまったのかもしれない。・・・など、いろいろな動機が考えられます。

ここに書いた動機は、決して笑い話ではありません。いずれも過去に発生した不祥事の原因として報道されたものです。
動機の点まで掘り下げれば、従業員が身内や家庭内のできごとでお金に困っている場合に会社として何ができるだろうか、従業員が仕事でミスをしてしまった場合に会社としてどう対処したらいいだろうか、従業員がストレスを抱えてしまった場合に会社として未然に借金を防ぐためにはどうしたらいいのだろうか、ということを考える余地が生じてきます。
ここまで考えて、会社としての対策を考える。
これが、他社事例を分析した「危機管理」「リスクマネジメント」です。

一朝一夕で身につく物ではありません。
しかし、新聞の社会面を丹念に読むと、なぜ、社会面で報道されるような事件はなぜ発生したのか、それが自社で発生しないようにするためにはどうしたらいいのか、という「危機管理・リスクマネジメント」の感覚をつかめるようになっていきます。